King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~魔女の絶叫~

 

 クラウドのバイクに乗って別のワールドを訪れたヒカリ。そこは葉のない細長い木々が生い茂る殺風景な場所だった。

 しばらく歩くと林が終わり空には満月の輝く夜道。さらに進んでいくと街らしき塀に囲まれた門が見えた。

 街に入る。断頭台のようなものが中央に高々と配置された広場。

 ほろ暗い街並みに映える緑色に発光する噴水。

 対照的に周りに点々とオレンジ色に輝く街頭。

 殺風景とは言い難い、違った意味で何か殺伐とした雰囲気が漂う。

 ヒカリが門のアーチをくぐり瞬きすると、自分の目の前に影が落ちていた。

「!」

 いいや、これは……いつものお約束的なあれだ。

 

 いきなり服装が変わっている!

 

 影が落ちていたのは深くかぶった帽子のせいだ。

 灰色の、ところどころほつれたり穴が開いている。よれよれの魔女の三角帽子。

 いつもの真っ赤なリボンは健在で帽子のつばに乗っかっていた。これだけは不気味に鮮明な赤色でいつもはかわいらしい雰囲気を装うことができるのだが、今回はどことなく狂気に拍車をかける。

 あとは、前開きのジッパーのついた灰色のミニワンピース。ジッパーチャームはデフォルメされた白いドクロだった。

 ワンピースの丈は膝上でほぼパンチラに近いが白いカブのような白カボチャパンツがスカートの下から見える。

 白と黒のアシンメトリーのニーハイソックスに、これまた不気味な灰色のよれよれのブーツ。

 背中には黒い蝙蝠の翼が生えていた。

 ばっさばっさ動く。

 思わず触ってみるとくすぐったかった。

(クラウドが嫌がることだ)

 

 どうやらこの世界の自分は小悪魔な魔女といったところか。

 クラウドを見ると彼も姿が変わっていた。

 全体的に服装が暗くなった感じだ。

 赤いマントは変わらないが翼が消えて、その代わりぼさぼさの長い金色のしっぽが赤いマントの間から見える。

 良くも悪くも悪目立ちしそうな毛色だが、灰色のフードをかぶっていてよく見ないと顔は見えない。

 仲間特権でヒカリは面白そうにクラウドのフードをおろした。

「やっぱり~耳がついてる!」

 ツンツンした髪にまぎれて、これまた金色の大きな三角の耳がついていた。

「そうなのか」

 当人はまだ自分の容姿が見えないため特に驚きもしていない。

 思わず耳に触るヒカリ。触れた途端ぴんと立った。顔も狼になっているのかと期待したが――なんだ、端正な顔立ちは変わっていない。

 よく見ると八重歯が長いので吸血鬼と狼男の良いとこ取りのようだった。

「わぁ……クラウドの姿、なんか怖いというか顔立ちが綺麗で驚くのほうが合ってるわね」

「ヒカリは何というか……すごく合っている」

 最後の言葉が強調されたような気がするが、まぁいい。

「誉め言葉なら、ありがたく受け取っておくわ」

 その言葉で帽子の陰から除く瞳が鋭く輝いた。

 ニヒルに笑うヒカリを見たクラウドがなにか危険を察知してまた耳がぴんと立った。

 

「さて、私たちの目的は三つあるのよ」

「初耳だな。三つもあるのか」

「一つ目は王様の言っていた金のメダルを見つけること」

「一つ目だな」

「ん?」

「ヒカリの後ろに一つ目がいる」

「えっ、なにそれ? どういう……」

 ゆっくりと振り返るヒカリ。

 

 目と鼻の先に――一つ目が!

 

「きっ……キャーー‼」

 悲鳴と恐怖の勢いのまま後ずさる、その間、足がもつれ、尻もちをつくヒカリ。

 さらにそのままの姿勢で後ろへ移動しクラウドにぶつかった。

「な、ななっ何あれ?」

 クラウドを下から見上げる三角帽子がら涙目が見える。そんな魔女を助け起こすクラウドは言葉に詰まっている。

「転んで後ずさった後、その……丸見えだが、大丈夫なのか?」

 ヒカリが下を見ると開脚した脚とそこに露出した白いカボチャパンツの事だろう。

 クラウドの見えない表情からなんとなく察したヒカリはこう言った。

 

「カブカボチャパンツは何を隠そう見せパンなので大丈夫です‼」

 

 まだ動機が収まり切れていないヒカリが大声で宣言した。

「そ、そうか……」

「スパッツとかレギンスとかそんな感じです‼︎」

 更に補足を入れたのでドキドキは落ち着いてきたようだ。

 さっきまでヒカリの背後にいたハートレスは悲鳴に吹き飛ばされるように浮遊して行った。

 どうやら危害を加えることは無いらしい。

 そこへ新たな人物が登場した。

「ようこそハロウィンタウンへ! カブカボチャパンツのお嬢さん!」

 細長い体の白い白骨紳士が現れ優雅に挨拶した。

 これでさらにヒカリが驚かなかったのはどことなくヒカリのワンピースのドクロに見えて愛嬌があるからだ。

「カブカボチャパンツは見せパンなので大丈夫です!」

 ヒカリは得意げにもう一回言った。あまりにも驚いて大声で叫んでしまったのでヒカリの中で通常会話のように固定されてしまったようだ。

 しばらく連呼しても本人は全く問題ない。

 クラウドはそうでもないみたいだが――。

 

「うん、大いに結構!」

 ヒカリの叫ぶキーワードにクラウドはたぶん赤面したままだったが、彼のほうはちゃんと日常会話のように返してくれた。

「あの一つ目、ハートレスですよね?」

「おお、君たちはそういうのか、なるほど、覚えておこう」

「なんで、あの……動かないんですか?」

「それはこいつらを操る研究をしている博士がやったんだ」

「そ、そうなんだ」

 謎が解明されようやくドキドキが収まる。

「いやぁ、あまりに見事な悲鳴だったので飛んできてしまったよ!」

「そ、それはどうも……」

 なんだかよくわからないが褒められてしまった。

 そういう風習なのか、凄い所だ。

 

「僕はこの町に住むジャック・スケリントン」

 改めて優雅に挨拶をする白骨紳士改めジャック。

 空虚な顔つきに陽気に歌うような声。

 細長い体系にしなやかな仕草が妙にミスマッチ。

 だが、そこがイイ!

 

「よろしくカブカボチャパンツ嬢」

「ヒカリです。こっちはクラウド。そんなに気になりますか? カブカボチャパンツ」

「非常にいいセンスだ! 今年のハロウィンはもう決まりそうだから来年のハロウィンにでも考えよう。きっと君も気にいるだろう」

 

 カブカボチャパンツとハロウィンとで何ができるのか。クラウドはさっきの光景がしばし頭から離れない。フードの中で三角耳が小刻みに動いた。

 そんな彼はまったく会話に入らず二人で進んでいく。

「ハロウィンですか?」

「この町の一大イベントだからね。このハートレスを今回は使ってみようと思ってね」

「こいつら、実は危ないのでなにかあったらすぐに対処してくださいね!」

 ちらちらと一つ目ハートレスを見回すヒカリ。

浮遊するだけで特に問題はなさそうだ。

クラウドが察するに、ヒカリはできれば視界に入れたくはないようだ。

 

「ああ、わかったよ、それじゃぁ僕はこれで。ゆっくりしていってくれたまえ」

 ジャックはそう言って行ってしまった

「なんだか忙しそうだね、ハロウィン近いのかな?」

 ヒカリはジャックを見送る。

 その間、クラウドは会話に入らなかった。

 

 

 さっきジャックと出会ったギロチン広場では今度は町長と出会った。

「ハロウィンはこの町の一大イベント!まだ準備中です」

 そう言いながら表情の違う顔が表裏ぐるぐる回って、それはもう一人で忙しそうだった。

 ヒカリとクラウドは邪魔をしないように広場から離れた場所へ移動した。

「クラウドはここ初めてなんだよね?」

「そうだな」

「ぶっちゃけ、こういう雰囲気どうよ?」

「いろいろな世界があるんだな」

 熱意のこもったまなざしをクラウドに向けるヒカリにクラウドは何の気もなしに答えた。

 ヒカリはつまらなさそうに返す。

「そうじゃなくって好きか嫌いか言ってほしいんですけど~」

「ヒカリはどうなんだ?」

「いやぁ~初めはホント驚いたよ、怖かったよ!」

 帽子を両手でつかみ深く被るヒカリ。

 たまに聞こえる笑い声や悲鳴、狼の遠吠えにまだちょっとビビっているみたいだ。

「ヒカリが怖いなんて意外だな」

「意外なんてひどいなぁ……」

まだ帽子を両手でつかみ深々と被っている。

「珍しく怒らないんだな」

「事実を受け入れたまでです」

 本当に怖いようだ。

 

「でも、さっき出てきた白いシーツお化け見たら、なんかみんな親切でかわいく見えてきたよ」

 広場の入り口前に浮遊していた、ひらひらシーツにぴかぴか鼻の犬のお化けが気に入ったらしい。

 この世界で言う犬小屋なのか、お墓にはゼロと名前が書いていたのもチェック済み。

「私のことはいいから、クラウドは……」

「?」

 クラウドの前を歩くヒカリの足が止まった。

 何やらカタカタと震えている。

 

「どうした?」

「なんか、踏んだ――」

 いつもの声色とあきらに違う。怯えるような声。

クラウドはヒカリの足元を見る。

 

そこには――。

 うごめく袋とそこから出てきた虫達!

 

 ちょうど数匹。

 ヒカリのブーツから、

 カブカボチャパンツにかけて這っていた。

 

「い、いやぁぁぁ~~~~‼」

 

 この後のヒカリの行動は一瞬だった!

 足に這っていた虫を蹴散らし。

 クリアの魔法を乱れ撃ち。

 虫たちをすべて捕獲した後、浮遊しているボールめがけてヒカリはすかさず飛び上がり、オーバーヘッドシュートを決めた!

 あまりに綺麗な弧を描く回転とその速度に今回はワンピースはひるがえらなかった。

 それよりも……。

 あまりの手際の良さに大いに驚く。

 大きな月の見える墓地に飛んで行ったソレが見えなくなるまでヒカリは息も絶え絶えだった。

 

 杖を両手で構えて周りを警戒する魔女。

 いつも見てきた完全武装の戦闘態勢に、魔女の姿はお似合いだなと人事に考えているクラウド。

 ヒカリは、何も言わずに感心しているクラウドに勢いよく振りかえった。

「なにあれ、何なのアレ‼︎ もっぞもっぞ動いていたんだけど⁉」

「なんと言うか……災難だったな」

「こわい、こわい、こわーい!」

「……俺が怖いのはその手際の良さなのだが」

 声に出して言ったのだがヒカリは何も聞こえていなかった。

 

 

 ヒカリが遭遇した先ほどの、もっぞもっぞ動くソレは月の見える墓地からバラバラと空中で虫たちがまかれると、どこからか声が聞こえた。

「あの見かけない魔女め……」

 ゾロゾロと再び袋へ集合しだす虫。

 そして袋から声が聞こえた。

「虫どもを踏み潰し、蹴散らし、俺様のことを大層毛嫌いしているようだな」

 袋が膨らむと月明かりで人影になった。

「ふ、ふふふ……気に入ったゾ‼︎」

 あまりの嬉しさに袋の虫が口のような裂け目から数匹飛び出した。

「そうだ、俺の館に招待して、もっと怖がらせてやろう!」

 

 

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