King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~つながる心〜

 

 ベルの幻がハートレスに変わりビーストは雄叫びを上げて城の扉から出て行ってしまった。

「まってビーストそれはベルじゃない!」

 闇の心を持たないプリンセスはハートレスにはならない。消滅するか稀なケースでカイリのように体が眠り続けるかだ。

 それを知る者は今の時点では私だけ。

 ヒカリは罠だと気づきビーストを追った。

 

 ソラは――たぶん大丈夫。

 リクはどうであれ、ドナルドとグーフィがそばにいる。さっきまで仲間だったソラに悪いことはしないだろう。

 

 城の外に出るとビーストの姿が見当たらない。無条件に出迎えるであろうハートレスもいなかった。

 ビーストに倒されたか追いかけて行ったのだろう。

「どうしよう、今更だけどソラも心配だし、いったん戻って……」

 扉を開こうとするが、ガッチリと閉まっていた。

「え、ちょっと! 入れてよ!」

 押せど引けどもびくともしない。

 焦るヒカリに後ろから声がかけられた。

「リクとソラの間に入るなんて野暮なことはするものじゃないよ」

 声の主はわかっていた。

 ヒカリをこの世界に招待した張本人だ。

「もしかして私のほうが罠にはまったのかしら?」

 そう言ってヒカリは声の主に振り返る。

 魔女マレフィセント。

 この手錠では勝ち目がない。

 攻撃する意思を見せないよう手錠に繋がれている両腕を下すと金色の鎖がじゃらりと音が鳴った。

 マレフィセントはヒカリの両腕の手錠を見ると声を上げてあざ笑う。

「ハッ! 牢屋に入れられ、さらにその姿。まるでどこかのおとぎ話の王子のようだねぇ?」

「ぐぅ~~!」

 あらためて魔女に言われると腹が立つ。

 ファイラの魔法がヒカリの両手、手錠の周囲を一瞬まとうが、ここで魔法を放っても勝ち目がない。

 炎を引っ込めてありったけの怒りを込めてヒカリが叫ぶ。

「牢屋といい! 手錠といい! あんたのせいでしょう!」

「うるさいから牢屋に入れたまでだよ、その手錠は私の知ったことではないがねぇ」

 そう言いつつも何か含みのある笑みを見せている所、何かこれについて知っているのだろう。

「とにかく! リクと話の途中だったんだから入れてよ!」

「あの子はキーブレードに選ばれた勇者なんだよ。それをお前が奪ってしまったのさ」

「……なんのこと?」

 唐突な話に全く意味が分からない。

「お前がキーブレードをソラに渡してしまったのさ」

 

 何を言っているの?

 島が消える直前、リクとソラに合っているとしたらあの時私は木刀を触っただけだ。

 キーブレードなんて持ってないし知らない。

 

「私がキーブレードを?」

「まだわからないのかい? お前が一体何者なのか光と闇の二つの心が同居している者、それはつまり……」

 

「やめて! それ以上は聞きたくない!」

 

 ヒカリはとっさに口走り。自分でも驚いた。

 これはもう一人の私が叫んだのだった。

 それともう一つ。

 なんて言ったか知らないけど――扉越しにいるソラの声が聞こえた気がした。

 どちらの驚きが勝ったのか優劣もつけられずヒカリは驚いてその後何も言えなくなる。

 その表情を眺めながらマレフィセントは嘲笑うようにこう言い残し消えていった。

「そうかい一応自覚はあるみたいだね。ならば私はこれ以上何も言わないよ」

 

 魔女が消える瞬間。

 鉄の塊が空の彼方から魔女の頭上へめがけ現れたのだがそれは空振りに終わってしまった。

 鉄の塊は妖精に変わりヒカリの肩に乗る。

 

 どういうこと?

 プリンセスではないにせよ人の心には光と闇があるのはみんな同じ。光と闇の二つの心が同居している者それはつまり――。

 その先の言葉に不安がよぎる。

 隣の妖精から刃物のこすれる音がする。

 おそらく心配しているのだが、それでもヒカリは声をかけることもままならず虚空を眺めたままだった。

 

 しばらくするとビーストが戻ってきた。

 野獣を確認するとクラウドは安心したのか城のなかへ飛んで行った。また消えてしまっていたので結界を探しているみたいだ。

 

「妖精と何を話していた?」

「ベルは……無事よ」

 ヒカリはそれだけ言った。

「そうか、それならば――いい」

「うん。ソラのところにいこう」

 さっきまでかたくなに開かなかった扉が今は開けることができた。やはりマレフィセントの仕業だったらしい。

 エントランスホールにはキーブレードを持ったソラとドナルドとグーフィが揃って待っていた。

 リクは当然いない。

 

「あれぇ? 二人ともなんでいるの~?」

 ヒカリのあからさまにからかうような言葉にドナルドが恥ずかしげに咳払いをすると隣のグーフィが解説する。

「僕たちやっぱりソラと一緒にいたいって思ったんだ」

「繋がる心が俺の武器だ! だってさ~」

「ド、ドナルド! さっきはちょっと勢いがあって……でもほら、キーブレードが戻ってきた!」

 ソラがキーブレードを掲げて気恥ずかしくヒカリ達に見せる。

「カッコよかったよね? ドナルド」

「グワ……ちよっとはね」

 グーフィがそう言うのでドナルドも目をそらして曖昧な返事をした。

「そっか、よかったね」

 さっきのマレフィセントの言葉もありヒカリは素直に喜べなかった。

「なんだよ~もう少し喜んでもいいと思うけど! あ、ところでその手錠。なんでさっきリクに開けてもらわなかったんだ?」

 ソラがヒカリの手錠を見る。ヒカリは両腕を上げて手錠をドナルドとグーフィに見せ言った。

「だって、あれじゃ開かないのよ」

「あれって? さっきのリクの光線?」

 ドナルドがヒカリに聞く。

「ソラ、キーブレードかざしてみて」

 ヒカリは手錠をソラ達に向ける。

 キーブレードを手錠に向けるソラ。

 しかし――。

「何も……起きない」

 ソラがキーブレードをおろす。

 世界の扉を閉めた時の自分の武器が震えるようないつものような手ごたえがない。

 グーフィが首をかしげる。

「いつもソラが鍵穴に向けると光の光線が現れて鍵が閉じる音がするはずなんだけどね?」

「それでね、さっき気がついたんだけど、そもそもこの手錠? その鍵穴がないのよね~」

 ヒカリがジャラジャラと音を立てて鎖を鳴らすその鎖は両手首にはめられている金色の腕輪に鎖が繋がっている。

 左右のどこをみても腕輪のような形は完全に対象な形。どこで繋げたのかもわからない。ずっと初めから開く所がついていないような腕輪。

 鍵穴の形も全く見当たらない。

「じゃあ、あのときリクがヒカリに光線を出したのは?」

 ソラの質問にヒカリは硬い表情でかみしめるように言った。

「リクは私を捕らえようとしていた」

「それって……」

 グーフィがふと思い出す。

「もしかして……」

 ドナルドがリクの今までの行動を思い起こす。

「リクは……」

 ソラも何か気がついたようだ。

「プリンセスみたいに、私が必要だったって事かもしれない」

 ヒカリがズバリ言い放った。

 

 

「なぜだ、俺のものだ、俺の……」

 リクは走りながら同じことを何度もつぶやいた。

「ヒカリ……なぜアイツと一緒に」

「真に強い心の持ち主がキーブレードを手に入れるのだ」

 リクはいきなり現れたフードの男に向き直る。この男はずっとリクに寄り添っていたかのようだ。

「心? 俺の心がアイツよりも弱いというのか」

「あの瞬間では。あの少女もそれを無意識で感じ取ったようだな」

 悔しそうなリク、男は続ける。

「だが人は強くなれる。闇を恐れることなく扉の奥へ進んだ勇気あるおまえなら――さらに闇の奥へ進むほど、おまえの心は強くなる」

「どうすればいいんだ」

「闇に心を開くのだ」

 フードの男が青白く輝く。

「おまえの心がすべてを飲み込む闇になるのだ」

 

 

「!」

 書庫の本を取り落とすヒカリ。

 四冊ほど抱えていた本が足元に落ちてページが開きバサバサと音を立てる。

「どうした?」

 大きな音に隣のビーストが振り返る。

取り落とした本も拾わず固まったままのヒカリ。

書棚の上で見つけた宝箱を開けたソラがそこへ降りてきた。

「ヒカリ。前に居た世界の海賊船からそのまま牢屋にいたんだろ? 疲れているんじゃないのか?」

「大丈夫だよ、ソラ。動いてるほうが気楽だし」

「そもそも、その両腕でそんなに本もって……見つけたなら言ってくれよな」

 ソラは頬を膨らませて見せたのち、ヒカリが落とした本をすべて持つ。

「両手が不自由なんだから、ここは僕たちに任せて休んでいなよ、ちょうどここに椅子もあるし」

 グーフィがそう言ってヒカリの背中を押して椅子に座らせてくれた。

 ここは書庫。沢山の本棚の迷路を攻略中だ。吹き抜けの二階をつなぐカーブを描く優雅な階段の下にあるテーブルと椅子にヒカリが座る。

 ここはなんだかなつかしく思えた。敵の本拠地の城なのに何で安心するのだろうか。

「ここさ、小さい頃のカイリがおばあちゃんと一緒にいた所みたいなんだ」

 ソラがヒカリの座るテーブルの対面に本を置き、かがんでくつろぐように両腕を置く。

「なんでソラが知ってるの?」

「なんでだろ? オレも分からない。オレは来たことないのに、なんか覚えてるんだ」

「もしかしてカイリが教えてくれたんじゃないのかな? 心の中で……」

 ふと言ってみたらソラが思わず立ち上がる。

「ヒカリはわかるの? その……魔法の力でさ」

「心の中は魔法とは関係ないよ。ただ、そうなんじゃないのかなって」

 ヒカリは両腕の手錠を見つめる。

「さっき、なんだか怖い気配がしたんだ。大きな力がすぐそこに来ている……今はなんだか嵐の前の静けさみたいで、ソワソワする」

 おもわず最後の声が震えた。

 それを知ってか知らずか、ソラはいつものように話し出す。

「オレ、キーブレードがオレの元に戻ってきて、すぐにリクと戦ったんだ」

「……」

「リクさ、めちゃくちゃ怒ってた。オレから奪ったもの、また取られたからな」

「あれは、マレフィセントがホントはリクのものだって言ってた」

 それを聞いたソラは苦いものを食べたような顔をして頭を抱える。

「オレ知らないで今まで使ってたってことだよな~キーブレードの勇者って言われてたし」

「ま、ずっとそれ使ってここまできたんだからさ、今さらなんじゃない? いちおうヒーローの卵さんくらいには強くなっているんだし、リクには謝ってみようよ」

「コロシアム。ヒカリはオレより強いからなぁ~」

 うらめしそうに見るソラ。

「今はそうでもないよ? これだし」

 両腕を上げて手錠を見せるヒカリは苦笑い。

 それを見たソラはしゅんとする。

「キーブレードが戻ってくる前にオレ、リクに闇の力で消されそうになった。そしたらグーフィが助けてくれてさ。ドナルドも後で王様に謝るからってオレの味方になってくれたんだ」

「そうだったんだ」

 その王様の命令とやら。

 もし私と一緒にまだミッキーがいたとしたら間違いなく責任もってソラの味方になっていただろう。

「それで気が付いたんだ。キーブレードがオレの武器じゃない。つながる心がオレの武器なんだって。そしたらキーブレードがオレのところに来たんだ」

「心の強さが……キーブレードに選ばれた?」

「こうして戻ってきたんだ、そうみたい?」

 軽く話を閉めるソラはにっこりと笑う。

 

 島から出る直前。

 私はとっさにソラの手を取った。

 リクを助けようとした直前のことだったから――まちがいなく偶然だ。

 リクがキーブレードを手にした時から、ソラにわたるまで私は何もしていない。

 だからきっと、マレフィセントの言うような事もなく私はキーブレードとは無関係だ。

そうにちがいない。

 

 ふとヒカリが問う。

「リクと戦った時どう思った?」

「ん? そう言われると――いつものチャンバラと大して変わらなかったよ」

「……リクはそんなこと思ってないはずなのに?」

「オレは、リクにはかなわないって思っているからかな? でも、負けたくはないんだ。それだけ」

「リク、今とても怒ってると思うけど?」

(それに、さっきの大きな力……もしかしてリク)

 何か最悪な予想がよぎるヒカリの横でソラが大きなため息をついて突っ伏した。

 思わずびくりと跳ねるヒカリ。

「だよなぁ~オレのせいだよな~カイリが元に戻ったらリクも戻ってきてくれるかなぁ~?」

 ヒカリは涙目のソラを見て、思わずくすりと笑う。頼りないことの上ないのに、ほっとする。

「それは、カイリが目覚めてからリクがどう思うかで変わるかも? でも、キーブレードとソラとは全く別のことだから大丈夫なんじゃない?」

 こればかりは幼馴染だがわからない。今のリクの事は私の知らないことばかりだ。

「じ、じゃぁオレはこの際いいから! 島に帰ろうってヒカリがリクに言ってくれないかな?」

「それ、私が言っていいの? いちおう部外者なんだけど?」(いちおうですけど)

「ヒカリは俺たちの島に来たことあるんだろ? 大丈夫だって!」

 さっき消されそうになってもソラはこの期に及んでまだリクと一緒に島に帰りたいと言うのか。

 それもソラらしいのかもしれない。

 どんなことがあっても友達と一緒に島に帰る。

 そんな日が来てくれることをずっと思い続ける。

それが一番の願いなんだ。

 

「ま、その時が来たら考えなくもないかな」

 にっこりと笑うヒカリにソラも笑いかける。

「そのためにもカイリを助けなくちゃなんだよな」

「そうだね」

 カイリのためにリクも悪役に徹しているんだ。

もしカイリが目覚めたら、きっとリクは戻ってきてくれるはずだ。

 なにせ、ソラとカイリと一緒に島を出ようと言ったのはリクなんだもの。三人が無事ならばきっと一緒に帰ってきてくれる。

 

 あとは、わたしがなすべき事は――。

 この世界の結界を破って、カイリを元に戻して、マレフィセントからリクを引き剥がしてやって、ミッキーの言ってた扉の前にいる事。

 ついでにマフの探してる金のメダルも見つかるといいな。

 その前にロックセプターが元に戻ってくれないと私の出番が無くなるじゃないの!

 やることを考えてるとあらためてやる気が湧いてくる。

 

「ソラ~! サボってないで本探してよ~」

 ドナルドが自分の背丈より高い段の本の隙間を指差して叫んだ。

「あ、ごめんドナルド」

「もぅ~そこの回転棚を回してみて! なんで気が付かないかなぁ~」

 はかどらない書庫の脱出ゲームに観念してヒカリが立ち上がった。

 

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