King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
帽子屋たちに留守番を頼まれたヒカリは誰もいないテーブルで一人お茶を飲んでいた。
テーブルには自分の使っているお茶のカップ以外何もない。
アリスとここへきたときはポットが湯気を噴き、にぎやかな音が鳴り響いていたが、いきなり静まったテーブルが寂しい。
いっそのことさっきまでココにいたアリスを追おうとも考えたがまた飛び出して路頭に迷うよりはここにいた方がいい。
それに、ミッキーと会って『ごめんね』って言わないと――。
しばらくしてヒカリがお茶を飲み干す前にカップが煙とともに消えてしまった。
(バシャ!)
訂正。
カップ、だけ消えた。
「あっつーい! まぁ、いっか(イカレてんだし)次の席に座ってみよう」
そう言って席に着いたのは。
「しまった! ここって始めに座った席じゃん」
もう遅い、また動けなくなってしまった。
(どうしよう。帽子屋達が戻ってくるまでうごけないよ)
途方に暮れたヒカリ。
今は、待つしかない。
☆
しばらくして誰かがやってきた。
(やったぁ! おもったよりもはやかっ――)
ちがう。やってきたのはなんと――。
(ソラ)
憤りか、それとも憂いか――。
どんな表情も出来ない今の自分にはただ見守るしかない。
☆
「なんだここ?」
ソラが物珍しそうに周りを見る。
「ハートレスは居ないみたいだね」
杖を肩に担いでドナルドが言った。
「テーブルがあるだけだね」
背の高いグーフィ―があたりを見渡す。
「あっひょ?」
ヒカリの方を見て声を発したグーフィ―。
そして、まっすぐにこちらにやってくる。
(え? 何、ナニ?)
声を発するどころか、どこかしこも動けないヒカリはグーフィ―を見つめることしか出来なかった。
なんだか……見られるってこと自体、無性にドキドキする。
じゃなくて。身体の自由が利いていれば冷や汗をかきたい所だ。
そして――。
「この絵すっごくいい絵だね」
勘が鋭いのかはたまた、ただ間抜けなのか、グーフィ―はヒカリを目の前にそう言った。
「ナニのんきなこと言ってるんだよグーフィ―。グワッ? この絵画の中の人物、どこかで見たような気がするぞ?」
いつの間にかドナルドもヒカリの方を凝視している。
(だから照れるって、ちょっとまって、かいが?)
この二人、さっきから私のこと見て絵画って。
もしかして私。いま、絵の中に居るの?
だ、だったらこの二人がこうして真っ正面から他人のことじろじろ見てるのも私が今、動けないのもうなずける。
「二人してナニ見てんだよ。俺にも見せて~」
(そ、ソラ~~⁉)
ソラの顔が視界一敗に広がる。
たった今。自分が一瞬でも動ける物ならば。
すかさず右ストレートだったろう!
「そうか? こんな女の子見たことないじゃん」
ソラがあっさりとした返答をする。
(じゃぁ、そんなに……凝視しなくてもっ!)
穴があったら入りたい!
ある意味すでに中に居る。
といいますか、そんなあっさりと姉に向かって弟が『女の子』って認識するあたり――。
(私って、かわいい?)
ひらきなおるヒカリ。
「あっ! 見てみろよ。上の張り紙」
ソラがヒカリの真上を指差した。
「なんでもない日おめでとう! ささやかなおもてなしを……だってさ!」
(私のことは結局無視かいっ!)
無性に突っ込みたいヒカリであった。
「座ればいいんだな、ようし!」
(おもてなしって、私が座ってお茶が出てきたやつ――ってことは下手したらソラ達も絵画の中に!)
いや、まて。さっき私が元に戻ったのはもしかして帽子屋があのイスに座ったからだよね?
ようするに……誰かがあのイスに座ったら私がソラ達の前で元に戻っちゃうの⁉
(出たいけど……やっぱどっちもいやー!)
いっや~~! そのイスだけは座るなアヒル!
(ポン☆)
(……ん?)
「お茶が出てきた――――!」
三人の歓声には微塵も疑問符が出てこなかった。
もちろん自分はそのまんま変わらず絵画のまま。
(もしかして、一人で座ったからこんなことになったの?)
冗談! お茶会がなにさ!
帽子屋とウサギめ~~。
「次はこっちだ!」
ソラが上機嫌で席を移動した。
(そ、ソラっ! それは私が(次に)座ろうとしていた場所っ!)
(ポン☆)
心の中で叫んでも届かず……(汗)
「グワァぁ~」
「アヒョッ⁉」
「うっわ――!」
三人の目の前には――。
【大きないちごタルトっ!】
「いっただっきまーす♪」
ご機嫌なご挨拶だけがヒカリに聞こえた。
(ああっ! わたしのっ……いちごタルト~っ!)
タルトの原型が次第に崩れていくさまを見守ることしか出来なかった……(涙)
(いちご、タルト……私が食べるはずだったぁ……いちごタルト~~っ!)
絵画の中で崩れ落ちるヒカリ。
三人は摩訶不思議な絵画の変貌にまったく気づかない。
もし今、自分がソラ達の前に現れたっていいや。
そんなことを考え始めた時。
「こんどはここかな♪」
ソラが選んだのは、あきらかにあやしいイス。
(ソラ、そのイスだけはやめときなさい! 一番危ないっ!)
座った。
(ボン!)
「おわあっ!」
イスが傾きソラはひっくり返った(ほら見ろ)
「グワっ?」
「あひょっ?」
優雅にお茶を飲んでいた二人もひっくり返った。
「なんだよソラ~」
「あちちっ。お茶がこぼれちゃったよ~」
「ごめん、二人とも!」
ソラが二人に謝っている間にテーブルが消えた。
(ボボンッ!)
赤箒が現れた!
(あそこに居なくてよかった)
ほっとするヒカリ。
ま、自分は見守るだけなのでどうだっていいか。
ソラたちは戦闘態勢に入る。
(これだけ間近で戦闘見るの初めてだな)
ソラを眺めるヒカリ。
(魔法使えたんだね。でも私より弱い)
いい加減なソラはそんなもんか。よく見ていると叩く方が得意なようだ。
(動きは、まあまあ)
ヒットはしてるけど空振りが多いね、武器に慣れてないって所かな。
(向こうのアヒル、魔法使いね)
単発にしては乱射しすぎかも、威力はあるけど当たらない所が特に気になる。
(グーフィ―の武器って武器って言うの?)
とりあえず武器にはなっている。動きが俊敏、あとは狙いを定めることだね。
今のところ、三人合わせればやっていけそうだ。
私も、人のこと言えないけどね。
三人の欠点は何を隠そう、自分自身にそっくり当てはまる。
けど、このまま三人いれば。
一人より。きっと、強くなる。
とりあえずは、目の前のハートレスをすべて各個撃破できた三人の今後の健闘を祈る。
(やっぱ人数多いとすぐ片付くねぇ)
なんだかあの三人がうらやましい。
ミッキーがこの二人をソラに託したのもうなずける。
(でも、やっぱ危なっかしいな~)
まだ、見習いっていうかなんというか。
「よしっ! 次のイス!」
「ええっ~」
(ええ~~)
ソラの言葉に思わずハモる三人(絵の中越えて)
さっき倒したばかりなのに、またこりずにイスに座るソラ。
しかもまた、変なイス!
案の定、ハートレス再来!
(……ソラ)
ほんっっとうに学習しないヤツ!
心の中で叫ぶヒカリ。
すぐさま飛び出してたたきたい!
いや、教育上よろしくないから……加勢したい!
「グワァ! もうやってらんない! グーフィ―、行くぞ!」
「まってよドナルド~」
「ちょっと待てよ、まだ座ってないイスが……」
「もうダメ!」
二人はソラを引っ掴んでパーティ会場の外へ行ってしまった。
(まったくソラってば。好奇心は変わってないんだから)
身内が、どこに居るのかもわからず。ただまっすぐに進んでいる。
もしも、さっき私が目の前に現れていたらソラはどう思っただろう?
アンタの記憶がなくなってても。
私はアンタのこと覚えてるんだから!
(?)
突如としてヒカリの前が真っ暗くなった。
ヒカリの目の前にハートレスが!
(なんで?……こっち見てる?)
絵の中に居ても。私の心はある。
(あ……)
無防備なまま、攻撃が来る!
(もう、ダメっ!)
(バシュッ!)
「ヒカリ!」
声が聞こえたあと身体が自由になっていた。
ゆっくりと目をあけると。
さっきまで居たハートレスは居なかった。
変わりにいたのは――。
ヒカリが絵画に吸い込まれた所に座っている彼。
「大丈夫かい? ヒカリ」
今ここに居る彼の姿がヒカリには信じられない。
それと――。
「ねぇ、どうして?」
一つ聞きたいことが。
「どうして絵画の中だってわかったの?」
「君の絵画がこの世界にあるはずがないだろ?」
「そう……ね」
「それに」
ミッキーはそこで言葉を切って微笑んだ。
実は隠そうとしているが――。
彼は少し息切れしている。
「僕だって君がカイリを思っているくらい、心配していたんだから」
「あのっ……ええと」
ここで、ミッキーに『ごめん』って言――。
「もっとも、友達以前に、僕のたった一人の仲間なんだから」
「……」
こう、はっきり言われると質問した自分が恥ずかしい。
これじゃごめんって言えないよ――。
「それより、船を使わずにどうやってここに来たのか教えてくれないかい?」
「?」
「僕とヒカリが前にいた世界とは違うってことぐらいは見当がついただろ?」
やっぱりここは、オリンポスじゃないんだ。
今更ながら確信が持てた。
じゃあ、もしかしてアリスも外の世界から?
だったらアリスも私みたいに元居た星が消えてしまったんじゃ……。
「そうだミッキー。アリスは見た?」
ヒカリの変貌により緊迫した雰囲気が薄れ、ミッキーはほっとしたように見えた。
「アリスは捕まっている」
「ハートレス?」
どうしよう。私がこんなコトしている間に!
「いいや、まだ安全だとは思うよ」
「まだって?」
「ハートの女王の裁判に彼女が被告人として裁判にかけられているんだ」
「被告人ってなんでまた?」
違う星に不法侵入したとかで?
「話が少しこじれてしまったけど物語はちゃんと進んでいるよ」
「へっ?」
ミッキーの話が全くつかめない。
「もしかして勘違いしてるね? 見た方が速いかもしれない」
「見るって?」
「それじゃあ行こう! すぐ近くだから」
そう言ってミッキーはヒカリの手をつかんだ。
「えっ? ちょっとはなしてよ!」
「また、はぐれたらいけないだろ? それとも嫌かい?」
すねるミッキー。
「ち、ちゃんとついていくから!」
「だめだめ! 君のことだ、飛び出して行きそうだから。それに、僕は独り身じゃないしね?」
そう言う意味じゃなくって。
右手つかまれたら、戦闘の時セプター出せないからなんだけど。
ま、いっか。
一人ぼっちでいたさっきまでとは違う。
私を気遣ってくれる相棒と一緒なんだから!
ヒカリは勘違いをしている彼に気づかれないように。思わずうれしくなって忍び笑いをした。