King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~盲目少女~

 三番街から魔法で開く扉を開けると、信じられない光景が待っていた。

「この氷、ヒカリがやったのか⁉」

 レオンが静かに自分が背負うヒカリに聞いた。

「うん、フリーズって魔法で」

「うっひゃ~辺り一面凍ってる~」

 マーリンの不思議な館の動く岩が氷で止まっている光景を見て絶句するレオン。

 ユフィが靴で氷の表面を叩く音が聞こえる。いくら叩いても氷は壊れなかった。

「マーリンの所には顔を出していなかったのか?」

「次合うときは期末試験って言われて……」

「……」

「なるほどねぇ~」

 試験の怖さに共感するユフィだった。

 

 

「レオンとヒカリ! これは、どうしたんだい⁉」

「帰ってきたようじゃの」

 驚くミッキーの声とマーリンののんびりとした声が聞こえる。

 

 視線がこちらに向けられているように思えて思わずヒカリはレオンの肩を強く握る。

 レオンは無言でヒカリをおろした。

 誰かがヒカリの肩を支える。

「何があったんだい?」

 目の前でミッキーの声が聞こえた。

 おそらく肩を支えているのは彼だろう。

「バーストが私に直撃して、目が――」

「見えなくなったのか!」

 ヒカリは申し訳なさそうにうなずいた。

「ねぇマーリン様! ヒカリ、このまま目が見えないままなの⁉」

 側でユフィがマーリンにわめくがごとく叫んでいる。

「おちつきなさいユフィ」

 そう言った声の主がヒカリの方へ近付く。

 

「ヒカリ、魔法に頼りすぎたようじゃの」

 マーリンの声がヒカリに重くのしかかる。

 表情が見えないせいでいつも温厚な魔法使いが今、とても怖い。

「すみません私、あまり考えもせずに――」

(コツンっ☆)

「いたっ!」

 ヒカリの額に固い何かがあたった。

 一瞬光ったようなのでおそらくは杖だろう。

「悔やんでもしょうがない事じゃ、気になさんな」

「マーリン様……」

 やっぱり、いつものマーリンだ。

「どうやら悪い予感が当たったようじゃのう」

「悪い予感って?」

 ユフィがマーリンにほぼ即答で訪ねた。

「ヒカリの魔法は不安定なものじゃ、まだ完全に自分の力をコントロールしきれておらん」

「そんな……」

 途方にくれたようにヒカリが言葉をもらす。

「それでさ、どうやったらヒカリは目が見えるようになるの⁉」

 じれったそうにユフィがまくしたてる。

「解決策がない事もない」

「ほんとうですか⁉」

「ほんとうなの⁉」

 ヒカリとユフィが同時に叫ぶ。

「しかし、今の段階では、不可能に近い」

「それでも、教えてください」

 ミッキーがヒカリをイスに座らせてマーリンに言った。

「そうだ、彼女がこのままでは武器が元に戻らない、教えてくれマーリン」

 珍しく寡黙なレオンもミッキーに賛同した。

 

「よかろう……」

 

 

「闇の、魔法」

 ヒカリがつぶやく。

「強力すぎる光にはある程度の闇の力を受け中和させるのじゃ」

「だったら私のクリアーで!」

「残念ながら、クリアーは完全な闇魔法ではない単なる移動魔法にすぎない」

「でも、闇の魔法が使えるのはここには?」

 

「居るよ」

 

 ユフィが静かに言った。

 部屋全体が静まりかえっている。

「いったい誰?」

 ヒカリが静寂を破り遠慮がちに聞く。

 ユフィの返答はなかった。

 

「マレフィセントだ」

 

 レオンがユフィに変わってはっきりとした口調で答えた。

「昔、私たちの住んでいた星を乗っ取った。正真正銘、闇の魔女だよ」

「今、このトラヴァースタウンに居るらしい」

 ユフィ&レオンが低く言った。彼らの経験上いい人物ではないどころか、仇のような人物だ。

「マレフィセント……」

 ヒカリがつぶやく。

「でも、そしたらヒカリは闇の魔法を直接受けろってこと⁉」

 ユフィがマーリンに向かって叫ぶ。

「そ、そう言う事になるじゃろうが……」

 マーリンの声がユフィの気迫に負ける。

「いくらなんでも闇の魔法をまともにくらうのは今のヒカリには無理だ」

「そうだよ、ヒカリ、ロックセプターも無いのに無理だって!」

 ユフィ、レオンが賛同しかねている。

「ミッキーはどう思う?」

 ヒカリが側に居るであろう相棒に意見を聞く。

 さっきからミッキーの声が聞こえなくてヒカリは不安になっていた。すぐ側に居るはずの相棒が、今の自分にはまったく見えない。

「ちょっと、いつまでもだんまりだとヒカリが居なくなっちゃたって思うよ!」

 ヒカリの思いに答えるようにユフィがミッキーに言った。

「そうだな、僕がヒカリなら……やってみる」

 黙っていたミッキーがやっと言葉を発した。

「ちょっと! アンタは強いからそう言えるんだろうけどさ、ヒカリは――」

「ミッキーならそうするんだったらやってみる!」

 ユフィの怒声に張り合うようにヒカリが言葉を打ち切らせた。今の自分には言葉以外何も手が出せない。

 

「ミッキーがそう言う時って何か良い方法があるからだよね!」

「いい方法だとは言い切れないけど、試してみる価値はありそうだよ」

ミッキーの声はいつもの彼とは思えないほど遠慮がちだった。

 

「そんな、私は反対! ぜぇ~~ったい反対! リスクが大きすぎだって、こんな賭け!」

「ユフィの言う通りだヒカリ、今の自分の立場を考えろ。武器もなしに戦えるはずがない」

「ロックセプターがないからこそ、油断をするはずだよ! それにチャンスがあるのにやらないなんて私は嫌だ」

明るく、ヒカリの声が切り上げた。

 

「もう一生見えないなんて嫌だもん!」

 

 最後のヒカリの言葉に二人は何も言わなくなった

 おそらく了承してくれたんだと思う。

 

 だってさ、このまま見えないと――。

 

 ソラを探す事が出来ない。

 リクを見つける事が出来ない。

 カイリを助ける事が出来ない。

 そして、いろんな星の、すばらしい景色を見る事が出来ない。

 

 そんなのぜぇったい、嫌だ!

 

「……くらってやろうじゃない、闇魔法!」

 その一言に皆、驚いた。

 ヒカリの声にいつもの不敵な、そして危機を楽しむような意気込みは見られなかった。

 彼女自身も自分の声に少なからずビックリする。

 

 それは、声の震えがはっきりと分かるほど緊張した声だった。

 

 

ミッキーはマレフィセントの情報収集とついでに買い出しに行った。

 

「こんな大変な時に買い出しぃ~⁉」

 と、ユフィがミッキーにむかって野次を飛ばしていたが、ヒカリに言わせれば彼らしいと言えば彼らしい。

 声が聞こえないのでいつの間にかレオンもどこかに消えてしまったようだ。

 後に残ったのはマーリンとユフィだけだ。

「ところでどうやってマレフィセントに喧嘩売るのよ? 一人じゃろくに歩けないのに」

 

「おお、それならば、今ここに向かっている彼女でなんとかなるじゃろ」

「ヒカリさぁーん!」

 マーリンの言葉を繋げるように外から来訪者がやってきた。

 

「その声は、マフ?」

「そうです! フェアリーゴッドマザーさんから聞いて駆けつけました」

 ヒカリはこの部屋のどこかにあるカボチャの馬車に感謝した。

「心配かけてごめん。すぐマフに会いに行こうって思ったのに」

「いいえ」

 そう言ってマフはヒカリの手を握る。小さくてあたたかい手だ。見えない分それですぐにマフだと分かる。

 

「そうだ、ロケットありがとう。助かったよ」

「はい! 少しでもお役に立てたのならばとても嬉しいです」

 マフの元気な声がヒカリにはとてもありがたい。

 

「それで、急いで作って来ましたので多少扱いづらいかもしれませんけど」

「?」

 マフがそう言ってヒカリに何か首に着けた。

 

「!」

 

 なんだろう。身につけた瞬間、なにかを感じる。

「マフこれは?」

「目を閉じてみてください」

「?」

 ヒカリはマフに言われて気づいた。何も見えないはずなのに知らないうちに目を閉じる事を忘れていたようだ。

 ゆっくりと目を閉じるヒカリ。

 

「え? な、なに?」

「どうしたのヒカリ?」

 ユフィがヒカリに聞く。

「よくわかんないけど……見える、よ?」

 目、閉じてるのになぜ?

しかもなぜか目の前に私が見える!

 

「マフ、いったいどういうこと?」

 ヒカリは顔を動かしてみる。しかし、動かしても自分の視界は移動しない。何かカメラの映像を見ているようだ。

「これは身につけた人の視界が共有できるアクセサリーです。今ヒカリさんは私の目を通して見ています」

 

 なるほど。

 そういえばこの視界にはマフは見当たらない。視界の真ん中でちらついている長い前髪がマフの目から見ているのだと分かる。

 

「私にはよくわかんないけどヒカリ、そのペンダントちょっと貸して」

 ユフィが今、自分に向かって話しかけているのが見える。やはりこれは間違いなくマフの見ている視界だ。

 

「ダメです! これは人のプライバシーを侵害するモノであって、よほどの事がない限り作らないと決めていましたから!」

 視界が突然動きヒカリの首にかかっているペンダントが見えた。

 揺れるたび縦にはしる光が猫の目のように揺らめく、キャッツアイのはめ込まれている銀細工のアクセサリーだ。ペンダントに手をかけているユフィをとらえ視界が激しく左右に動く、一緒に前髪も揺れた。

「ちぇ~」

 ユフィがヒカリの横ですねるのが見える。

 ふとユフィはヒカリのリボンをつかもうと手を伸ばすと。

(ぱしっ)

 ヒカリがユフィの伸ばした手をつかんだ。

 もちろんヒカリは目を閉じたまま。

「うっひゃーホントに見えるんだ~」

「そうみたい」

 自分がユフィの手を握っているのが見える。なんだかこうして自分の行動を他人から見るのは少し照れる。

 そして今のマフもなんだか動きがぎこちない。視界を共有するってあんまりいいモノではないなと思った。

それでも、今はそういう事を言っている場合ではない。マフもそう思ってこれを作ってくれたのだから。

 

「とりあえずこれでマレフィセントとの戦闘はなんとかなりそうね」

 ヒカリが立ち上がる。視界から自分の顔が消えた。マフの身長が小さいので自分の腕しか見る事が出来なかった。

 

「でも、慣れるのに持間がかかりそうだし、マフが居ないと動けないけどね」

 マフが見上げる形でやっとヒカリの顔が見えた。

 目の前で目を閉じて不敵に微笑んで見せたヒカリは自分で見ているとなんだか滑稽に見えた。

 

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