King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~魔法と刃物と釘バット~

 足の生えたバスタブがブギーの館へのんびりとした足取りで歩みを進めて行く。バスタブの上には風呂の蓋のように棺が一つのっかっていた。

 館の部屋。

 丸いルーレットのような部屋にバスタブがやってくると棺が飛び上がりごとりと落ちた。

 棺はロープでグルグル巻きにしているため蓋は飛び上がらなかった。

 更にバスタブの中から三匹の小鬼が飛び出す。

「親分! 魔女をさらってきました」

「棺の中にいるよ」

「中でおとなしくしてるよ」

「その中にあの魔女がいるんだな?」

 ブギーはあまりに楽しくて棺の前に踊り出た。

「もてなしの準備はもうできている!」

 ブギーが部屋のいたるところを見渡す。

 磨き上げたとがっている刃物。

 黒光りする機械類。

 三つとも同じ数字が出るイカサマサイコロ。

 

「それじゃぁ親分! 開けるよ~」

 三匹が力を合わせて棺のロープを引っ張ると棺が縦に立ち上がりコマのようにぐるぐると回る。

 遠心力が消えるとゆっくりと蓋が開いた。

 開いた棺には――。

 とんがり帽子の魔女がいなかった。とんがりだと思っていたのは金色の三角耳だった。

 目の前のブギーも小鬼たちも棺の中の人物も、全員首を傾げた。

 

『あれ?』

 

 

「どこココ?」

 棺を開けたヒカリの見た場所は――。

 とんがり峠の景色ではなかった。

 そしてブギー達の目の前でもない。

「あ、ここ、ゼロのお墓!」

 ゼロのお墓があるので思い出した。

 おおきな棺のある墓地だ。

「でもなんで?」

「目が覚めたようねヒカリ」

「サリー!」

 棺の隣で声をかけたのは昨日料理を教えてくれたサリーだった。

「夜が始まるころ、通りかかったときにあの狼さんがここへ担いできたのを見たの。よほど疲れているみたいだったから起こさないようにって」

「私そんなに寝ていたの?」

「ディナーを過ぎたくらいかしら?」

「ううっ……」

 ディナー、ここでいえばランチに値する。あたりを見るとすっかり月が真上に上っている。もしかしたら昼夜逆転しているから時差ボケみたいなものになっているのかも。

「そういえばクラウドは?」

「私はさっき来たところだったから見ていないわ。夜の初めに来たときは赤い帽子のハートレスと魔法を繰り出しているのは見たけど」

「あ、それ昨日私が言った修行かも」

 魔法の修行にはホワイトマッシュルームが最適だと昨日クラウドに話していた。

 攻撃をしてこないが魔法の注文がうるさい不思議な趣味を持ったハートレスだ。ヒカリとミッキーは見つけ次第どちらが早く満足させられるか競っていたくらいだった。

 ヒカリは今のところ範囲魔法であたりの広いファイア免許皆伝とブリザド免許皆伝を持っている。クラウドは興味があるように眺めていたので早速挑戦していたのだろう。

「ここ以外で修行のメニューは言ってなかったはずなんだけど、う~ん……」

 しかも妙だ。修行なのにバスターソードを棺の横に置いているなんて……。ロックセプターは忘れることがないが最大の護身の武器を置いて離れるなんてとにかく不用心だ。

「なんか嫌な予感がする、他に誰かクラウドを見た人いないかな?」

「ゼロに聞いてみたらどうかしら?」

 サリーがそういうとゼロのお墓前に手を差し出す、するとひらひらシーツの犬のお化けが現れた。

「さっきまでいた彼の場所を教えて頂戴」

 ヒカリがクラウドの愛刀をゼロの前に差し出す。

 ゼロはビューンととんがり峠の向こう側へ飛んで行った。

「まずい、あそこは……」

「あそこって小鬼たちのアジトよね?」

「ウーギー・ブーギーの館。ブギーは街の嫌われ者なの、私もとても嫌な予感がする」

「だったらなおさら、いかなくちゃ」

 ヒカリが向こうの丘に行くために移動用ランタンに火を入れる。

「待って、ジャックを呼んでくるわ!」

 サリーが走り出したがヒカリは腕をつかんだ。

「私とクラウドのためなら大丈夫だよ?」

「でも、来たばかりの人たちにひどいことするかもしれないから……」

「いや、むしろ私たちにあまりかかわらないほうがいいかも」

「どういうこと?」

「一言でいえばハロウィンの準備があるならそっちを優先してくれればいいかなって」

 ヒカリの口調はごくありふれたものだった。勘の良いサリーは訳ありのようだと気がつく、

「それってあなた達、私たちにかかわってほしくないってこと?」

「まぁ、そういうこと」

 魔女が人差し指を口に寄せて片目をつぶる。

「と、いうわけなので、元気いっぱいのヒカリさんがクラウドくらい一人で助けてあげますよ~!」

 軽く柔軟体操をしたヒカリがランタンの板に飛び乗り移動する。

「あれ? うずまき峠になってる」

 昨日まではとんがり峠だった場所で首をかしげるヒカリ。

「いつもはうずまきなのよ」

「サリー?」

「ジャックを呼べないのなら私もヒカリと一緒に行くわ、一人じゃ放っておけないもの」

「ありがとう」

「あ、それとも迷惑なら私の一部だけ持って行ってくれれば助けを呼べるから……」

「い、いいです! ちゃんと全部来てくれて大丈夫です!」

 腕を片方引きちぎろうとしていたサリーを慌てて止めるヒカリ。

「確かここにスイッチがあって……」

 サリーがうずまき峠の近くの墓標を探ると静かにうずまきが延びてとんがり峠に変わった。

「おおっ!」

 ヒカリが驚くとサリーは少し恥ずかしそうだった。どうやらほめられ慣れていないらしい。

「いくわよ、私も行って、いい、のよね?」

「うん!」

 サリーのあまりに頼りない聞き返しに、あなたは正しいと元気づけるようにこれ以上ないほど頭を縦に揺らしてヒカリがうなずいた。

 

 

 つり橋を渡るといびつな形をした大きなツリーハウスが満月を背にそびえ立っていた。

 飛行するハートレスが邪魔をしてくるとヒカリはバーストの魔法で落としていった。

 サリーは戦闘に参加しようとするがあまりのヒカリの強さにほぼ会話だけの参加だ。

「ヒカリの魔法って私たちの使うものと違ってなにか不思議ね?」

「そうなの?」

 ヒカリが後ろのサリーに振り替える。ちょうどサリーの背後にやってきたグライダーをバーストの簡易魔法ショットで打ち落とした。

「私たちの魔法は近くの場所に集うの。その見えない力を借りて使っているのだけど、あなたはどこかの次元の別の力を使っているようね」

「へぇ、そういえばクラウドの魔法も見たんだよね?」

「あの人の魔法はどちらかと言えば私たちのと似ているわ。たぶん、専用のアイテムから魔法を取り出しているようね」

「へぇ……」

 ヒカリは会話に参加しつつバリアを張り炎の魔法を繰り出した。下から赤い魔法陣が浮き上がり複数のハートレスが消えた。

「ヒカリの、このバリアは特に変わっているわね、外の炎の魔法の熱気が伝わってこない……まるで別の空間とつながっているみたい」

「ふむふむ……」

 サリーの言葉が非常に興味深い。

 何か新しい魔法のきっかけになりそうな言葉であふれている。

 そうこう言っているうちに最上階の小鬼たちの部屋までやってきた。

 扉を開けると部屋には小鬼たちが居なかった。

「どこ行ったのかしら?」

「ヒカリ、あのレバーを聞くとブギーの部屋に行けるわ」

「詳しいね……サリー」

「何かあった時のために覚えているだけよ」

 それはそれで少し恐ろしいほどの情報網だ。

 しかしながら今のヒカリにとってはありがたい。

 引き返す際、ハートレスはヒカリのおかげで全て撃退されていた。一度吊り橋まで戻ってあたりを見回すと緑の扉を見つけた。

「ここね」

 緑のドアをぶち明けるヒカリ!

「たのも~~!」

 ヒカリがドアを開け一言、口走った。

 

 部屋の内部を見渡す。

 丸いルーレットのような部屋。その中にクラウドがいた。刃物がぐるぐる回っているので見ていて入るタイミングが見つからない。

 サリーはヒカリを見る。あまりの光景に体が固まっているようだ。

「ヒカリ! 魔法で援護をしたら……」

「ん? あ、クラウドならあれくらい大丈夫だよ、それよりも……」

「?」

 ヒカリはしばらくクラウドを眺めている。

 サリーはヒカリ同様、彼をよく見てみる。

 クラウドは一つ一つの攻撃に完全に対処している。どうやら無傷だった。その代わり、気になることが一つ。

 

 彼は今『釘のついたバット』をふるっている。

 

「クラウド! なんといいますか……この光景」

 サリーに持ってくれているバスターソードを渡すタイミンがないくらい、目の前のクラウドは――その、なんと言うか……いろんな意味を持たせた結果。一周回って――。

「なんか、しっくりくる!」

 ヒカリの心の声は最後だけ思わず口走っていてサリーにちゃんと聞こえた。

「ヒカリ! お前はそにいたほうがいい!」

 クラウドがヒカリをやっと確認して第一声がそれだった。回転するのこぎりを釘バットで受けると火花が散った。

 その火花がなんだかとても……。

 はっと、ヒカリは我に返る。

「そ、そんな~せっかく来たのに~」

「アイツはお前と相性が悪い」

「あいつって?」

「それぇー!」

 三人の声とともにヒカリが後ろから突き落とされた。小鬼たちが扉の後ろに隠れていたようだ。

 クラウドの横に落ちてきたヒカリは釘バット装備のクラウドに聞き返す。

「何それ‼ すっごいもの持ってる!」

 いい意味か悪い意味かは置いておいて、今の彼女には一番の謎がそれだった。

「この部屋にあったものを拝借した」

「そ、そうなんだ~」

 苦笑いのヒカリを見るクラウドは恥ずかしいような、それでもなにかしっくりくるようないろいろ変な気分になって思わず視線をそらした。

 そうこうしている間も回転する刃物がヒカリとクラウドを襲う!

 動きが一定なので回避するのは容易だ。それより気になるのは上から降ってくるサイコロだ。

「あれ、打ち返せばいいのよね?」

「そうだな」

 ヒカリの質問にクラウドは最低限の返答をする。

 まだ恥ずかしいのかな? と、思っているヒカリにクラウドは最後のサイコロを標的に打ち返し改めてヒカリに向き直った。

「いいか、ヒカリ。気をしっかり持って目の前の敵に挑め」

「ん?」

 まだわからない顔のヒカリにクラウドはルーレットの一室のボタンを踏んだ。

 突き落とされた部屋がせり上がる。

 するとその上には――。

 ヒカリの見覚えがある、モノが現れた。

 

 虫袋。

 

「~~~っ⁉」

 声のならない悲鳴を必死に押し殺す。

「フフフ、やっと会えたな~カブカボチャ魔女!」

「……」

 せっかくの恐ろしい登場シーンを何パターンか考えたブギーだったが、今の状況が状況なのでとりあえず名乗る。

「俺様の名はブギー! どうだ?恐れおののいたか!」

 

「……」

「……え?」

 

 全く反応がなくなったヒカリにブギーはクラウドと小鬼、さらにはサリーに目配せする。

「お、オイ! 俺様と初めて会った時はそれはもう耳障りな声を聴いたはずだよな?」

 思わず隣のクラウドに聞き返す。

 クラウドも思わずこくりとうなずく。

 今のヒカリは冷めた目でブギーを見つめるだけ。

 しかも無言で無表情ときたものだ。

 しばらくするとせり上がったルーレットの床がもとの場所に戻る。

 ヒカリもクラウドもブギーでさえもその間攻撃の意思が全くなかった。

「な、なんだかわからんが!」

 ブギーはサイコロをふるった。

「1だ! 回転のこぎ……り?」

 回転のこぎりがブギーめがけて飛んできた!

 ブギーの体が切り裂かれ、虫が飛び出す。

 そのあと目の前でバリアに包まれる回転のこぎりが見えると、のこぎりが輝きヒカリに変わった。

「バリアチェンジ!」

 自分ともう一つのバリアの空間を転移させる魔法だ。そして目の前に現れたヒカリは更に呪文を吐き出すように唱えた。

 

「闇の炎に抱かれて消えろ、ダークファイガ‼」

「ギャァーーー‼」

 

 後にブギーはこう思うであろう。

 出会って数分のはかない対面だったと――。

 しかも聞きたかったのは彼女の悲鳴だったのだが、その望みは――逆の運命をたどったと。

 

「その……さっきの間は、気絶ではないんだな」

 クラウドが恐る恐るヒカリに声をかける。

「嫌いなものを排除しただけです」

 ヒカリの声は抑揚がまるでなかった。いつもの声色と違いクラウドは何を話せばいいのか押し黙る。

 なんだか口数が少なすぎて、いつものヒカリとまるで違っているので、それが恐ろしく怖い。

「そうだ、金のメダルはここには無いようだ」

 思いついた言葉がそれだった。

「そうね」

 ヒカリはそれだけ言ってブギーの館を出た。

 

 

「さっきのはすごい魔法ね! ヒカリ」

 館を出るとサリーがヒカリの魔法の総評をする。

「最後のあの言葉、何だかゾクゾクしたわ!」

「最後のことば?」

 ヒカリはきょとんとしている。

「素敵な呪文だったわ! あのブギーの身震いするほどの叫び声も聞けて」

「私が最後に出したのはバリアチェンジのはず?」

「そのあとのことだけど?」

「闇の炎に抱かれて消えろ、ダークファイガ、だ」

 クラウドが一部始終ヒカリの隣で聞いていたので一字一句間違えずに復唱する。

「そ、そうね」

 ヒカリは言い聞かせるように何度かうなずく。

 どこか表情が浮かない。

「なんだか今のヒカリは少し疲れているのよね? これを受け取って」

 サリーはヒカリにワスレナグサを渡した。

「ここでは『記憶』というアイテムなの。あなたの好きなように使って」

「ありがとう」

「いいえ、私は何もできなかったから……これぐらいよ」

「ううん、サリーといたから、いろいろ勉強になった気がする」

「そう、ならお互いよかったわ」

 サリーとヒカリはにっこりと笑った。

 二人の友情が芽生えた横で、クラウドは思わず持ってきた釘バットを眺め……。

 そこらへんに放り投げようとしたが、思いとどまってしまい込んだ。

 

 

「これでおしまいだと思うなよ~」

 ブギーの館では黒焦げになった袋を脱ぎ捨て新しい袋に替えたブギーが悔しそうに唸っていた。

「親分元気出して! ハートレスを操る研究を博士がしているらしいよ!」

「今度はハートレスを操ってみたらどうかな?」

「俺たちジャックのところで見に行ってくる」

 

 ソラ達が来るのは、それから少しあとのお話。

 

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