King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「今の私は世界の心の一部なの。私の体にはまだ、光の力が残っているけど、世界が闇に染まりつつある。その前に私を、このキーブレードで開放して、そしたら私の力で世界を元に戻すことができる」
ヒカリが闇の世界のキーブレードをリクに差し出す。元に戻った金色のキーブレードは夕焼けを受けてオレンジ色に輝いている。
「取ってよ、キーブレード。時間がないの」
リクはそれを手に取らなかった。
ヒカリを見つめるだけだった。
「ヒカリはどうなるんだよ」
「わからないけど……きっと、こんなふうに、会話は、できなくなる」
ヒカリが気まずそうに最後の言葉を濁した。
「さっきの話、島でずっと待ってると言っただろ」
「それは嘘じゃない、見えなくなっても、会話ができなくても私は待つもん!」
「待っても来る保証がないのにか?」
「待つって言ったら待つの! 信じてるもん」
ヒカリよりもリクのほうが幾分か落ち着き払っているように見えるが想いは同じだった。
両者共に一歩も意見を曲げない。
リクが質問をするたびにヒカリは体を震わせている。感情が爆発しそうな彼女の表情にリクはそれを冷ますように極めて冷静な表情で答える。
こんな問答をいつまでもしたい訳ではない。
なのに、ふたりとも平行線をたどっていた。
「そこまでして、ヒカリはなぜ俺たちの島に残ろうとするんだ?」
ヒカリはリクと幼馴染だったと口に出しかけた。
――が、口をつぐむ。
今更これを言っても時間の先延ばしだ。
「私はあの島が大好きなの! 何もないところだって言われてるけど、この場所にいれば私はそれでいいの! だから……」
「そんなの俺はイヤだ」
「リク! 世界が、なくなっちゃうんだよ? そしたら、冒険できないんだよ!」
「ソラとカイリもイヤだって言う」
「だから、リクに言ってるんでしょ!」
「島にいた頃の俺なら即答した。でも、今は違う」
「即答してよ! これしかないんだから……私を元に戻してよ!」
最後の言葉は、もはや叫びに近かった。
こだまする自分の声に思わず驚くヒカリ。
カタカタと震えるヒカリの肩。
リクはそれをじっと見つめ言った。
「ヒカリ、お前の知ってる俺はそんなに薄情だったのかよ?」
「え?」
思わぬ返答に驚くヒカリ。
「今、俺はヒカリがずっと側に居てくれないとイヤだって言ってる」
「リク……」
私が言わなくてもリクは分かっていたんだ。
「俺も、ヒカリと一緒に世界を救いたい。ソラもカイリも……ヒカリの知ってるみんながそう思っている。たぶん、この島もそう願っている。だから、ヒカリ」
「……」
ヒカリは更に驚く。
私はリクのこと全部わかっていたって思い込んでいたんだ。
ううん……違った。
リクだけじゃない。
ミッキー、ソラ、カイリ。
出会ったみんな全員。
私はこの答えを見落としていた。
「お前だけ犠牲になるのは嫌だ。一緒に世界を救おう」
リクの手が、ヒカリにさしのばされた。
以前、私はこの場所でリクがソラに向かってこうしているところを見ていた。
私はかやの外で、なんだかそれが悔しかったし、何より二人のどちらかを選んで助けるという選択しかなかった。
積極ソラの手の木刀を掴んで、リクを探したんだけど、その直後にどっちも消えちゃってて――。
私はソラの側にも行けず、リクの手を取ることも叶わなかった。
今は――。
あなたが、私に手を伸ばしてくれている。
そして――。
みんなが、私の中に居てくれる。
「うん」
ヒカリはリクの手を握った。
「みんなの絆、私はもう手離さない」
そうだ諦めなんて私にはふさわしくない!
ましてやリク。
あなたにお願いするなんて私らしくなかった!
さっきまでの私は一体全体どうにかしてた!
世界が消えてしまう。
だから、私が身代わりになって救ってみせる。
そんなの、みんなが納得するはずない。
私が私自身に負けたようなものじゃないか!
「世界を終わらせない。私達がもとに戻して、それから始まるんだ」
次はぜったいに負けない!
ヒカリはリクに不敵に微笑む。
彼女の青い瞳は茜色の空を受けて輝いていた。
それは海から顔を出した朝焼けの太陽のよう。
世界の終末よりも、新たな一日の始まりを物語るような不思議と生きる活力を見いだせる瞳だ。
リクはそれを見て呆れたような表情を作り、その後、笑顔になった。
「それでヒカリ、今更だけど一つ聞いていいか?」
「分かってる。私に関する記憶のことでしょ?」
「あ、ああ……なんだかスマン。まったくさっぱりヒカリの事だけ無くなってるんだが」
「今の私はマレフィセントいわく知識の宝庫ですからね、お答えしましょう!」
ヒカリが得意げに話し出す……はずが――。
(ゴゴゴ……)
その瞬間を奪うように島全体が揺れた。
そして、ヒカリが勢いよく顔を上げる。
「ここで話してる場合じゃなさそう! ソラたちがあっちの世界でラスボスと戦ってる。話は後ね!」
走り出すヒカリ。
リクが後ろを追いかける。
「ラスボス……ってアンセムか!」
「うん」
「俺の体はまだアンセムに奪われている、心だけの俺に何ができる?」
「アンセムはソラたちに任せるしかない。私ができるのはその後のこと……それには光と闇の二つのキーブレード。それからソラとリクと、この鍵が使えるミッキーが必要」
「キーブレード、俺ではいけないのか?」
「リクは鍵の使い方よくわからないでしょ? いきなり本番は無理よ」
「そ、そうか……って、さっきお前に向かって使えって言ったよな⁉」
リクがヒカリに叫ぶ。彼女はツンとした。
「苦肉の策です!」
「まったく、間違って失敗したらどうするんだよ」
「考えていなかったわ」
「あのなぁ〜」
呆れるリクにヒカリは微笑む。
「さっきの私はどうにかしてた。キーブレードの中にいたミッキーがついさっき……私の心に語りかけてくれたの。そして、この最悪の事態の収束を考えてくれた」
ヒカリは肩に担いでいる闇の世界のキーブレードを強く握りしめる。
「ミッキーってマレフィセントの言っていた王様のことか?」
「うん、本当の体は違ってたけど、ずっと私と一緒にいてくれていたの」
「もしかして、ヒカリの隣にいたあのミッキーか」
「うん、覚えててくれたんだ」
「なんというか、ずっとセットで側にいた気がするからな」
「まぁ、そうだね、私だけだったらどこにも行けなかった」
「今の妙案も出てこなかった」
リクがそう言うと、ヒカリはうれしくなった。
「……そうだね。そんで闇の世界のキーブレードとソラの持つ光の世界のキーブレードで扉を閉じる。そしたら開け放たれていた世界は閉じられ、もとに戻る」
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
「世界の扉を出現させるのは私の力で出来る。でもね、扉を閉じることができる人は決まっている。私をよく知るこの島の住人。リクとソラなの」
「ようするに扉に触れられるのはヒカリの許可が必要なんだな」
「ま、そういうことね」
「それにしても出来すぎているな、俺がここにくることが初めから分かっていたみたいだ」
「私は考えつかなかった。扉をもう一度出現させても、私は鍵がかけられるまで扉の姿になってしまうから、それを閉じることも、鍵をかけることもできなかった――きっと運命がそうさせているのかも。運命なんて言うのも不思議だけど、それでも私はこうしてリクがそばにいてくれるのは嬉しい」
「散々悪いことしてきた俺が、そんな資格があるのか?」
「悪いことしてこなかったら、きっとこの闇の世界には来られなかったはずだよ?」
「はは――それもそうだな」
「後でカイリに叱られそうだね! 焼けそうなくらい熱い、真っ昼間の砂浜で、土下座の姿勢で!」
「そうだな、楽しみだな……もちろん、そこにはヒカリも居るんだろうな」
「まぁ……しょうがない、付き合ってあげますよ」
その光景はあまりにも無情かにも見える。
しかし、絵的には反省度合いは真摯に見える。
しかも、カイリの説教という精神的反省と灼熱の砂浜でリクと土下座という一種の修行的な精進の間で揺れ動く。
つまり、まんざらでもない。
「おまえ、今何考えてんだよ」
「いやあ~~色んな要素がありすぎて、おいしゅうございます」
「食べ物にたとえるくらいなら毒キノコ鍋だな、俺はヤバイのはよけて食べるからな」
「その例え、めっちゃわかりづらいから!」
リクのツッコミにヒカリは苦笑いした。
楽しい会話が途切れた。
洞窟の最深部にたどり着いた。
ヒカリはキーブレードを元あった場所に手放す。
「もうすぐミッキーが来るはずだから、ここで待っててね」
不思議そうにリクがキーブレードに話すヒカリを眺める。
「キーブレードに話してわかるのか?」
「さあね? でも言いたいことはちゃんと言葉にしなきゃ」
「そういうものか……ふふっ」
「そうです! さっきのたとえ話に比べたら……って笑うな! い、一緒に旅した仲だし~愛着あんだって……さて、次は」
ヒカリはさらに歩いて立ち止まり両手をめいっぱい広げる。
楽しそうな表情のリクが深呼吸したヒカリの顔を見て表情が一瞬で元に戻る。
「リク、これから扉を出現させる! あなたの体は向こうにあるからアンセムがソラたちに倒されるまで、できるだけ遠くに居て!」
そう言うとヒカリの周りが白く輝いた。
「あとはミッキー……王様が鍵を持ったらそれが合図。扉を閉めるだけ!」
「わかった。ヒカリはどうするんだ?」
後ろ姿のヒカリが振り返った。
「私は向こうに行ってくる」
「何をするんだ?」
「私の体は、もう一人に宿っている。だから、向こうにいる私と話をしてくるわ。うまくいったら扉が出現し、少しだけ開く」
そう言うとヒカリの体が輝き出し、扉の形をした大きな光の柱が出現した。
ヒカリは目を開ける。
暗い空間に『彼女』が立っていた。