King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
鈍く輝く鋼の装甲。
いったいどんなものを格納しているのかと思うほど、いろいろなギミックが隠されているだろう大きな車体。
乗り物には決して詳しくないヒカリは二輪の乗り物はバイクと言うしか呼称出来なかった。
グミシップは遠目から見ると単純そうなフォルムだったため特に何も関心がなかったがこれに関しては興味がわく。こういう乗り物を目にするとカッコいいと目を輝かせる人もいるのだろう。
「これで移動するの?」
「そうだが?」
「私たち今から出るのって宇宙だよね?」
「それに関しては問題ない、乗ってくれ」
クラウドの後ろにまたがると、彼のマントと翼の飾りが邪魔だった。
マントは極力自分の体に巻き付けて黒い翼はどうしようもないのでわし掴みすると――。
「ヒカリ……そこはやめてくれ」
「えっ?」
「背中がくすぐったい」
「へっ? ええっ⁉」
バサバサと嫌がるように動く黒い翼を見てヒカリは驚いた。
「こ、これ。飾りじゃなかったの⁉」
「……話せば長くなる。闇の力でそうなっていると言っておく」
「クラウドさんも闇の力使うんだ」
「すべてが悪い力ではない。使う側によるが」
「うん、そうだよね」
そう言ってヒカリはクラウドの腰に腕を回すとなんだかびくりとされた。これもだめらしい。
(もしかして後ろに誰か乗せたことないの?)
「ヒカリ……ベルトを掴んでくれ、あと、片手で武器を持て」
「え、なんで武器?」
「今から闇の扉を開ける。ハートレスが来るぞ」
「え?」
そう言うと目の前にトンネルのような黒い異空間が現れた。
大きなエンジン音が響き、吸い込まれるように発進した。
「えええ~~」
ヒカリの声は爆音で消えた。
トンネルをくぐったはずなのにそこはバイクの音が反響しない。グミシップの宇宙空間とは違った星のない、暗い夜道のような空間だった。ただ、まっすぐな暗い道と呼ぶには少し間違っている。霧の中の夜道と言ったところだろう。
ほどなくするとそこにはおびただしいほどの反射する黄色い目。
ハートレスだ!
「魔法で援護を、バリアとバーストを頼む」
「わかった」
ヒカリは飛び出したハートレスに対抗しバリアをかける。さらにバーストで前方の道を開ける。
しばらくすると真っ直ぐだった道は2つに分かれているがクラウドの選択は迷いがなかった。
「どこを目指してるの?」
「ハートレスの多い道だ、こいつらは世界の鍵穴が開いている場所へ向かう」
「なるほど」
「あと、後ろから追ってくるのが本命だ」
「後ろ⁉」
ヒカリが後ろを振り返ると車輪のついた乗り物にまたがるハートレスが追ってきている。
グミシップは船だったがこちらは乗り物らしい。
しかも数台連なり、その中の一台はクラウドのバイクくらい大きい。
おそらくはボス級ハートレスだろう。
「先を越されたらまずい、ここで倒しておこう」
「ちょっと待って! 乗ったまま戦うの?」
ヒカリは初めての展開だらけでついていけない。
「止めたら他の所からたくさん寄ってくるぞ」
「そ、そうだけど~」
前方でシャドウがせわしなく襲い掛かってくる。
そのたびにバリアを張ってさらにバーストで軌道確保。このままでも進路が阻まれるのに、止まったら最後、積もった落ち葉のように埋もれてしまいそうだ。
「あれが次に行くワールドに来られたら面倒だ、それに――」
クラウドは後ろのヒカリを振り返る。ゴーグル越しのクラウドの瞳は不安そうなヒカリを見つめる。
「俺とヒカリなら大丈夫だろう」
得意げな顔が挑発するように微笑む。
これにはヒカリもやる気のスイッチが入った。
「も~~やるわよ!」
うなだれるように頭を数回振って弱気な気持ちをリセットする。
後ろへバーストを放つ。数台当たるが本命は距離が遠いとすぐにかわされた。
これで取り巻きのバイクハートレス達は全て消えたが最後の一台。ボスにはすぐに追いつかれた。
横に並ぶ二機。
「俺も戦う揺れるぞ」
クラウドが自分の武器をバイクから取り出す。
(なるほど、大剣がそこに収まっているのね)
自分のたとえが安易だが、ヒカリは自転車のハンドルとペダルをつなぐボディにひっかけている雨傘を思い出した。
一人和やかにそんなことを考えている間。ハートレスの体当たりで車体が大きく揺れる!
これのカウンターでクラウドがバスターソードでの直接攻撃が当たったのでバイクハートレスは軽くスピンして後方へ。
不安定な重力にヒカリは投げ出されそうになったが、発進する前に巻き付けていたクラウドのマントのおかげで無事だった。
「ヒカリ。大丈夫……か?」
「大丈夫、私のほうこそごめん!」
首元のマントが引き絞られて、たぶん今きついのはクラウドだった。それでも少し無茶をするくらいでは振り落とされることはなさそうだ。
これで安心したのかヒカリは別のことをふと思う。バーストは少数のハートレスには効果があるがこれだけでは切り抜けられない。
次々に寄ってくるハートレスとボスハートレス。この二つを切り抜けろとはこの闇の空間では無茶がある。
そうだ。ここはハートレスが際限なく湧き出てくる場所。幸い何も障害物がない。
ならば――。
「我が求めるは心持つ分身。この身を糧に与える!テンプテーション・デコイ!」
ヒカリの分身がはるか進行方向に現れた。
「あれは、ヒカリ?」
「半分は正解、そのまま近づいて通り過ぎて!」
遠くてよく見えないが歩くヒカリにハートレスが群がるのはわかる。
バリアで難を逃れている。
さらに魔法を使う向こうのヒカリ。
今度はハートレスを消しまくっている。大勢のハートレスを浮遊する球体に捕獲するクリアの魔法だ。しかし、いつもはクリアの魔法は球体が縮小し、すぐに消えてなくなるが、今回は消滅せずに残ったまま。浮遊する球体がヒカリの周りに次々と出現する様はたくさんの風船の山のように見えた。
「なるほど、障害物か」
それを前方で確認するクラウドがつぶやいた。
「そう、あとは……」
クラウドの後ろのヒカリはそう言って後ろのボスハートレスに専念する。
まもなく迫るもう一人のヒカリは足を止めた。
白い魔法陣が薄暗い空間でまばゆく輝いているのが見える。群がるハートレスはヒカリの放つ白い魔法陣には入れないようだ。
そして、ちょうど魔法陣の中に居るもう一人のヒカリの横を通り過ぎた。バイクに乗るヒカリと魔法を唱えるヒカリが同時にウインクした。
これが合図だ。
『クリア解除!』
魔法で浮遊していたハートレスが重力が解除され風船を割ったように積み上がり壁を作る!
その数はバイクの車体を止めるには十分。
そこへヒカリ達を追うハートレスの群れがその山に突っ込み、あまりの障害物に動きが止まった。バイクのボスも同様だ。
デコイのヒカリはそれを目の前で見届ける。
彼女の作戦はまだ終わらない!
「か~ら~の~! ホーリーバースト!」
通り過ぎたバイクの後ろで真っ白い柱が見えた。
大小様々な全消しだ。
「なんだかいろんなゲームを同時にプレイしているみたいだった……」
体よりも頭が痛くなりそうだ。
「出口だ。明るくなるぞ」
その後白いトンネルが見えて、そこを抜けると新しいワールドへ着いたようだ。
爆音に聞こえるエンジン音が帰ってくる。
ほどなくしてブレーキをかけ横になぐように車体を傾け止まった。目の前には先ほど突破した闇のトンネルがちょうど消えた所だ。
「やったのか」
「うん!」
元気よく返事をするヒカリにクラウドは肩を震わせていた。
「ん? どうしたのクラウドさん?」
「いいや、あいつはもともと俺がずっと手こずっていたハートレスだったんだ」
「あれ、もしかして、悪かった?」
ヒカリは焦った。同じバイク乗りで、もしかしたら愛着でも沸いていたのか?
それをいとも簡単に攻略してしまい憤っているのではないのか⁉
「いいや、違う。なんというかすっきりしたんだ。でも、こんなにあっけなく倒されたとは、ふふっ」
逆だった、どうやら笑っているらしい。
「すごい威力だな、そのホーリーバースト」
「でっしょー!ハートレス限定だけどね!」
ぐるぐる巻きにしていたマントをほどきヒカリがバイクから降りると。
「あ、あれ?」
ふらふらと足がわななき、ついにはへたりと地面に足をつけた。
「な、なんか疲れてるみたい?」
困ったように見上げる彼女はさっきまでの頼もしさから一転して幼さの見える少女だ。
それがまたおかしくて笑いをこらえるクラウド。
「ふふ……すまない。ええと、どうだったさっきのバイクは」
どうやら強制的に話題を変えたいらしい。
まだツボにはまって微笑しているクラウドにヒカリはいつもと違って楽しそうなので何も文句は言えなかった。
とりあえずさっきまでの事を振り返る。
「バイクもだけど、闇の道。それ自体でびっくりしたわよ!」
「一人で行くならこっちのほうが早くていいんだ」
「それにしても心の準備ってものが……いちおう乗る前に言っておきましたけど、わたくし、ハートレスが沢山寄ってくる体質なのですわよ?」
「いや、まさかこれほどだったとはな」
初めて魔法を見たときにヒカリも同じことがあった。類を見ないことに出会った時、驚きと、心の動悸と、なぜか笑いが入り混じる不思議な気持ちになる。
今のクラウドはそんな感じだ。この笑い方からしてさっきの出来事は、良くも悪くも思った以上の惨状だったらしい。
「もしかして……私が誇張していたとか疑っていたの?」
「さすがにシャドウ数匹、群がってきても問題はないと思っていたんだ……」
「数匹どころか、無限に湧いて出てきましたね?」
あきれ顔のヒカリにクラウドはさっきまでの出来事を思い出し、さらに肩を震わせる。
なんだか一人だけ楽しそうに見えるのでヒカリは少しむっとする。
「ひどいですよ~デコイの魔法見たでしょ? 振り落とされたらもうおしまいだったんですよ!」
「でも、俺が手こずっていたハートレスに勝てた」
「あ……そうですけど」
なんだろうこの難易度不可思議な状況。
「思った以上に敵が出て……しかも勝てた!」
この現状事態に笑いが止まらないらしい。
さらにクラウドはこらえきれない笑顔についに抗えなくなり――。
「本当に面白いやつだな、ヒカリって!」
少年のような笑顔でこう言うのであった。
「……くうっ‼」
言い返そうとしたヒカリはそんなクラウドを見てしまったため――言葉に詰まった。
なんでいつもは、あきれたり、怒ったり――。
そんなキーワードなのにっ‼
こんなにも、さわやかな笑顔で、おっしゃられるのですか⁉
綺麗な笑顔で返された言葉に地に足をつけたままのヒカリはいろんな意味で敗北感が否めなかった。
「クラウドさん笑顔が反則です」
すねるヒカリにクラウドは少し首を傾げてこう言った。
「今から俺を呼ぶ時はクラウドだ。ヒカリ」
そう言い手を指し伸ばす。
やっと笑いがおさまった彼の顔を確認し、ため息ともつかない息を吐いてその手を取った。
「わかった、クラウド」
手を取り、立ち上がったヒカリ。
手を引いて助け起こしたクラウド。
一瞬目があった。
そして何げなく目をそらす。
その後、呼んだ、呼ばれた、その名前をかみしめるように――二人は微笑んだ。