King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~黄金の手錠〜

 

 自分の武器を出現させたはずなのに現れたのはヒカリの手首にはめられた手錠だった。

 引き寄せられた両腕を見ると金色の分厚い腕輪に重厚な鎖が握りこぶし二つ分の長さで両腕に繋がっている。

「な、何これ?」

 いつものノリで飛び出してしまったヒカリはハートレスの前で急停止する。大きな獣の顔のついた盾を持つディフェンダーがヒカリにかみつく!

 ソラが飛び出し、木刀でヒカリに迫る盾の攻撃を防いだ。

「ヒカリ危ないって!」

「ご、ごめん。一応武器呼んで出てきたんだからなんか効果とかあるのかなってさ」

「それでもいきなり飛び出すのはやめろって!」

 ソラもキーブレードが無いため魔法を放つが盾に阻まれる。

「下がっていろ」

 ビーストの体当たりでハートレスが消えていった。

 

「うーん何でこんなことに……」

 ヒカリは両腕の自由の効かない鎖をガチャガチャと音を立ててひっぱってみる。

 ロックセプターは壊れないからこの鎖はきっと壊せない。どうやって外すことができるのか考えた方がよさそうだ。

「キーブレードなら開けられるのかな?」

「オレ、今持ってないんだ」

 ヒカリのつぶやきにソラがしゅんとする。

「リクにお願いしたいけど、私さっき牢屋から脱獄してきちゃったからなぁ」

「アイツの仕業ではないのか?」

「うっ……それも、考えてみたけど違うわね。牢屋でリクとは会ったけど、さっきの魔法のトロッコ乗ってた時からだもん」

 ヒカリが言葉を詰まらせたのはビーストの姿が怖いからだ。

「あ、あの……ごめんなさい。ビースト」

「かまわない、いつものことだ」

「?」

 ヒカリは首をかしげたがビーストはそれ以上何も話さなくなった。

「ヒカリって意外と怖がりなんだな」

 ソラが物珍しそうにヒカリをのぞき込む。

 ヒカリは思わずむっとする。

「ちがうもん、たぶんね~ビーストにかかってる魔法がそうさせているのよ。怖くなーれって」

「そうなのか? 俺はよくわかんない」

「うん、ソラは魔法使えるだけだもんねライブラみたいに見えないもんね」

「見えなくても問題はないだろ?」

「ま、そうね~」

 いつもならヒカリは「魔法しか今は戦力にならないんだからもっと精進しなさい!」と言うところだったがこれ以上はソラに何も言わずに軽くあしらった。慣れない戦闘にソラもそれなりに頑張っているからだ。

 ビーストがいてくれるおかげで不便だけど今のところ進むには問題はなかった。

「その手錠。すっごいかっこいいな~」

 ソラはさっきからヒカリの手首をずっと見ている。金色の手錠は金属の重さがある。杖なら魔法の力が高める事ができるが、これは武器としての機能は全くなかった。攻撃力も魔法力も皆無、つまりは動きにくいだけ。

 それでも金色に輝く腕輪のような装飾と金色の重厚な鎖はメタルなヴィジュアル装身具にも見えなくはない。

 セプターの変形なのでおそらく壊れない。鎖を盾にすれば防御には少しばかりは役に立てるかもしれないが――。

「両手ふさがってるからすごく不便だよ。歩くときとか」

「でも、ハートレスと戦うとき別の武器を両手で掴んでいれば問題ないんじゃない?ほら」

 ソラが今使っている木刀を彼女に渡した。

 もともとはヒカリの使っていた木刀なので久々に持つとなんだか懐かしくも思う。

 ヒカリはロックブレードや島にいたときの木刀を使うときは基本的にはソラと同じ姿勢。両手で武器を持つので手錠をしていても握ることはできる。

 ロックセプターは杖なのでヒカリは木刀とは違い片手でバトンのように振り回す。回すのが何になるというわけではないが、なんというか魔法や何かの力の循環が良かったりしたので流れでそうなった。

 我流なだけに杖の使い方など後で手練れな誰かに聞いてみたいくらいだ。

 木刀を両手で構えるといつも使う武器と違うので少しだけ違和感があったがこれはこれでしっくりくる。

「まぁ、イイ感じ?」

「じゃぁ問題なし!」

 いつもながら楽観的なソラに今は心が安らぐ。不安よりも先に何とかなりそうと思えてくるのはソラのこういう会話があっての事だ。

「そもそも問題なのがさ、武器が手錠に変わってしまったってことなんだけどね」

「魔法は使えるの?」

「う~む」

 ヒカリはためしに両手のひらを前に突き出して炎の魔法をイメージする。手錠が輝き、炎が両手に集まる。ヒカリの口から今放つ魔法に見合う適当な呪文が紡がれた。

「ファイアウェイブ!」

(ドォン!)

 炎のボールの波動砲が出てきた!

「おおっ!」

 ソラが目を輝かせて炎のボールの軌跡を見つめる。威力はおそらくファイラ程度。ロックセプターだったら範囲魔法になるのだがこれ以上の火力は見込めない。それでも興奮するソラを見ていると少し元気が出た。

「次っ! 氷のやつも見せて」

「も~注文が多いなぁ」

 

 検証の結果ソラの魔法とほぼ同じ。各属性魔法は波動砲で使えるが単体魔法。もちろんバーストとクリアは杖がないので使うことができない。

 しかし、こんな時にでも良いものが見つかった。

 ケアルガとバリアは三人とも同時に効果が発動されたので実用性が見込めた。

「これって後方支援ってことよね」

「なんだか……ヒカリには似合わないな!」

「それな~」

 ズバリ即答で言ったソラのツッコミにヒカリは悔しそうな表情で即返答した。

 

 

 地下水路へ降りると水が沢山張られていた。

 この世界では不思議なことに外同様ヒカリ達は水面を歩いている。

 しかもなんだか蒸し暑い。ジメジメとした空間にヒカリは不快をあらわにした。

「私、マレフィセントにホロウバスティオンに招待されて本当はここで幽閉されるはずだったみたいだけど……もしここにいたとしたら不快でぶち壊してやろうと思うわ」

「その前にその鎖になったらどうするの?」

 前を行くソラがヒカリに振り返って聞いた。

「その時はソラとビーストが来るまで騒いでいたかもね~」

「うるさい獣が居たら近寄らなかったかもしれない」

「えーひどいー」

 最後尾のビーストが会話に入ってくれたので少し打ち解けた気がした。

 途中ビーストに頼んでぶち破ってもらった石の壁の牢屋はそこだけ少しひんやりとしていた。

「今更だけど、ここの牢屋の方がなんだかVIP扱いな気がする~」

「石で声が反響しなかったら助けはこなかったダろうな」

「ご、ごもっとも」

 ビーストの言葉にヒカリは考えを改めた。

 檻のような壁に覆われた水路が見えると浮遊する水球が現れた。触れると水に触れた感触がしなかった。

「これ、水じゃないようね」

「中に入ると浮かぶのかな?」

「え? ちょと!」

 ヒカリの制止に逆らってソラが思い切って水球に向かって飛び込んだ。

 するとソラの体がただ今ヒカリたちが浮かんでいる水面の下に潜り込み壁の向こうに移動した。

「思ってたのとは違うけど、だぁーいじょーぶ!」

 初めての感覚にソラはとても楽しそうだ。

 対するヒカリは――。

「うっ……」

 ソラのように飛び込むことを躊躇う。

「ヒカリ? そっか水が嫌いなんだっけ。なんだかトンネルをくぐったみたいでなんともないよ!」

 そう言ってソラは再度水球に飛び込んでヒカリの目の前に現れる。

「一瞬だけ水の中だけど濡れてないし大丈夫だって」

 ソラがヒカリの手を取って引っ張ってくれた。

「ほら、すぐにいけただろ?」

 こわばって目をつむるヒカリにソラが元気よく言い放った。

「う、うん」

 ためらいがちにうなずくヒカリ。

 こういう時、ソラには本当に感謝している。

 怖がる自分は一歩踏み出す勇気がない。

 こういう時それを知ってか知らずか、ソラは飛び込んでいくのだ。

 良くも悪くもあるが、結局はそれがあってこその結果なのだ。

 前から知っているはずなのに、こういう所には目の前の弟に敵わなかった。

(わたしも成長しないといけないのかな)

 弟にも相棒にも頼ってばかりの私は、こわいことに一人で決断するのはまだ時間がかかっている。

「ビーストごめん、遅くなっちゃって」

 後ろで黙っていたビーストにヒカリは恐がりながらも言うと野獣はゆっくりとこう答えた。

「決断を急ぐのは誰しもある、ただ何もせず待つだけに比べたら余程ましだ」

「え?」

 コワモテの意外な返しにヒカリはぽかんとしてしまった。

「私も何もせず諦めていた事があるのだ。それを救ってくれたのが、ベルだ」

「七人のプリンセスの一人ね。プリンセスっていうのは心の闇を持たない人。一緒にいると元気が出てくるし闇の心を浄化してくれるのかもしれないわ」

「そうか……」

 そう言ったビーストはなんだか怖かった雰囲気が一瞬和らいだ。

 水路は迷路のように入り組んでいるが幸いハートレスはまばらだった

「よし、ヒカリ、ハートレスはいないみたいだ」

「ビースト、後ろは?」

「敵の気配はない」

 薄暗い空間なので三人は会話でそれぞれの位置を確かめる。三人とも名前を呼び合う中ソラが真ん中のヒカリに思い出したように話し出した。

「そういえば、前から聞きたかったことがあったんだけど……ヒカリってリクとカイリの事知ってるのか?」

「まぁね~」

 それを知っているのが当たり前だと言うようにあきらかに軽い気持ちで言い放つヒカリにソラは気をよくしなかった。

「ちゃんと答えろよ~」

「大切な友達ってだけで理由は十分でしょ?」

「ま、まぁそうだけど……どこで会ったとか何か話してくれたっていいじゃないか」

「ん~。忘れた」

「なんだよ~大切な友達なんだろ?」

「出会ったエピソードなんてとるにたらないよ。大切なのは変わらない、それはソラと同じくらいだし?」

(もっともソラと同じなんだから)

「オレはリクとカイリは同じ島で暮らしていたから……ってカイリが元気な時知ってるのか?」

「その木刀つかのあたりに誰のだって書いてる?」

「かすれてて見えないんだけど」

「ヒカリって読めたりするんじゃない?」

「それってこれはヒカリのってこと? リクが持ってたってことは……ヒカリは俺たちの島にいたって事なのか?」

 動揺の声のソラにヒカリは、

「そうかもねぇ〜」

 はぐらかすように軽い気持ちで言い放った。

「なんでそこで答えてくれないんだよ。ヒカリみたいな女の子がいたらきっと忘れないんだけどなぁ」

「そうよね~」

 からかわれたような気分のソラにヒカリはあいまいな笑顔を見せた。

 

 初めはとても受け入れがたい事実だった。でも実際はこうやって対面して他愛もない話をする事ができるならこのままでもいい気がする。

 記憶がないのはしょうがない。

 事実を受け入れ、そう諦めたらなんだかソラとの会話が面白くなってきた。

 そばにいて、話ができる。

 それだけは事実なのだ。

 こうやって前みたいにからかうのも悪くはない。

 こうやって前みたいに始めればいいのだ。

 

 一人で納得してばかりのヒカリにソラは何言ってもはぐらかされると観念し気を撮り直してビーストに聞いた。

「もういいよ! じゃあさ、ビーストはどうやってここに来たの?」

「ち、ちょっと、私はいいけどビーストは……!」

 焦るヒカリ。

 聞き出してほしくない質問をしたらきっと怒りの咆哮でもするかもしれない。

 思わずヒカリは背後にいるビーストに向き直りバリアの構えをとった。

「夜の獣道のような暗い場所だった。知らないハートレスを倒していったらここにたどり着いた」

「へ~グミシップもないのに違う世界に来るなんてすごいな」

(ビーストが答えてくれた⁉ソラってば、恐ろしい子!︎)

 改めてソラのコミニュケーションアビリティにヒカリは恐れおののいた。

 

 

 ビーストの活躍によりハートレスを倒し地下水路を攻略。なんとか城の扉の鍵を開きエントランスホールまでやってきた三人。

 エントランスにはリクが出迎えた。

 リクはヒカリがいる事に特に驚きもなかった。しかし、その手の手錠を見るとわかっていたようなそぶりで得意げにキーブレードを出現させた。

「探していたんだヒカリ。俺がキーブレードでその手錠を外してやる」

 そう言って手を差し出すリクは牢屋にいた時の彼とは違う。

 ヒカリは何か違和感を覚える。しかも何か上から目線で気に食わない。口をへの字にした表情でヒカリは手を差し出した。

「そうだ。今手錠を開けてやる」

 リクは鍵穴を閉めるときの光の光線を放つ。

 

 ヒカリは――。

 無言でそれを火の魔法で打ち落とした!

 

「ええ~~っ⁉」

 ソラ、ドナルド、グーフィはそれを見てびっくりする。

「なぜだ⁉」

 リクが驚きの表情のままヒカリに問う。

 ヒカリはありったけ声を上げて不服そうに言い放った。

「い~や~よ~!」

「何言い出すかと思ったら好き嫌いかよ!」

 ありえないとばかりにリクが声を荒げる。

「そうよ。そんな上から目線な人についてくなんてまっぴらごめんだわ!」

 拗ねるヒカリに周りのギャラリーはこう思う。

 自分はいつも上から目線ではないだろうかと、思わず呆れたようにヒカリを見ている。

 

「リク、私言ったわよね? 私は誰の味方でもないし敵でもないの」

「ヒカリ? どういうこと?」

 隣のソラがわからない顔をする。

「私は不利なチームについてく事にしているの!」

「その手錠がなんのためにその姿になっているのかも知らずにか?」

「さっきから知ってるように言ってるみたいだけど、どういうこと?」

「俺がキーブレードを手にしたからにはお前は俺についてこなければいけない」

「王様の命令ってやつ? ドナルドとグーフィみたいに私はそんなの聞いてないわよ?」

 ありったけの不満な表情を見せ相手に向かって勢いよく首を横にひねって目をそらす。いわゆる『いらないのポーズ』のヒカリにリクは得意げな表情で言った。

「お前のその手錠がどんな物なのか。オレは知っているのさ」

「?」

 気になっていらないのポーズのまま片目を開けるヒカリ。ちらりと目線だけを向けた。

「お前の持つそれは鍵とは違う。錠ならば鍵がないと意味がない」

「それは……そう言えるけど」

「知りたくないのか? その手錠の理由」

 誘うリクにヒカリは両目を開けて視線を泳がせ躊躇する。

 ふとヒカリがビーストに視線を向けると、エントランス入り口に――なんとベルの姿があった!

 しかしすぐにハートレスと姿を変える。

 雄叫びを上げてビーストが飛び出していった。

「ビースト! それはベルじゃない!」

(プリンセスは心の闇がないからハートレスにはならない!)

 ヒカリはビーストを追って駆け出した。

 

「ふん、まぁいい」

 リクはヒカリを追わずソラに視線を向ける。

「まだいたんだなソラ。ヒカリを連れ戻しに行ってくれたら近くで見ていてもいいんだぜ」

 勝者のような余裕を見せるリクにソラは一歩踏み出した。

「オレはカイリに会いに来たんだ」

 ソラのまっすぐな答えにリクは表情を変えた。

「闇の力で消されたいのか?」

 リクの眼差しはソラとは相反するものだった。

 

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