King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「大体、何でこんな物騒な物つけたのよ?」
ヒカリがガードアーマーの張り手をかわしてミッキーに叫ぶ。
「ちょうどいいパーツが無かったからその代用として付けてくれたんだ」
ミッキーは大きく跳躍して攻撃する。ヒカリもそれに習ってジャンプしたがわずかに届かない。
「付けてくれたってことは、これ取り付けたのミッキーじゃないの?」
「うん、ここのワールドに居るシドって人が船にくわしくて」
もう一度ジャンプしたヒカリ。
が――。
(バシュ!)
ミッキーが早かった。
(あっ……)
目の前で消えるガードアーマーが名残惜しい。
なんで消えて欲しいハートレスをこういう時だけ引き止めておきたいと思ってしまうのかが不思議だ。
(ミッキーのバカ……)
そして、よく分からないがくやしい。
「便利だったのになぁ」
ミッキーが名残惜しそうにつぶやいた。
(だったら自分で倒すことないじゃん……)
ミッキーを恨めしく見つめるヒカリ。
それを知ってか知らずか――。
「じゃぁ買い物のついでにシドに会いに行こう」
ぽん、と手を打ってミッキーがヒカリを見る。
「ヒカリも行くかい? シドに会いに、マーリン様のところにも行くけど」
「何で私が……」
ミッキーに向かってちょっとすねてみる。
別に私が会いに行く理由もないし、それに船に一人でおいて行くカイリも心配だ。
「弟の動向は気にならないのかい? きっと他の星に行ったはずだと思うけど?」
(そっか、ソラのことすっかり忘れてた!)
「カイリのことは前にも言ったけど、大丈夫だと思うよ」
「……わかった、行く」
小声で、しかしミッキーにちゃんと届く範囲でヒカリが返事を返した。
こういうときどんな顔をすればいいのかいまだに迷う。でも、ミッキーはいつものように、にっこりと笑っていた。
(ミッキーってやっぱりよくわかんない)
でも、それは悪い意味ではない。私には分からない、何かを知っているような気がする。
私にいつか話して欲しいな。
その『何か』を――
「コンッ☆」
頭上から鈍い音がした。
「……っ、いったぁーぃ~」
数秒もしないうちにその音に見合った痛みが頭のてっぺん付近からやってきた。
頭を押さえても……痛い。
「なんなのよぅ~。イキナリ天井から……」
そこにはコースターほどの大きさの銀のメダルが転がっていた。意外と厚みがある。正体が分かるとまた痛いような気がしてきた。
天井を見上げると、かつて自動整理マシーンと呼ばれていたガードアーマー(右手)がいたスキマから出てきたものらしい。
しばらくメダルを見つめ考えるヒカリ。
格納庫は基本的に私物を保管する場所ではない。それに、ついさっきそうじしたし頭上から落ちてきたのだからおそらくはミッキーの所有物ではないだろう
「このメダル、開発者なら知ってるのかな?」
「ヒカリ、一番街に行くよ」
ミッキーの声が聞こえる。
もう一度メダルを見る。よく見たら彫刻がしてあってなんだか価値がありそうだ。
もし、誰かがこれを探していたら、大変だ。
「うん、今行く!」
ヒカリはメダルを握り締めて格納庫を出た。
☆
一番街。ここにはちゃんと人が居る。ヒカリが初めてここに来たときは本当に自分一人だけだと思っていた。おまけに体調が悪くって、ミッキーに八つ当たりして――。今考えてもあの時の自分が少し恥ずかしい。
ミッキーはあの時の私をどう思って助けたのだろう?
「ここだよ、シドの居る所は」
ミッキーが一番街のほぼ真ん中にある店の扉の前で言った。
「ねぇ……ミッキーここ本当に造船所?」
立派な店の看板には明らかに船のロゴも『ship』の文字さえも見当たらなかった。
どう見ても『アクセサリーショップ』としか読めない。
「でも、シドは確かにここに居るよ」
ミッキーが扉を開けた。
(カランカラン♪)
ヒカリがはじめに目にしたのは――。
赤いじゅうたん、木彫りのどっしりとしたカウンター、暖かな暖炉。そして、カウンターのスミに飾っている物にヒカリは目が離せなくなってしまう。
そこにあるのかさえも判断が付かないほどの透明度。時折、光で真っ白く反射している面がキラキラとうごめく。
クリスタルの、綺麗なクラスター。
そして最後に、カウンターの延長線に居座る人。
「へぃ、いらっしゃい!」
「……」
クリスタルの次に見たせいなのか……?
なんだかその人の場所だけが、ヒカリには異世界のように見えた。
「シド、この前に付けてくれたハートレスの右腕なんだけど」
「あ――わりぃわりぃ~ちぃーっとあの時いろいろと立て込んでてな。お前さんの船に悪いことさせちまった!」
「いや、意外とよく働いてくれたよ」
カウンターにいる店主、シドがミッキーに両手を合わせて謝っている。ミッキーはまったく気にしないそぶりで微笑んだ。
そんなやり取りの隅でヒカリはきらきらした石の光を頬に受けて店主をのぞき込む。
本当に彼がここの店の人なのだろうか?
いや、むしろここはアクセサリーショップではないのか?
目の前の店主、シドはアクセサリーというよりは鉱物の採掘でもしてそうだ。ヒカリは本気でそう思った。
「いやぁ~お詫びといっちゃなんだが、オレにその本直させてくれねぇ?」
シドがミッキーの持っていた表紙のない本を指差した。
「なんで本のこと知っているの?」
思わずヒカリが二人の会話に割り込んだ。
「オレの情報は早いモンでなっ!」
にかっとシドはヒカリに笑いかけた。
(本当にこの人、アクセサリーショップの人⁉)
二回目だが、ヒカリは本気でそう思った。
「ところで嬢ちゃん、見かけねぇ顔だなぁ?」
シドがヒカリをじぃーっと見つめる。
「?」
「いやしかし、どこかで見たような顔だが……」
あごに手を当てて考え込むシド。
「あ! わかったぞ。この前ここにやってきた坊主だ。名前は忘れちまったが――」
シドの言葉にヒカリとミッキーは顔を見合わせた。
しかし二人の表情はまったくの正反対だった。
そして息つく暇なく言葉が口を滑った。
「それってソラのこと?」
「それは人違いだよっ!」
「お二人さん同時に言ってもわからねぇよ(汗)」
「あはは……僕たち、付き合い長いもので」
ミッキーの慌て振りにやっとヒカリは事の真相に気づいた。
「あ、ごめん! さっきは私の思い違いだった!」
ヒカリがシドに大げさに手をぶんぶん振って弁解する。
「じゃぁ、その本直ったら三番街のマーリン様のところに頼んだよ!」
ミッキーがそう言ってヒカリをつれてアクセサリーショップの扉を閉めた。
「ミッキー、なんで慌てたの?」
ヒカリがアクセサリーショップの扉を閉めたミッキーに聞く。
「あまりキミの弟のことを話さないでくれ」
「なんで?」
もしや、この前ソラのところに行ったらどうだって言ってたから、そのこと思い出して妬いてるのだろうか?
ありえない仮説がヒカリの頭をよぎる。
「必然的にドナルドとグーフィ―も話しに上がるから」
「あ、そっちのことね!」
ありえない仮説だった。
「僕は、隠し事は苦手なんだよ ヒカリと出会った時もそうだったろ?」
「ああ! ミッキー動物嫌い説!」
「なんだいそれ?」
ミッキーがあきれたような、いつもとはちょっと違った苦笑をする。その顔が面白くてヒカリは悪ふざけを思いついた笑みを彼に向けた。
「ミッキーがプルートとシャドウに怯えていたように見えたから☆」
「みんなキミのような人だったら何とかなるんだけどね……」
「これくらいの嘘、ソラならまだ大丈夫だよっ」
変なところで威張るヒカリ。
「(悪い意味で)買いかぶりすぎじゃないのかい?」
ミッキーがソラに少し同情する。
「ソラはすごいよ~。適当に明日は晴れだって言ってもまにうけちゃうんだから!」
「それってヒカリの勘が鋭いだけじゃないのかい?」
王様はソラを少しだけかばってみる。
「リクなんかいっつもソラで遊んでいたよ。外の世界には機動戦士ナントカって言うのが居て、夜空に輝く星はすべてその人たちが戦っているからとか言ってたり!」
「ははっ、なんだよそれ。そういえば僕、昔ドナルドに魔法がまったく存在しない国がどこかにあるって言ったら、かなり威張ってたなぁ王宮魔導師の僕はどこかの王様よりもスゴイとか言って……」
「なにそれ、私の世界に喧嘩でも売ってるの?」
「あの頃は純粋な冗談で言っただけさ」
しばし沈黙。
「……本当に大丈夫かしら?」
「僕、本気であの三人が心配になってきたよ」
「やっぱり、三人が今どこに居るのかシドから聞いてみようか?」
ヒカリがアクセサリーショップのドアを開けようとする。
「いや、ついさっき尋ねてあやふやにしたんだから流石に――」
「さっきから入れなくて邪魔クポ」
「!」
ヒカリとミッキーは始め、どこから声が聞こえたのかが分からなかった。
「ボクはここに居るクポ!」
「あっ」
ヒカリとミッキーは同時に足元を見た。
二人に踏まれなかったのが不思議なくらいの距離に一匹のモーグリがこちらを見つめていた。
「ソラたちならオリンポスコロシアムに居るクポ」
「な、なんでイキナリ、ソラのこと……」
ヒカリの言葉に耳を傾けず、モーグリは2人のあけた道をクポクポと歩く。ミッキーがモーグリのために扉を少しだけ開けてあげる。
「僕たちの種族はヒミツ厳守クポ。言い忘れていたけど、僕の名前は『クポ』クポ」
それだけ言ってモーグリはアクセサリーショップへ入っていった。
「……」
二人は小さなモーグリの背中に大物を見た。
ここでヒカリが、銀のメダルについてシドに聞くことをすっかり忘れていたのは言うまでもない。