King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~イカレたお茶会~

 

 やっとミッキーに出逢えたのに、あろうことか全速力で逆方向へと走るヒカリ。

 速度が落ちてきたが、逆に怒りは収まるどころか募る一方だ。

 

 ミッキーのバカっ!

ばか ばか ばか ばかぁ――ー!

 

 ナニが王様よ!

 大丈夫だなんて何の根拠があって言ったのよ?

 

 その時私があそこにいたらカイリが居なくならなかったはずなのに!

 

 全部自分の考えだけで世界が成り立ってるんじゃないのよ!

 

 ソラのバカっ!

 

 なんで私のこと知らないなんて言ったのよ?

 せっかく心配してたのに居なくなったカイリのこと一緒に探せたのに!

 一人で頑張ってきたなんて思わないでよ、ちゃんと見てたのよ!

 

「なんで……なんでっ」

 

 ソラが、カイリが――。

 

 

「うわぁ――――ーあ!」

 

 

(バタン!)

「あぐっ……」

 全速力のまま木にぶつかるヒカリ。

 反動で後ろへ跳ね上がり勢い良く倒れる。

 

(ドタッドサッ)

「がはっごほごほ……ううっ」

 

 呼吸が出来ないぐらい苦しい。

 おまけに倒れて頭がぐらぐらする。

 

 

 息が整うまでの数分。

 

 自分のことだけ手一杯で何も考えられなかった。

 

「こんなに全速力で走ったの……久々だ」

 息を整えて、落ち着いたヒカリがつぶやいた。

 

「そっか……みんな、手一杯だったんだ」

 

 自分のことで、何も考えられなかったんだ。

 

 今の私は、

 世界一、情けなくて。

 世界一、みっともない。

 

 ガサ。

(ビクッ)

 

 横のしげみから音がした。

 必要以上に驚くヒカリ。

 

「だっ、だれ?」

 無意識に杖を出してつかむ。

 しかし、今の自分は満身創痍で戦う気力もない。

 

 身体がだるくて頭が冴えなくて。逃げようにもさっき全速力で走ったため足も言うことがきかない。

「あ、やっぱりヒカリだ」

「え?」

 声をかけられヒカリはごしごしと涙を拭う。

 歪んだ視界が晴れ、やっと目の前の人物の顔がわかった。

 

「……アリス」

「ごきげんようヒカリ」

 丁寧に挨拶をしたアリス。

「って、ご機嫌じゃないわね」

 アリスはそう言って肩をすくめヒカリにハンカチを差し出した。

「ありがと……」

 ヒカリはうつむき、そう言って顔を赤くさせた。

 

 

 アリスにさっきまでの憤りの理由を大まかに話すヒカリ。

「そっか、友達が居なくなっちゃったんだ。始めっから何にも聞かないでごめんね、ヒカリ」

「いや、いいよ気にしてない。あの時は大変だったから」

 アリスと出逢った時なんて、アリスは自分のことで手一杯だったから。

「それにしてもヒカリに会えて良かったわ、私も迷ってたから」

「私もってことは……やっぱり」

 二人とも顔を見合わせてため息をつく。

 

「お困りのようだね~お二人さん」

どこかで聞いた声が二人の真上から降ってきた。

 

「チシャ猫!」

「チシャ猫さん」

 二人が木の上を見るとチシャ猫が現れた。

「やぁ~お二人さん」

 薄暗い木々たちの色に不釣り合いなほど鮮明な紫色の縞模様。ぐるぐると渦を巻き胴体が現れ、最後に顔が現れた。

「どの道を行けばお家に帰れるんですか?」

 アリスが猫に尋ねた。

 チシャ猫は下界の民を見下すような含みのある笑みで答える。

「どのみち、この道はぜんぶ女王の道だからね」

「所有権じゃなくて行き先を聞いてるんだけど」

 ヒカリがちょっと専門用語を使ってみたがチシャ猫はヒカリの言葉には耳を貸さないようだ。

「いいわ、この道はどこに行くのかしら?」

 ヒカリに代わってアリスが尋ねた。

「この先は帽子屋と三月ウサギの家だよ」

「ウサギさんが居るのね! 行ってみましょうヒカリ」

「えっ、なんでウサギ?」

(うさぎ好きなのアリス?)

 なんて考えるヒカリ。

「言っておくけどそいつらはイカレているよ」

「この世界自体がおかしいのは承知のことよ!」

 これ見よがしにヒカリが突っ込んだ。

「そのとおり! かくいう僕もイ・カ・レ・て・る!にゃははは~」

 チシャ猫は嫌な笑いとともにリボンのような渦に変化しながら徐々に消えていった。

 

 

「チシャ猫め~。私のこと無視しやがって!」

「どのみち、あの猫は当てにはしてなかったわ。だけどヒカリ、考えてみて? どことも知れず迷うよりは、行こうとしている場所に向かう方がよっぽどいいわ」

「アリスって、しっかりしてるね」

「ふふっ。姉さんを真似てみただけよ」

 アリスはそう言って少しだけツンとした表情をヒカリに見せた。きっとお姉さんの真似だろう。

 

 姉さんか。

 ソラ。私はアンタにとってちゃんとしたお姉さんだった?

 そりゃあ、ちょっとだけ私が早く生まれてきただけなんだけど。

 本当はね、あんたの事ちゃんと弟って思ったこと無い。

 

 むしろ――。

 

「ヒカリ! 何か聞こえるわ!」

 アリスの声でヒカリは我に返った。

 よく聞き耳を立て、アリスは前方を指差した。

「あそこ!」

「行こう!」

 ヒカリはアリスの指差した場所へ駆け出した。

 

 

「なぁ~ん、でーもない日ばんざーい♪」

 それは今一番、どん底な気分だったヒカリにとって今までで一番、間の抜けた歌声だった。

 沢山の楽しげなポットの音が聞こえる。

 その中心に帽子屋と三月ウサギがいて、更には歌って踊っている。

 

「すいませーん」

アリスが二人に尋ねようとしたが。

 

「おことわりだよ!」

 

「え、ちょっと……?」

 帽子屋と三月うさぎはそう言いながら、最後尾の席にヒカリ達を招いた。

 

「さぁ席について」

 うながされるがまま席に着いた。

 

 すると――。

「⁉」

 席に着いたとたん、ヒカリの身体が何かに吸い込まれていった。

 アリスはそのことには気づかない。

「さ、お茶を飲んで」

 帽子屋がお茶を注いでアリスに差し出した。

 

 

 ヒカリは別の場所に居た。

 別の場所と言ってもアリスがちゃんと見える場所なのだが。

 

(う、動けない)

 動かないのではなく動けないのだ。

 しかし、不思議なことに何一つ不自由はしていない。意識的に動こうとしないと言った方がいいのだろうか。

 動けないのでアリスを見守る。やっと気づいたのか見るからにアリスは私の事を探している。

 

 自分がここに居るのにもかかわらず、アリスはそこに壁があるかのように全く気にしていない。

 

 そんなことよりも、お茶を飲もうとしては場所を移動されているアリスがなんだかかわいそうだ。

 しばらくして新たな客人、時計ウサギがやってきた。どうやらアリスの探していたウサギだ。

 アリスが話をしたそうにしているが、帽子屋がウサギの大事な時計を解体し始めてから何も言えなくなってしまった。

しばらく黙って見ていると。

 

(ジリリリリリリりり‼)

「と、時計がイカレちまった~‼」

 

大騒ぎだった。

というか、懐中時計ってベル付いてるの⁉

 

「ああ、なんてこった。いいや、こうしちゃおれない、早く行かなくては!」

「あっウサギさん! 待って~」

 アリスは帽子屋と三月ウサギ、そして周りをぐるりと見渡し、ためらいがちに時計ウサギを追いかけていった。

 

 

「さてと……」

 遠くで帽子屋達が何かをすると。ヒカリはさっきみたいに引っ張られた。

 

「あれ? 動ける……」

「お嬢さん、ここの世界の人じゃあないね」

「どう言うこと⁉」

「そりゃお前さんがイカレていないからさ」

もっともな言葉で何も言い出せない。

(イカレてるくせに……)

「そんなおまえさんに――」

 私はアリスとは違ったおもてなしなのか!

 私、イカレた野郎の心はよくわかんないよ⁉

 

「なんでもない日を祝ってあげよう~!」

 

 そのかけ声と同時に無造作に置かれていたテーブルのお茶達が跡形もなく消えた。

「さぁお座り!」

「?」

 ヒカリは唖然としている。

テーブルの上は何もないのに?

 とりあえずストンと手近な席に着く

 すると――。

 シャラ~ン☆

(ポン)

 かわいらしい音がしたかと思うと目の前のテーブルからお茶が現れた。

「うっわぁー」

 さっきまでの不満が一気に消えた瞬間だった。

「それじゃぁ俺たちはこれから法廷に行かなきゃならんから適当にしてってくれ」

「は、はぁ」

 帽子屋、三月ウサギ、ポットに入ったままのネズミはどこかへ行ってしまった。

 

 と、見せかけて――。

 

「それを飲んだら席を替えるんだぞ!」

 ヒカリに忠告して去っていった

 

「留守番ってことかな?」

 静かになったティーパーティ会場で、とりあえずヒカリはお茶をすすった。

 

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