King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~おまじない~

 

 

 仁義なきソラとリクとのビーチレースでゴールまであと一歩の所で海に落っこちてしまったヒカリ。

 溺れかけたがカイリに助けてもらい何とか一命をとりとめました。(すっごく浅かったけれど)

 しかし海水が鼻と喉にしみる。

 

「くぅ~負けたぁ―っ」

「約束だ、船の名前はハイウインドーだ」

 ヒカリがぐずぐずに顔をゆがめて号泣していたがリクのこの言葉ではた、と涙が止まった。

「えっ……?」

 リクが勝ったらカイリとおまじないのハズ?

「約束だろ?」

 リクが不敵に笑んだ。

「う、うん」

 ぐすっと鼻をすすった。やはり海水がしみた。

 

 真夏の熱気が冷めた黄昏時。

島の孤島。木の幹が横に曲がっているパオプの木に腰掛けて少しでも服を乾かそうとがんばるヒカリ。その横で、リクがヒカリの座る木の幹にもたれている。

ソラとカイリも側にいて名残惜しそうに夕日を見ていた。

 

「いよいよ、明日だね」

 カイリが誰ともなくつぶやくように言った。

「この海のずぅーっと向こうに行くんだ」

 ソラが水平線を指差し言った。

「ぐすっ……私も行きたいな~」

「泳げないくせに?」

 ヒカリにリクがすかさずツッコミをいれる。

「わすれてた……」

 よわよわしくヒカリが言葉をもらした。

「しょうがないよ、ヒカリ姉。一緒にいると楽しいけれどやっぱり無理だよ。体弱いんだし」

 カイリがなだめるように言った。これではどちらが年上なのかわからないほど自分がみじめに思えた。

「なんで体が弱いんだろ、私」

 ズズッと鼻をすすってつぶやく。

(無茶するから……?)

 三人の心の中でさえ手に取るように分かる。

「ゴメン、やっぱ、行けないんだよね。みんながんばってね……」

 そう言って、とぼとぼと歩き出した。

 

「ヒカリ姉ぇ~!」

 砂浜を踏みしめるようにゆっくりと歩いていると、ほどなくしてカイリがヒカリを呼び止めた。

 自分のボートのある方向へ歩いていたヒカリは後ろから聞こえた声を聞いて少しためらったが足を止めた。

 カイリが砂浜に足をとられながらもできるだけ早くヒカリに追いついた。

「どうしたよカイリ?」

 夕日が沈みかけ夜風が肌寒い中。ヒカリはくしゅんとくしゃみを一つした。

「このとおり、はよ帰って寝たいんだよなぁ~」

「あのねヒカリ……」

「うん?」

「わたしと」

「うん」

 カイリはそこで一息ついて深呼吸をした。

 

「私とパオプの実食べよ!」

 

「えーと――なんだって⁉」

「私と、パオプの実のおまじない、やろう!」

「ぇ? い、イキナリ?」

 うろたえるヒカリ。

(そういえば、女の子同士でも悪いとは、なかったよなぁ~)

 

「あのね、私、リクの話聞こえちゃったの」

「リクの話?」

「だから、リクが勝ったら、私とおまじないするって話」

「あっ、勝負中すっかり忘れてた!」

「わっ、忘れ……?」

「そっかぁ~シューティングスターの他に引っかかってたんだわコレが!」

「ヒカリ……」

 今カイリが思ったことを代弁するならば『カレイドスター』でしょ! 動揺隠しきれてないよ……である。それを隠し通しているとでも思っているのか、ヒカリは気を撮り直して笑いカイリに言った。

「そんで、なんで私なのさ。ソラもカイリのためにがんばってたじゃん」

「ソ、ソラは、男の子だし、リクは……」

 口ごもるカイリ。ヒカリはにっこりとしながら軽く言い放った。

「私は――リクがトクベツ好きってほどではないよ?」

「えっ⁉」

「ただ、リクがカイリとおまじないするって言った時、なんかね、こう、解せぬ!認めん!許さない!って思ったのは正直なところホント」

ヒカリのあまりの熱のいれようにカイリはしばらくぽかーんとしていたが、我に返って思考を巡らした。

「それって、リクのことが好き……? え、それとも私⁉」

「う~ん。カイリは親友で、リクは幼馴染。ソラは弟(不肖の)なんだし?」

 しばらくヒカリは考え、あっさりとこう言った。

「やっぱ、一番って決められない。むしろソラが一番なワケないけど」

 カイリは誰が一番なのか曖昧なヒカリに不服そうだったが、最後の言葉を聞いて吹き出した。

「だからさ、おまじないなんていらないよ。もう決めたんでしょ? 明日三人で行くって」

 ヒカリは微笑んだ。さっきまでのモヤモヤしたものが、自分でもどこかへいった気がする。

「ヒカリ……ごめん。ホントはね、私はヒカリがいてくれないと心配なんだ」

 笑いが収まったカイリがしんみりとこう切り出した。表情が少しだけカタイ。

「どうして?」

 優しいお姉さんのようにヒカリが微笑んでカイリに聞いた。

「私、リクとソラ見てると男の子ってスゴイって思うんだ。何でもできて、そう、イカダのことも」

「うん」

 リクがイカダのこと言い出したときは正直な所驚いた。この場所ではない他の世界へ行ってみたいって、そのまんまの気持ちを話してくれた。

「でもね、それ以上にわたし、ヒカリを見ていると、とっても心強いの。リクとソラにはない何かがヒカリにはある――ちょっと無茶なこともするけどね」

 最後は笑おうとしたヒカリ。しかし苦笑にしかならなかった。

「カイリありがとう。そんな事思ってたんだ――最後はイイとして」

 彼女の不服そうな疑問符でカイリはやっと微笑んだ。それを見たヒカリは気をとりなおして海を眺めながら言った。

「私も、三人がいないとホントに寂しい。まぁ、この島には他にワッカたちがいるけれどね」

 最年長のワッカはティーダとついさっきボートに乗って家路に帰っていった。彼らはもう黒い点にしか見えない――と、その点が只今、夕日に向かってなにやら叫んでいる。

「あれ、ワッカだね」

 カイリがその黒い点を指差して言った。この島は本当に、にぎやかだ。

「それにしてもやっぱうらやましいよ、カイリが。この島で最強の二人が一緒なんだから」

 この前ソラがワッカ、ティーダ、セルフィーを三人同時に相手にしていたのを見ていた。リクだったらソラも含めて四人を相手にできるかもしれない。

「最強? まさか、ヒカリ以外に『最恐』なんてこの島にはいないよ!」

「ねぇ、なんかサイキョーの意味がすこーしばかりズレてる気がしたけど?」

 

「なに二人で話してんだ?カイリ、姉ちゃん」

 くるりと二人が同時にソラを見る。まさに姉妹のようだった。

「おしえなーい☆」

「なんだよ~二人して~」

 あまりにも楽しそうに言う二人の仲間に入れないのが悔しいのか、不服そうにぼやいた。

 そんなカヤの外なソラの後ろからリクがやってきた。ソラを見たリクは察したのか呆れている。

「もう暗くなるぞ、明日は早いって言わなかったか? それとヒカリ。俺はヒカリが前に言ったコト、少しは信じているから」

「リク、それって――」

 ヒカリが言いかけたとき、リクは微笑んで親指を背後に向けた。

 リクの背後には今まさに沈もうとしている夕日と、空と、海が、一面赤く染まっていた。眩しくて境界線が見えない。まるで一体になっているようだ。

 

 前みたいに笑おうとは思わなかった。

 だって、もしも、それがまったく根拠のない偽りでも。

 それが本当に、そうだったなら――。

 

 ヒカリはこらえきれずにリクに言おうとした――が、

「……つはくしょんっ!」

鼻水がっ……!(最高にイイ場面が~)

「ぶっ……!」

「あっはははは!」

 三人は豪快なヒカリのくしゃみに爆笑した。

「もぅーっ! せっかく旅立つ諸君にハナムケの言葉なんぞ言おうとしていた時にっ……笑うなあ~~っ!」

 三人に負けないぐらい叫ぶヒカリ。

「慣れない言葉使うな。くくっ……いいよ、風邪気味の病人の言葉なんて旅の運もなにもないだろ。その前に早く直せ! ヒカリのことだからきっと一筋縄じゃいかないだろ」

 リクの言葉には少なからず説得力があった。それゆえヒカリは反論する。

「別に私は行かないからいいでしょ~」

「行くとかの話は別で姉ちゃんの風邪は危ないんだって!」

 ソラもこれに関しては真剣だった。

「私たちがいない間に倒れられたら嫌だよ」

 カイリも本気で心配している。

ヒカリはこう見えて身体の調子が悪いとすぐ寝込む。鼻かぜでも直りが遅い。運動で身体能力は人より上だと自負するが、病気に関しては風邪しらずの弟のソラとは身体の出来が大違いだった。

「わかりましたよ! あったかくして寝ます。それじゃあリク、ソラ、カイリ。私からはたった一つだけ言うね」

 あらためてヒカリが三人に向き直る。夕日がいっそう輝き三人の顔が逆光で見えなくなる。

「困ったことがあったら、私のところに来てよね! 助けてって言えば私、絶対に行くからっ!」

 自分でもとうてい無理なコトだって分かってる。でも、私ができることがあるなら何だってやりたい。助けてあげたい。だから、これだけは嘘でもいい。無理だってわかっていてもこの場で言っておきたかった。

「うん、わかった」

 夕日を背に、三人はそれだけ言った。

 

 日が沈む。真っ赤な空はそのままで、さっきまでの輝きが消えて一気に気温が下がったようだ。

「それじゃ、明日は二人とも遅れないでね!」

 カイリがボートに乗った。

「俺も帰る。寝坊すんじゃねーぞソラ!」

「しないよ!」

ソラが自分のボートに飛び乗るリクに聞こえるように叫んだ。

 

 島にはもうソラとヒカリだけになった。

「ねぇ、ソラ」

「ん?何だよ姉ちゃん」

 赤い空が青い空に飲み込まれてゆく。

 風が吹いた。少し肌寒い。

「ちょっとだけ、付き合って」

 気軽に言ったハズだった。だけど、その言葉は少しだけ震えていた。

「姉ちゃん?」

 悲しいくらい静かな島にソラの声が響いた。

 

 

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