King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~囚われの王子様~

 目が覚めると冷たくて硬い床に寝転がっていた。

 鉄格子の狭い部屋。

 揺れがないのでフック船長の海賊船ではない。だとしたらここは魔女マレフィセントの本拠地。ホロウバスティオンなのだろう。これで良くも悪くも潜入成功だ。

 ヒカリは重い頭を持ち上げて軽く振り乱す。硬い床に寝転がっていたが――なんだ、思った以上に気分は悪くはない。むしろ海賊船で戦っていたのは別のヒカリだ。それまで私の方は爆睡していたのですこぶる元気がいい。

 そもそも、もう一人のヒカリが倒れた敗因はあまり覚えていないが致命傷の攻撃を受けたわけではなくただの体力切れ。しかも強制で交代したため目覚めるのがうまく折り合いがつかなかったのだ。

 今後の参考になったので良しとするが、交代は二人の同意がないと体の方が倒れてしまうようだ。

「あ――魔女の卑怯者!」

 ヒカリはゴロゴロと体を丸めながら左右に転がる。あのときマレフィセントはこう言った。

 

「リクとカイリが後ろにいるんだよ? 私が一度姿を消したらお前のその魔法が二人に当たるかもしれないね?」

 マレフィセントのこの言葉で夢うつつな表ヒカリがばっちり夢から目覚めたのだった。

 容赦がない攻撃に見えたもう一人の裏ヒカリに、主導権を渡せ、あなたは非情すぎる! お前の血は何色だ⁉︎……と思わず自分が出てきてしまったのだ。

 あのまま彼女が戦っていたとしたら悪い状況を回避しつつスマートに勝てたかもしれない。

 前回はマーリン様だったので良かったものの、リクとカイリが危険な魔法に晒されていたのは事実なので、最悪な事態も想定せざるをえない。

 空間移動とハートレスのような分身と強力すぎるバースト魔法。さらにはじめに使ったあの魔法の名前などなど、思い起こせばダークヒーローみたいにめっちゃかっこいい!

 しかも言ってみれば悪と悪の頂上決戦。

 勝敗よりももう少し暴れているところを見てみたかったという視聴者目線の表ヒカリだった。

 これを本人に直接話せないのが「二重人格」の辛いところ。

 さて、魔法で記憶をいくらか思い返すことができるようになったがもう詳細が曖昧になってきている。初めの裏ヒカリの謎セリフを忘れまいと何度か復唱し、ただ今の状況を把握することにした。

 

ここは一言で言えば窓のない薄暗い部屋。

 鉄格子の壁と扉が特徴的だ。つまり牢屋。しかも独房。ヒカリは初めて牢屋と呼ばれるところに入った。

「ここ、牢屋? 私、そんな悪いことしたっけ?」

「当然だな」

 誰かに答えて欲しかったわけではなかったが答えが聞こえたので思わず振り返る。

 そこにいたのは懐かしくも見慣れた少年だった。

 久々に近くで姿を見たらなんだか嬉しくなった。鉄格子越しだけど。

「リク、なんでここにいるの?」

「呑気にいびきかいて寝ていたから見に来たんだ」

「檻の中のライオンは怖くないってことかしら?」

「檻の中で何度でも言っていればいいさ」

 ああ、このスマートなツッコミ。久々に聞くなぁ~。

 その後リクは他愛のない話をして出て行った。

 

 

 捕虜なので一応ご飯が出てきた。味のない食事をもそもそと堪能しながらヒカリは考えを巡らせる。

(なんでわざわざリクが来たんだろ? マレフィセントはいったいリクをどうしたいんだろ?)

 フリーな行動ができてさらに闇の魔法も教えてくれる魔女。なんでこんなにリクだけ特別扱いなのだろうか?

 トラヴァースタウンから突然現れた闇の魔法を使えるもう一人の私に何一つお声がかからなかったことに少しばかり疑問と嫉妬心が芽生える。

「そもそも魔女に喧嘩売ったら牢屋行きなんてどこの要人だ! お姫様助けに来たヒーローですか?」

 しばらく頭をまっさらにして、今までの行動を振り返る。そしてあの言葉が浮かんだ。

「ああ、わかりましたよ……どこにいても、いついかなる時も、この私のアイデンティティにつきまとうあの属性ですね」

 ヒカリは食事を食べ終えてゆっくりと立ち上がる。さっきまで使っていたスプーンが手から滑り落ちて床に金属質な音がした。

 

「私ってば、またしても王子様待遇ですか~~!」

 

 ヒカリのツッコミは牢屋に反響した。

「なぜ皆さん私を王子様にしたいんでしょうか⁉ これでも一応女の子なんですけどね!」

 思わずいつものお決まりのフラグを折って靴底へ擦り付けたい衝動に駆られながら、ふと希望の光を見出した。

「――ってことは、これから妖精が現れて助けてくれるんですよね、ごもっともな展開!」

 そうそう、居ました。

 たしか最近お側に妖精が――。

「クラウドいる?」

 待ってましたとばかりに、

(チャリン♪)

 さっきのスプーンとは違う複数の金属音。鍵束の擦れるような音がした。

「あれ、これは私の言葉じゃなかった?」

 とにかく音のした方を見ると――足元に本物の鍵束が落ちていた。

 さらに灰色のキラキラした粉と刃物が擦れる音もそこから聞こえた。

「これ使えって? ありがとう!」

 

 ヒカリは鍵束の鍵を何本か試し、半分くらいしてからやっと当たりを引き当てた。

「やった~牢屋から脱出☆」

 脱出ゲームから見れば探す手間が省けた分、難易度は極めて低かった。

「すまんなリク、私は脱獄犯になります。それもこれも味のしないごはんのせいです。これなら脱獄の理由になるよね?」

 そもそも悪いことをしているのは向こうのほうだ。ヒカリには理由も何もあったものではない。

「これに懲りてもっとおいしいご飯の検討をしてください――せめて味の調節ができるよう塩の瓶をくれ! さぁ敵に塩を渡しやがれ!」

 囚われの主人公を演じるようなセリフを唱えるヒカリ。そのかたわら呆れるようにクラウドが何か言っていた。

 しかし、妖精クラウドの言語は理解不能。やはり刃物が擦れるような音しか聞こえない。

「そもそも悪いことしてないし! あえて言うならばオリンポスで大規模な器物損壊とかハートレスをオーバーキルくらいかな☆」

 さらにヒカリの頭がフル回転すると彼女の頭上で電球がピコン☆となった気がした。

「ふと思ったけど、ここにミッキーかソラがいたとしたら合鍵とかいらなかったよね? キーブレード使いは牢屋なんてご無用なのか~いろいろなアイテムを使って謎を解く系の脱出ゲームは面白くないなぁ」

 これには刃物が擦れる音は聞こえなかった。目の前の妖精は、もう呆れて何も言わないようだ。

「ソラやミッキーにしてみれば牢屋に入れられるような事自体ないか……いや、この前船に居たよね? キーブレード使えなかったのは外カギだったからかな。あ~でもでも、鉄格子越しなら問題なさそうだけど……あ、クラウド見えるようになってる」

 

 そこに居るキラキラした粉だけだった妖精はやっと姿が見えた。ステルス魔法の効果切れのようだ。

「ま、ここに居るのは私しかいないので姿が見えても問題はないか。おいで~」

 手を出すと乗ってくれたので上下左右ゆっくりと眺めてみる。

 重さは全く感じない。改めて見ると黒いトンボのような羽からキラキラと鉄粉のような粉が振りまかれていて、粉の落ちるゆっくりとした動きがなんだかスノードームの雪のようで見ていて飽きなかった。

 楽しそうな彼女の表情に本人もすこしばかり自分の身なりを首を振って眺めて見る。

 掌の上で一回転して見せると粉が妖精の周りに集まり黒い鉄球のように変身した。

「おおっ⁉ 重くなった!」

 手の中に収まる鉄球が鉄の塊のようなずっしりとした重さに変化する。

上から落ちてくると痛そうだ。

「今更だけどこれ攻撃に使えそうね!」

 軽く上へ投げるとジグザグに不規則な動きをする鉄球に感心する。

 不意に攻撃ができるとなればクラウドはもう少しこの姿のままでいいかもしれない。

「そういえばここ、レオン達の故郷だったところなんだよね?」

 クラウドが元に戻って目の前に現れると同意するようにうなずく。口が動いているが聞き取りができずハサミで切るような小さな音がしている。

「ねぇクラウド。やっぱ元に戻らないと何言ってるのかわかんないや」

(ジャキン☆ キンッ☆ ジャリン☆)

 何か大きな声で言葉を発しているが私にとっていい言葉じゃないようだから聞き流すことにする。

「そうだ、せっかくだから元に戻る前に偵察しにいってよ? 私はゆっくり行くから」

(ジャキン☆)

 大きな剣が擦れるような音がした。

 激しい否定に聞こえる。

「あら、私ったらマレフィセントと互角なのよ?むしろ仲間がいない方がのびのび攻撃できそうだから心配するのは無用ですからね!」

(キンッ☆)

 小さな音がした。

「結界だっけ? あれ見つけ出してきてよ。それまで戻ってこなくていいからね!」

(ジャキン!)

 犬のお使いか! と聞こえた気がしたがそのすぐあと、灰色の粉がヒカリの頭上に振り撒かれ、しばらくするといなくなった。

 妖精の粉を浴びたヒカリは、体が浮いて空を飛べる効果は無かった。

 なんであれ、なんだか元気が出た気がした。

 いったい何のつもりで粉をかけたのかはわからずじまいだが妖精の粉って何かしらの幸運な効果がありそうだ。

「なんかラッキー起こらないかなぁ?」

 そう呟きながら牢屋から出た。

 そして――。

 ヒカリがはじめに遭遇したのは、人でもハートレスでもなく――檻に繋がれていない、野獣だった。

 しかもバッチリ目があってしまう。

 

「ら、ラッキーは……?」

ヒカリの頭の中で幸運の文字が爆破したように粉砕された。

 

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