King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
星がほとんど見えない夜空。
マフ・リストはヒカリをつれて二番街を歩いていた。
「大丈夫ですか? ヒカリさん」
ぎこちなく歩くヒカリにマフは遠慮がちな声。
「暗くて…あんまり見えない」
「やっぱり、手つなぎますか?」
「ううん、いいよ歩くのは慣れてきた」
階段を降りる時は少し大変だったが、段差は覚えているので慣れれば何とかなりそうだ。
「それじゃぁ、今度は……」
マフは二番街の広場に足を踏み入れた瞬間。
(ボボン!)
ハートレスが現れた!
「戦闘です!」
そう言ってマフはヒカリを視界におさめながら戦闘範囲外まで下がった。
ヒカリはマフと視界を共有しているのでどちらか一方が戦闘を見守りサポートする作戦だった。
「ようしっ!」
ヒカリは右腕を横に大きく振りかざした。
右腕にはめていた腕輪が輝き、瞬時に形を変えて棒――ロッドへと変わる。
武器のないヒカリにマフが即席で作ってくれた物だ。目が不自由だと刃を握るのは気が引けるのでヒカリはロッドを選んだ。
相手へのダメージはそれほどではないが攻撃範囲は申し分無い。もしマフに攻撃が当たってしまっても武器自信が主を傷つけないように魔法がほどこしてある。
(マフってすごいなぁ……)
後ろで戦闘を見つめている彼女にヒカリはつくづく思った。
ソルジャーが回転してヒカリに襲いかかる。
ヒカリはロッドをソルジャーと同じ向きに振り回す、しかし相手よりかなり早く回転させる。
回転の力が加わり、ソルジャーがヒカリから離れコマのように周りのハートレスを蹴散らす。
刹那。赤箒レッドノクターンのファイアがヒカリに向かって繰り出された!
「バリア!」
ヒカリの周りに黒い膜が張られファイアを分散させた。
レッドノクターンに混じって黄箒イエローオペラのサンダーが繰り出されたがさほど威力は無い。
ファイアが掻き消えると同時に目の前からラージボディが体当たりを仕掛けてくる。
「くっ!」
ヒカリがロッドを水平に保つ。ラージボディがヒカリに触れる瞬間、ヒカリは横へ素早く移動し攻撃を受け流す。
(キンッ!)
そしてそのまま武器を回転。弱点である背中を見事に捉えた。
さらにヒカリの背中からシャドウが襲いかかる!
「ヒカリさん後ろ!」
「うん、見えてる!」
ヒカリは身体をひねり叩きのめした。
残るは無数の箒のみ!
「よしっマフお願い!」
「はいっ! 空の敵はお任せくださいっ!」
ヒカリが自分の身にバリアを張り、続いてマフが動き出した。
「てりゃあー!」
マフの視界がせわしなく動き出す。
ヒカリはあまりにも素早いマフの視界に思わず目を開けて逃れた。目を開けると何も見えないのに目を閉じて視界が開けるなんてなんだか変だ。
「終わりです!」
しばらくしてマフが叫んだ。ヒカリが目を閉じるとマフのハンマーが直撃し、レッドノクターンが消えるのが見えた。
静寂を取り戻した二番街にマフの声が響く。
「動きはどうでしたか? ヒカリさん」
「自分を客観的に見てるあたりなんかゲームやってるみたい、まぁなんとかなるかな?」
「なにか不自由な所はありませんか?」
「大勢に囲まれると、自分が見えなくなりそうだけど、この武器のおかげでそれは解消できるみたい」
ヒカリは腕輪を誇らしげに掲げながらマフに言った。
リストバンドみたいに自分の腕をぴったりと覆う銀の腕輪。横に勢い良く振るとロッドに変わる。自分の背丈よりも少し短い、飾りっ毛の無いただの棒だと思っていたが、マフが側に居るためその細部までじっくりと眺める事が出来る。
東洋の唐草模様の古風な棒、先端は丸くなっていて両端と中央のグリップ部分にくびれが見える。触れるだけでどこをつかんでいるのか盲目でもよくわかるような工夫があった。
「うん、これならマレフィセントともちゃんと戦えそうだよ!」
誇らしげにヒカリが行った矢先。
「わざわざ呼ぶなんて私も有名になったことだねぇ?」
「!」
なぜ、こんなにも都合がいいようにやってくるのだろうか?
ヒカリとマフの前に真っ黒い煙とともにマレフィセントが現れた。
☆
いきなりボスの登場で言葉を失うヒカリ&マフ。
「な、なんで……?」
ヒカリが唖然として言葉を漏らす。
「なんでかって? 私の連れの子がお前を気に入ったようでね。挨拶をしに来たのさ」
「?」
ヒカリは目の前の魔女の言葉に訳が分からない。
「正確にはお前の武器だけどね」
「!」
もしかして私の目が見えなくなった直後に助けてくれた、あいつがマレフィセントと仲間!
「やっぱり、関わるんじゃなかった……」
正確には逆に自分が彼につきまとっていたのだが、いまさら過去の自分を悔いるのは無駄だ。
「それで、私に何の用だい?」
「挨拶がてら丁度良いから言うんだけど。私あんたと今、戦いたいんだよね」
「そんな、ヒカリさん!」
マフの制止も関わらずヒカリは一歩マフから前に出た。
出来れば、手っ取り早く終わらせて一刻も早く視力を取り戻したい。
そしてマレフィセントの子分(?)であろう少年にバトルを申し込む!
強いか弱いか、勝つか負けるかなんてどうでもいい。ただ、敵に助けてもらったなんてなんかしゃくだ。
ヒカリは彼に正々堂々と宣戦布告を申し立てようと決心した。その為にはまず、目の前の上司にご挨拶をしなければ!
「この私と戦う? 何寝ぼけたことを、私がわざわざここに来たのはお前の武器を見に来たのだよ?」
(武器ってロックセプターでしょうか? でも今はヒカリさんは……)
(お願いマフ、今ロックセプターが無いことは黙ってて)
二人がコソコソと話をしている隙にマレフィセントが先制してきた。
「さぁ、試しに見せてちょうだい!」
「!」
マフとヒカリは目を見張った。
マフの視界ではこれほどまでに大きく見えるなんて。
マレフィセントが出現させたのはハートレス。ガードアーマー!
「マフ、持ちこたえる?」
「ヒカリさん、頑張ってみます!」
「ありがとマフ!」
マフがガードアーマーに立ち向かう!
ガードアーマーの頭を狙うマフの脚力が素晴らしい。
(私は試しに魔法!)
「バースト!」
(やっぱりダメか)
バーストとクリアー。この二つは何故かロックセプターが無くては発動しない。
(こんなときに限ってどうしてロックセプターが!)
「きゃっ!」
目を閉じるといつの間にかガードアーマーの周りにシャドウが現れマフが囲まれていた。
「マフ!」
一か八かなんて考えられなかった。ただ、自分の口から勝手に呪文がこぼれてた。
(時間よ、止まれ!)
「タイム!」
真っ暗な中。一筋の光がまばゆく光り輝いた!
「あれっ? 動いてない」
ガードアーマーの攻撃に飛ばされ倒れていたマフが言葉を漏らした。今の不思議な光景にマフの視界がヒカリをとらえ。ヒカリに向かって叫ぶ。
「もしかしてヒカリさんが?」
「そうみたい……視界を共有しているから魔法も一緒にかかるみたい」
「す、すごいですね~」
マフは起き上がりヒカリへと戻る。
周りの景色が無彩色に変貌している。ハートレス、魔女マレフィセントまでもが無彩色だ。
マフとヒカリのみ、この世界で唯一動いている。
時を止める。新しいヒカリの魔法。
「これなら私も多少魔法を使えそうです!」
マフがハンマーを杖へと、一瞬で変形させる。
くるりと回り、杖を天へ突き上げると彼女の周囲の地面が真っ白く輝いた。
初めて見るマフ・リストの魔法――。
「輝く刃は星の力、栄えるは大地の恵み。くらいなさいっ! メテオ・ストーム」
空から振ってくる隕石の、煌めく星の雨が無数に降り注ぐ!
ちょうど良くタイムの魔法が切れた。
「なっ……これはいったい!」
不意打ちのせいかマレフィセントにも多少のダメージが与えられた!
「何で魔法、使えたのかな?」
マフの戦闘をよそにヒカリは考える。
セプターは私の心の具現。たぶんセプターの輝きがバーストのヒントになったんだ。
ホーリーバースト。
星の輝きを元に生み出した大魔法。
クリアーはバーストの逆の発想。バリアはクリアーと似ているけどなぜかセプター無しでも使える。
バーストとクリアーはセプターの力を最大限に利用した魔法なんだ。セプターが無ければ発動させることは絶対に無理。
さっきのタイムは瞬間的に閃いて唱えた。
ヒントは、無い。
もしセプターで引き出すことが出来ない力があるとするならば――もしかしたら、バーストのような魔法が使えるはず!
だったら。
「なんでもいい、光を!」
(バシュ!)
ヒカリの中に衝撃のように何かが閃いた。
「ハート、レスの……黒い光?」
☆
「ちょっと危ないかも、しれません」
戦闘中、マフがつぶやいた。
振り上げたハンマーを振り下ろす直前に巨大化させ、ガードアーマーの頭部に直撃させる。さらにすかさずハンマーを軽くさせ前転し、ハンマーを乱れ打ち!
それでもガードアーマーの装甲にへこみは見られない。右腕と左足は倒した、頭部をあきらめて右足を攻撃する。
はずが――。
本体がマフに向かって体当たり!
「あぐっ!」
小さな体が投げ出される。
地面に叩きつけられる衝撃を考えマフは思わず目をつぶる。
(あっ、だめだった! 目を開いていないとヒカリさんが!)
ばふっ。
「え?」
マフが目を見開くと。
「マフ、しっかりして!」
「ヒカリ、さん?」
(もしかしてわたし、ヒカリさんに体当たりしちゃったのかな? うわぁ~ん、どうしよう! ヒカリさん目が見えないのに!)
「大丈夫ですかぁ! わたしヒカリさんに体当たりしちゃって!」
「うん? 私なら大丈夫、もう見えるよマフ」
「え?」
嬉しそうにマフを見つめる彼女は確実に目を開いて自分を見ている。
マフはヒカリの首にかけてあったキャッツアイのペンダントを見る。
そこにははめ込んでいたはずのキャッツアイが砕けていた。
マフはそれを確認するともう一度ヒカリの顔を眺めた。
晴れた日の、
明るく真っ青な空のような瞳が、
確実にマフを見つめている。
「よかった……」
その瞳の色が、視界が、自分の涙で揺れた。
「ありがとう、マフ。今度は私の番だよ!」
明るく、ヒカリが笑いかけた。
マフから目を離しヒカリは表情を一変させる。
「さぁ、私が復活したからにはトコトン暴れてやるわ!」
口元が上に上がっているものの、そこから上は最悪な状況で目覚めた時のように目が据わっている。
青い瞳がわずかな光を受けて鋭く、輝く。
彼女の目の前に立ちはだかるは右腕と左足の無いガードアーマー。右腕を振り上げると腕輪が輝きだして棒が出現した。
「それがお前さんの武器かい? ふっ、何と……」
呆れ返るマレフィセントをよそに走り出すヒカリ!
ロットを振り回しガードアーマーの右足を狙う!
バシュ!
ヒットするとともに黒い光が表れる。
「なんだいこれは⁉」
「ヒカリ、さん?」
一気に右足が消えた!
次は左腕、ものの数発で大破した。
胴体だけになったガードアーマーはぐるりと身体を反転させ改変。
すかさず体当たりがくりだされる!
「さっきからしつこく体当たりしてきて、もう飽き飽き!」
回転しながら襲ってくるガードアーマーをヒカリはロットを逆回転させて受け流す。
「それじゃ、いくよっ!」
そう言った瞬間。ヒカリが消えた!
「なんだい、消えた?」
(おそらく、さっきの時間の魔法)
マフがそう思った頃にはガードアーマーは暗い煙とともに消えていった。
ヒカリはさっきまでガードアーマーが居た場に瞬間移動していた。
煙の向こう側にマレフィセントが見える。
「なっ……お前はいったいどんな力を使って――」
時間を止める魔法が存在すること自体魔女には考えが付く。しかし、マフが体験したヒカリの時間魔法は一つの詠唱がギリギリ発動できる程度だった。
しかも二次変形したガードアーマーを一撃で。
おそらく魔女はそれに驚いている。
ついさっき使ったであろうヒカリの魔法はマフにも分からない。
そして、今のヒカリはいつもとは何か違う。
「さて、マレフィセント、もう用事無いから単刀直入に言うけど、アンタの子分。今すぐにでもつれて来てよ?」
いつもどおりのヒカリの声が、
唯一、彼女自身だと証明していた。