King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「ここは……まだ船の中か⁉」
リクは闇の回廊の扉を開いたはずだったが海賊船の甲板のマスト付近だった。
あんなにせわしなくピーターパンを探していたフック船長や海賊やハートレスの姿がない。
リクが見上げると上の階に立つ人影が一つ。
そこにいるのは――。
船長室の扉の横にいるヒカリ。
「ラビリンスゲート。迷宮への入り口と言ったところかしら」
「おまえの仕業か⁉」
さきほどの先手はリクではなく彼女の魔法だ。
「あの扉を真似てみただけよ」
「なんだ、俺の開けた扉の前におまえの作った扉を開けたってところだな」
「ご名答」
「ずいぶんと闇の力に詳しいんだな」
「そうね」
涼しい顔で答える姿に妙な違和感を覚えた。
さっきから彼女の声は抑揚がない。
前出会った時はもっと威張り散らすような雰囲気だった気がする。今の彼女はさっきの自分の行いに怒っているのだろうか?
ソラの影に攻撃を命じたこと?
カイリをソラに近づけさせなかったこと?
俺がこの力を使っていること?
それとも――俺がおまえのこと、知らないって言ったからなのか?
「俺を引き留めたってことはなにか話がしたいんだろ?」
ヒカリを見上げるリク。
ヒカリは少し沈黙し、やがて口を開いた。
「あなたは、闇の力についてどう思っているの?」
「誰かを守るためには力が必要だ。それがなんの力だってかまわない」
「そう、ならば私から忠告しておくことがある」
「忠告? おまえが?」
「やみの――」
「これ以上はおまえの出る幕じゃないよ」
リクの目の前に突如として現れたのは魔女マレフィセントだった。
「マレフィセント……?」
「眩しいのがウロチョロしていると見ていた……ら、この子だったの……かい!」
魔女が言葉を切らしたのは目の前からヒカリが現れ攻撃したのだった。
一瞬で闇の扉を開き魔女の正面から飛び込んで杖を振り上げる。
マレフィセントは羽虫を叩くように片手を振るとヒカリの背後へ瞬間移動した。
ヒカリは大きく空振りした杖を後ろへ振り上げた。またしても魔女には当たらない。
ヒカリは闇の扉を自身の真下へ出現させそのまま落下、魔女の真上へ飛び降り杖を振りかざす!
魔女は黒いカラスに変身して逃れ船長室の扉の前へ移動した――が、移動はヒカリの方が早かった。船長室の扉から闇の扉が現れる!
「逃さないわ」
「フン、逃げたわけではないよ!」
次の行動を読んでいるようにぴったりと魔女の後退する座標に向かって飛び込んでくる彼女にリクはただ、驚いている。
(おまえは、闇の力も使いこなすのか!)
攻撃の俊敏さが見ているだけでわかる。しかも、マレフィセントの魔法とほぼ互角に渡り合っているのだ。
回避ができないと観念した魔女は自分の杖を彼女の杖に打ち付け真上から緑色の雷を放った。
彼女は盾の魔法を使い防御したが弾き飛ばされ後ろへ飛び退る。
身軽に体制を立て直し低い姿勢で魔女を見上げる姿は人ではなくハートレスのように見えた。
顔を上げた彼女の目が大きく見開かれ、雷の輝きを反射して鋭く輝く。
彼女が叫んだ。
「やはり……おまえが、私の――を奪った者!」
リクはヒカリが何か喋っているのが聞こえたが雷の攻撃にさえぎられて聞こえなかった。
「すべての光を飲み込め! ダークネスバースト」
さっきまでの攻撃は戯れだったのだろうか、攻撃の合間にさらに魔法が追加された。杖から放たれるゆっくりとした黒い球を魔女へと打ち出すとマレフィセントは舌打ちをした。
船のマストに黒い玉が当たったところを見ると綺麗に丸い穴ができた。
彼女の繰り出す『ダークネスバースト』という魔法は触れたら危険なようだ。
「リク、少し下がっていなさい。あの魔法に触れないよう」
リクは驚いた。マレフィセントが自分に下がれと言うことは初めてだ。
いつもハートレスを差し向けて高みの見物をしているだけの魔女が今はそれをしない。いいや、同じ闇の力を使うヒカリだからこそできないのだろう。
今の彼女にハートレスは相性が良すぎて逆に攻撃手段として使われる可能性があると考える。
いつも余裕がある魔女が誰かの攻撃をすべて回避しているだけの状況は見ていて妙だった。
(アイツはいったい何者なんだ?)
リクはヒカリとの距離を気にしつつ悔しそうにジリジリと船首の方へ退く。
後ろを見せて視界をそらすだけで相手が襲ってきそうなほどの気迫を覚えた。
(なんだよ、コイツはマレフィセントと互角に渡り合っているなんて)
彼女はどれほどの戦いを乗り越えてきたのだろうか。
力の差にカイリを抱く手に力が入った
「この小娘は私の力を思い知りたいようだね」
マレフィセントの声はいつも通りだったがこの状況はお気に召さないようだ。
「その言葉、返すわ。私の力を思い知るといいわ」
ヒカリが腕を組みながら魔女に薄く微笑むと黒い自分の影を二つに分けて実体化させる。
やはり、あれはハートレスだ。
俺はソラの影を借りたハートレスを作ったが闇の力が少なくて初めは失敗だった。
それを、能力は違えどさっきまで俺が使っていた力を使い。すでに二体も実体化させている。
「影の女騎士、シャドウガール。私の盾となれ!」
主人を守るように現れた二体の影は攻撃はせずマレフィセントの雷を吸収し、攻撃に転じる。
あんな風に魔法の力を使うハートレスは、俺はまだ使えない。
影なので障害物があればどこからでも出現し、影が雷の魔法をお返しするとそれが攻撃と囮の両方の戦術となる。
さらに魔法のカウンターの合間に本物のヒカリがマレフィセントの背後に現れた。
「とらえた!」
青白い眼光を輝かせヒカリが下の体制から杖を振り上げる!
「ふん」
攻撃が触れる瞬間。
マレフィセントの姿が霧のように霧散する!
直後、大量の青白い雷が彼女の真下へ集中投下された。
大量のフラッシュのような光景で少し遠くにいるリクでも目がくらむ。
おかしくなりそうな目を瞬かせると撃たれたはずの彼女がその渦中から飛び出した。
二体の影が本体の頭上へ覆いかぶさり盾となって守っていたのだ。
「こざかしい小娘め!」
渾身の一撃が不発に終わり、マレフィセントが叫んでいる。
あの魔法を放った後だ。マレフィセントの戦況が良くないのは見てわかる。
(これは、俺はここで眺めているだけでいいのか?)
焦りが見え隠れするリクはこの後の彼女と魔女の動きに息を飲んで見ているだけしかできなかった。
三人のヒカリは黒い魔法の球体ダークネスバーストを同時に発現させていた。
力を溜めているように見えるが――なぜか、さっきまでの勢いのある攻撃がなく、しばらくそのままの体制で動きがない。
リクの所では聞こえないが何か魔女と話をしているようだった。
その内容に耳を傾けようとすると、リクの目の前にマレフィセントが突如現れた。
リクはさらに訳が分からなくなる。
「俺はなにをしたらいい?」
「もうすぐ終わるさ、そのままでいなさい」
リクが焦って前方の魔女に問うとマレフィセントの声はいつも通りの余裕の見える表情だった。
ヒカリが空間を蹴って飛び上がる。
妖精だった時の金色の粉が空間に踏み台として出現し、階段を駆け上がるようにリクとマレフィセントの前へ降り立った。
「さあて、お前の答えを聞かせてちょうだい?」
リクを背に言い放つマレフィセントに、ヒカリはその瞬間――顔をゆがめた。
「くっ……!」
いきなり苦しそうに膝を折って地に足をつける。
何かと葛藤しているようだ。
「ちょっと、貴方は、まだ、でてきたら……捕まる、から!」
さっきまでの威勢のいい動きから息も絶え絶えに言葉を振り絞る彼女。
一体何と戦っているのだろうか。リクにはわからなかった。
そのあと彼女は荒い息から一転し、身体を横たえそのまま動かなくなった。彼女の使う杖が滑り落ちてカランと音がした。
これが消えていないので、心が抜き取られたわけではないようだ。
「まったく、この私がしょせん小娘ごときに油断するとでも思ったのかい」
マレフィセントはそう言って杖を振ると彼女は床から現れた闇にゆっくりと飲み込まれていった。
「マレフィセント、あいつは?」
「不服だけど私は何もしていないよ体力の消耗で気を失っただけさ」
「連れて行くのか?」
「この娘は船に潜入していたんだろう? どうにもうるさいから城の地下牢に招待してあげるよ。プリンセスは集まったからどのみちたどり着くだろうからね」
「カイリは元に戻るんだろうな?」
「もうすぐさ、カイリが目を覚ましたらもしかしたらその娘もきっとわかってくれるだろうね」
彼女の真っ赤なリボンが闇に浸る。
リクは赤と黒の色を眺め、なぜか胸の奥が痛んだ。
ちがう、痛みはない。
だけど、これは――この感情は?
「こいつは信用できない。ここに置いていこう」
複雑な表情のリクの言葉にマレフィセントは優しくささやく。
「お前が恐れることはない。これは危険な獣の鎖さ。私とお前に牙を向いたんだ。野放しにしてる方がよほどたちの悪い事になりそうだからね」
「今の俺は、あいつに勝てなかったと言うんだな」
うつむくリク。
腕の中のカイリは力なくリクに身を任せている。
ソラと別行動をして俺は何をしてきた?
プリンセスを集め、扉を開けるためだ。
俺はカイリを見つけたんだ。
でも見つけたカイリは心がなかった。
沈むヒカリを眺める。
こいつは俺になんで怒っていたんだ?
ソラをからかったからか?
カイリを連れて行くからなのか?
「このままの俺では、カイリを元に戻せないのか?」
ヒカリを見つめていたリクは思わず口が滑った。
マレフィセントはリクの肩に手を乗せて言った。
「リク、私は勘違いをしていたよ。こんなことになったのはおまえがすぐ闇に飲み込まれないよう、私がまだ力を与えていなかったからだよ」
「俺の力?」
「さぉ、城へ帰ろう。おまえにはもっと力を与えてあげる。より強力な闇を操れるように」
闇に沈んでいくヒカリを眺めるリクはさっきの彼女のような恐れのない決意を胸に秘めていた。
リクとマレフィセントは闇の扉を開けて消えた。
彼女が完全に闇の沼へ飲み込まれる直前。
頭の真っ赤なリボンから灰色の輝きが見えたのは、決意を新たにしたリクにとって、全く不自然に思わなかった。