King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
次の世界、言わずもがな、ホロウバスティオンの世界にやってきました。
Another19~Over The Wall~
夢を見ていた。
あまりに動きが早すぎて、ほとんど忘れている。
でも、これだけは忘れてはいけないと留めている。私はリクに言ったんだ。
「そう、ならば私から忠告しておくことがある」
「忠告? おまえが?」
「やみの探求者に気をつけて」
闇の探求者アンセム。
レオンから聞いた話を思い出した。
闇の力を操るもう一人の私は――アンセムを知っている?
それともう一つ。
「やはり……おまえが、私のお父様を奪った者!」
おとう、さま?
もう一人のわたし。あなたのお父様って誰?
☆
目が覚めると冷たくて硬い床に寝転がっていた。
重い頭を持ち上げて軽く振り乱す。
なんだ、思った以上に気分は悪くはない。
敗因はあまり覚えていないが、攻撃を受けたわけではなくただの体力切れのようだ。
「あ~~魔女の卑怯者!」
ヒカリはゴロゴロと体を丸めながら床に左右に転がる。
あのときマレフィセントはこう言った。
「リクとカイリが後ろにいるんだよ?私が一度姿を消したらお前のその魔法が2人に当たるかもしれないね?」
マレフィセントのこの言葉で夢うつつなヒカリがばっちり夢から目覚めたのだった。
魔法で記憶をいくらか思い返すことができるようになったが、もう詳細が曖昧になってきている。
初めの裏ヒカリの謎セリフを忘れまいと何度か復唱し、ただ今の状況を把握することにした。
ここは一言で言えば窓のない薄暗い部屋。
鉄格子の壁と扉が特徴的だ。
つまり牢屋。
ヒカリは初めて牢屋と呼ばれるところに入った。
「ここ、牢屋? 私、そんな悪いことしたってか?」
「当然だな」
誰かに答えて欲しかったわけではなかったが、答えが聞こえたので振り返る。
そこにいたのは懐かしくも見慣れた少年だった。
久々に近くで姿を見たらなんだか嬉しくなった。
鉄格子越しだけど。
「リク⁉ なんでここにいるの?」
「呑気にいびきかいて寝ていたから見に来たんだ」
「檻の中のライオンは怖くないってことかしら?」
「檻の中で何度でも言っていればいいさ」
ああ、このスマートなツッコミ!
久々に聞くなぁ~。
じんわりと感動を噛みしめつつ、ヒカリはそれでもツンとした表情をして答えた。
「それにしても、ここ寒いわね」
天井付近にのみ見える小さな窓からは隙間風が入ってきた。外の空気はひんやりとしている。
「離れの牢屋に移動してやったんだ。城の地下牢は蒸し暑いようだから。不快で魔法で半壊させられたら迷惑だからな」
「ずいぶんと入念ね。わざわざ変えるくらいなら牢屋よりも豪華な部屋にしてほしいわ」
「俺と手を組むならそう言ってみようか?」
かなりあっさりと提案されたことにヒカリはうれしい反面、逆にリクの立場を疑う。
「なにさ、リクと私。闇の力使うのに魔女様は待遇違いすぎるわねー」
「当然だろ、そっちから敵対してきたからな」
「そうね、こっちから願い下げよ!」
「なら、部屋の移動は交渉決裂だな」
拗ねるヒカリにリクは無表情を崩さない。
「じゃあもう帰れば?」
不機嫌なままのヒカリはテーブルも何もない部屋の真ん中に体育座りでうらめしそうにリクを見上げた。
そんなヒカリをリクは別段心動かすことも無く会話を継続させる。まるで初対面の異邦人が自分に危害を加えないだろうかと警戒を怠らない。
「俺が知りたいのはお前の魔法のことだ」
「そんなの知ってどうなるのよ?」
(どうせさっき船で使ってた厨二病なカッコいいセリフの魔法とか知りたいんでしょ?)
答えは決まっている。『もう忘れたわ』だ。
「カイリを助けることができるかもしれない」
ヒカリは次に言おうとしていた、返答を失った。
そして少し考え、うなずいた。
「そっか、なら私が出来ることなら教えるよ?」
「なぜだ?」
「ん?」
ヒカリは首を傾げる。よく見ると、リクが少し身を乗り出すように鉄格子に手をかけていた。
「なぜお前は、俺たち……いや、俺と敵対しているのに協力をするんだ?」
さっきまで値踏みするような態度のリクに動揺が見えた。ヒカリは不思議そうにキョトンとした顔で続ける。
「そんなのカイリが助かるなら協力するに決まってるでしょ?」
「仮に、それがマレフィセントと協調するものだとしたら?」
「ん? 悪いことしてるってこと?」
「まぁ、そう言える。ソラが前に俺に言っただろ」
視線をそらしてリクがせわしなく歩き回る。どうやら混乱しているみたいだ。
(ソラに言われたこと気にしてたんだ)
モンストロのお腹の中でピノキオを捕まえた時の事だ、ソラが今のリクがやっていることが良くないことって言っていた。
過ちを悔いることはだれにだってある。
ましてや友人に言われたんだ。
忘れるわけがない。
ヒカリはやっぱりどこにいてもリクはリクなんだなと改めて思った。
難しく考えるところとか、相手の利益にならないことを考えるあまり、少し痛いとこ突けばちゃっかり自分自身が今欲しい情報を教えてくれるところとか。いろいろ空回りしてるところとか。
こういう時のリクってそばにいると安心する。
そしてそれがどれほど愛しいものだろうか、ヒカリは改めて目の前の彼を眺めていると――なんでか心が暖かくなる。
いつもの彼でいてくれてほっとした。
そんな自分の心を頑張って表情に出さずに一度顔を伏せて微笑し、ヒカリは元気に顔を上げ答えた。
「私の答えは決まってるよ!」
「なんだ?」
リクの困惑している顔を彼女は不敵な笑顔で返した。
「カイリが助かるのなら大歓迎。その行為が良くも悪くも、私は最後に納得のいく答えならどっちでもいいから!」
「……」
目の前の彼の表情ときたら、さっきまでの表情から一変している。
大きく見開かれた瞳は、雲間から一点、差し込んでくる。薄明かりに照らされた緑の芝生のように、生き生きと輝いていた。
これは私にとって忘れるわけがない。
ずっと私が見たかったリクだ。
そんなリクにふふっと笑いかける。
「なに驚いてるのよ? きっとソラだったら私と別の所でそう言ってくれると思うよ。あいつが悪いことしてると許せないのは、ただ単に正義のヒーローが好きなだけだからね」
「そんなの本人がいないのに分かるのかよ」
「だってソラってば答えは絶対私と違うんだもん。私は好きだよ、それが悪でも自分の答えを持ってる悪のヒーロー。闇の秘密結社!」
ヒカリの言動に訳がわからない顔のリク。
「おまえ、普段はソラと何を話しているんだ?」
「え? あまり一緒にいないけど……ヒーローのことなら私にめちゃくちゃ懐いているけど?」
(そのときは男装の姿だけど)
「お前が悪のヒーローなのか?」
「その時々で変わるかな?」
(ヒカリで出場したときは魔王少女って名前がありますけど)
「……訳がわからない」
頭を抑えるリクにヒカリはクスクス笑う。
(ああ、リクも一緒にいられたらどんなに楽しかっただろうか)
「最近の出来事だからねぇ。話すと長くなるよー?あ、いい例え話があった、裏切り者って言われたこともあったな」
「いつの事だ?」
「そうだなぁ、すこし昔の事だったよ。陣取り合戦してて遊んでたの十本の旗をどれだけ取れるかって」
「その遊びなら俺も知っている。真ん中の大きな旗を取れば終わるんだろ?」
(うんうん、実はリクとやってたんだけど)
「私が五本にしたがるから最後の旗が取れなくなるんだ、さっきはあっちだったのに寝返るなよ! ちゃんとどっちかにつけよ……って」
しばらくリクはなにも言わなかった。多分本人も思い当たるところがあったのだろう。
「昔の話はもういい本題は魔法だ」
「そうだったね」
「単刀直入に聞く。心を修復、または復活させる魔法はあるのか?」
「う~ん。回復魔法なら知ってるけど、あれは元に戻すというより回復を促進させるクスリみたいな魔法だからなぁ」
「そうなのか」
「リクは回復魔法知らないのね、私のケアルかけてみる?」
「いや、いい」
「悪いものじゃないから遠慮しなくていいよ?」
「くどい、いらない」
「あっそ。ぶっちゃけ心を元に戻す魔法なんて知らないよ? まず、どこに心があるのかもわからないし」
「ついさっきまで見ただけで魔法を使ったお前が言うのか?」
「ううっ、ごもっともな答えです。正直言って心がどこにあるのか見たことも試したこともないのですよ」
「もっと頭を使えよ、なんでお前が出来て俺が……はっ」
「ふふっ」
思わず本音が出たリクにヒカリは笑いが抑えきれない。
「……大体、なんでお前は旅に出ているんだ。目的はなんだ?」
「それ聞いてどうすんの? 今はそんな場合じゃなかったよね?」
「個人的にだ、言いたくないならそう言え」
そう言われると答えざるを得ないヒカリだった。
うーんとしばし唸り答えを絞り出す。
「みんなを助けるためだね。私はこの力で成し遂げられることがあるなら挑戦する」
得意げなヒカリにリクはぐうの音も言えず。
「悪くない答えだな」
悔しそうにそれだけ言った。
「そう言うわけだから、心とかいう目で見えないものは分かんないや。魔法が使えてもそれは日々使って覚えてくものだからね」
「面倒だからっていい言葉だけ言って終わらそうとしたな」
悔しそうな表情はそのままでリクが即答。
「バレましたか☆」
ヒカリが今度は即答しお茶目にウインクした。
「魔法といえば、私リクとトラヴァースタウンで目が見えなくなった時会ったでしょ。あの後ね――」
その後小一時間。ヒカリとリクは語り合った。
ほとんどがヒカリの冒険話だったがその内容は全く頭に入らないくらい他愛もないことだ。
誰にも気にもとめず、言葉を交わす事だけのやりとり。気のおけない相手と接する会話はなんて気分がいいのだろう。
牢屋はヒカリ以外誰も幽閉されていないので極めて反響する。
笑いを極力抑えた声と驚きに満ちたヒカリの冒険譚にリクは大きな声を出してしまいそうになることもしばしばあった。
思えばたくさんの冒険がこの短期間であったのだ。個性的なワールドは誰かに語らずにはいられない。気がつくと城の誰かが捕虜の食事を持ってくる足音が聞こえてきた。
それにはじめに気がついたリクは鉄格子に寄りかかって座って聞いていた姿勢から立ち上がり闇の扉を素早く開ける。
リクはヒカリへ振り返る。
「今日はもういい、これ以上いるとマレフィセントに見つかる。それと――」
「?」
ためらいがちに黙り込むリクにヒカリは訳がわからず眺めている。
「これが、全て片付いたら……また聞きたい」
そう言って闇の中へ消えた。
リクの言葉にヒカリは今まで何を話していたのか全て頭から飛んで行った。
さっきリクはなんて言った?
また聞きたい?
全て片付いたら?
それって、記憶がなくても、
私にまた会いたいってこと?
食事を持ってきたマレフィセントの手下がやってきてもヒカリは動くことを忘れ石像のように固まっていた。
天井の隙間にかろうじて付けられた鉄格子の高窓から、ちょうど朝日が差し込んできた。