King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
マフを送って行った次の日。
二番街のホテルに泊まったヒカリとクラウドは三番街へ向かっていた。
「部屋にいるハートレス片づけたら宿泊タダってなんか得したというより、いいように使われたって気がしない?」
「店主は身の危険があるから、うかつには手が出せなかったんだろう」
不満そうなヒカリにクラウドはもっともなことを言う。
「そっか、言われてみれば適材適所ってやつね。でも天蓋付きの真っ赤な部屋は落ち着かなかったわ」
「言ってくれれば隣の部屋でもよかったが」
「クラウドは天蓋付きの部屋がよかったの?」
「からかうな、そう言ったわけではない」
どうやらクラウドはヒカリがいつも面白半分で聞き返してくることに慣れてきたようだ。
「ふふっ言ってくれればよかったのに~」
いたずらな笑みで微笑む少女にクラウドはどれが彼女の本音なのかわからなくなってくる。
「どうしたら、ヒカリの質問にあのミッキーは答えてきたのか気になってきたんだが」
「ミッキーだったら、そうね~女の子には一番いい部屋に泊まってもらわないと。って言うわね」
「それはただのヒカリの妄想じゃないのか?」
「いやいや、絶対そう言う人です!」
歩きながらヒカリはロックセプターにリンゴのロケットをはめ込み空へ向かって放り投げると男装ミッキーへ変身した。
「女の子には優しくしないと僕は王妃に顔向けできないからね!」
とびきりのスマイルで目の前の彼に大げさに言い出すもんだからクラウドは吹き出して笑った。
「いつもそんな感じでヒカリはコロシアムに出ていたのか?」
「ち、ちがうよ! 僕と一緒にいた、いつもの彼を真似てみただけ。王妃様のこと考えてる時だけ、彼はいつもこういう感じなんだ」
さも他人だと言い張る男装ヒカリ。
「きっと、怒られるぞ?」
「彼を見くびっているね? もしも、そんな時があったら爽やかにこう言うんだ」
そう言ってクラウドの前に来ると、まっすぐに見つめ不敵な笑みでこう言った。
「君が僕のことをそんな風に見ているんだったら、僕のほうがきっと、もっといい笑顔を見せているよ?」
明らかに殺し文句だ。
にっこりと笑い見つめるミッキー。
困惑した顔のクラウド。
両者、数秒の沈黙。
耐えられなくなったのは変身を解除したヒカリのほうだった。そこでクラウドはいままで自分が息を止めていたのを思い出した。
「愛情が底なしだな」
「ミッキーのレディーファースト主義には、ほんと敵わないんだから!」
もうまいったと腕を組んで首を振るヒカリ。
「よく今まで一緒に過ごしていたな」
「今考えてみたらホントそう思うわ、彼を模範にしていたらコロシアムでは王子様って言われるわけだわ。かわいい女の子なら寄ってくるわ」
「実際、模範にしているのは王様だけどな」
「それ、私も心の中でずっと思ってた!」
誰かと共感出来てうれしくなったヒカリだった。
この時クラウドはヒカリの言う『かわいい女の子』の中にヒカリ自身が入らないのかと思ったのだが、あえて言うことを諦めた。
「ところで、ヒカリの相棒のほうのミッキーは王様なのか」
「聞いただけなんだけど、そうっぽいよ?」
「俺も王様という肩書の知人は居ないから比較も何もできない」
「私もそれは同感~」
そんな他愛もない会話と道端に遭遇するハートレスを見つけては雨露を払うがごとく倒していく二人は一番街の水路をくぐる。そこにはレオンとユフィが居た。
「こんにちわユフィ」
軽くヒカリが手を挙げる。
「よっす! ヒカリ」
楽しそうに飛び上がりその手を合わせた。
(パァン!)
軽快なハイタッチの音が水路に響き渡る。
と、思うと―—。
(ガチリ☆)
手裏剣とロックセプターが交差していた。いわゆる武器と武器がせめぎあって、どちらも硬直状態でいる。
「あらヒカリさん? 魔法でも使えばよかったのに?」
「あらあらユフィさん? ここで使うと水路の古そうな壁画が壊れそうなの!」
「まったく、二人とも。いつも出合い頭に何をやっているんだ……」
レオンが二人の光景を眺め、悩まし気に頭を押さえていた。
レオンの様子から察するに、ここまでがいつものお決りの日常なんだとクラウドは理解した。
☆
「ん? 私とレオンの得意分野?」
たんこぶをさするユフィがヒカリに聞き返す。
「そうそう、エアリスにこの間、魔法教えてもらったんだけど、二人も何か情報ないかなって」
ユフィにケアルラを唱えるヒカリ。
さかのぼること数分前。
デコイの魔法で近づいたもう一人のヒカリに不意打ちされ決着がついたのだった。
「また、変な、魔法、覚えて……」
そう言ってユフィが倒れたのだ。
「レオンは昔の文献とか調べてるよね? キーブレードの事とかアンセムレポートとか聞き込みしてるよ」
ユフィがレオンを指さす。
「ユフィは俺の知らない武器を集めているな、あとはアクセサリーも収集している」
レオンがユフィを眺める。
「みんなこの街でいろいろ活動してるんだね」
ヒカリが改めて感心する。
「それはもちろん来るべき日のためだな」
「戦闘準備は整えておかないとね!」
得意げな表情の二人にヒカリはうんうんと無言でうなずく。
クラウドはその間。
ユフィとヒカリの戦闘開始から全く会話には参加せず離れた所で素振りをしていた。
☆
ヒカリとクラウドはマーリンの館を訪れた。
「レオンと一緒に素振りしててよかったのに」
「ここに来るのは初めてだ、訪れてみたいだけだ」
「魔法の修行だよ? 時間かかるかもよ」
「俺がここにいるとまずいのか?」
「そんなことないけど……」
入り口で二人と立ち話をするヒカリは当初の目的の場所である目の前の階段へ行くのをためらうばかりだった。
それを見かねてクラウドが無言で先に館に入ったのだった。レオンとユフィに話をしていたのもきっと中に入りたくなかったためだろう。
そんなに恐ろしい師匠なのかと少しばかり期待していたクラウドだったが、階段を上がると水色の頭巾の初老の女性が出迎えた。
「あなたがクラウドねコロシアムでは結構かっこよかったわよ~」
「は、はぁ……」
「フェアリーゴッドマザー!」
ヒカリの顔が明るくなった。
「ヒカリ! あなたもすごーく活躍していたわね!最後はほんとハラハラして見ていたわ!」
「どうやって見ていたの? シドが映像撮ってたって言ってたけど、それで?」
「あら、魔法使いはいろんな所からうわさを聞くのよ、みんなお見通しですよ?」
どうやらトラヴァースタウンと魔法使い界隈ではコロシアムの話がトレンドのようだ。
ここまで来るのなら、もしかしたらハデス共々、ヴィランズ界隈でも名の知れたことだろう。
クラウドは改めて緊張が走る。
それはフェアリーゴッドマザーの後ろからの力を感知したのもあった。
「久しぶりだな、ヒカリ」
「ま、マーリン様……!」
クラウドは声の主を探した。フェアリーゴッドマザーの横から水色のローブの長い口髭の魔法使いが現れた。
「元気そうで何よりだ、あちこち暴れているようじゃがな」
「お、おかげさまで」
一見、おどけたような口ぶりで温厚そうだった。しかし次の言葉でヒカリの顔が青くなる。
「ここに来たということは最終試験を受ける決心がついたのだろう?」
「うっ……はい」
その時のヒカリの顔は注射を怖がる子供のようなあまりにも泣きそうな顔をしていたのでクラウドは思わずかわいそうに見えた。
☆
魔法のレッスンの部屋。
何度も入っている空間なのに、今日はとても新鮮な気分だった。
それもそのはず。
だって、今の私は――。
私じゃない。
☆
目を開けるとマーリンに質問されていた。
「ヒカリ、どうじゃった?」
まるで夢から醒めたようにぼんやりと目覚めるヒカリ。
普通に指を動かせるのに、
まだ体の感覚があいまいだ。
まだボーっとする。
「さて、さっき壊した家財道具はなんだったかわかるかね?」
率直に言うと今の私はわからないと答える。
けれどこれは確実にこう答えるべきだ。
「無かった」
「ほう?」
マーリンがしらばっくれるように首をかしげる。
ヒカリは嘘八百のように早口であろうこともない出来事を話し始めた。
「シャドウが湧いて出てきてマーリン様は全て消した。そのあとマーリン様に向かって魔法を放った。そしてリフレクで帰ってきて自力で跳ね除けた。そんなところかしら?」
確固たる自信をもって腕を組んで仁王立ちするヒカリ。
これはまったくの嘘だ。
私がやったことじゃない。
そう自信を持って言える。
そんなウソをつらつらと言い出すヒカリにマーリンはじっと彼女を見つめ――しばらくしてこう言ったのだ。
「合格だ」
「う、うそ……?」
信じられないような顔のヒカリ。
だって、私が言ったのは――。
全部、私が見た『夢』だったんだから。
しかし、それは夢ではなかったようなのだ。
『私の中』の『私』が、私を動かしていた?
☆
話は修了試験の内容からさかのぼる。
ヒカリが今まで覚えた魔法をマーリンに報告すると最後の試験を告げられた。
「自分のもう一人の人格をマーリン様へ合わせること。そして自力で戻ること」
ヒカリは自分で言い聞かせる。
「無意識ではなく、ちゃんと自分の体の記憶を覚えていること」
唱えるように言い聞かせる。
「心配するな。魔法の部屋ではすべての魔法の事柄は外にはなにも影響は出ないからな」
マーリンはそう付け加えた。たとえどんな恐ろしい魔法を放っても問題はないということらしい。
お墨付きをもらったはいいものの。さて、どうやってもう一人の自分に変わればいいのか。
ヒカリは魔法のレッスンルームで数秒考えマーリンを見つめた。
そしてそこで記憶が途絶えた。
☆
意識が戻ると寝起きのような倦怠感の最悪な状態で目覚めた、というところ。そして、さっきまでマーリンに言った事柄をヒカリはさっき見ていた夢のように覚えているのだった。
(これってきっとこの前覚えたメモリーの魔法のおかげだよね?)
ぼんやりとした記憶は時間がたつと忘れそうなほどあいまいになってくる。それでもこの魔法は私にとってとても重要な記憶をつなぎ留めるものなのだろう。
「もう一回言ってやろう。合格だ! はっはっはっ姿が変わらない分驚いた! まるでマレフィセントのような魔法だったよ」
マレフィセントと聞いてやっと頭がさえてきたヒカリは師匠を見てがっくりと肩を落とす。
「それって褒め言葉?」
「一つのワールドを占拠した魔女だハートレスも率いている。力ならヒカリと互角かもしれないな」
「お褒めに預かり光栄です。と別の私は言うかもしれないわね」
もはやさっきの記憶の半分は覚えてないがそう言いだすと思う。
「しかし経験からすれば魔女の方が上手だ。精進しなさい」
「たぶん、聞いていると思います」
気を取り直してそう言ってみる。実際話したこともない自分の何が分かるのか曖昧だけど。
「ではこれで、最終試験は終了だ。もう私から教えることはなにもない」
「教わったことは――今思い返してもあまりないような気がしますが?」
口をとがらせるヒカリ。
マーリンはツンと澄ましている。
「魔法を日々練習し、続けること。あとはそれぐらいだな」
「はい、精進します」
そんな感じで、あっけなくマーリン師匠との魔法の修行の日々はめでたく修了の過程となった。
「最終試験って本当にこれでよかったんですか?」
腑に落ちないヒカリにマーリンは他人事のようにこういったのだ。
「これからのレッスンは『マーリン』が決めることではない。『ヒカリ』がこれから決めていくだけのことじゃ」
その言葉は『なにかが終わった』というより『これから頑張れ』と言っているようだ。
『これで終わり』という過程ではなく、『すぐそこの別の始まり』がきているという時のサイクル。
これからは師匠が導くのではない。私が歩むのだ。マーリンはヒカリの心にそう言っているように思えた。
「あ、でも私。いちおう教わった身ですから、ずっとマーリン様って呼びますからね!」
「かまわんよ。ヒカリ」
ヒカリに向かってウインクする師匠は師匠という存在から一人の魔法使いの同志と呼べるような立場に見えた。
マーリンは付け加えるように一階へ降りる際にヒカリにこう言った。
「さっきのヒカリはこの魔法の名称はメモリーオブライフ『生命の記憶』と言っておったぞ」
「な、何その、かっこいい名称⁉」
ますます実際話したこのない自分に会いたくなるヒカリであった。