King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
不敵な笑顔で微笑みながら目を閉じる。
ヒカリにとってはなんだか懐かしい魔法の力を感じる。
「やっぱり、キーブレードじゃあ私らしくないわよね!ロックセプターシルバーバージョン!」
銀色の杖が輝き現れた!
「うーむ、五個のメダル製だから、名前はファイブライツかな?」
全体を眺める。大きなハート型の銀色に輝く杖。
片方に幅の長い赤いリボンがはためいている。
その絵柄には訪れた世界の鍵のモチーフが描かれていた。どうやら前の杖のたくさんの鍵にあたる。
リボンの絵柄を軽くなぞると、今まで使ってきた杖に一瞬で変化した。もちろん金のセプターも同様に一瞬で姿が変わる。
「金の方は安易だけど、ゴールデングロウと呼称しますか。後でマフにちゃんとした名前聞きたいな」
金色の杖は一見して銀色と同じ形だ。違うとするなら金色で棒の部分がヒカリの背と同じくらい長い。いつかの目が見えなかったときに使った攻撃用の棒を思い出した。
ヒカリが新しい武器を眺めているとマレフィセントの先制攻撃が放たれた。観察を中断しヒカリは戦闘態勢に入る。
「ダークファイガ」
無数の黒い炎がヒカリの周りを焼き尽くす!
「フロストフラワー!」
炎が水蒸気となり更に冷気を帯びて氷の花が咲く
更に氷の刃がマレフィセントへ向かい攻撃する
「サンダガ」
氷の花が壊れそのまま帯電した電気がヒカリを襲う!
「ソニックブラスト!」
風の矢が無数に集まりヒカリへ向かう雷が反れて風の矢がマレフィセントに数本当たる
幾度かの魔法の打ち合いであたりは黒いモヤで覆われている。
「次の攻撃が来たら、きっと向こうも魔力切れ、その後は実力行使のみ!」
集中力で研ぎ澄まされたヒカリは至って冷静だった。冷静がゆえ、魔法の攻撃以外の選択肢も考えていたくらいだ。
しかし、マレフィセントの攻撃は途絶えている。
黒いもやが晴れる。マレフィセントは闇の力に身を焦がしていた。ヒカリは思わず身じろぐ。
「マレフィセント!」
「お前のあふれる魔力と繰り出す速度。まさに知識の宝庫! おまえの力を凌駕し、私こそが力の象徴に君臨する! そのためには、もはや、この体では力が足りない……闇の力よ! 我に力を! その真価を存分に発揮せよ!」
マレフィセントが突如飛び上がり城の壁を破って外へ消えた。
「闇の力が強くなっていく……このままだと危険だわ!」
ヒカリは地面を蹴って空を飛んだ。外へ出ると暗雲が立ち込めて反転する世界の空が見えなくなっていた。
「ミッキー、無事かなぁ……」
この場所に再びやって来ないのならもしかしたら反転している世界に飛ばされてしまったのかもしれない。
城の中心の尖った屋根に降り立ちあたりを見渡すとなにかの鳴き声が聞こえた。
城の一番高い塔に黒い竜巻が大きくなって渦巻いている。
黒い竜巻から大きな魔物のような叫びが聞こえた。黒い雲がかき消され――ドラゴンの姿へ変わったマレフィセントが現れた!
黒いドラゴンは茨を背に纏い、鎧で身体が固められていた。ヒカリを見つけると竜の口から緑色の炎が彼女めがけて吐き出された。
「守りを!」
ヒカリは金色の長い杖に変えて長い杖を手放す。するとヒカリの手の前で浮き上がり空中で大きく回転。杖がくるくると回り続けると炎が到達する直前にバリアを張った。
さらにヒカリは回転する杖に向かって片手を突き出した。
「光よ!」
魔法陣が現れ次いでやってきた死角のない茨の一斉攻撃を光でかき消す!
はじめの攻撃から次の予測をする。今のヒカリには未来予知の力が備わっている。次の行動もお見通しだ。
なんだかセフィロスと戦った所からこの能力が開花したようだ。もしかしたら先ほどもらった片翼のアクセサリーのおかげかもしれない。
茨の攻撃とドラゴンの炎がやってくるが空中に出現させる魔法の足場と飛行で高速で回避する。
ヒカリが攻撃をかわすことによって城がどんどん破壊されていく。
「私はいいけど、この城と、城下町が……!」
壊されていく景色を眺めると何かの思念が流れ込んできた。
「ここはマレフィセントの居た世界……ってことは! これはマレフィセントの思念?」
これは、いつか見た景色と、その時の思い。
――歓迎されるお姫様――
力あるものは忌み嫌われ敬遠される。
「あれは、マレフィセントの思い、心の声だったの?」
破壊されていく城下町から上空のドラゴンへと振り返るヒカリ。
城の高い塔へ陣取るドラゴンの姿は孤高の存在というよりも絶対的に拒絶する破壊の力にしか見えなくなっていた。
「マレフィセント! もし私の力を奪っても、すべてを拒絶した今のあなたには使いこなせないわ」
ドラゴンを見上げるヒカリの体は金色に輝いた。
そしてドラゴンへ向かい一直線に飛び立つ。
茨の束をかいくぐり、炎を魔法で跳ね除ける。
雷をバリアで受け止め、マレフィセントドラゴンの目の前に飛び出したヒカリが金のロックセプターで魔法を唱えた。
「われの前に武器を捨て心念を示せ! ロックコネクト!」
ドラゴンが光の球体に包まれた。
その中にヒカリが入り込む。
白く輝く空間でドラゴンではない人の姿に戻ったマレフィセントがヒカリの目の前に現れた。
ヒカリが魔女に言う。
「この中は入った者の心の世界よ。武器もなく魔法も使えない、心の強さが示される。私はあなたになんか負けない!」
「言ってくれるね! たった一人で戦うおまえに誰かが見ているとでも? 私はこの力で存在意義を示す!」
「マレフィセント。あなたには見逃している物がある。それは……人とのつながり」
「つながりだと? すぐに忘れられる記憶がおまえにどんな力になる? そんなのはおまえの綺麗事、うぬぼれさ!」
マレフィセントの言葉で魔法の結界外でドラゴンの叫びが聞こえた。
結界が揺らぐ。それでもヒカリは叫んだ。
「みんなが、私のこと忘れたってかまわない! 私は覚えている、私には大切な一部なんだ!」
「大切な一部だって? 素性も知らぬオマエのことなんて、他人は関わってくれないよ!」
「それならば、私が歩み寄るだけ! だっていま、私が私でいられるのはみんながいてくれるからなんだ! 忘れ去られるなんてイヤだよ……だけどね、今の私にはこれしかないみたい」
マレフィセントを見つめるヒカリ。
その瞳にはマレフィセントを写していない。
どこかの彼方を映し出す。
「おまえは? 何を見ている……私は」
マレフィセントが動揺する。
おまえはいったい何を言っている?
私は力を手に入れ頂点へ立つ事で私の名を知らしめる。
まさか、おまえは名を忘れ去られ――その力を手にするというのか?
それでは、私の、望みは――。
我に返るマレフィセント=ドラゴン。
ヒカリの結界はすでに消滅していた。
ドラゴンがヒカリに咆哮する。
ヒカリは臆せずドラゴンを見つめていた。
彼女のまとう輝きからなにか大きな力を感じた。
目を閉じて唱えるヒカリ。
「世界の心たちはそこに住む人々には姿を見せない……だけど世界の心があるからこそ、その世界にはいろんなものが生き続けられる。それがすべてを見守る世界の中心」
金色の杖が輝くと、ヒカリの瞳が開かれる。
光を受けて金色に反射する。
「そこには光も闇もあるけど、関係ないーー共にあるから、そこに初めて形が分かるんだ!」
輝きが消えるとヒカリの瞳が金色に変わっていた。さらには長く、黒い髪が白く染まる。
「おまえは……なぜ闇の力を⁉」
ヒカリの容姿の変貌に驚くマレフィセント。
「光でかき消せない闇は、同じ闇で塗り替えればいい……!」
ヒカリの手には磨かれた銅のような暁色のロックセプターが握られていた。
「これが、最後の杖。リバース・ダークネス・セプター……闘志も魔力もすべて忘れ去られ消えていく衰退する終わりの力」
「なん、だって……そんなことが!」
呪文を唱えることなくヒカリは暁色の輝きをドラゴンへ向けると真っ黒い魔法陣がその下に現れた!
大きな咆哮と共に吸収されていく。闇の力――。
それはすぐに輝くことなく消えていった。
魔法陣が無くなるとドラゴンは力なく急降下して城の中へ――玉座の広間に落ちた。
マレフィセントは竜の姿から魔女の姿へ元に戻った。それだけではない。マレフィセントの魔力が周囲の闇へと流れていっている。
城の大広間に降り立つ白い髪のヒカリ。
起き上がることもできず見下ろされるマレフィセントが叫ぶ。
「どうしてだ⁉ お前の半身はいまだ向こうの世界だというのに!」
「私は光側の勇者じゃないし闇に住まうものでもない」
マレフィセントはヒカリを見やる。自分を見つめる瞳はよく見ると金色ではなく燃えるようなオレンジ色だとわかる。
暁のような瞳は朝と夜の狭間のようだ。
「われは光も闇もすべてを担う者。世界の心」
抑揚のない声で発する少女は神々しさで溢れていた。
「お前自身を使い、世界の心を宿したというのか……お、の、れぇえええーー!」
闇の中へと沈んていくマレフィセントの体。
マレフィセントの叫びと竜の咆哮の二重奏が響く。
最後の力で竜に変貌するも、黒い雲が大きな雲に覆いつくされるように、竜の巨体は闇に飲み込まれ、雷雲をともなって次第に小さく消えていった。
残ったのは地面に映る人の影。
ヒカリがそこへ歩いていく。
白い髪は黒く変わり、杖の暁色の輝きは消えて金色の杖に戻る。ゆっくりと目を開けたときには、青い瞳。いつもの彼女へ元に戻った。
マレフィセントの影へ語り掛ける。
「あなたの敗因は力と闇にこだわること、それだけよ。そんなあなたには世界の何もかも、全てを受け入れることはできない」
地面に残る黒い影から、かすかな声が聞こえてきた。この世界へ来たときのヒカリと似たような存在だ。
「なぜ、お前はいつも邪魔をするのだ!」
「いつも?」
「あたしはね、あの城で出逢った時のお前の顔を忘れたことはないよ」
「城? 私が初めてあんたに合ったのはトラヴァースタウンでリクと出逢った後のはず?」
「お前は思い出せないのかい? あの三人を!」
「?」
「キーブレードを持った三人を忘れたのかい?」
「キーブレードの三人?」
「おまえは……そうかい、あの時のおまえじゃないのか。ならば知らないんだね」
「……」
「知らないというのなら……いいかい、一度だけ言うよ。おまえは、二度同じ運命を辿る! 選択次第では生き残るか消えるかはわからないよ! 今のこの私のようにね! ははは!」
「うるさい!」
マレフィセントの影に向け光を放つ。
闇をかき消したのではない。
地面の光が反射して影が人の形を形成させる。
「なっ……⁉」
「光の世界の道を開けた。闇の世界に留まればあんたは消える。でも、光の向こうへいけば……そのうち助かる」
「な、なぜ、私を助ける⁉」
「そのご忠告、ありがとうございますってかんじかな?」
「……」
ぐっとこらえるマレフィセントの声にヒカリはいつもの不敵な笑顔ではなく、昔を懐かしむような表情をしていた。
「でも、わたしができるのは思念を向こうに届けるだけ。せいぜいきっかけだけよ? あとは自力でなんとかすることね! 昔馴染みの仲間があんたのことを忘れなければ、復活できるわ」
「……この選択は後悔することになるよ」
「困っていたらお互い様じゃん! それに、なんでかな。私が知らない、あんたの知ってる私? ――のこと覚えてくれている人には消えてほしくないってだけ」
しばらく見つめるヒカリ。
光に浮かぶ影はしばらく唸っていたが最後は長いため息が聞こえた。
「まったく……いってくれるね。お前は本当に甘い。躊躇なく切り捨てるリクのほうが私は好きだね」
「お会いにくさま、リクはあんたのこときらいだと思うよ」
「あの子の性格ならそれもひっくるめて私は好きなだけさ」
「実らない片思いほど切ないものね」
「……全ての記憶を天秤にかけたお前に言われるとさらに気分が悪くなる、もうお行き」
「……あなたもね」
黒いモヤは光の壁に吸い込まれていった。
「ほーんと、私ってば、いい人なのか悪い人なのかわからない人たちを助けているなぁ〜。まぁ、困ってたら助けるのが筋ってもんよね!」
くるりと回れ右をして伸びをするヒカリ。
床に放置していた闇の世界のキーブレードを拾い上げる。
「さて、これを渡さなきゃ終わらない……最後の決戦へ行こうじゃないの!」
リク、ミッキー。
これからあなた達に会いに行くことが、直接、武器を交えて戦うわけではないが私の中では戦いに挑むくらいの葛藤だ。
でも行きたくないと言ってられない。
もう、時間が無いんだ。
☆
ミッキーはどこかへ飛ばされてしまったがキーブレードを探しにきっとあの場所へ戻ってくるはずだ。闇のキーブレードの出現したデスティニーアイランドへ。
本当はミッキーに直接渡したかったが嫌でもあの場所へやってくるだろうからこれを元へ戻しに行こう。
オーロラ姫の世界の城から島へ戻ると入ったのは孤島からだったのに出口は船着き場へつながっていた。
オレンジ色の空。
雲は時が止まったように流れず、とどまっている。黒い茨が消えた以外特には変わりがなかった。
孤島の橋を渡ると腰の曲がったパオプの木のそばに立つ人影が見えた。
なぜだかこの場所は景色を切り離したように何も壊れているところが無い。ハートレスの気配もしない。
さっきまでの戦いが嘘のようだ。
逆光でヒカリにはまだ誰なのか特定できない。
近づくとその人物は声をかけた。
「一度は外へ出たのに、また島に逆戻りか」
振り返る少年。
「リク……」
ヒカリは彼の姿だと気づくと、どんな顔をすればいいのか、とっさに何を言えばいいのか押し黙ったまま見つめていた。
「どうした、ソラ……なんだ、お前か」
ソラと私を間違えるのなら島に居た私を知らない方のリクだ。
しかし、なぜ覚えているのだろう?
みんな私のことを忘れてしまっているはずだ。
「ここは俺とソラとカイリが遊んでいた島だ、俺はここから出て外の世界に行きたいと願ったんだ」
夕日を眺めるあの時のリクは、ヒカリは今でも覚えている。
「ねぇ、もしかしたら空と海はつながってるんじゃないかな?」
「なんだ、何かのおとぎ話か?」
「ううん、ただの質問」
「そんなの誰も思ったことないだろ」
「そういうと思った」
「だが……考えてみると面白いな。だとしたら、俺はこの海の向こうまで行って逆さに見える島を確かめてみたい。お前……ヒカリならどうする?」
ヒカリがお前と言ったリクを睨んだのでリクが改めて名前で呼んだ。
ヒカリはご機嫌が治ったようににっこりと笑う。
「リクが行くって言うなら私はここにいて待ってるよ、誰かが見届けないとそれが確かめられないでしょ?」
「俺にはお前にそこまでされる義理がないんだけどな」
「私が見届けたいだけだよ」
しばらく空を眺める二人。
リクが口を開いた。
「そうか……ソラとカイリだったらその答えは出てこなかったな」
「ソラはともかくカイリも?」
「意外だけど、カイリはきっと俺たちの後ろを近くで見ていそうだからな」
「それもそうだね。子供のはじめてのお使いみたいな? 心配であとついていくやつだ」
「はは、不服だが否定はしない。だからかな、ヒカリがこの島で待ってるって言った瞬間、俺はなんだかほっとしてる」
「恐いお目付け役が居ないから?」
「どこまでお前の立場は偉いんだよ、島の町長かお前は」
「ふふっ、町長さんも心配だから注意するんだよ、ソレに、はじめてのお使いは誰しも見守りたいものよ?」
「ヒカリは本当に俺たちの島に詳しいんだな……」
「私も昔の記憶が混乱してるけど、一応は島にいたことがあるからねぇ~」
「なんで、俺は思い出せないんだろうな?」
「……ソラと似てたから?」
「なんだよ、俺はソラしか目が無かったってことか?」
「違った?」
二人は笑う。
「まだ始まりと終わりなんて線引きはしたくないけどさ、海の向こうを冒険して、そしてついにヒカリを見つけたら俺はきっと島に帰ってくるんだろうなぁ」
「じゃぁ、私はそのためにこの場所を守りながら楽しみに待っているわ」
しばらく話しているはずなのに夕日は全く沈まない。そればかりか風も吹かないし潮の音も聞こえない。ここはやはり私たちの島ではない。
帰りたい。だけど私は――。
「今、俺がここに来れて良かった」
「私も、ここにリクが居て良かった」
しばらくしてヒカリがリクに向き治る。
不思議そうにリクがヒカリを見る。
ヒカリの目はオレンジ色の空に反射して青い目が金色に見えた。
「ねぇリク、お願いがあるの」
「なんだ……?」
「このキーブレードで私を本当の姿に変えてほしいの」