King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~悔し涙~

 本当は分かっていたのかもしれない。でも、思い出したくなかったんだ。

 

 彼の声を――。

 

「なんで俺の名前知っているんだ?」

 驚きを隠せないリクがヒカリに向かって聞いた。

 

「やっぱり、そうなのね」

 リクとは対称に落胆するヒカリ。

「とりあえず『お前』って呼ばないで、ヒカリって言ってよ」

「質問に答えろ、お前は俺の何を知っている」

「あ~また『お前』って言った!」

「お前、は何者だ? ヒカリ」

「ん~何者って言われても困るなぁ」

何者だ? と言われこの場合、何と言えばいいのか? 名を名乗れ、かな?

 でも自分でゴーインに名乗っちゃったし……。

 

「まずは、どこから来た? むしろ外の世界は知っているか?」

「失敬なっ! 私が何にも知らない『街人』なんだって思ってるんでしょう? 冗談、私はソラの姉でリクとは同い年でカイリとは堅い友情を築いているのです!」

 

 親指を胸に突き刺し、憤慨するヒカリ

「何言ってるんだ? ソラに姉なんて居ない」

「なによ! 自分でも認めたくはないんだけど、ソラとはまったくのウリフタツだって皆から言われてんだけど!」

「確かに……似ているようには見えるが。雰囲気は全く似ていない」

「当たり前でしょ! 私はソラじゃないんだから!」

 

 堂々巡りな言葉の浴びせあいに観念したリクがヒカリに背を向ける。

「やっぱりもういい、こんな妙なヤツには関わりたくない」

「聞いておいて何言ってるのよ、もう~」

「気が変わった、お前とは話すことは何も無い」

 一度振り替えたリクはヒカリに背を向けて歩き出した。

 

「カイリに、会ったよ」

「どこで会った⁉」

勢いよく振り返るリクが血相を変えて詰め寄りヒカリの肩をガシッとつかむ。

 

真剣そのものだ。

 

 なんで、カイリって言うと、

 そんなに真剣になるの?

 

「なぁ! カイリはどこに居たんだ?」

「別の世界で会って、眠ってばかりで何も話せなかったの。そしたらいきなり消えちゃって」

「消えた? いったいなぜ?」

「わかんない、側に……居て、られなかった、の」

 

ぶわっと涙があふれた。

 ぽろぽろと涙が頬をつたう。

「っく……なんで、そんな、怖い顔するの?」

 彼女の泣き顔に驚き、さっきまでの焦る表情を崩すリク。

「いや、もういい。居るだけでも分かったから」

「やっぱり……私の、こと……もう、みんな忘れてるの?」

 声に出すたびに涙が止まらない。

 カイリがここに居ないのは私のせいだ。きっと、ソラとリクの記憶が無いのも。

 

 ソラを引っ張って、

 リクを助けて、

 カイリを守る。

 何一つ達成できていない自分が悔しい。

 

 頬をつたう涙を拭うことさえ忘れている彼女に、リクは気づかわしげに聞いた。

 

「なぁ、おま……いや、ヒカリの武器がソラと似ているのはなぜだ?」

「わかん、ない」

「見せてくれないか?」

「……」

 手を開くと現れるロックセプター。それはキーブレードとどこか似ている。

 リクはヒカリのロックセプターを眺めながらふと考える。

(もしこれが俺に使えたのなら……)

 ヒカリを見つめ手を伸ばすリク。

 

 ヒカリはリクにセプターを――。

 

(ガツン!)

 

 振り下ろした!

 

「なっ……っ!」

 頭を抱えるリク。

「私を忘れたことは、これで許してあげる!」

 涙を拭うヒカリ。

 

いいよもう思い出さなくても!

私は覚えてるもん!

 だから、今からでも思い出すくらい付きまとってやる!

 リクを、私の幼馴染をマレフィセントの思うようになんかさせない!

 

「いってぇな~ヒカリ!」

「?」

(なんか、さっきまでの妙なよそよそしさが無くなったような?)

 

「何よ? 私は悪くないもん!」

「だぁーっからお前はいつもいつも女らしくないって言ってるんだ!」

「いつもいつも?リク、もしかして私のこと……えっと、リク! わたし、私の名前言ってよ。あと私の兄弟!」

「何言ってるんだヒカリ? 兄弟って、正確には姉弟だろ、ソラなら向こうにいたぞ? その杖お前には似合わないなぁ~木刀はどうした?」

 

「やっぱ……リクだぁ~」

 気の抜けた声でわなわなと震えるヒカリ。

 

 なぜだろう。

 身体が震えるくらい……嬉しい!

 

 リクが、私を忘れてない!

 

「だからなんでそんなに幽霊でも見るように驚くんだよ? さっき見たソラと同じ顔してるぞ?」

「え? うそ、やだ~!」

「何がヤダだよ、姉弟だろ?」

「うん、やっぱりリクだ~でもなんで?」

 まだ興奮納めないヒカリはリクへ率直に聞くとリクが恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「過ぎ去った過去のことはいさぎよくもう忘れろ。スマン、思い出せなくて、本当に悪かったと思う」

「う、ううん! もう、気にしてないって!」

 ヒカリは勢い良くぶんぶんと首を振った。

 リクが思い出してくれた。

 それだけで、さっきまでため込んで重くなっていた心が軽くなる。

 

「ところでヒカリは今までどうしてたんだ?」

 いきなりの的を得た質問がいつものリクだ。

「さっきまで興味無さ気だったのにねぇ~?」

 含みのある笑みでヒカリがリクを眺める。

 リクの率直には言いづらい質問をはぐらかすのがいつものヒカリの役目だ。

「う、うるさいっ! 謝っただろ? 気にしてないんだろ⁉」

「はーい。そうでしたね」

 闇の魔女のもと、今まで一人で行動して来たリク。その功績でヒカリは『まぁ許してやろう』と思う。ヒカリはきちんとリクの質問に答えることにした。

「あの晩、ソラと一緒に島に来てみたら洞窟にカイリが居て、そのあとよくは分かんないけどここに居たの」

「ここに流れて来たのか」

「うん」

「カイリはどこで?」

「違う星。こことはちがう世界からカイリを見つけて、目を覚まさないから船に置いてもらって一緒に居たんだけど……私が船に居ないときに居なくなっちゃった」

「それは、カイリが抜け出したってことか?」

「たぶん。でも違うって。私が居なかった間に色々あって、でもね、一緒にいる相棒が言うにはカイリはずっと一緒に見てるからって……」

「理由はどうであれ、結果はいなくなったんだろ?それに、ヒカリがそばに居たらカイリはいなくならなかったはずなんだろ」

「そ、それは……そんな、リク! 私は……」

 

 あのとき私は、

 ソラに会いに行こうって思って――。

 

「おまえ、島での約束で言っただろ?『困ったことがあったら自分に来い』って?」

「う、うん」

「お前がカイリの側から居なくなってどうする? 俺だったら大事な幼なじみを置いて離れて行動はしない」

「だ、だって……目覚まさなかったから」

「目を覚ましたときに一番心細いのはカイリなんだ。こんな状況で自分のことを最優先してどうする?」

「それは、相棒の手伝いとか……自分のこともあったし」

「これじゃお前も『キーブレードの勇者』だとか言っていい気になっているソラと同じだな!」

「っ!」

 ここまで言われると、流石のヒカリも何も言えなくなった。それに、ソラと言う時の、リクの表情がとても皮肉がこもっていた。

 

 ヒカリは一度、歯を食いしばり、熱意のこもったように一言ずつ言葉を吐き出した。

 

「……いいわ、リクの言う通り……私のせいよ。もう、言い訳なんか言わない」

「じゃあどうするんだ? カイリの居場所でも突き止めているのか?」

 リクの皮肉の嵐に放心状態でつぶやくヒカリ。

 

「カイリの居場所に見当がついていたらリクに話す前にすぐそこに行ってるわよ。でもリク、これだけは覚えておいて」

 リクに向かって、ヒカリはこぶしを突き上げた。

 

(シャン)

 

 ヒカリの手にロックセプターが現れ、リクへ突きつける。

「私はソラとはちがう」

ヒカリの目は覚悟を決めていた。

 

 自分は目が見えなかった時から、本当はリクのことは分かっていたんだと思う。

だから今、リクにロックセプターを見せることをためらっていたんだ。

 

 キーブレードとロックセプター。

 

 島では持つことが出来なかった力が今の私とソラにはある。なんだか知らないけど、これだけは絶対に分かる。

 

リクは私とソラに嫉妬してる。

 

この感情に寄り添えるのは、限られる。もう言葉だけでは、通用できない。

 

「じゃぁ、どうやって証明する?」

 それを知ってか知らずかリクはなおも話を続ける。リクの声が鋭いトゲを持っていて、それを聞くたびに心に響く。

 

 答えは決まっていた。

 私が、ソラとはちがう唯一の証拠。

「リク、私はソラよりもアンタよりも、めちゃくちゃ強いんだから」

 

 

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