King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~華麗なる共演~

 壇上で歩み寄る二人。

 その一人、ヒカリは中心まで歩き、止まった。

 この時まで大勢いるであろう観客席の歓声は、自分には全く耳に入らなかった。

 目の前にはもう一人の男装姿の自分に扮しているミッキー。

 二人は立ち止まり自身の武器を構える。

 この数秒の間でさえずっと時が動かないのではないかと思ってしまった。

 そして今でも信じられない。

 目の前の彼が口を開いた。

「この場所でこうやっておたがい向き合うなんて、僕は思ってもみなかったよ」

 いつもの穏やかな声がヒカリに投げかける。

 ヒカリはさっきまでの夢のような気分から一転、シャボン玉を割ったようにふわふわした気分がはじけた。

 そして思うのはただ一つ。私はここまで来たのだと自分を鼓舞する大きな達成感だ。

「そうね。でも、この状況は悪くないわ!」

「そ、そうなのかい⁉ お、お手柔らかに」

 あまりの元気な返答に相反する気持ちのミッキーは思わぬ不意打ちを食らったようだ。

 正直言えばこの状況はすごく怖い。でも幸運なことに私は今のミッキーの弱点が手に取るようにわかる。

 目の前の彼は『私の変身した分身』だから。

 

 試合開始!

 

「はぁっ!」

 ミッキーはロックブレードをヒカリに振り上げる。ブレードから炎が現れた。

 それを瞬時に確認したヒカリは氷の冷気を帯びたロックセプターを振りかざす。

 ミッキーの振り下ろした炎の刃はヒカリの目の前で冷気の杖に当たり炎が一瞬で消え去る。

 二人の魔法の力が強いせいで衝撃波のように水蒸気が吹き上がった。

「あつっ!」

 ミッキーは思わぬ作用に飛びのき少し慌てる。

対するヒカリは体に冷気をまとって涼しい顔をしていた。その表情と言ったら正義の味方というよりも見下した悪役令嬢のようだ。

 ここで観客の一部がヒカリを「ヒカリ様~~!」となにやら熱いコールが上がった。(ヒカリを何だと思っているんだ)

 そんな悪役に立ち向かう王子様はスマートな笑顔をたたえて次の一手を考える。

「今度はこの水蒸気を使ってエアロブリザード!」

 立ち込める水蒸気にミッキーは風と氷の魔法を付加したブレードを地面に打ち付ける。水蒸気が氷の刃となってヒカリに照準が当てられた。

 太陽の輝きを乱反射させる氷の矢はとても芸術的だ。さらに少しだけピンチな表情をする王子様にご執心なご婦人たちが氷の矢で熱いハートを撃ち抜かれた。(これ見たらきっと王妃様もご執心だよ)

 そんな攻撃も物ともしないヒカリはごく当たり前にこれをバリアで防いだ。氷の刃はバリアに当たると数メートル跳ね返りミッキーは跳ね返った刃を避けて数メートル距離を置いた。

 強烈に魅力的なアプローチを跳ねのける少女に皆が「おおっ!」と声をそろえる。

「あのバリアは固いな~」

 いろいろな意味でまいったな、と短くため息を漏らすミッキー。

「魔法攻撃はこっちが不利か。こうなったら……」

 

 

 ヒカリはミッキーが距離を置いたのを見て次の作戦を始めた。

「よし!」

 ロックセプターを横にないだ途端、一直線に光のボールが無数現れた。

 ユフィと一緒に戦っていた時に思い付いた。メテオを重力で制御している輝く星つぶてだ。

「一斉射撃!」

 ヒカリがウインクして指揮棒のようにセプターを振り下ろしそれを合図に輝く星はミッキーめがけて放たれた。流れ星は真昼にもかかわらず流星のように煌めく。

 さっきまでの威厳のような威圧感が今度はかわいさへ一変する姿に観客席からは「星のお姫様だ!」とか「このウインクで死人が出るぞ!」とか個々に言いたい放題だった。(ヒカリを何だと思っているんだ)

 かわいさの塊の攻撃に四方を取り囲まれたミッキーはゆっくりと深呼吸し一気に体制を低くすると素早い動きで輝く星をすべて回避。その素早さと言ったらあちこち残像が見えるほど。

 観客席では「王子様が蜃気楼のように見える!」とか「私、目の前の幻想で倒れてしまう!」とかなんだか難解な言葉遊びを連ねている。(王妃様、見に来ないかなぁ~)

 そんな声援は全く聞くことができない当人は次々と襲い掛かる流れ星を避けてはたまに打ち返しヒカリへの間合いを目指す。

 打ち返された星はヒカリに向かってくるが新たに放つ流れ星に当たり小さな衝突で砕け散りヒカリはまったく無傷。

 そんなかわいらしい輝きを眺めるまでもなくついにミッキーがヒカリの間合いに攻め込んだ!

「くっ!」

 ロックブレードの切っ先が当たる前にヒカリはバリアを張るが遅かった。

(パリン!)

 ヒカリのバリアが壊された。あまりにも早かったのでバリアを張る直前にミッキーのブレードが阻んだのだ。

「!」

 ミッキーは驚く。バリアはブレードに食らいつき一向に崩れることがない。これはバリアではない。分厚い氷の膜が張っていた。氷の塊は卵の殻のように割れて亀裂が出来ている。そこにロックブレードが刺さって動かなくなっていたのだ。

 氷の膜は光を反射して中のヒカリが見えないが何を唱えているのかミッキーにはわかった。

「サンダー!」

 雷の魔法はミッキーと氷の卵に直撃した。

 雷の威力で氷は砕ける。その中に、ヒカリが卵から孵化するように現れた。もちろん氷の卵の中で彼女は無傷。

「き、危機一髪だった」

 ミッキーは一度武器を消して回避。

 そして、あまりの彼女の演出にギャラリーの歓声がヒカリを称える!

「全部計算通りよ!」

 楽しそうにヒカリが言い放つ。

 歓声の意味はヒカリを見ればわかった。

「まさか、その武器に替えるために、だったのか」

ミッキーは苦笑いをした。

 氷の卵から雷の閃光で現れたヒカリ。その掲げる手にはロックセプターではなく、ミッキーと同じ武器『ロックインロックブレード』が握られていた!

 ここで武器換装とは見事な演出だ。

「だって、魔法も武器も放つにはこっちのほうが断然早いもの!」

「さっきの流れ星からのサンダーの間は時間稼ぎだったのか」

「あら? もしかして回避しないで真っ向から受けてくれるはずだったのかしら?」

 不敵な笑みがミッキーに向けられる。

「想定内だったというわけか、君って人は……」

 まいったなと伏し目がちに笑みを返すミッキー。

「もしも、もう一人のあなたなら、回避せずに炎で割っていたと思うけどね!」

「……ちがいない」

 そして同時にサンダーを受けていたであろう。

(しかし僕にはできなかった。同士討ちを避けたから。どうやら僕はまだヒカリと戦おうとはしていなかったようだ)

 ミッキーは目を閉じ、そしてすぐに開いた。その目はさっきとは違う。目の前にいる対戦者に敬意をこめて。

 自分の力を余すことなく示す。そう決心がついた目だ。

 さっきまでの雰囲気が変わったミッキーに物おじしそうになったヒカリは少し緊張した笑みでロックブレードを構える。

 ミッキーも同じような表情でロックブレードをヒカリに突き付けた。

 

 対峙する二人。

 

「この武器に変えたんだから正々堂々、技で勝負よ。私とあなたの剣技、どちらが早いかしら?」

「ああ、いいとも。勝負だ、ヒカリ!」

「いつでもどうぞ!」

ヒカリがそう言うと瞬時に彼が目の前に迫る!

 

 ここからは観客も息をのむ。

 

「ソニックレイヴ」

 ミッキーが残像になってヒカリに向かって突進

 5連続繰り返す。

 

「ガードセイヴ」

 ヒカリは幾重にも重なる残像をすべてガードで受け流す。背後に迫るミッキーにも後ろに目があるように見返りあしらう姿はあらゆる視覚がまったくない。

 最後の突進が繰り出されるとヒカリはガードの姿からひるがえりミッキーの背後をとらえた。

「カウンターアタック」

 ミッキーの背後をとらえたヒカリは彼の技をコピーしたカウンター「ソニックレイヴ」を繰り出す!

 

「ファイナルブレイク」

 ミッキーは飛び上がり身をひねって姿勢を立て直し体重をかけた三連攻撃を叩き込むがヒカリはソニックレイヴで回避。

 

「ラストアルカナム」

 ヒカリに向かって連打を打ち込むミッキー。

 

「メテオトウィンクル」

 物理連打のミッキーと同様に流れ星を放ち輝く弾幕と化す。これでヒカリはすべて受け止めた。

 

「ラグナロク」

 さらに止まらない攻撃のミッキー。空中で渾身の光の光線を放つとゆっくりと相手に向かって着弾。

 

「オプティカルレイ」

 光線を放つミッキーに対し丸や四角の光線を幾重にも描き幾何学模様の花輪を相手に向けて放つ。大きな花の幾何学模様が二人の間に咲いて着弾する光線を飲み込んで二人の一撃は四散した。

 

 それは空を彩る花火の連発のごとく。あまりの攻撃の嵐にギャラリーは何も言えず見守るだけだ。

 二人の攻撃は見ている者には甲乙つけがたい攻撃だったが、結果は見事に相殺――。

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

 ほぼ同じように肩で息を整える二人。

 一度目に焼き付いた技を把握して二度目に対処する。それがヒカリだったとミッキーは改めて思い知らされた。

 一度も見たことがない技だったがこの場の勢いですべて切り抜けた。改めてヒカリは身近に素晴らしい相棒がいたのだと尊敬した。

 これはまさに芸術と呼べる一瞬の時間だった。

 

「まさか、ラグナロク……最後のはとっておきだったのになぁ。しかも物理攻撃じゃないけど」

「ふふっ派手なものほど潰し甲斐があるわ。最後、物理じゃないところとか!」

「うーん、君なら違いない」

 息を整えると、やっと周りの歓声がしだいに大きくなっていることに気が付いた。

「ミッキー!」

「ヒカリ~!」

 ほぼ同じくらいの声援が幾重にも聞こえる。

「なんだかすごい目立っているね」

 ミッキーが少しぎこちない微笑を見せた。

 この言葉でヒカリはさらに笑顔を見せる。

「当然でしょ、あなたはコロシアムの王子様なんだから!」

 何食わぬ顔で言うもんだからさらに気が重くなるミッキー。もしかしたらこれも攻撃の一種なのかも知れない。

「この声援にこたえる『彼』は本当にすごいなぁ」

「そう? 私は結構楽しいわよ!」

 そう言って観客にぶんぶん手を振ると更にヒカリへの声援が大きくなった。とても楽しそうだ。

「君にはかなわないなぁ」

「ふふっ。せっかくここまで来たんだもの。ご期待に沿わないと、ここにいる意味がないわ!」

「それって……ヒカリ、僕は――」

「はーい! そろそろ、決着つけないとね!」

 ヒカリはロックブレードに刺さっている、あるカギをひねった。

「あのロックオンは……まさか」

 あることを思ったミッキーも同じ鍵をひねる。

「これで、最後!」

 ロックブレードを構えて走り出すヒカリ。

 ミッキーも同様にヒカリへと走り出した。

 

 青空に大きな声援がさらに響き渡った。

 

 

 

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