King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
ヒカリは目を開ける。
暗い空間に彼女が立っていた。
自分が扉の形を出現させたから彼女も居る。
しかも私と彼女は世界の扉を守る者である。
そこに居なくては困る。
初めて見せる彼女の容姿。
目の前の彼女は金色の長い髪。
根本から首のあたりまでが真っ直ぐなストレート。ヒカリとは髪質が随分違う。
毛先はカールしていて腰まで伸びている。
ヒカリと長さは一緒だ。
ヒカリの瞳は晴天の一番高い空の青。
彼女はそれを水面に写しているかのように薄くなったり、濃くなったり揺れ動く。
一見してヒカリと似ていて違う。
例えて言うならおとぎ話で出てきそうな、
理想のお姫様の姿がそこに居た。
「こうやって話すのは、はじめまして……なのかな?」
恐る恐るヒカリが彼女に話しかける。
彼女は何でもないように口を開く。
「……そうね、私はあなたが島から出た時から見てきたけど」
初めて聞いた彼女の声はヒカリより少しだけ高い。それに、何よりも不思議な落ち着きがある。
やはり、自分とは別の人格だ。
むしろ真逆。
半身、片方、補う者で考えれば合点がいった。
これで、考えも逆でなければいいのだが……。
時間がないので単刀直入に話し出す。
「これから私はミッキーとリクとで、こちら側の扉を閉める。あなたはソラがこちらに来たらタイミングを教えてちょうだい! でもその前にリクの体をもとに戻さないといけないの。私は光の力でなんとか実体することができるんだけど、リクはアンセムを倒さないと!」
初対面に話すようにおどおどしながらヒカリが彼女に説明した。
「うん……わかった」
彼女は落ち着き払って頷いた。
どうやら、異議もなく協力してくれるようだ。
ヒカリはこの行動に希望の光が差し込んだように固くなっていた表情が明るくなった。
「じゃあ向こうを見せて……」
「まって、それより私にできることがあるかも」
ヒカリは安心して考える彼女を見つめていた。
近くで見るとやはり違う。
金色の前髪はサラサラと揺れ動く。
毛先は柔らかくカールしてるし、動きに合わせてクルクルしてる毛束が絵画か彫刻のように優雅に見える。
これ、完璧なお姫様……だよね?
今の状況を忘れぼうっと見ているヒカリ。
その差って、なんだか――。
私が……なんかちょっとカッコ悪い気がする。
そんなヒカリとは真逆の要素を持つ少女は、ヒカリに向き直る。閉じていた唇が動いた。
「今のリクは……うん、闇の存在に一番近い。だからヒカリ、私の力を彼に合わせることができれば、ヒカリのように体が形成されるはず。扉の前に来てくれれば私がリクを実体化させられる」
「そ、そうか、ありがとう!」
わけがわからないように二回うなずくヒカリ。
そんなヒカリを見て彼女は苦笑いした。
「お父様はこれから消滅する。キングダムハーツを求めていたのに私はそれになれなかったんだ」
「キングダムハーツ……今の私は、そう言われている存在なの?」
「本当は違うけど、私よりかはそれに近い」
「そっか違うんだ。なんだか安心した。ねぇ、あなたの言うお父様って、本当のあなたの両親なの?」
「ヒカリの言う両親とはたぶん違う。名もなき私に名前をくれた人。それしか覚えていないけど……私にとってはとても大事な人」
そう言うと彼女は微笑んだ。
ヒカリの笑顔と違って花が咲くような笑顔だった。これで決定されたようなもの、かわいいお姫様。もはや自分とは真逆の存在だ。
そう思うとなんだか悔しいようなうらやましいような――それでいて、半身と思うとなんかちょっとうれしい。
「そっか、私にとってはソラの両親なのかな?」
「私は覚えてない。あなたの中で眠っていたから」
「なんだか悔しいな~なんであなたと、もっと早く出会えなかったのかな。こうやって話もしたかったし一緒に居たら楽しそうなのに~」
「私は十分。目覚めてからは楽しかった。闇の力で解決するために私が外に出れたこととか。特にも魔法以外で解決するヒカリがそばで見られた事とか」
「魔法……あなたのほうが上手よね?」
「そんなことないわ、ヒカリの身体を借りられたから、私はすごかっただけ。そもそも私には魔法の力がないもの」
「えっ? マレフィセントと互角だった闇の魔法は?」
「実は、あれはヒカリの身体限定だよ。本当の私は魔法以外が得意なんだから!」
「そ、そうなんだ……ちょっと意外」
「こうやって話さなければわからない事だらけよね? 早くこうしていたかったわ」
「じゃあさ、あの闇魔法のセリフとかは?」
「……中二病は青春だよね!」
「私の中限定なのね。なんか私かっこ悪くない?」
「なくない! 本当に楽しかったのよ? あなたの中だと何でも出来ちゃいそうだから!」
すねるヒカリに彼女は屈託なく笑う。
ヒカリもつられて笑った。
「あなたと私はこれからどうなるの?」
「私はまた眠るだけ、あなたはきっと元に戻る」
「もと、に?」
「心配しないでヒカリ。何かあったら私がまた助けてあげるから」
そう言って彼女はヒカリへと歩み寄る。
お姫様が私に向かって口を開く。
「だって、あなたは私なんだからーー」
微笑む笑顔は穏やかだった。
これが、闇の力を持つ私の半身なんて誰が思うのだろう?
彼女の、後ろに映る景色がまばゆく輝いた。
すると向こう側の景色がはっきりと見えてくる。
「あ、大きな魔物が消えていく……ソラ達が倒したんだ」
ヒカリの後ろから誰かの声が聞こえた。
「ヒカリの後ろにミッキーが居る、よかった無事で。闇のキーブレードを手にしているのが見える」
ヒカリと彼女は透明な壁越しに手を合わせる。
交わらない世界の境界線の扉が開かれた。
そして、二人の手に、
見たことのない新しいロックセプターが現れた。
ハートの形が半分に欠けている杖。
二人はそれを手にして重ね合わせた。
きれいに重なるハート。
二人の杖が輝いた。扉がさらに開く。
ヒカリは初めてキーブレードとロックセプターを交差させた時を思い出した。あれは扉とキーブレードを重ねたからだったのか。
ミッキーの時は虚弱だった体が良くなったりソラの時は別の世界へ飛ばされた。
光の世界を眺める。
アンセムが私達に向かって手を伸ばし叫んだ。
「キングダムハーツよ……われに力を!」
ソラがアンセムに向かって答える。
「違う! キングダムハーツはどんな闇も消し去る心――光なんだ!」
ソラの声がヒカリ達にも届いた。
「ダークネスハート! ライトハート! 何故……おまえ達は……私に逆らうのか?」
アンセムが二人の姿を見る。
ソラがアンセムにさらに叫ぶ。
「その名で呼ぶな! ヒカリは……オレのねえちゃんだ!」
「ソラ……‼」
ヒカリが驚いた。ソラは私を覚えている!
ヒカリは困惑した顔で目の前の彼女を見る。
彼女は微笑みロックセプターを見上げた。
「ヒカリ、私はあなたと共にある闇の半身……だけどね、私はあなたの中で見てきた時からずっとこう思っていたの。闇の化身だとしても、私は単純に光が大好きなんだって……闇の世界にいても、あなたは光を見失わなかった。それが羨ましかった。だからね……わたしはヒカリの笑顔が見たい」
「あなたがソラの記憶を……?」
「ううん、ロックセプターだよ」
彼女はロックセプターを眺める。
「世界の心はもとに戻りつつある……ソラはあなたと一番近い存在だから記憶がもとに戻ったみたい」
「じゃあリクは? 王様は?」
「しばらく時間がかかるけど、もとに戻るはず」
「よかった……!」
アンセムがロックセプターから漏れ出す扉の光に当てられて浄化されていく。
ヒカリはそれを眺めていた。
目の前の彼女は祈るように目を閉じていた。
「アンセムに祈りを捧げるのね」
「違うわ、闇の力を宿す人はとくにも光に目がくらむ。目が見えなくなったあなたのように」
明らかな言い訳にしか聞こえないがヒカリは彼女にしたがった。
「そうね、光の力も厄介よね?」
「光にかき消されるか、闇に飲まれるか……どちらも危険で均衡になくてはならない存在よ」
「うん」
二人の杖の輝きが消えた。
光と闇のロックセプターは二つに分かれそれぞれの手に渡る。
ヒカリと彼女が重ねた手を離し後ろを振り返る。
お互い背中合わせで気を引き締める。
これからやるべきことが山ほど待っている。
「私とあなたが二人で出来るのはここまで、リクの体がもとに戻った。あとは扉を締めるだけよ」
「分かった!」
ヒカリは輝きをまとって実体化した。
「リク! 扉を締めて!」
ヒカリの姿が闇の扉越しに現れた。
そしてヒカリはありったけの光を身にまとい王様に駆け寄る。彼はさっき囚われていたとき身にまとっていた上着がなくなっていた。
横切る際、ヒカリが彼にむかって不敵に笑いかけハートレスのうごめく中心に飛び込んだ。
そして目を閉じ叫んだ。
「暗闇に光を撃て! グレイスフル·バースト!」
白いロックセプターがまばゆく光り、うごめくハートレスが浄化される。
ミッキーはこれを背に頷き、扉越しのソラに叫んだ。
「さぁソラ! 一緒に扉を閉めよう!」
ミッキーの声はヒカリにも聞こえた。
ここでハートレスを食い止めるのが私の役目。
程なくして扉が閉じる音がした。ミッキーが闇の世界のキーブレードで扉に鍵をかけると、先程扉の前で手に入れた光のロックセプターが消えた。
もう一度出現させるとさっきまで使っていた金と銀のセプターに変わる。
世界の扉が閉じたのだ。
これで、やっとソラ達の旅の役目が終わる。
ヒカリに向かってミッキーが駆け寄ってきた。
「これで扉は完全に閉じた。なんとかなりそうだよ、ミッキー?」
ミッキーがそのままの助走でとびあがってヒカリに抱きつく。
元に戻った彼は意外と大胆だ(しかも上半身裸)
「君は……僕は、君が誰だかわかる。わかるのに」
ミッキーがとても悔しい思いを打ち明ける。
ああ、やっぱり記憶がーー。
ヒカリが同じくして隣へ駆け寄るリクへ触れた。
「よかった、体がもとに戻ってる」
ヒカリを見たリクがびっくりしている。
たぶんミッキーのように私の記憶が混乱している。
そのうち、きっと思い出してくれるはず。
だから、今は私の名前は言わなくていい。
「お前は……ソラの?」
ヒカリは驚きリクに不敵な笑顔で笑いかけた。
「うん、また会えるよ!」
その瞬間。
光の粒がはじけるように、
彼女の姿が消えた――。