King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
とんがり峠でキャンプをするヒカリとクラウド。
ヒカリはいままでグミシップで生活していたので初めてのキャンプでいろいろ脅かされた。
「テント、キャンプセット、あとコテージもあったんだが」
クラウドがチケットを見せてくれた。どんな世界でも使えるモーグリ印の旅のチケットらしい。
旅先で何枚か入手した代物みたいだが一人だと野宿していたのでなかなか使う機会がなかったみたいだ。
「じゃぁ、真ん中!」
クラウドからしゅっと真ん中を取り上げてぴらぴらとチケットを振り上げると煙とともにチケットが消失。ずらりとキャンプセットが一式現れた。
テント、たきぎ、あとは鍋など必要最低限のアウトドア器具。しかもここはハロウィンタウン。鍋なんて魔法使いの使いそうな人が一人入れそうな大鍋である。
数時間後。
鼻歌交じりにパンプキンスープを作るヒカリ。
その光景と言ったら、
「あそこで何かやってるぞ?」
「なんだ、ただの魔女か」
くらい馴染んでいるほどだ。
そんなわけなので、いろいろキャンプセットを広げていた所、早速ここの住人が寄って来た。
「おい、そこの魔女!」
「あたいらのアジトの前で何やってるのさ?」
「なんかいい匂いだよ?」
小鬼のロック、ショック、バレルだった。
「あ、ごめんね~今日だけここ使わせてね」
ぐるぐるかき混ぜている鍋のスープを眺めている小鬼達。ヒカリは味見しながらふと思った。
「食べる? 爆発するカボチャで作ったから、消えてなくなる前に使っちゃってよかったよね?」
とんがり峠のあちらこちらで現生しているカボチャを指さすと小鬼たちは顔を見合わせてヒカリにうんとうなずいた。
挨拶に反し思ったより可愛らしい三人だった。
クラウドが周辺のハートレスの見回りから帰ってきたところで三匹と二人のパンプキンスープパーティが始まった。
「爆発する前にどうやって調理したんだ?」
クラウドが爆発しないか匂いをかぐ、一応彼は今、狼男なので鼻が利くらしい。
「食材の目利きはサリーって女の子から聞いたんだ。ズバリ決め手は水加減ですよ!」
「火加減の間違いじゃないのか?」
「火に入れると爆発するからまずは水から入れてぐつぐつ煮込むんだって。爆発寸前なら氷の魔法もおすすめだって」
少しさかのぼる。
キャンプセットを出現させてクラウドが離れてからヒカリは周辺の黒いキノコのようなハートレス『ブラックファンガス』をカボチャ爆弾で撃破したのち、標的がいなくなって持ち上げたカボチャをもったいないと思っていたところ――ジャックの知合いだという、つぎはぎ人形のサリーと出会った。
ヒカリがカボチャの調理法を聞くと彼女は優しく教えてくれたのだった。
ここの住人は魔法が使えるようで攻撃以外の魔法の調理の使い方も少し習った。
旅の鉄則。現地民の話はちゃんと聞いたほうがイイ!
「よくわからないが、食べて問題ないんだな」
「この三人が食べて大丈夫なら問題ないんじゃない?」
「……」
どうやら小鬼たちは毒見役だったらしい。そんなこともお構いなしにガツガツ食べる三人。
「この食べっぷりは見ていて飽きないわ」
ヒカリは三角帽子の陰で隠れる瞳を輝かせて楽しそうに笑ってる。
クラウドはなぜか、
「どうやって食ってやろうかしら?」
みたいな翻訳に聞こえた。
「大丈夫です、ちゃんと味見しました!」
ヒカリがそう言って満足そうに3人を眺めやっと自分もスープを食べ始めるとクラウドはためらいがちに口に運ぶ。
「すこし甘いな……」
「たぶん爆発する寸前だったからね。完熟?」
「そ、そうなのか」
その後、小鬼たちのおかげで特大魔女鍋スープはすっかり空になった。
「お礼に、虫でも食べる?」
と、聞かれたが、ヒカリは断固拒否した。
☆
「あ、もう夜が明ける」
「俺たちもう帰るよ」
「おやすみなさい」
この言葉を聞いたヒカリとクラウドは不思議に思った。どうやらこの世界は住人の活動時間が夜ということらしい。つまりはヒカリたちとは逆転しているようだ。
大きな満月が地平線へ隠れる。
夜明けの青空が見えてくるとすっかり人の気配がなくなった。ここの世界でいうとお化けの気配にあたる。いろいろな気配が消えてヒカリは何故かホッとする。
薪を眺めながらヒカリが言った。
「最初に言い忘れたんだけど、私たちの目的は三つあるの」
「一つ目はメダルだろ」
「うん、二つ目は今持っている銀のメダルをマフに渡すこと」
「持っている分を渡しに行く方が先じゃないのか」
「だからシドのところに行こうって言ったじゃないの!」
「そうだったのか」
「そうなのです。まぁ、まだ来たことのないワールドに来れたのは良かったけど」
「シドに置いていく前にヒカリの言う特殊能力を試したかったのもある」
「おいて行くの前提だったのね……しかも、笑いが止まらないほど思った以上だったってことね」
「次回からは小型でいいから船を作ってもらおうと思う」
「もう~初めっからそう言ってるじゃん……って、私、トラヴァースタウンに置いて行かないの?」
「気が変わった。たまには二人旅もいい。それで操縦を、その……教えてもらいたい」
「ん? ああ、いいよ。あれならソラでも大丈夫だろうから」
「そうか――じゃぁ次はシドの所だな」
「うん」
しばらくして今度はクラウドが聞き出した。
「ソラは、姉弟なのか?」
「そうだよ。たぶん私の力でアイツはすっかり忘れてるんだけど」
「それは、ヒカリが強い力を持っているせいで忘れているのか?」
「わかんないけど、故郷を離れてからかな。それから私っていろいろ全部変っちゃったね」
ヒカリはそれだけしか言わなかった。
「俺も昔のことは言えた立場ではないからな」
「それってセフィロスのこと?」
「そうだな」
「そっか」
二人はこれ以上は追求しなかった。
薪の音が小さくなってヒカリが立ち上がった。
「じゃぁ三つ目なんだけど少し変更!」
「?」
「セフィロスが来たらクラウドが倒して!」
「俺が?」
「うん。あいつと戦ってみて超えてやろうとする目標ができて、そのうちリベンジしようって思ったけど……クラウドが倒しちゃってよ! 私と一緒にいるんならきっとクラウドも強くなるよ!」
「俺は弱くない」
「あ、言い方を間違いました。私がミッキーといたときはレベルが違いすぎたからすごくいいお手本になったの。だからそれと一緒。きっといい相乗効果になるよ」
「俺とヒカリはそんなに違いがないだろ」
「魔法と剣技は全く違うっての! 一緒に居ればお互いの良い所を伸ばすチャンスです!」
そう言ってヒカリはおもむろにアップルロケットに付け替えてセプターを振り上げた。
真っ赤な光に包まれて白い粉がキラキラ降り注ぐ。その後、クラウドの目の前にいる人物は小悪魔魔女ではなく――。
ヤギのようなツノに真っ赤なリボンの目立つシルクハットが乗っかった悪魔魔法使いが現れた。
服装は王子様な出で立ちでカブカボチャパンツは健在だった。
「と、言うわけなので私の代役をお願いします」
白骨紳士の優雅な挨拶の真似をして片足立ちで狼吸血鬼へ右手を軽くあげる。
「この世界で変身して見たかっただけじゃないのか」
「バレましたか☆」
片目をつぶる短髪の男装ヒカリにソラとミッキーの両方の面影を見てクラウドは少し吹き出しその手を取った。
「その顔に免じて一応、感謝しておこう」
真っ赤な光がはじけて悪魔魔法使いは小悪魔魔女に変わった。
「そうと決まれば明日に備えて寝なきゃ!」
あたりはっすり明るくなって、東の空にオレンジ色の朝日が輝き出している。
この世界でいうテントという名目で出現した『棺』の中に虫がいないことを確認した後、ヒカリはそこにおさまった。
クラウドは外でいいと言われたので見張りという名の野宿だ。
「吸血鬼なのに太陽の光は大丈夫なの?」
棺の隙間から話をするヒカリ。
「どうやら問題ない、狼の姿になっている」
「えっ何それ⁉ 一気に見たくなったんだけど⁉」
昼は狼。夜は狼耳付きのイケメン吸血鬼に変身するようだ。しかしヒカリはイケメンより狼のほうが好みらしい。
「うるさいから早く寝てくれ」
威嚇する狼の唸り声が聞こえたので棺はおとなしくなった。
☆
「カボチャ爆弾スープだと……?」
ブギーの館に戻った小鬼たちに詰め寄った館の主人はとんがり岬で大なべを怪しげな笑いとともにかき混ぜていた魔女のことを聞き出した。
それはもう恐ろしい(ほどおいしかった)中身だったと口をそろえて言うもんだからブギーは思っていた以上に魔女の期待値が膨らむ。
「もう近くに来ているのか~ああ、どうやって丁重にもてなそうか!」
ブギーは右往左往してせわしない。
「あいつは虫が大の嫌いだってさ」
「お礼にあげると言ったら、それはもう身震いしていたほどにね」
「きっと親分を見たらすごいことになるだろうよ」
「そうさ!俺様の中身を見たときのあの袋の中から震え上がるほど耳障りな声!あれ以上の悲鳴を聞けたら!」
明らかにそわそわしている親分。
思い出しては忍び笑いが聞こえる。
どうやらわれらが親分はさっきの魔女をご所望のようだ。
小鬼たちは三人で意見を言い合う。
「どうする?」
「連れてこようか?」
「どうやって?」
『さらってこよう!』