King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
少年が一人コロシアムの壇上へ現れた。
その姿を見た人々は歓喜する。
その中に声高な声援が多い気がするのは当然だろう。
強く優しい甘いマスクのHERO。
対する敵はブルーラプソディ二体とブルーレクイエム四体。チーム名「オプティカルトリック」
☆
「上位戦なのになんだかすくなくない?」
そう言ったのは観客席にいたユフィだ。
「んーそうねー」
無関心そうにヒカリがユフィのとなりで眺める。
ヒカリの手にはロックセプターがあって新しいロケットをどうしようか眺めていた。
「その杖よく見るとキーブレードみたいだよな」
ヒカリの真後ろには元気いっぱいになったソラがいる。
「それ鍵ではないんでしょ? 私はてっきりあんたも勇者様かと思ったんだけど」
「私もいきなり手に入れたからわかんないけど、これは鍵を待つものなんだって」
はいっとヒカリがみんなに見せる杖。ユフィはもちろんソラとグーフィとドナルドものぞき込む。
「ヒカリもソラと似たような境遇だから話。してもいいよね? ドナルド」
グーフィがドナルドにこっそり耳打ちするとドナルドがうなずいた。
「ほかの人に言っちゃいけないんだけどねまぁ、特別に。ヒカリは僕の妹弟子だし! 僕たちは鍵を持つ人と一緒にいなさいって王様が言ってたんだ」
ドナルドが言い終わると周りをいぶかしげに見回りながら警戒する。
しかし観客とソラは眼下の試合に夢中だ。
「ヒカリたちも見てくれよ! ミッキーが華麗に緑のほうきを倒すところを!」
「う~ん。とにかく宝箱開けられないし、これ普通の杖だよ?」
ヒカリはドナルドとユフィに杖を見せると隣にいたソラに杖についている鍵束が顔に当たる。
「いたいって! 杖なのにヒカリって結構それ振り回すよね。魔法でシュバーとか光線出ないよね?」
ソラが意味不明な手ぶりで光線を表現する。
「向かってきたら薙ぎ払いたくなるからよ」
普通の事のようにヒカリが答える。
「それ杖じゃなくてただの鈍器だよ! 杖はユフィみたいに遠くで攻撃するものだろ?」
兄弟子魔導士様がヒカリを説得する。
「そんなこと言われたって無理」
プイとそっぽを向くヒカリ。
「それよりヒカリ。ミッキー見てよ! ほうき倒したのにまだ何かと戦ってる――あ、あれ俺見たことあるよ。ディープジャングルってところで見えないハートレスと戦ったやつ!」
「あーほんとだ、影が見えるからここでは戦いやすいかもね」
興奮するソラにグーフィが付き合った。
なんだか盛り上がってるのでため息交じりにドナルドが話をくみ取った。
「杖壊す前に何とか説得してよユフィ」
「え? なんでわたし?」
「遠距離攻撃だからに決まってるだろ!」
「うーん、わたしぃ? そもそも遠距離攻撃って障害物とか他の人がいないと成り立たないものだよ。ドナルドはどうやって戦うのよ?」
「そ、それは作戦を立ててだね……」
「でも、ドナルドもたまに魔法使えないと叩いてるよね?」
グーフィがズバリ横やりを入れた。
「ほら、やっぱり?」
「ほら、やっぱり!」
ヒカリとソラの声が語尾を別にして被った。
どうやらソラの発言はミッキーの攻撃が決まってカメレオン姿のハートレスが現れたのだ。
この思わぬ絶妙な二人のシンクロでドナルドが怒り出した。
「そもそも魔法使えなくなる前に最初から叩きに行ってるヒカリが変だって言ってるんだよ!」
「んーそうなの? そういえばソラも魔法使うわよね?」
「え、俺に振るの? キーブレード杖じゃないし、俺は連発するとすぐ魔法使えなくなるし」
「あ、それよ! 魔法使えなくなるの嫌だから」
「あんたが言うとただの出し惜しみって感じよね」
「ユフィだって奥の手は最後にするでしょ!」
「それじゃヒカリは最後の最後まで魔法使い切ったら、いったいどうやって戦うの?」
「おっ、なかなかいい質問だねソラ!」
ヒカリはソラに向かってウインクしてすっくと立ちあがる。
その瞬間ちょうど観客がどっと立ち上がった。ハートレスが消えて試合の決着がついたようだ。
「答えは次の試合で!」
ヒカリが楽しそうに決めポーズを披露し観客席を駆け降りる。
そのまま観客席から壇上へ飛び入り壇上で試合をしていたミッキーの目の前へ対峙した。
「これに勝てば今度はミッキーとだよ☆」
ヒカリがかわいく杖を出現させて宣戦布告。
気分は人気急上昇中アイドルだ。
いきなりの乱入者に驚いたミッキーはあまり乱れていない息を整えて、困ったようにヒカリの杖にこつんとロックブレードを鳴り合わせた。
「なにあれ! すっごいかっこいい~そんでなんかずるい!」
二人の行動に身を乗り出すソラ。
「ミッキーもだけど、まずはレオン&クラウドで下剋上よ!」
ヒカリに続き、ユフィも観客席から飛び入り、対する盤上から現れた二人。レオンとクラウドに向かって宣言する。
ゆっくりと盤上へ歩み寄る二人の周りには砂埃が立ち上がりこれからの激戦を彩る。
向かい合うヒカリ&ユフィとレオン&クラウド。
そして間にミッキー。
「なんで、僕もここに加わるの?」
「必須です!」
ヒカリが火花をミッキーにも向ける。
飛び火したようにレオン&クラウドもミッキーを見る。
「当然だろう、これで勝った者がミッキーと戦うんだからな」
レオンがいつもより数倍楽しそうに言うので更に気圧されるミッキー。
「ふぅ、その意気込みに僕も答えないとね。君たち、頑張って!」
小さくため息をついて気を取り直したミッキーは満面の笑みで退場した。
「さぁて、レオン! 私の秘密兵器、とくと味わいなさい!」
ユフィがいつも以上にいたずらな笑顔でレオンに宣言する。
「ふっ……出てくる前に倒されるなんて間抜けは遠慮したい、最初から出し惜しみは無しだぞ」
対するヒカリとクラウドは――。
「そっちが楽しそうだから私もクラウドさんに何か言えばいいのよね?」
「別に何も言わなくていい。興味ないね」
「ああそうですか!ちょっと怒りましたよ!振り向かせて差し上げましょうとも!」
「そういった意味ではないが」
「女の子はそう思うのですよ?」
「それは厄介だな」
とにもかくにも、とりあえず試合開始!
「厄介ついでに!」
ヒカリはロックセプターを二回素早く振り回し肩より上に水平に構えた。
ソラから言えばそれはチャンバラをしていた時に見るリクの構えに似ている。それぐらいヒカリの構えはいつもと何か違う。
「クラウドさんに言っておきたかったんだけど」
左手の指を挑発するように動かしてクラウドを見つめるヒカリが、高らかに宣言した。
「大好きなの~~凶切りが‼」
その表情はとても真剣だ。
紛れもなく真剣勝負の顔だ。
しかし今、何をヒカリは言い放ったのだろう。
クラウド、レオンがあまりにも呆気にとられた表情になった。
そして、観客席も騒然とした――が、ほどなくしてヒューヒューとそこかしろ口笛が吹きあれる。
「凶切り♪ 凶切り♪」
よくはわからないが凶切り音頭が勃発した。
このギャラリーの雰囲気にレオンはとても居心地が悪そうに言われた当人に聞く。
「なんだ、迷っているのかダイスキと言われて」
「ば、馬鹿、何が……」
あまりにもリアクションが悪いのでヒカリがあきれたように挑発の構えを解除。
「ほら~~何でもいいから凶切り見せてってば!」
「なんでもってバリエーションなんて無い」
「どうせ作戦だろ。この場のリクエストに応えて乗ってあげてもバチはないぞ」
「フン」
クラウドがリクエスト通りにバスターソードを振りかざす。すると彼女の目の前で『凶』の文字が刻まれた。
「やったのか?」
受け身の姿のままのヒカリにレオンが驚く。
「そんなの効かないっての!」
楽しそうにユフィがヒカリの後ろで宣言する。
そう、ヒカリはダメージを受けていない。時が止まったようなそのままの姿勢でヒカリの周りで凶の文字が乱舞する!
そして凶の斬撃がそっくりそのまま反転し、その時ヒカリはとても楽しそうな表情になって目の前の彼らに叫んだ。
「凶ーギリィ……返しっ!」
ヒカリはクラウドへ向かって飛び上がりコピーした技『凶切り』をかける!
「そ、それは杖で出せる技じゃないよな?」
何故かツッコミ用員となっているレオンにヒカリはメイドの土産とばかりに解説しだした。
もちろん技は発動中。
「カウンタートラップの魔法よ。名付けて『ミラーカウンター』瞬間の技を相手にお見舞いするの。ほんとはこれMP切れる直前にソラ達でやりたかったんだけど~物足りなかったわね」
観客席ではソラが「そんな技あるのにつかわなかったのかよ!」と声を張り上げたが試合中なので聞く耳は持たない!
「なるほど面白いな自身の技がやってくるのか、でも、それでは俺は倒せない」
「俺たちだろ」
レオンが横槍を入れながらとっておきの輝く大剣を出現させる。
「あ、あとねーまだ続き、あるんだな」
「なんだ、一応聞いておくが」
カッコよく聞き返すレオンにヒカリはただ可愛くウインクする。
「この技ね、しかも、MPが尽きるまで倍返しで継続ですっ! ソラ達には無情だから最後まで取っておいたのですよね~」
そう言ってヒカリは物理コンボを決めてくる!
観客席のソラはションボリしているが試合中なので見ている余裕はない!
「なっ何⁉」
あまりの衝撃発言に地味であるが防げない物理攻撃を食らうレオン
それだけではない。その攻撃は後を追うようにコンボが継続的にどこからともなく現れた。それは見えない分身が現れ襲ってくるように――凶の文字が至るところで二人を襲う!
クラウドは勝手の分かる自身の技なのでガードでそつなくこなしながらつぶやいた。
「我ながら凶ばかりで、ヒカリのせいでなんだか悪意のこもった技になったな……」
「面白いでしょ~こんな感じで、私の物理コンボもねカウントするんだなぁカウンターなだけに!」
「ダジャレか面白くないな、しかも意味が合わない」
「クラウド! そんなツッコミ今は言ってる場合じゃないぞ。物理的にヒカリが同時に二人攻撃してくるみたいだ」
「そんなの、もうじき魔法が尽きて使えなくなるだろう?」
「え? 私のMP知りたい?」
クラウドの推測に楽しそうな不敵な笑みでセプターを構えるヒカリは、無敵状態の勝者のオーラを放っている。
「それでーユフィちゃんは後方支援しながらヒカリのMP回復係だよっ!」
「な、なんだと!」
そんなわけで防ぎきれなかったレオンさん完敗。
頑張って全ての攻撃を防ぎきれていたところで畳み掛けるように放ったユフィの大手裏剣がトドメだった。
残るはクラウド。
「何で助けてあげなかったの?」
「助けると無駄にカウンターが増えるだけだろ」
「それもそうね、では、クラウドさんはこの状況はどうやって切り抜けるつもり?」
「そのMPが尽きる頃だろ?」
「あ、バレましたか」
「そういうことだ、レオンもそれに気づいていただろう」
「彼の犠牲は無駄ではなかったということね~」
おそらくこの後も試合が長丁場になると思ったのか。倒れて脱落したレオンは救護班によって退場されていくところだった。もしかしたらこの後の戦闘に巻き込まれないように配慮したのだろう。
「それで、この後はどうするつもりなんだ?一応聞いておく」
彼の退場によってクラウドは少し闘志が変わった気がした。仲間思いなのはソラと似ている。
ヒカリは楽しそうにほほ笑む。
「そんなの、ないに決まってるでしょ」
「じゃぁ俺の勝ちだな」
そう言ってクラウドの姿が金色に輝く!
「実は私の方でアイテムがまだあるんだな!」
取り出したのはエリクサー!
しかし。
「甘いな、遅い!」
「くっ!」
クラウドは技をキャンセルしてユフィにファイアを繰り出した。油断していたユフィの手からエリクサーの中身が溢れた。
そしてすぐに先程の金色の輝きが見えた。
これはもはや絶対絶命。
「いくぞ」
短く気合の入った掛け声が上がり。
「!」
ヒカリは目を閉じた。
一瞬で決まったと思われた。
それは違った。
「ユ、ユフィちゃんは、とっておきの技があったんですよねー」
「ゆ、ユフィ?」
後方にいたはずのユフィはクラウドの目の前に。
対するヒカリはユフィのいる後方に。
「身代わりの術。今まで使ったことないんだけどね、失敗しなくて……良かった」
倒れるユフィ。
ヒカリは動かずにその場で見つめている。
「ユフィの、バカァーーー」
怒りに似た気迫のヒカリ。
涙さえ見える。
視界が暗転する直前。
ユフィはその涙が目に焼き付いた。
☆
ユフィが気がつくとそこは医務室だった。
「ユフィ! 二人で楽々てっぺん目指そうって言ったじゃん!」
「そんなことひとっことも言ってないけど……ってか試合は?」
「勝ったよ」
当然とばかりにさらりというヒカリにミッキーが後を引き継ぐ。
「しかもレベルが違いすぎるほどにね」
ミッキーの隣を見るとさっきまで試合をしていた。二人が寝かされている。
どうやらまだ目を覚ましていない。
そもそも、どういったわけかヒカリ自身はほぼ無傷。
「なにそれ、どういう事?」
「ヒカリの魔法のカウンター、あれは最後に三倍返しがあったんだ」
「MPが尽きないと使えない代物なんだけどね!アンリミテッドアビリティって言う、ええと、APほぼ全部つぎ込む技なのですよ!」
本当にこの少女は計り知れない。
「MPが0になる恐れのある場面で、相手の技でカウンターが決まると発動するんだけど、出たとこ勝負に賭けてみたら超級武神破斬で大当たりだったわ。三倍の攻撃を私の分身がお見舞いしました」
楽しそうに解説する内容は頭に入りきらなかったが、要するにヒカリにも隠していた技があったのだけはわかった。
「な、なによそれ~。私はアタリ損ってことだよね~あと、その大当たりめっちゃ見たかった!」
ユフィが叫びヒカリの両肩をつかみ揺さぶる。
「手も足も出ず、しかも八方塞がりってものよ~それよりユフィも、あんな捨て身の技、教えてくれれば良かったのに!」
ほほを膨らませるヒカリにユフィはプイと首を横に振る。
「教えてもあんな捨て身に近い技、使わないつもりだったから、あえて教えなかったのよ」
「レオンにさ、出し惜しみしないって言ってたくせに?」
「それはそれ、これはこれ!」
「理由はどうであれっ結果オーライよ!グッジョブ、ユフィ!」
「イェーイ!」
(女の子ってよくわからない)
あまりの引き出しの多様さにミッキーは心の中でそうつぶやいた。
「とにかく、ユフィが目が覚めてくれて良かった。わたし、棄権の話ししてくる」
「なに言ってんの、誰が棄権だって?」
「へ?」
「ピンピンしてる人が出るでしょ普通」
「え……それって、私だけ⁉」
「相手はどうせそこにいる人と、オリンポスの英雄さんの二人だけでしょ」
「う、うん」
ヒカリはしぶしぶとミッキーを見る。
思っていたシナリオと違うと思うヒカリだったがミッキーは違った。
「あんな公衆の面前で宣言されたら、観客席の人たちの期待に応えなくちゃね」
ミッキーは見ていてすぐにわかった。ヒカリの握る手がカタカタ震えている。
「それもそうね、楽しみだわ! 王子様に勝ったら私が一番ってことよね!」
ヒカリは負けじとカチコチの笑顔になる。
ミッキーはちょっと驚き、その後おどけたように笑った。
「そうしたら今度は君が王子様になるのかな?」
「わ、わたしっ? わたしが、王子様になんか、なっなれないわよ!」
ヒカリは顔を真っ赤にして叫んだものだからユフィは思わず噴き出した。
「なにそれ~その顔、レオンとクラウドにも見せてやりたい!」
「王子さまってのは……あ、あなた、み、みたいなので……」
そこまで言ってヒカリは思いついたように叫ぶ。
「私はHEROになるの! 強くて、優しくて、かわいい!」
「それで照れ隠ししたつもり?」
「う、うるさいユフィ!」
ミッキーはヒカリの心の内を見抜いていた。
(わかっているよ。照れているんじゃなくて緊張しているんだろう? 僕と君は今まで真剣に戦ったことなんてなかったのだから)
「棄権してもいいんだよ?」
からかったわけではないがミッキーは思わず言ってしまった。
心配そうな顔で、本当に本心から心配していたのだが。
「も、もう~からかうな! やりますよ、やりゃいいんでしょ! やってやる~~‼」
ヒカリはこれ以上何も言わなくなりずんずんと歩いて行った。
ミッキーはユフィを見たが、手遅れだとばかりに首を振るだけ。焚きつけたのはユフィだがここまできたらお手上げらしい。
(本当に女の子ってかなわないな)
からかうのは簡単だが仲直りするまでに時間がかかる。しかもこうなってしまったヒカリはきっと何も口をきいてくれない。
(ここまで来て、僕は勝てばいいのか、負ければいいのか)
少ししょげた気分で勇み足を見守るだけのミッキーだった。