King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~不思議なキノコ~

 

 ヒカリが目を覚ますと大きなキノコの上に仰向けになっていた。起き上がる際、体のあちこちで鈍い痛みが走った。

 

「いったぁーい。何よ猫のヤツぅイキナリ落としやがって~」

 怨念のこもった柄の悪い台詞を漏らすヒカリ。

独り言の時点で負け犬の遠吠えだ。

この上なくみじめなのでこれ以上何も言わない。

「どうやってここに来たのかな?」

 気を取り直してヒカリはキノコにちょこんと座り考える。キノコが大きいのかそれともヒカリが小さいのか――。おそらく後者だ。

 

「えっと……。穴に落ちて、ここに来たから」

 あたりを見渡すと何もかも大きい。

 自分が小さいと言った方がいいのかもしれない

「やっぱこれ以上考えるのやめよう」

 ソラだったらきっとこう言う。

 あまり深く考え過ぎると頭が痛くなるって。むしろこの世界の原理について考える事自体、きっと無意味な話だろう。

実際ココへきてからというもの、思いどおりに事が進んだためしが無い。

「考えるな、行動しろ」

乗っかっていたキノコから降りるヒカリ。

自分の座っていた大きなキノコを眺める。

「コレって、もしかしてアリスが食べたって言うキノコかな?」

 

 それから周りをぐるりと見ると。

 

「あ、もしやコレだったりするかも!」

 ヒカリが座っていたすぐ側にあるキノコを見ると両端がきれいに欠けていた。

「とりあえず、大きくなって周りを見てみよう」

 欠けている両端のすぐ側をちぎる。

「えっと、どっちを食べれば良いんだろう?」

 ヒカリが考える、その前に。

「とにかく、始めにどちらかを食べる!」

 適当に右のキノコをかじった。

 

 すると――。

 

「ち、縮む~~!」

 急いで左のキノコを口の中に突っ込む!

 

 縮んでいく体のせいで思うように食べられない。とにかく口を動かして急いで飲み込む。

 

「と、止まった~」

 思わず目をつむってしまっていたことに気づき目を開けると――。

 

「……って大きくなっちゃってる~!」

 

「う~るっさいわょアンタ! 何様のつもりよ!」

 ヒカリの頭上から声が降ってきた。

「ごめんなさい、つい勢いで……」

 誰とも分からずに謝罪するヒカリ。

「勢いも何も、私の知ったこっっちゃないねぇ! もう~~」

「えっと、すぐに元に戻ります!」

 ヒカリが勢いよくどちらかのキノコをかじる。

「わ、わわっ⁉」

ヒカリの身長が木々の先を追い越して森の上から顔がはみ出した!

「んまぁ――‼」

「あ、向こうへ行けば森はすぐに抜けられそうだね」

「ちょっとちょっとあんたっ!」

ヒカリが脱出ルートを考えてる傍らで、せわしなく騒いでいたのは鳥のおばさんだった。

ヒカリが顔を近づけると今にも卒倒しそうな勢いだ。しかし、そこは持ち前の女の度胸で踏ん張る。

「なによ、なによ~! またまた大きくなっちゃってさー。あんたこれから縮むって言ってたわよね?

いったい私の何が悪いのよさ、私の生活を返して~~」

「ごめんなさい、まちがっちゃった」

「なにがまちがっちゃった。なのさ! こちとら同じこと二度も繰り返すのはもうごめんだよ!」

 こっちが遥かに大きいハズなのだが、どうにも頭が上がらない。

 あれ? ちょっとまって……。

 私がアリスと出合った時にはココのキノコを持っていたってことは――。

「二度ってことは、やっぱりアリスはここに来たんだ!」

「いや、ちょっと、お願いだから頭を動かさないでっ!」

「え、あ! はいっ!」

 その慌てぶりを見て自分の頭の上に鳥の巣が乗っかっている事にやっと気づいたヒカリ。

「ふう。ええそうよ、あの大きな子ったらこともあろうに私の卵を狙いにきたのよ。卵を食べるって」

 あの子ってきっとアリスだね?

「お腹すいてたのかな?」

「なにさ? もしかしてあんたその子の知り合い⁉キャ~。私の卵を食べるつもりなのね? そうなのね⁉」

「ああもう、うるさい。すぐに縮みますから!」

 ヒカリは大きすぎる自分の手を突き上げた、邪魔な木枝がベキボキと折れた。

「うっわぁ。キノコが豆粒みたいに見える」

 口を開ける際にヒカリの頭上にのっかっている鳥の巣がぐらりと傾く。

「いっやぁ――ー!」

 小さなキノコを飲み込むと、すぐにガクンと体が揺れ。おばさん鳥の叫び声を背にヒカリは急降下するように縮んでいった。

 さっきの大きさに戻ったヒカリは急激に縮んだ勢いで再びキノコの上に倒れる。

 頭上を見ると遥か彼方に見えるのはさっきのうるさかったおばさん鳥。上から降ってこない所からして卵は無事のようだ。

「卵が降ってきたら私が危ない所だったなぁ」

おばさん鳥にとりあえず感謝する。

「さて、このキノコなんだか面倒ね」

 考えるヒカリ。

「さっき森から突き出したのは、右手だった……ってことは右が縮むキノコ、左が大きくなるキノコ」

 さっき食べた右のキノコは無くなっているが、左のキノコはまだ残っている。かなり少量のはずだったけどあそこまで大きくなるとは。

「ということは食べた量ではなく、噛んだ回数。まずは落ち着いて――」

キノコを一口食べて。ゆっくり噛んで。

飲み込むと――。

「!」

 一気に視界が高くなる。

「ビンゴっ♪」

 さっき自分が乗っかっていたキノコが小さすぎて見つからない。しかし、鳥の巣に危害を加える高さではない。

「ま、ちょうどいい、身長かな?」

 自分の身長についてはあまりこだわりが無いのでまあ、いいだろう。

 ついでに前回のアリスみたいなことが起こらなくも無いので、食べ切れなかったキノコはポケットにしまっておくことにした(かなり小さいけど)

「このキノコを食べて、ちょっとリクより大きくなったら嬉しいかも♪」

 今後の小さな夢を想像しヒカリは歩き出した。

 

「そういえばリク、どこにいるんだろう?」

遠い空を眺めるヒカリ。

 闇に消えたリクは今どこに居るのだろう?

 もしかして、ハートレスになってしまったのだろうか?

でも、もしもリクがハートレスになっていたら、きっとBOSSに違いない(汗)

 

「リクがハートレスになるはずが無いよ」

 

 思わず独りでに口走った。

「リクが消えるはずが無い」

 これも無意識だ。

「リクが……忘れるはずが無い」

 

 思わず足が止まった。

 

「なーに考えてんだか」

 ついさっきの自分の発言をあきれたような口調で言葉に出す。

「見てもいないのに分かったようなこと言っても、しょうがないよね」

 こんなことしゃべっても無意味だ。自分で言ってて何の根拠があるのかさえ分からない。

「それよりも……」

 ぐるりと天を仰ぎ見るヒカリ。

 

「早くミッキーを探さなくっちゃ~~!」

 

 路頭に迷ったヒカリの声がこだました。

 

 

「何で、こうなるのよ~」

 真っ暗な森の中を一人、ひたすら歩くなんて。ミッキーどころか自分の身が心配だ。

 こうなったらキノコを食べて――。なんて思っていては止めている。

(また大きさが暴走したらキノコがなくなっちゃうもん)

 リクとの再会にそのキノコをなんとしてでもとっておくのを決めたヒカリは、今の自分と葛藤していた。

「だけどさ~このままどんどん進んでいって、森を抜け出せなかったらどうすんのよー」

 激しい憤りのせいで独り言が多くなってきた。

 今になってアリスの気持ちがよくわかる。

 とにかくこの状況こそがかなり寂しい。

 

 ふと気づいては思うのだが、森の中に入るたびに、ミッキーが側にいない。

「遭難したらミッキーのせいだよ」

 

 出てきてよ、王様――。

 

 突然。視界が、歪んだ。

「あ、れ? おかしいな……涙」

 ぬぐっても視界が晴れることが無い。

 

 突然。足が、がくんと折れた。

 

「っ……立ってよ、ヒカリ」

 

 立ち上がる理由はどこにもない。

 いくら歩いても意味がないから。

 

「ひ……っく」

 

 泣きたいなんて思ってないのに――。

 なんで?

 

 もっと、

 

 もっと強くなれたら!

 

「やっと……着いた」

「⁉」

 

その声は――ミッキー。

 

「ヒカリはどこにいるんだろうな」

 なんで、ココがわかったんだろう?

 ううん今はそんな事どうでもいいよ。早く、泣くのやめてミッキーの所に――。

 

「それにしても迎えに来たのはいいけど、まいったなぁ」

 

 なにが、まいったの?

 

 

「カイリがいないって分かったらヒカリ、怒るだろうなぁ~」

 

 

「なに、それ?」

 

 カイリが――。いなくなった?

 

「どういうことよ?」

 

 ミッキーあれほど『大丈夫だ』って言ってたのに。

 

「いない、なんて――」

 

 涙の雫をぬぐうのも忘れ、ヒカリはすっくと立ち上がった。

 泣いていたいのか、怒りたいのか。今のヒカリにはどうでもいいことだった。

 

 両こぶしに力が入る。

 口元は歯軋りする直前。

 体はわなわなと震えだしている。

 小さく口を開いた。

 

 

「ミッキーの――」

 

 

「ミッキーのぉ……」

 

 

「バァァカァぁ――ーッ‼」

 

 

「その声、もしかしてヒカリ⁉」

 ミッキーはすぐ側の草むらへ声をかけたが、対するヒカリはミッキーとは反対方向へ――。

 

 力の限り、走り出した。

 

「もしかして、今の聞こえ、ちゃった……」

 走り去るヒカリをながめ、ミッキーは額に手をあてがい『しまったーぁ』と、ばかりにうつむいた。

 

 ☆

 

 なぜ、自分は。今、会いたかった人に背を向け、全速力で走り去っているのかが分からなかった。

 

 ココまで私を捜しに来てくれたんだから。

 きっと許せたはずだ。

 

でも、今のヒカリの頭の中には、

『ミッキーへの怒り』

それだけしかなかった。

 

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