King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
暗い夜道では目が慣れると輪郭が見えてくる。
今度は森の中だ。
さっきの林と違うのは木が沢山あるのとあまり舗装されていないからである。
それにめちゃくちゃ暗い。
普通に歩いていたら木の根に躓きそう。
そう言うヒカリは今、歩いていない。
さっきの使ったグライドではなく今度は低空飛行している。
グライドは風と重力と浮力に乗る魔法を考えれば向こうでも実現できそうだが、この低空飛行は体のない今だからできるようだ。
泳ぐように身をひねったり、木の枝から枝へ飛び移って忍者ごっこしてみたり、今度は木の上からどこまで森が続いているのか眺めてみたりと、このまま誰とも会わないのなら幽霊でいるのも便利かもしれない。戦闘も人との会話も何も起こらない今の状況ではそう思えた。
「はっ……何遊んでんだ私!」
そして我に返って探索を再開。
いろいろとくまなく暗い夜道を再び彷徨う。
誰も見ていないのに、なぜかさっきまでのお遊びに恥ずかしさを覚え口笛を吹いてごまかしてみた。
そして、ふと思った。
「そう言えば――なんで私、今は立派なハートレスなのに自覚があるのだろう?」
完全にキーブレードで体と心を向こうで切り離したはずなのに普通のハートレスみたいに私の存在が消えないのはなぜ?
ライトハート。私はいったい何者なの?
私の知るアンセムの記憶は、
【心を切り離された時】
その感覚だけだ。
その前も後のことも全く覚えていない。ホロウバスティオンの城も、一度見れたから知ってると思ったんだ。
「もしかしたらレオンたちは知ってるのかな? 昔の私のこと……」
帰っていろいろと話がしたい。
「やっぱり帰りたい、向こうの世界に」
いろいろやりたいことを考えているうちに森が開けた。そこには花畑が広がり向こうには――。
「あのお城、知ってる! ええと……鏡とメイドのハートレスがいた所!」
白雪姫のいた世界だった。
☆
只今幽霊なヒカリはお城の壁をすり抜けてうろ覚えで鏡の部屋を見つけた。
「あれ? 前こんなに鏡あったっけ? カーテンいっぱいあったからかな」
幽霊のヒカリは当然、鏡には自分の姿が映らない。
「そういえば吸血鬼は鏡に映らないって噂があったなぁ~綺麗な顔してんのにねぇ」
正面にある自分の体の映らない鏡をじっと眺めていると。
「?」
少し遠くにある対面の鏡から人影が現れた。
振り返ると、
「きゃぁ!」
誰かの声がした。それと同時にヒカリの背後から気配がして鏡の中に引き込まれた!
そもそも今のヒカリは壁や物でさえ何も触れられないので、自分から体勢を崩してすり抜けたのだと思ったが――そうではなかった。
よく考えたら地面に足がついていないので物に躓くような障害物は今のヒカリにはなにもないのだ。
では、いったい?
改めて声のした後ろを振り返ると、さっきは鏡の並ぶ部屋だったはずが別の部屋に移動していた。
おそらくこれは魔法の鏡で、鏡の向こう側の別の空間へ移動したようだ。
「これって、さっきの歯車みたいに幽霊限定触れられる魔法の仕業?」
「何言ってるのヒカリ? 忘れたの私を?」
「へっ?……私?」
「何あほずらしてるのよ? そんなに自分の姿が見えるのが珍しい?」
目の前にいるのは自分だった。
いやまて。この人、この世界で見たことある!
「か、鏡の中のヒカリさんっ! だよね?」
「ふっ……ご名答! ヒカリ様とかヒカリ殿でもよくってよ?」
「その上から目線、魔法の鏡に違いないわ! でもどうしてこの世界に?」
「どうもこうも――あなたも私も闇の世界に来てしまったからここにいるわけよね?」
「そうか、そうだった。でも私、今は幽霊みたいな感じなのになんで気が付いたの?」
「それは魔法の鏡だからよ、さっきも魔法の歯車壊しちゃったわよね?」
「ぐっ……何でも知ってるヒカリさんはここでも健在なのね」
「それはもちろん! な~んでも答えるわよ?」
そう言ってふんぞり返っている目の前のヒカリは自分の姿でありながらとても楽しそうに笑いかける。この世界に来てから誰にも話ができなかったヒカリにとってはとても嬉しい人物だ。
まあ、見た目はそっくり自分だけど。
「会話できるだけでなく、なんて頼もしい。あ、前みたいに聞いたら答えるだけって事ですよね?」
「そうよ〜聞かれないと答えないからそのつもりで」
「なるほど、やっぱりそうですか」
さっきまでの会話が成り立ってたのは一問一答、質問に答えているだけだったのか。
人っぽい会話するのは自分の性格を移しているだけであってこの目の前の人物は道具としての魔法アイテムなのは変りない
それでも一人で散策してきた闇の世界ではとても心強いアイテムだ。
さて、気をとり直して質問をしてみよう。
(何でも知ってる魔法の鏡。質問の質や有力な答えは自分で引き出さないといけないのだな)
はじめにいろんな検索ワードを考えつかなければそれなりの答えしか帰ってこない。以前よりも旅をしてきて、いろんなことを経験した今の私にはいくつものキーワードを持っているのも同然!
「それではお応え願います! ズバリ闇の世界には私以外には誰がいる?」
「沢山いるわ」
即答だった。
「え? た、沢山ってどれぐらい? あと、どんな人?」
「この闇の世界には消えた星の数ほど沢山のハートレスがいるわね」
その答えに軽くすっ転んだ。
「くっ……この鏡、ジョークも言えるのか」
「検索が大雑把すぎるのよ。けして私のせいじゃないわ」
そう言うヒカリの姿の彼女は楽しそうに笑う。
「うっ……高度な検索を希望します。ハートレスを検索から外して生身の人はいますか?」
「いるわ。ハートレスはもちろん除いて、この近くの人とヒカリの会ったことのある人でいい?」
「おおっ! ありがたいぞ、詳細検索結果!」
賞賛すると目の前のヒカリはふんぞりかえった。
褒めてのびるようだ、非常に扱いが簡単だ。
「近い場所では、さっきヒカリが歯車を壊した時に出会った人よ。さらに言うと、ここの城の中で只今何かと交戦中。名前はアクア」
「アクア……知らない人だ、でも崩れたときに無事でよかった」
「姿見せる? さっき鏡の前にいたから登録済みだよ?」
思った以上にこの鏡はかなり高性能のようだ。
ヒカリは感心しつつも首を横に振った。
「いい、いらない。肖像権侵害だもん。それに私幽霊だからきっと気が付いてくれないよ。無事ならそれでいい」
私以外、姿が見えないのは少しずるい。手がかりがあったとしたら別だけど、それより他の人の情報が欲しい。
「それもそうね。話しかけても気がつかないわけだし……そのことだけどさ、ヒカリみたいに幽霊みたいになってる人がいるのよね」
「私と同じってこと?」
「一人は正確には違う。もう一人は同じ」
「二人もいるの?」
「最初の正確には違うって人。ヒカリは会ったことがないわ。名前もわからない」
「……わからないって?」
「存在していない」
「名前のない人?」
「今の時点ではね」
「生まれる前の子、かな? もう一人のほうは?」
「リク」
「ん……んんっ? もう一回!」
「リク。ヒカリと同じように心と体が切り離された存在で闇の世界に迷い込んできている」
「……そうだった」
アンセムに乗っ取られた後、リクはここにきてしまったのか。今の今まで自分のことしか頭が回らなかったことに気が付く。
「あ~~! ソラはなんとかできたのに~~! なんで、私はそのことに気が付かなかったのだろう! ごめんリク!」
頭をかかえてうずくまり叫ぶヒカリ。
隣のヒカリはそれをしゃがんで眺めていた。
同じヒカリのくせにドライな奴だ。
(魔法アイテムだからしょうがない)
「そんなに自分を卑下すると悪いことが起きるわよ? 闇の世界はそれが命取りになる」
「検索してないことまで余計にしゃべるんじゃない!」
「検索主のメンタルも考える優秀な機能も付いたのにいらないというのね……どうする? まだ検索ヒットした人居るんだけど」
「きっ……聞きます。名前だけ」
傷心のヒカリは投げやりに答えた。
「あとは、近くではないけど……あなたの相棒のミッキーね、それと――」
目の前のヒカリが動きを止めた。
さっきまでの楽しそうな動きが無くなったため、なにか悪い予感がする。
「ん? どうしたよ、ヒカリ様?」
「この人は……ヒカリには刺激が強い」
「へっ? なにそれ? 検索結果でアダルトに引っかかった? センシティブな内容が含まれるってやつ? 閲覧注意?」
「そんなとこ、どうする、聞く?」
あっさりと言うヒカリが妙に恐ろしい。
「気になるけどアダルトにツッコミが来ないってことは……今回はそのメンタル機能に免じてやめておくわ。これ以上心が痛むのは耐えられないし。なにより知らない人の個人情報を聞くのは野暮ね」
『私はソラの姉じゃない』
ついさっきまで光の世界にいたときの衝撃の真実くらいの内容だったら今の自分はもう許容オーバーだ。
「そう言うと思ったわ」
もう一人のヒカリは笑いかけた。
まるで『何があっても今まで通りの私はなにも変わらない』と元気づけているようだ。
それに答えるように私は不敵な笑顔で目の前の自分に付け加えた。
「でも、場所を教えて。気になるから会ってみる」
その答えに意外そうな表情を見せる。
「個人情報といったわりには会いに行くのね?」
「検索結果がすべてじゃないのよ? それに真実は人に聞くよりも自分で解釈したい。最悪な自体ほど自分でどうにか納得したうえで決めるわ」
今までの状況ではこれが最善だと思う。
私がずっと信じていたものが覆される衝撃に比べたら答えが断定されるより自分の目で見てから考えたい。
「それがあなたの答えだというのね……了解。もうここに戻れないけど魔法の鏡にもう一度入ればその人の所へ連れていけるわ」
「ありがとう。最後にミッキーどこにいるかも教えてくれない?」
「扉を見つければそのうち会えるわ」
「その扉が見つからないんだけど?」
「そのうちって言ったでしょ? 見つかるわ」
「そのうちですか~まぁいいや」
そう言ってヒカリは鏡に手を触れる。触れたらそこにはやはり感触はなくすり抜けられた。
どうやら別の場所に行けるようだ。
確認が終わるとヒカリはもう一人の自分に振り返った。
「あとさ、ヒカリ様はずっとここにいるの?」
「あなたの頑張りで私は元の世界に戻れる、かもね?」
「かもねって……ヒカリさん何でも知ってるんでしょ?」
「答えは一つじゃない時もあるわ。可能性が交差している。私にもわからない」
「なんか変わったね。魔法の鏡様は」
「変わったのは私じゃないわ、あなたよ」
「そう、なのかな?」
「少なくとも初めて出会った時よりはね。魔法の力が強い」
「なるほど、魔法力でスペックが上がる系魔法道具なんだ」
「そうよ!」
ふんぞりかえるヒカリ。
「あはは便利な世の中になったものですね」
「時代と技術は日々進歩するものよ」
少し考えてヒカリがツッコミを入れた。
「いいや! 正確には私の魔法の力の話だよね? 修行の時間とアビリティの賜物ですよね⁉」
「そうとも言い換えられるわ」
「調子いいんだから……あ、そうだ」
ヒカリは魔法の鏡の自分をじっと見つめる。
「なによ? 鏡に映らないからってそんなに自分の姿が名残惜しいの?」
じっと見られて不愉快そうだ。
「前に出会ったとき言ってたよね? ヒカリは綺麗だよ、でもそれは今じゃないけどって」
「ああ、言ってたわね」
「ロックセプターの無い今の私は、その……綺麗になったの?」
この前、鏡はこう言っていた
『ヒカリはこれから知ることになる』
『それがカギ、でも、それは鍵の対になるもの』
そう言ってロックセプターを指差したのだ。それは自身の存在がゆらぎ始めた今なのだろうか。
「今のアナタはキレイだとはまだ言えないわ。でもこれだけは言える。杖の無くなったあなたは、気がついていないだけ、あなたの可能性を」
「可能性って?」
「あなたらしさっていうのかしら、ぶっちゃけ、まだ決まっていないわね!」
「それって何でも知ってるヒカリはわからないのね?」
「だ〜か〜ら〜運命はまだ変えられるってことなのよ! それに、魔法の鏡の答えは絶対よ! 今は魔法使えないヒカリさん?」
最後の言葉で二人のヒカリは吹き出して笑った。
その体自体魔法である魔法の鏡と、鏡に写らない魔法の使えない今のヒカリ。
同じ姿なのになんだかいろんな要素がありすぎておかしい。
「ほんと上から目線なんだから……もう行きます。じゃぁね!」
「ほら、さっさと行け……あ、今気がついた。この世界にマレフィセントもいるから気を付けてね」
「え、ちょっとまってどういうこと~~⁉」
振り返るヒカリ。しかし、彼女の姿は見えない。
「隠されてたけど検索で引っかかったのよ? 私ホント優秀でしょ?」
「そのスペックの高さは元はといえば私の魔法の力なんですけどね!」
念を押すようにヒカリが叫ぶが、その時には別の空間に降り立った直後だった。