King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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7章 トラヴァースタウン3
~鐘の音~


 

「とーちゃくっ!」

 グミシップ、カレイドスターからヒカリが飛びだした。

 ここはマーリンの不思議な館の前だ。薄暗い湖面に動く岩、ほぼ中央には古ぼけた館がそびえる。

 

「それじゃぁミッキー。私、一人でいろいろ行ってるから~」

「あ、まってヒカリ……って、行っちゃった」

 ミッキーが船から顔を出したがもう扉に映る影しか見えなかった。

(ヒカリ、この前までは水の上は一人で渡れなかったのに)

 まぁ、ここは安心だからいいか。

 彼女が飛び出していくなんてトラヴァースタウンしかないだろうし。

 

 

 自分の庭のように一目散に走るヒカリ。

 お約束のように目の前にハートレスが立ちはだかる。

 足を止めずにロックセプターを出現する。

 シャドウを一振りで凪ぎ払い、ソルジャーの攻撃を跳ね返す。赤箒のファイアを間一髪でかわし、その向こうには丸い巨体のハートレスが待ち構えていた。

「ラージボディ!」

 苦笑いし、しぶしぶ立ち止まる。これでは簡単に前へは進めない。

 ラージボディの先制攻撃。

 ヒカリに向かって迫ってくる!

「うわっ!」

 ヒカリの視界を覆い尽くす巨体を間一髪でかわした。そのさいにフリーズを唱えた。

 ヒカリの周りの地面が凍結する。

 ラージボディはツルっと滑り、そのまま壁に激突、目を回している。

「まだ、のようね」

 背後で沢山の影達の気配がする。

 このまま逃げ切れたとしてもハートレスが増えてしまっては次にこの場所を通るときに大群となって出現してしまう。しかたなくヒカリは目の前のハートレスを倒す事にした。

「クリアー」

 ヒカリの周りのほとんどのハートレスを一掃する事が出来た。

浮遊している箒をとらえ、異界へ送還する。この魔法の原理はあまり考えていないが帰るべきところへ送っていることだけはわかる。

試しにハートレス以外、グミシップのグミに使ってみるとシドのところへ配達された。自分の視界に入らない場所へ移動する便利な魔法だ。ちなみに人への使用はクリアーでは吸い込まれなかったので無理だった。

 そして新たな発見。ラージボディは吸い寄せる事が出来なかった。重量や質量の大きなハートレスは対象外のようだ。

「それじゃ、バースト!」

 目標、もちろんラージオディ!

 

(パキンッ!)

 

「えっ?」

 ラージボディの装甲でバーストが跳ね返った!

 飛距離を追うごとに徐々に輝きが大きくなるバーストは至近距離では威力が弱い。

 軌道がずれたバーストがヒカリの目の前に!

「やばっ、避けられない!」

 

(ゴオォッ!)

 

 ヒカリにバーストが直撃!

 まばゆい光が目の前を通過し背後で輝き消える。

 

「うっ……」

 

ダメージはハートレス以外無い魔法のはずだ。

 けど――。

「目が……」

 

 眩しくて、見えない!

 

 うかつだ。魔法がなくても普通に攻撃していれば倒せたはず!

 

 自分の魔法に負けるなんて!

 

「だめだ~目の前、真っ白」

 完全に目がいかれてる。

 

 どうしよう。

 

「とにかく、にげなきゃ――あっ!」

(カランッ)

 不意のハートレスの攻撃でロックセプターを取り落とす。

「このっ!」

 素手でハートレスは倒せない。

 完全に取り乱している自分に叱咤するヒカリ。

(落ち着け、まずは武器を見つけなくっちゃ)

「戻ってきて、ロックセプター!」

 

(声を出さずとも出現するのに……だめか)

 セプターの出現・消失は場所が分からないと機能しないようだ。

 この状況でロックセプターが無いのは心底淋しい。

(もう最悪!)

 地面に手をつくヒカリ。平衡感覚が保てないし、あたり一面がまったく見えない。

 状況が見えないばかりか戦況すら読めない。危険を冒して逃げるより、これはあえて動かない方が懸命だろう。

(こうなったら、体制が整うまで袋叩きに!)

 覚悟を決めた武人のようにどっかりと座る。

「さぁ、着なさいラージボディ! ボディブロー、受けてあげようじゃない!」

どうにもならなくなって強気に叫んだ。

 

ぼんやりと位置が分からなくもないが、どうにも目の前が真っ白くってチカチカする。建物なのか動くものなのかも判別がつかない。

 風を切るような音がこちらへ向かってくる。

 

 来る!

 

 見えないのに思わず目をぎゅっとつむるとチカチカした視界が暗転した。

 

しかし、覚悟を決めたのに一向に体へのダメージが感じられなかった。

 それどころか、耳を澄ましてみると誰かが戦っている。

 

(もしかして、誰かがいる?)

しばらくしてハートレスの気配がなくなった。

それでもまだ自分の視界が開けない。

 自分の技ながら、バースト。あっぱれだ。

 

 足音が聞こえる。こちらに来る。

 

(敵? 見方?)

 

 でも群がっていたハートレスを倒してくれたくらいだから、助けてもらったには違いないだろう。

 

「あ、ありがとう!」

お礼を言ってみた。

とにかく声が聞きたかった。あと、どの辺にいるのかも分からないからである。

 

「別に、そんな訳でやったんじゃない」

 聞き取りづらかったが冷たい声だった。

(この声どこかで――)

 黙って考えていると、靴音が遠ざかる。

「ま、まって!」

「……なんだ?」

(やっぱりそうだ。この声、聞いた事ある!)

 他人だって思えない、今すぐにでも思い出せるはずなのに、なぜか思い出せない。

 

 なんで?

 

 なんて、考えているうちに――。

 足音が遠ざかる。

「もぅ~~。待てといってるでしょうが~!」

 ヒカリが叫んだ。逆切れだ。

 靴の音が止まった。

「お願い! 一番街まで、連れてってください!」

 ヒカリは取り乱した口調を改めて目の前に居るであろう人物にお願いした。

「なんで俺が――」

「それは、通りかかったから!」

言葉を遮るようにきっぱりと叫ぶヒカリ。

 

 靴音が遠ざかった。

 

「それじゃ~しがみついてでも着いてってやる~」もう、嫌がらせだ。

 ヒカリはすっくと立ち上がり靴の音がする方へ走り出した。もちろん視力なんて回復しているはずがない。

(カランッ!)

「あっ!」

 何かが足に当たりばたりと倒れる。

「いったぁ~い! なにこれ⁉ ってこれ、もしかして」

(ロックセプター?)

手探りで形を確かめる。

(六角形、ここロケット)

 間違いないロックセプターだ!

 ヒカリは少しほっとしてロックセプターを消失させた。

 

「……今のはなんだ?」

「うわぁっ⁉」

 居なくなったはずの人物にいきなり声をかけられビックリするヒカリ。

「なんだよ、ビックリさせるな」

「だって居なくなったかと思って……」

「お前、本当に目が見えないのか」

「だから、始めっからそう言ってるでしょ……」

 あきれるを通り越して感心する声にヒカリはすねるようにつぶやく。

「さっきの、見せろ」

「いやだ」

「なんでだよ」

「私、あんたのこと疑ってるから」

「助けただろ?」

「まだそうとは限らない」

にらみ合う二人。ヒカリは完全に目が見えないので目の前の人物へ視点があわない。

この時、目の前の人物から短い息がもれたような気がした。

「じゃぁどうしたらいい?」

「一番街!」

「……わかった」

ため息まじりにその人物は承諾した。

この人物はどうやら一番街に行きたくないようだった。

 

 

「ほら、一番街はこの向こう側だ。さぁ、お前の武器見せてくれ」

「武器って代物じゃないよ……」

 すねるヒカリ。ミッキーは、キーブレード同様、ロックセプターは自分の心の具現した物と言っていた。

はじめ、自分の心が武器だと言われて良い思いはしなかった。普通、護身で所持する硬い武器と違って心は脆いものだから。それを踏まえてもロックセプターは自分の想像をはるかに超える力を持っていた。

 私はまだ【自分の心】という武器を使いこなしていない。

 

 軽く念じると自分の手に杖が出現した。手にしたロックセプターが前方に引かれ、ヒカリの手から離れる。

 

「へぇ……名前は?」

「ロックセプター」

 興味深げに聞かれ渋々答えるヒカリ。

 少なくともセプターの位置が分かるのでいざとなれば消失する事は出来るだろう。

「錠か……」

「うん、まぁ」

「キーブレードよりも軽いな」

「うん、軽い」

 

(ゴーンゴーン♪)

 鐘の音が聞こえる。

 

(ん? キーブレード?)

「ねぇ、ちょっとあんたキーブレードって⁉」

「じゃぁな、参考になった」

 そう言ってセプターを放り投げた(ような気がした)

「えっ……」

(カラン)

 また、取り落とした。

「待ってよ! ちゃんと渡しなさいって!」

 あたりはしん、としている。

「なによ、参考って?」

 つぶやくヒカリ。

 

(ギィ……)

 いきなり背後の扉が開き体勢を崩すヒカリ。

「うおわぁ!」

(ガツッ)

 

「へっ⁉」

 ヒカリの足にセプターが引っかかり。

 遠くへ――飛んだ。

 

(カラン♪)

 音はかなり遠い。

 

 扉が開くと同時にヒカリはばたりと倒れた。

「スマン、誰か大丈夫か……ってヒカリか!」

 この声は、レオンだ。

「えっ、ヒカリ⁉」

 後ろにユフィも居た。

「こーこであったが百年目~いざっ勝負!」

「待てユフィ、様子がおかしい……」

 ヒカリの目の前にユフィが立ちはだかるが、倒れたまま動かないヒカリを見てレオンが制した。

「どしたの? ヒカリ」

 ユフィがおそるおそる歩み寄る。

 

「もうっ~~イヤ!」

「うひゃぁ」

 ヒカリの怒鳴り声にユフィがビビった。

 

 

「目が見えない⁉」

 レオンが驚く。

「うん」

 不甲斐ない半分、申し訳ない半分で苦虫を噛みつぶしたような表情のヒカリ。時間が経ってもヒカリの視界は真っ白のままだ。

自分の魔法がこれほどだとは、それとも自分の武器の威力のせいなのか。いずれにしても私の力というのはまだまだなんだ。力量を見誤った自分がとても情けなかった。

 

「早くマーリンの館に行こう」

「ちょっと来てよ~ヒカリ!」

 レオンの声とどこからともなく聞こえるユフィの声がかぶった。

「なに、ユフィ?」

 ヒカリがどこともなしに叫ぶ。ユフィはセプターを捜してくれているのだった。

 

「何言ってるんだ、この状態でヒカリは屋根になんか乗れないぞ!」

 レオンがほぼ頭上に向かって叫んでいる。

「そんな、遠くに飛び上がったのか。ロックセプター、意外と軽いからなぁ」

それとも自分のポテンシャルがいいのか。何に対しても緩急が付けられないのもまだまだ未熟なようだ。

 

「あのね~ロックセプターはあったんだけど~」

「あったのならなぜ、取って降りてこられない?」

レオンの声が上下交互に向けて聞こえた。

おそらくヒカリを抱えて飛び上がろうとしたが、可能ではあるが自分への安全性を考慮してあきらめたと言ったところだろう。

「やっぱだめ。私じゃ取れないみたーい!」

「?」

 ヒカリとレオンが疑問に思う。

 二人には見えないが、ユフィは確かにロックセプターを掴んでいた。

 しかし、動かそうにも瞬間移動するように元の飛ばされた地点まで戻ってしまう――というのだ。

 

 まるで主が突然消え、路頭に迷ったかのように。

 

 




旅の中継地トラヴァースタウン。いつもの場所結構すき。
気を抜いていたら事件発生。書いている側は楽しいのですが、今回はあの少年もやってくる回なので結構色々あります。え、もう出てる?
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