King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
――あきらめちゃダメだよ――
声が聞こえた。
薄れゆく意識がその声で覚醒する。
目を開けるとぼんやりとした視界の中、誰かがいた。
瞬きするとわかった。
ヒカリより少し背の高い青年。
ミッキー。
しばらく見なかったのに、なんでか目の前にしてみると、彼がいたのがつい昨日のようだ。
ヒカリは何か言い出したかった。
しかし水の中のようにここでは声が出せない。
ミッキーはヒカリの手に持つキーブレードを眺めている。
ヒカリの手に持つソレはさっきまで白いキーブレードだったのに今はミッキーの使っていたキーブレードに変化していた。
「そうか、僕の姿はヒカリと闇のキーブレードの力だったのか」
ヒカリがよく知る青年はいつものように微笑みヒカリの持つキーブレードに触れた。
「ありがとう。僕はこの姿をキーブレードに返すことにするよ」
(どうしてもこうしなきゃいけないの?)
これは私の心の声。ミッキーは頷く。私の声が聞こえるようだ。
ミッキーがキーブレードに手を触れると触れた所から彼の体がしだいに輝き出す。
(待って! 消えちゃ嫌!)
ヒカリがキーブレードを引っ込めようとする。
ミッキーが手を離しても輝きは消えない。
「僕が元の姿に戻るだけだよ」
(でも!)
「元に戻った後の記憶はどうなるのかわからない。だけど僕はきっと君を――」
言い終わる前にミッキーが輝く粒となって消えた。
感傷に浸る間もなく、ヒカリは覚醒する。
暗い闇の水面に溢れる光。
水面が一気に輝く。
そして闇の中から光の柱が上がり頂上からヒカリが飛び出した。
柱の頂上から舞い上がる。体がゆっくりと落下する。上空で影の魔人を見下ろすヒカリ。
「わたし、見落としていた――」
つぶやくヒカリ。
「光は闇とともにある。使えないんじゃない……少しやり方が違うだけ!」
頭上へ掲げるキーブレード!
柄の真下に付けられた金色の鎖からシャランと音がする。丸い耳のようなマークがヒカリの放つ輝きでキラキラと反射した。
「光を生み出せ! リバース=ホーリーバースト」
ヒカリの頭上の空に大きく描かれた魔法陣。
いつもの魔法陣にさらに二重に重なって描かれている模様。外側の陣からは黒い闇が吸収され、内側の陣に流れるにつれて満月の光のように中央の魔法陣が輝く。
真下にいる黒い巨体は月の光を浴びるように柔らかい光に白く照らし出される。
魔人は頭から黒い砂糖粒のように光に溶けるように分解されて次第に形が崩れていき――最後には足先まで残らず消えていった。
空に輝く巨大な魔法陣が消え去ると黒い盤上を埋めるように壊れた島が次々と輝き修復されていく。
そこへゆっくりと地面に降り立つ少女が言い放つ。
「気が付かなかったなぁ、さっきまでこのキーブレード、キーホルダーが無かったのよね」
さっきというのは洞窟で木刀からキーブレードへ変わった時である。
「これで闇のキーブレードがもとに戻った……のかな?」
正直言ってあまり実感がわかない。
わかないけれど――。
ミッキーはもとの姿に戻ったのだ。
「ちょっと待ってよ……まだ実感が、わかないんだけど――」
あまりに急な出来事で今更になって理解してきた。光の魔法を取り戻した私がキーブレードを手にして、そのおかげでミッキーがついさっき出てきて、実は奥底に眠っていた私の中のほんの少しだけあった闇の力がさっきのミッキーで――。
このキーブレードはそのミッキーのおかげでたった今、本物の闇のキーブレードになったわけで。
つまり――。
あの、いつも眺めていた人の姿のミッキーは、
もうこの世界にはいない。
そういうことなんだ。
なんだか、今更になって闇の世界に一人で居ることに寂しさを感じた。
「そんなの、ずるいよ……探していたのに、ずっと一緒だったっての?」
いきなりいなくなってしまったのが悲しい。
知らなかったのが悔しい。
でもずっと見てくれてたのは嬉しい。
彼の心はキーブレードと一緒に、私を守ってくれてたんだ。
「こんなことだったら……わっ⁉」
感傷に浸るまもなく島全体が揺れ動き大きな黒い茨がヒカリの周囲を覆い尽くした。
その間、島の空は夕暮れの色に変わる。
南国独特の木々や植物が白く石化したように色を失っていった。
「今度は森林破壊⁉ しかも島が茨だらけ! 世界に優しくないわよ!」
「嘆くのはまだ早い、お前がハートレスと遊んでいる間、私は王とリクを見つけたよ?」
マレフィセントの声が聞こえた。姿は見えない。
「リク! それと……本物のミッキー!」
「橋のかかった小さな島においで。お前とお前の持つキーブレードと交換だ。それとも、お前が先に私に倒されるかだね」
黒い茨の間からハートレスが現れた。
ヒカリは金色のキーブレードを握るとふたたび白いキーブレードへ変化した。
「選択肢はもう一つ! あんたが私に倒されるも入れておいてよ! バースト!」
白いキーブレードの先端から光の玉が現れた。
フルスイングで打ち出す光の玉が黒い茨を巻き込むようにして飲み込んでいく。
それは次第に大きくなり立ちふさがる黒いものすべてが白い灰と化す!
一掃されるとまっすぐ道が開けた。
「森林破壊とはよく言ったね、その力お前も似たようなものじゃないか」
マレフィセントのツッコミが何処からともなく聞こえた。ヒカリは得意げに言い放つ。
「邪魔なものを伐採しただけです!」
「まぁいいよ、すぐに来るんだよ」
☆
島の孤島へやってくるとパオプの木の向こう側に闇の扉があった。茨が向こうにも伸びているのでマレフィセントはこの中だろう。
中に入る。天地のわからない空間だ。
闇の世界ではなんてことはない。ヒカリは躊躇なく空を飛び茨をたよりに飛んでいった。
闇の力が強くなるところへ進むと茨は空間を覆い尽くすほどだ。
先へ進むと空間が変わる
「これは……!」
赤い空に登る大きな黒い月。空の上には鏡で反転したように別の地上が見えた。
そしてその天上に映る世界にはさっき倒した黒い魔人達が……沢山!
「さっきの魔人がいっぱい……!」
あまりにうごめく闇の住人にヒカリは天上の世界に身じろぎするも、リクとミッキーを助けるべくとにかく目の前の茨の茂る黒い古城を睨む。
城中を覆い尽くす黒い茨は生きているようにうごめいている。
「ここまで来たんだ、行くしかない!」
ヒカリは城の内部に入り込んだ。
「ここ、知ってる。オーロラ姫のお城……」
内部は知っている。ヒカリは大広間へ向かった。
扉を開けるとマレフィセントが玉座に座っていた
「やはり、茨は必要なかったようだね」
「私にかかればセキュリテイなんて完全に機能はしないわ!」
不敵な笑顔で答えたヒカリはマレフィセントにキーブレードを突き出した。
「私は戦いをしたいわけじゃない、そのキーブレードとお前の心があればこの二人は開放しよう」
マレフィセントの頭上には茨に捕らえられたリクと丸い耳の本物のミッキーが居る。
「まず二人を開放して!」
「それじゃあ私の分が悪い。一人ずつ……リクをさっきの島に置いていくからキーブレードを床に置くんだ」
「……わかった」
ヒカリは広間の真ん中にキーブレードを地面に置いた。白いキーブレードが金色のキーブレードに変わる。ヒカリが広間の端へ移動した。
「では、王は……」
「闇の世界のキーブレード、か」
広間に誰かの声が聞こえた。
「なっ⁉ お前は、一体?」
マレフィセントが驚く。
広間の中央。キーブレードの真上から人影が現れた。
「世界の崩壊、その前に最強の力を持つ者と戦う事こそ、私の望み……それを叶えるためここに来た」
「セフィロス。あなた、闇の世界に居たのね」
驚くヒカリ。
このどうしようもない状況のさなかで混乱する。
これは吉と出るか凶と出るか――。
「娘……そうか、あのときの少年か。だが、今のお前の力なら、前よりも楽しめそうだ」
セフィロスは長身の刀を抜きヒカリへと切っ先を向けた。
「武器を取れ、我が名はセフィロス。いさ尋常に勝負しろ!」
「私は、謎の少年改め……ヒカリ! なんだかよくわかんないけど、さっさと倒してミッキー助けるんだからね!」
ヒカリはマレフィセントを警戒し広間の中央に置いたキーブレードを拾い直す。白いキーブレードへ変わった。
「まぁ、余興には丁度いい。私は眺めているよ」
いきなりの展開にマレフィセントは玉座に座り直した。
セフィロスとヒカリは武器を構える。
ちらりとセフィロスのむこう側を見やるヒカリ。
これが戦闘の開始だった!
まばたき一つで目の前に現れる刀の切っ先!
「っ……せいっ!」
ヒカリはそれを払った。
(キイィン!)
澄んだ金属音が鳴り響いた。
「我が最速の突き。あの瞬間だけで見切ったのか」
驚くセフィロスにヒカリは不敵に笑む。
「よかろう……参る!」
長い刀がヒカリに次々と繰り出される。
それを全く臆することなくまるでゆっくりと時が流れているようにヒカリはすべてかわしていく。
実際ヒカリにはゆっくりと見えているのだ。
今この瞬間。この状況に置いてのヒカリは驚くほどの飛躍を遂げている。
さらに顕著なのが魔法だ。
魔法の力が彼女に対してのすべての事象においてセフィロスとの力の均衡を保つように、いや、それを上回るように優位にしていた。
「さっき言ったお言葉、忘れたのかしら? 最強の力を持つのが誰だって?」
すべての斬撃に対してヒカリは防ぐことなく様々な魔法ではじき返した。物理攻撃に対処する魔法なんて守りの一手以外ないものだが、彼女は違った。
目くらましとまでは言わないが、長い刀身の切っ先を魔法が貫通していく。そのたびに火の粉や氷の粒。はじける光を利用して間合いを捕らえ、更に攻撃魔法を繰り出す。
まるであらゆる武器で銃撃をされているようだ。
「フッ……愉快だ」
セフィロスの黒い翼がバサリとはためき構え直す。
「魔法はお前のほうが上か、ならば……?」
刀を構えるセフィロスに遠くで間合いを取るヒカリはリボンをほどきハラリと地面に落とした。
「なんの真似だ?」
「なんてことはないよ、このリボンがボロボロになるのは嫌だなぁ……ってね」
「負けを認めるのか」
「違うよ、オシャレ気にしないで戦うためだって」
どうやら観念して魔法の連射をやめて間合いに踏み込んでくるようだ。
「言ったな……本気を見せてもらう」
セフィロスが初めに動いた。
ヒカリは飛び上がって身をひねり、そのまま上空を飛び回り滑走する。
「本気?……嫌よ! リボンはフェイク! 私にはまだお隣のラスボスが待ってるんだもの!」
ヒカリはそう言ってマレフィセントの真後ろの玉座の壁にキーブレードの光線を放つ。
すると壁に輝く鍵穴が現れた!
「この世界の鍵穴か!……なぜ?」
マレフィセントが動揺し鍵穴を眺めていると。
(ガシャン!)
盛大な音がした。
さらになにかの機械の爆音が奏でられる。
鍵穴から光が溢れ、壁が突如破壊される。
壊してきた物がヒカリとセフィロスの間に現れた。
その音でマレフィセントの横に捕らわれていたミッキーが目を覚ました。
「僕は……なぜこんなところに?」
「なっ……!」
爆音でマレフィセントはそれに気が付かない。
それよりも鍵穴から現れたのは黒い大きなバイクに乗った人物だ。
「どうやらアタリだったようだな」
「お前は……クラウド」
「会いたかった、セフィロス。お前とその横にいる、お前に用がある」
「え、私のこと?」
ヒカリに向かって『お前』と言うクラウドにびっくりする。
クラウドはこちらにやってきて小さいあるものをヒカリに渡した。
「セフィロスと互角に渡り合える少女が居たらマフ……武器職人からこれを渡せと言われていた」
「これは……何?」
小さな二つのキーリングだろうか。
形はほぼ似ている二つの金と銀の細かな装飾の施された金物細工。
二つとも金属の輪で繋がれていて取り外せない。
裏を見るとヒカリは気がついた。
鍵穴が見えた。
「これは、ロックセプター?」
「馬鹿な! 世界の扉の錠前は七人のプリンセスの心で消滅したはず……! なっ、王がいない⁉」
マレフィセントがさらに動揺する。
「僕はここだ! 魔女マレフィセント!」
本来の姿のミッキーがヒカリ達の前に飛び出した。いつもとは違う青く星の装飾のされたキーブレードを持ちマレフィセントの前に突きつける!
「ミッキー!」
ヒカリが丸い耳の彼に向かって叫ぶ。
「助けてもらったようだね、ありがとう……それと君はいったい?」
「えっ……?」
ヒカリが動揺した。
「スキあり!」
マレフィセントが叫ぶとミッキーの足元からハートレスの大群が吹き出した!
「う……わあぁあ〜!」
「ミッキー!」
ヒカリが叫ぶ。
ハートレスの竜巻が城の外へ飛び出していった。
その隙にセフィロスは翼を羽ばたかせ闇の扉を開けた。
「まて、セフィロス!」
クラウドが叫ぶ。
セフィロスはヒカリへと何かを投げた。
「ラスボスか……受け取れ」
「なっ……⁉」
わけもわからず受け取るヒカリ。
受け取ったのは先程ほどヒカリが置いたリボンだったが、なにか結び付けられている。
それを確認した後、もう一度見上げるとセフィロスは消えていた。
「俺の仕事はここまでだ、また、あいつを探さないといけない。お前は目の前の敵と戦うしかないようだ。せいぜい頑張るんだな」
ヒカリはクラウドの顔を覗き込んでみたが、目を合わせてくれなかった。
観念したヒカリは深くため息をついて気を取り直したように明るく言い放つ。
「あ~そうですか。加勢してくれないのならもう行ってください! 私は一人でも大丈夫ですから」
再会の感動もなしに退場宣言をする元相棒にありったけの不満をぶつけまくる。
それでもクラウドは完全に無視しバイクにまたがる。すると、思い出したように言う。
「余談だが……お前のその手の武器と似たものを持つ少年がさっきまで別の場所で戦っているところを見た。世界の終わりの狭間だった」
「あ、それ私の弟! よかった。向こうで無事なんだ。そっか、来たからにはせいぜい頑張れってとこね~あ、私ね……名前、ヒカリっていうんだ」
あらためて気恥ずかしげに自己紹介する。
「ふん、興味ないね」
「そっか……」
ヒカリは少ししゅんとする。
この対応は、初めて出逢った時に逆戻りか。
わたしはクラウドのことは知ってるのになぁ。
人を憂うような表情の彼女に彼は何かを考え付け加えた。
「……興味ないと、言いたいところだが、さっきはセフィロスと戦っていたようだな。お前の力には目を見張るものがある」
「ふふっ、素直じゃないな〜お兄さん! いつか、相手になるよ?」
不敵な笑顔で答えたヒカリはいつもの調子が出てきた。
「俺の名はクラウド、いずれまた会おう」
クラウドは微笑みバイクを走らせて消えていった。
わかってる。ミッキー……王様もクラウドもなんてことはない、少し考えてみたらすぐ分かる。
私が『人ではない力』を身につけるたびに私に関わる多くの人の中の記憶がなくなっていくのだ。
ミッキーが私のこと知らないって言ったからかな、クラウドの『また会おう』は全て忘れているはずなのにきっと彼なりの優しさなのだろう。
私がここに来る直前。
クラウドに耳打ちした言葉。
マフに頼んだ金と銀のメダル。
それが完成したらトラヴァースタウンの鍵穴へ投げ入れろと言ってたはずなのに――彼はこれをわざわざ届けてくれたんだ。
光と闇のはざまにある鍵穴へロックセプターがあれば、私のところへやってくるはずだと踏んだのだが――クラウドがそこへ飛び込んできてくれたのだ。きっと名も知らぬ私の事をこの目で確かめたかったのだろう。
「まったく『興味ないね』って言っても『興味しか無い』ってのは分かってるよ!」
もうなくなった鍵穴を見上げるヒカリはフフッと笑みがこぼれていた。
「ええい、交渉は決裂だ! 黙って見ていればまた誰かが増えそうだね!」
マレフィセントがヒカリへと杖を向ける。
ヒカリはくるりと魔女へ向き直る。
「そうでした。では、改めまして……うるさいのが居なくなったから、仕切り直しますか!」
ヒカリはセフィロスから受け取ったリボンの中を確認する。
片翼のチャームだった。その羽がハートの片方にも見えるのでライトハートと言われた自分におあつらえ向きだと思わず笑う。それをポケットにしまった。
真っ赤なリボンを頭のてっぺんに結び直し、クラウドから渡された二つの錠を握りしめると細長い光が輝いた!
不敵な笑顔で微笑みながら目を閉じる。ヒカリにとってはなんだか懐かしい魔法の力を感じる。
「やっぱり、キーブレードじゃ私らしくないわよね!」
その手に銀色の杖が現れた!