King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
~キーティンク~
ヒカリはあまりに気になって自分の背中を何度か眺めていた。
自分の背中なので全貌はよく見えない。
それでも気になってしょうがない。
自分の身に着けている。
いいや、身体についているモノ。
それは、薄く透明に見えるくらい繊細な妖精の羽だ。
その羽は絶えず震えるたびに体の周りから金色の粉がふりまかれる。
体は軽く、ちょっとの風にでも吹き飛ばされそうになるぐらい。それでも背中をはばたかせると一気に自由に飛び回ることができる。
今潜伏している海賊船の中はハートレスがはびこっているが、妖精の反応速度が速いせいか全く気がついていなかった。
妖精ってすごい!
潜入捜査にうってつけじゃない!
海賊船の船内の天井付近や灯りの周りを飛び回れば見た目が明るいヒカリでさえ海賊達は小さな妖精は早すぎて羽虫と見間違うようだ。
ヒカリは船内の全ての間取りを把握した後、豪華な扉を見つけて飛び込んだ。
海賊船の船長室にはハートレスは来ない。
ここの主、左手が鉤爪のフック船長は外で威勢の良い声がするのでしばらくはここへ来ないだろう。
ヒカリは船長室の鏡に写る自分をくるりと旋回しながら眺めた。
黄色とオレンジ色のグラデーションの花びらから作られた衣装。いつも胸元のジッパーについているハートのチャームを腰あたりに身に着けている。
なぜかそれだけ人の時と変わらないサイズなので結構大きい。
「ねぇクラウド! ちょっとは姿を見せてってば」
きらきら輝く光の妖精のヒカリがどこかにいるであろうクラウドを呼ぶ。
「ヒカリは目立つから問題ない」
そう言ってヒカリの目の前に姿を見せたのは闇の妖精姿のクラウドだった。
黒い花びらが器用に編み込まれた燕尾服と緑色のベルトがとても鮮やかなアクセントで映えている。
漆黒の羽は明るい部屋では目立つのだが、彼の特性なのか明るい場所でも姿を消すことができるみたいだ。
「こんなに目立つ私でさえ、だれも気がつかないんだけどね~」
ヒカリも普通の人が見たとしても光の玉にしか見えないだろう。
そこにずっと静止していなければ見ることができない存在。それが妖精。
船長室を抜けるまではそう思っていた。
別の部屋に入ると同時に声をかけられた。
「あなたは、ティンカーベルのお友達?」
そう、普通では見ることができない妖精に声をかけてきた人物がいたのだった!
思わずびっくりするヒカリとクラウド。
振り返ると知らない女の子だった。
しかも自分たちよりも大きいのでいきなり目の前に現れたのでさらに驚く。
現れたというよりは船内はハートレス以外人がいないと思っていただけなのだが。
「わぁっ! びっくりした」
叫ぶヒカリに女の子は、
「あなた鍵束を落としたような音ね、ティンカー・キーってところかしら?」
妖精の言葉は人には聞き取れないらしい。
「なんでこんな海賊船に女の子がいるんだろう?」
「面倒だ俺は別のところを捜索してくる」
「え、ちょっとクラウド!」
ヒカリが反論を言う前にクラウドはすぐに消えてしまった。
「あれ? 今度は金属がこすれたような音がしたわ? もう一人いるの?」
女の子があたりを見渡すが見つけられなかった
もうこの部屋には一匹と一人しかいない。
「まぁいいわ、ここに閉じ込められていたから誰か来てくれてほっとした」
「閉じ込められていたのか、気がつかなかったわ」
今のヒカリはいろんな部屋の隙間から入れるから特に気にしていなかった。
「そんなに羽ばたいて疲れないの? おいで」
そう言って女の子は手を差し伸べる。降りてきて欲しいみたいだ。
飛ぶのが苦ではないがヒカリは女の子の手に降り立った。女の子はこれが嬉しかったのか驚いて頬を赤くした。
「わぁ! ティンクは絶対触らせてくれなかったのに、あなたってほんといい子なのね!」
「妖精って触らせてくれないものなのかしら? まぁ、わたしはちゃんとした妖精じゃないけどね」
喋ってもきっと聞こえない。
女の子は首をかしげる。
「うーん、後でピーターパンに名前を聞いてもらうとして、今はあなたのことキーティンクと呼ぼうかな」
「私はヒカリ……って言ってもわからないよね」
ヒカリが喋ってもきっとチャリチャリとかカチャカチャとしか聞こえないだろう。
意思疎通のできない相手とはどうやってコミュニケーションすればいいのだろうか。
まずは初めましては挨拶からだろう。ヒカリは花びらのスカートをつまんでぺこりとお辞儀をした。
「挨拶してくれたわ! 私はウェンディよキーティンク」
どうやら言葉の壁はさして気にしなくてよさそうだった。
「あなたとティンカーベルはお友達なの?」
ウェンディの質問にヒカリは首を振ってみるが小さいので仕草が分からないようだ。
「どうしよう、せめてYESとNOの振付ができれば……そうだ!」
ヒカリは魔法を使った。
妖精の時はロックセプターもバスターソードも持てない。だから妖精特有の魔法を使う。
ヒカリは光の妖精なのできらきらした輝くものを操ることができるようだ。
ヒカリはウェンディの目の前をスィーと飛び回った。
きらきらと舞う妖精の粉。ヒカリが右手を上げると金色の粉が集まりバツの形。左手を上げるとマルの形を輝かせた。
「これで答えるわけね。ええと初めはわかる質問よね、私はウェンディです」
ヒカリはマルと答える。
「〇がYESね。じゃぁあなたはティンカーベルのお友達?」
ヒカリはバツの光を輝かせた。
「あらら、そうだったの。ごめんなさい。私ったらあなたが知らない妖精のこと言ってたのね」
そもそも妖精を知っている少女と出会うのもこっちは知らなかった。
「あ、噂をすれば、来てくれたようだわ」
ウェンディが天井をながめている。
するとヒカリとは違った明るい黄色がかった輝きが目の前に現れた。
輝きが制止するとそれが妖精だとわかる。
「いた、ウェンディ! と……あなたは見かけない妖精ね」
金髪に緑の衣装の妖精が現れた。
「わぁ~妖精だ!」
本物の妖精が現れてヒカリは感動する。
いや、自分も今は妖精だけど。
「紹介するわキーティンク。この子が私の知ってる妖精のティンカーベルよ」
ウェンディが得意げにヒカリを紹介する。
「な、何? なんでウェンディなんかに私の知らない妖精を紹介されるわけ?」
ティンクがヒカリを見て驚愕する。
「ええと、ここらへんは初めてきた土地なんで……いや、ここ今は船か」
ヒカリが色々試行錯誤して説明してみるがウェンディには会話は聞こえない。
「見てティンク! この子すごい大人しいのよ。それに挨拶もできて、とってもお行儀がいいみたい」
ウェンディにそう言われヒカリは今度はティンクにさっきのお辞儀をする。
「こんな船でウェンディといるなんて、フック船長に捕まったようね、あなたマヌケな妖精? それにあなたキーティンクって言うの? なんか名前似てるんですけど!」
見た目はとっても可愛い妖精のティンカーベル。
しかし、その妖精はヒカリに向かってお化けでも見るような何か毛嫌いするような顔で言うのでヒカリはショックを受ける。
どうやら妖精ティンクはこの女の子、ウェンディのことを嫌っているようだ。
ウェンディはその逆なようだけど。
「ピーターはこの子知っているのかしら?」
「ピーターはこんな妖精知らないわよ!」
「二人とも落ち着いてしゃべってくれないかなぁ」
「ティンクとキーティンクの声ってホント素敵な響きよね」
「そんなこと言われたって仲良くならないから。それにしても何、そのキー……?」
「私にはちゃんと名前が……」
「二人とも、もう少し小さな声でしゃべらないと見つかっちゃうわよ?」
「そもそも、あなたが捕まったんだから、私とピーターパンはわざわざここまで来たんですけどね!」
「なんか……もうややこしいから私の名前はキーティンクでいいよ」
こんなことでは話が始まるどころか進まない。
それよりも今は割り込みようがないほど意見を言いまくる、かわいらしい『本物の妖精』に変な目で見られたことにヒカリは深く傷ついた。
ふと部屋の近くで足音が聞こえた。
「誰か来るわティンク、キーティンク隠れて!」
ウェンディの手に乗っていたヒカリはドアの真上に飛び上がる。ティンクも同じ位置に移動した。
ウェンディは何食わぬ顔で扉の人物を見た。その人物は誰かを抱きかかえていた。
「すまない。この子を見ていてくれないか。俺の大切な人なんだ」
「……かまわないわ」
ウェンディは了承すると声の主は立ち去り、すぐに扉が閉められ鍵がかかった音がした。
「キーティンク?」
声をかけたウェンディよりも先にヒカリはぐったりしている女の子へ近づくと。
その顔を見て驚いた。
「……カイリ⁉」
ということはさっきの人物って、
リク。