King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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前書き。
怒られる回です。心して読むべし。
あと、最後にちゃんと仲直りします。


~ケンカ~

 カレイドスター船内にとぼとぼとヒカリが戻って来た。いつもは元気よく「ただいま」と言うのに今日に限っては挨拶のない彼女にミッキーが格納庫から顔を出した。

 

「どうしたんだい? こんなにぼろぼろで?」

 修行すると言って姿を消した彼女はまたもや運悪くトラヴァースタウンのボスハートレスにでも当たったのかと心配そうに聞くミッキー。

 

「リクに、あった……」

「あ、会ったのか。ソラ達がリクって言っていたのを偶然見たからヒカリが帰って来たら報告しようと思ったんだけどね」

 そう言って残念そうにミッキーが格納庫に戻って荷物の整理を再会する。

 

「……ソラみたいに記憶がなかったみたいだったけどロックセプターで殴ったら記憶が戻ったの」

「記憶が戻った⁉ それは良かったじゃないか。もしかしたらソラも同じように……ヒカリ?」

 嬉しそうにミッキーが言ったが対するヒカリは浮かない顔で目を泳がす。

「なにか、あったのかい?」

 作業の手を止めてヒカリに向き直るミッキー。

 ヒカリは上の空でつぶやいた。

「もう一回、ロックセプターで叩いっちゃたら、私だけの記憶が……消えた」

 

「なぜ、記憶を消すような事をしたんだい⁉」

 

「!」

 ミッキーの怒声にヒカリはビクッと身体をこわばらせた。泳がせた視線からおそるおそるミッキーを見る。

 彼の表情は生気のこもっていない今のヒカリとは比べ物にならないぐらい真剣そのものだ。

 さっきまで浮かない表情のヒカリの顔に動揺の色が現れる。

「だって、リクがマレフィセント側に居ればカイリが安全なんじゃないのかって……」

「カイリがマレフィセント側に居るという根拠はあるのかい?」

「……っ」

 ミッキーの真剣な表情に気圧されるヒカリ。

「キミの弟がキーブレードの勇者だって彼は分かっている、だから孤立した彼にとって、ヒカリ、キミが彼の支えでいてあげなくてはいけない、ちがうかい? 記憶が戻ったのならなおさら、僕はそう言おうとしていたのに」

「そ、それは……」

「キミのした事はリクにマレフィセントの手伝いをさせる事になるんだよ? 一人でも友人としての支えとして思われていることに何の価値もないなんて僕は思わない」

 

 何も言えなくてグッと拳を握るヒカリ。

 

「まだ遅くなんかない、さぁヒカリ、リクの所へ行くんだ!」

 ミッキーはヒカリにいっさい触れていない。

 しかし今の彼は。引力のように言葉だけで人を動かす力があるような気さえする。

 

 

「……ヤダ」

「なぜ!」

「嫌なの! 私の事なんだからミッキーには関係ない!」

「関係あるさ! マレフィセントはハートレスを操る事が出来る闇の魔女だ。キミの友達がもし闇の存在になってしまったら取り返しのつかない事になる」

 

「リクだったら大丈夫だよ! リクも心配だけど私はカイリの事がもっと心配なの! きっとリクが側にいてくれればカイリは――」

「何の根拠があってそう言えるんだ! この分からず屋!」

「⁉」

 ヒカリはさっきまで言おうとしていた言葉が消えた。

「ヒカリ、キミは世界について何も知っていない、キミだけの考えでは危険だ!」

 格納庫のドアをバタンと閉めてミッキーが通路のヒカリに詰め寄る。

 あたま一個分大きな身長の彼に気押させながらもヒカリは負けじと拳を作る。

 

「なによ……なによなによ! 自分だけ知ってるような口ぶりで、私には肝心なこと何にも教えてくれないじゃない! ミッキーの知ったかぶり!」

「しっ……⁉」

 今度はヒカリがミッキーに詰め寄る。

小さな身体で精一杯背伸びをして噛み付くようにミッキーを睨む。

「いつも理由もなしにいろいろ言っちゃってさ! 嘘か本当かも分からないじゃない!」

「僕は嘘なんかこれっぽっちも言ってないぞ!」

「でもそこから踏み込んだ話なんてこれっぽっちも聞いた事がないよ!」

「そう言うヒカリだっていつも一人で飛び出してトラブル起こすだろ!」

「しょうがないじゃない! 私は何にも知らないんだから」

「僕はキミの行動事態が理解不能だよ!」

「私もミッキーの事何も分からないよ!」

 

 二人の詰め寄り合戦で。いつの間にか操縦席までやって来た。

「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ、ヒカリ! リクの所へいくんだ」

ミッキーはヒカリの肩をがっしりとつかんで言った。

ヒカリはこの行動に驚いた。普段、助け起こすぐらいでしかヒカリの体に触れない。そんなミッキーが今ヒカリの肩を強くつかみ体を揺さぶる。

それぐらい我を忘れて真剣なのはわかった。

 

 でも――。

 

「ミッキー。もう、遅いよ」

 うつむいたヒカリの悲痛な声がはっきりと目の前のミッキーに聞こえた。

「だって……私。もう、良く分かんないんだもん」

 ヒカリが顔を上げた瞬間、彼女の目から一筋の涙がこぼれた。何も出来ない子供のような表情を目と鼻の先にいる彼に向ける。

「ヒカリ……」

 彼女の顔を見たミッキーの厳しかった表情がたちまち崩れる。肩をつかむ力が消えた。

「なんで、ミッキーはいろいろ分かっているの?」

 うつむくヒカリが小さな声で質問する。ミッキーは無言だ。

「ミッキーはいったいハートレスとか、心とか……何で、分かるの? ハートレスの事だけじゃない、なんでミッキーは一人で旅をしていたの?」

 聞きたかったことがぽつりぽつりとわいてくる。

 ミッキーは無言だ。

 ひと呼吸置いてヒカリが顔を上げる。最後の質問をぐっとこらえるように言葉を絞り出した。

 

「大切な、仲間を……置いて来てまで」

 

 その言葉にミッキーの表情が一瞬にして固まる。

 

「私、ミッキーの大切な仲間なんだよね? だったら……私には教えてくれても、いいんじゃない?」

涙が頬をつたってもヒカリはかまわず、真っ直ぐミッキーを見つめる。

 しばらく迷うような表情を繰り返し、ミッキーはついに口を開いた。

「僕は知っているんだハートレスを結果的に増やしてしまった原因を」

 彼はヒカリから大きく視線をそらして悔しそうに言った。

「星が消え始める前に僕は王妃達の目を盗んではいろいろと世界を回っていたんだ、一つの星を治める者として多くの知識が欲しかったから」

 あちこち見渡しながらミッキーはカレイドスターに手を触れる。

「この船はずっと前からこっそり僕が使っていた。

 昔からグミブロックって言うのは少なからずも宇宙空間にあったらしいね」

 

 ヒカリは涙を拭ったが、表情は全く動じない。

 

「ある一つの世界に大賢者と呼ばれる人物がいた。星のどこかにある扉を開くと他の世界からの来訪者も簡単に入る事が出来るようだ」

「皮肉だね、扉が開くとハートレスが各地に現れる原因になるけど、そのおかげで決して交わる事が出来ない世界との交流ができるなんて」

 

 ヒカリは島の事を思い出す。

 扉、私が洞窟で落ちた場所。あれが私たちの世界の扉。

 

「大賢者と話をしてハートレスは全ての人の心に潜む心の闇の具現化したものだと考えた。しかし、よほどの事がない限りその闇の存在は実体化をする事はない。それに大きなハートレス達には一定のマークが付けられている……ハートレスを操る組織がいる事が分かったんだ」

 ミッキーは真剣な目でヒカリを見る。ヒカリはここまでわかったようにうなずいた。

 

「ハートレスの出現に苦悩している彼に、僕は伝説の武器と呼ばれるキーブレードの存在を教えた」

 

 ミッキーはキーブレードを出現させた。

 

「キーブレード。扉を開く力。伝説によると世界を救ったとも、逆に混沌をもたらすとも聞く」

 

そんないわくのついた武器をソラが持っていたなんて。ヒカリはミッキーの武器を見て驚いた。

 

「最近になって星が次々と消え始めた。これは手遅れになるのも時間の問題……だから僕は城を飛び出したんだ。鍵を持つ少年がいることは僕にはもうわかっていたから。それの捜索はドナルドとグーフィ―に任せたんだ。僕は危険を伴うもう一つの鍵を探すために一人で行くことに決めた闇の世界へ――」

 

「闇の世界?」

「この世界は光の世界。扉の向こうにあるのが闇の世界。その闇の世界のキーブレードを探しに僕は旅に出た。そして僕は、なぜかそのもう一つのキーブレードを偶然にも手に入れた――それは君と、出会った時だった」

 ふっとミッキーが一瞬だけ、ヒカリに微笑んだ。

 

「闇の世界にあるはずのキーブレードがなぜ僕のところに何の前触れもなくやってきたのか。僕はキミとキーブレードに関係があるのかとも思った。それにキミのロックセプターがどんな力を持っているのかは伝説のどこにも乗っていない」

 

「だからキミのロックセプターの力がなんらかの災害をもたらすのであれば……僕は止めなくてはいけない。この、キーブレードで」

 

 ミッキーがキーブレードを出現させて鋭い目をヒカリに向ける。

 あまりの真剣な目に気押させるヒカリ。

 

「今の……僕の全ては話したよ。今度は君の番だ」

 

 今までのミッキーと過ごした日々で私の素性は全部明かしている。ミッキーもそれはもうわかっているだろう。

 そんなことを考えて彼は私と……この非日常で楽しかった日々を過ごしていたのか。

 ヒカリは涙をぬぐいミッキーへ話し出した。

 

 今度は私が私の思いを彼に伝えるんだ。

 

「ソラが勇者で、カイリがお姫様。リクは悪い魔女の手下……これって私が出てくるようなところじゃないよね……って!」

 ヒカリが思い切って言い捨てた。

 

「それはキミが勝手に――」

「だから決めたの」

 ミッキーの言葉を鋭く言葉で切るヒカリ。

 

「私がこの三人を守るって」

 

 あまりにも幼稚な自分の言い分に、ヒカリはなんだかミッキーのまっすぐな顔へは向けられなかった。

「ソラがカイリを探してる、リクはカイリを守ろうとしている、カイリは二人を待っている……じゃあ、私がとるべき行動って?」

 遠いようで近い未来に向かって、ミッキーに横顔を向ける。

「私は島に残るって言ったの。でも島が無くなっちゃった……そしたらどこにいればいい? 何をしたらいい?」

 こんな葛藤があったわけではない、それぐらいミッキーと過ごした今が楽しかった。それでも今はこれからのことに向き合わなきゃ。

 

「変わる事がない島。三人が島を出るって言った時に、私があの場所にいてちゃんとココにいるよ、あなたは一人じゃないって示したかったの」

 

「でも、島が無くなった」

 予想していないことが起こるのは突然だ。

 

「島が無くなってしまったの……だから、ソラとリクは私を忘れちゃったんだ!」

 

 考えていなかったわけじゃない。考えるのが怖かった。私はあの島と同じだ。

 

「きっと私は――」

 

 ヒカリの肩に両腕が置かれた。

 

「これ以上言わなくてもいいよ。もう、分かった」

「……だから、私はこの三人が消えないように守る――私は、見守る。三人の邪魔はしたくないの」

 

 記憶がもとに戻るのはうれしかった。でも、私のことを思い出すたびに消えた島を思い出してほしくない。それぐらい自他共に私は故郷、デスティニーアイランドが大好きなんだ。みんなには体が弱くて冒険できないと言っていたけど、それ以上に消えてしまってから気が付いた。思い出の中の私に今の状況を教えるとしたら残酷だ。

 それと、島はおろか、私に関する記憶がないソラとリク。もうこれ以上私のことで悲しませたくない。特にリクには――。

 

「それじゃあ、僕の立場はどうなるんだ?」

 苦悩の表情のミッキーをヒカリはこらえるように見つめる。

 

「僕は二人の親友をソラに置いて行動している。いうなればキミの弟に任せているんだ。僕の事を探している彼らは宛もなく僕を捜している。たとえ世界が違っても心が僕らをつなぎ止めている。僕はそれを思うだけで勇気にもなるし今の使命にもなる」

 

 わかっている。ミッキーは自分で決めて一人で飛び出してきたんだ。しかも、今は姿も変わっている。

 

「記憶を消して守るなんて僕は……そんな、キミを見ていられない」

 わかっている、彼は仲間を大切にしている。

 それは私も含めて――。

 

「キミと僕は立場が真逆なんだ」

 正面を向いて対峙する表情はどちらも真剣だ。同じような環境でも相容れない思いがある。それはどちらも今、ここで分かったのだ。

 

 

「ごめん。でも、決めたの。私は強くなるって」

 きっぱりと答えるヒカリ。でも、まだまっすぐ目が合わせられない。

 彼女の肩をつかむ力が強くなる。

 

「ヒカリは、強さの本当の意味が分かっていない」

「でも信じているの……忘れていても、私はどこかで繋がってるって信じているから」

「もしも、キミが消えたら……僕はいったいどうするんだい?」

 

 悲しそうな彼の声にヒカリはやっとミッキーの顔を見た。

 ミッキーは思わずヒカリから離れ視線をそらす。

 

「私は、ぜったいに消えない!」

 さっきまでの悲しみと苦しみを全て一掃した、凛とした声だった。

「私は島に居たときと変わらないって決めてるの。待ってるって、言ったから」

 

「僕は、君の事がよくわからない」

そう言ったミッキーは正真正銘、本音だった。

 

「キミはいったい何者なんだ?」

 

過ごした日々は短い。でも、お互い分かり合えるのには十分だった。だからだろう。

あえて彼は私に問うのだ。

 

「さっき会ったリクにもそんな事、言われたよ」

 

 あきれたようにヒカリが言った。ミッキーは私のことをまだつかめていないようだ。

そんな彼にヒカリは目を細め優しく言った。

 

「私は『選ばれし勇者』の姉さんよ。勇者を支える存在は無敵でないといけないでしょ?」

 

 いつもの勝ち誇ったような笑みを向けるヒカリ。

ミッキーと私は立場が逆なのだからしょうがない。経験とか姿とか、あと仲間との間柄とか。だからこそ私は私のままでこれからも変えるつもりはない。

これが私のすべてだ。

 

「それが、僕の前で言える立場かい?」

「え?」

重い空気が和らいだ気がした。

変えたのは彼か彼女か、それともお互いか。

 

「魔法が使えない今のキミの力量ではクラウドさえ倒す事が出来ないよ?」

「だ、か、ら! ちがう場所で修行したいって言おうとしたのよ!」

「僕はヒカリが無駄に落ち込んでるようにしか見えなかったんだけど?」

「もうその事はいいの! 別です!」

 

「……後悔するなよ、ヒカリ」

 ミッキーが小声で真剣に言った

 

「後悔なんて絶対に、しない」

 ヒカリは大声で、かたくなにミッキーに言った。

 

 

「それじゃぁ……この事にはもう僕はなにも反論しないよ」

「うん、ありがとう」

 

ヒカリの突拍子もない言葉にミッキーは座ろうとしていた座席からずり落ちた。

 

「さ、さっき喧嘩したばかりなのに、なぜキミはそう率直に言ってくるんだい⁉」

「ごめん。だめ、だった?」

 

(この場の勢いで言っただけなのに?)

 ミッキーはよく『ありがとう』と言ってくれるので、ヒカリはその勢いで発しただけだ。

 

「僕も、言い過ぎた……ごめん、よ」

 顔を真っ赤にしてミッキーがそっぽを向いた。

 

(ミッキーって完璧に見えるけど実はそうじゃないんだ)

大人びていても私と一緒。さっきみたいに真剣に怒ったりするし、思わぬところで照れたりもする。

それに、さっき私の言った『ありがとう』はいままでミッキーと一緒だったから言えたんだ。

まだ短い付き合いだけど、距離が縮んでいくことを実感し、ヒカリは彼に悟られないように笑った。

 

 




 最後に補足。
「やっばり私はーー」の後に続く言葉はあえて書くなら【存在していないものなんだ】と言いそうになりました。

 相棒は彼女の言わんとする言葉を踏まえて「もうやめよう」と、自分を最も卑下する言葉を自分の口から言わないでいいと止めてくれるのでした。

 これは作者側と読み手から見れば、この作品自体その通りなのですがあえてここで考えたセリフです。版権問題が強かったあの時期だったからこそ、複雑な心境を盛り込んでみました。なんて、後で見てから思ったものでした。

 要するに、言いたくないこと言うなんて、その場の勢いとはいえ誤解を招く前にすぐに謝罪して記憶から悪いこと消したいじゃないですか!
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