King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
コロシアムで最も高い場所。
ミッキーは階段を登る。
頂上まで上がりあたりを見渡すと、果てしなく感じた階段の急斜面。
上を見上げると一面、空しか見えない。
下を見下ろすとコロシアム全体が一望できる。
人々が居るのにも関わらずあたりはしんと静まり返り、彼は少し緊張している。
「!」
真上からトロフィーが空から振ってきた、
ミッキーは天から降ってくるトロフィーを受け止め、それを気恥ずかしげに掲げた
繊細な作りのトロフィーは目の前の新たな優勝者にふさわしい。
ヒーローのイメージとはどこか違う、細い華奢な身体。頭には新緑に染まる草冠に風の流れのままに揺れる長い髪。
コロシアム優勝者を祝う人々の歓声があちこちで響く。
紙吹雪が舞い青い空が華やかに彩られた。
誰よりも強く、誰よりも優しく、爽やかな笑顔を絶やさない。まさにヒーローの要素を持ち合わせている少年。
「ありがとう!」
その笑顔はどこまでも爽やかで、なによりも誇りに満ちていた。
☆
「次は俺達が優勝だ! ミッキーは次の大会も出るんだろ?」
「う~ん……」
ミッキーは手にしている優勝カップを眺め、ソラ、ドナルド、グーフィ―に複雑な笑みを浮かべる。
「出るんだよな? チャンピオンがいないと俺達出る意味がないよ! みんなもそう思っているって」
ソラが期待をこめてミッキーを覗き込む。
「僕達、今度はミッキーに魔法を使わせるぐらい強くなるよ!」
「僕もソラとドナルドも君とまた戦える日を楽しみにしているんだから!」
ドナルド、グーフィ―もソラに続いて彼に言う。
「分かった、次も出るよ」
渋々うなずくミッキーに三人は笑顔でガッツポーズ。
「よっしゃ! 今度は俺達すっごく強くなって戻ってくるからさ、待ってろよ!」
ソラが満面の笑顔でミッキーに言った。
☆
コロシアムの扉を開けるとすぐ側に彼がいた。
「ミッキー」
笑顔で彼を見上げるヒーロー。外見は違うが目の前の青年と瓜二つだ。
「魔法の方はどうだい?」
「まだ使ってないからわからない」
「そうかい、今はまだ使わないほうがいい」
「なんで?」
「まだ使うのは危険だ」
「禁止令は優勝したんだから解かれたハズだよね?」
「でも、まだペンダントの石は壊れてないよ」
「それは、そうだけど……」
「それはまだ何かが足りないってことだよ」
「足り、ない?」
「そう、例えば……」
「僕を倒すとか」
「え?」
(ドスッ)
体から鈍い音が聞こえた。
目を大きく見開くミッキー。
穏やかな表情の目の前の人物が、今。
少年のみぞおちに拳を突き立てた。
(ドサリ)
少年はその場で倒れた。
☆
しばらくしてソラ、ドナルド、グーフィ―は扉を開ける。
「またフィルに怒られちゃったね」
「でも、修行もやり直したし、基礎練習を続ければ、次こそはミッキーに勝てるはずだよ」
ドン。
二人は扉を開けたソラにぶつかった。
「ソラ? 速く前に行ってよ~」
ソラは動かなかった。
「どうしたの? ソラ」
ソラの向こう側を眺めるグーフィ―。
「向こうに何かあるの?」
ドナルドはジャンプするが二人で全く見えない。
ソラはいきなり目の前で倒れている人物に向かって駆け出す。グーフィ―はソラにもたれていたため体勢を崩し、ドナルドはいきなり倒れるグーフィ―につまずいて巻き込まれた。
「ミッキー?」
倒れているのは彼のようだがそうでない。
彼と似た長い髪。赤いリボンが蝶結びで頭のてっぺんに結ばれている。
ミッキーだと思ったが助け起こすと別人だった。
「ちがうよ。この子、大会予選が終わった後にコロシアム前で出合った女の子だよ~」
グーフィ―が彼女を覗き見る。
「あ……思い出した」
俺を見て泣き出した女の子。
ソラは見に覚えが無いのに少しだけ悪いことをした気分になる。
「また襲われるのかな?」
おそるおそるドナルドがグーフィ―の後ろでヒカリを覗く。
「いいや、倒れてるってことはもしかして……」
「襲われた!」
グーフィ―が言おうとしている事をドナルドが引き継ぐ。
「でもなんで?」
ソラの疑問は次の声で打ち消された。
「ううん……」
「起きた!」
ドナルドがまた襲われるのではないかと思わず飛び跳ねる。
☆
ヒカリが目を覚ますと目の前に三人が自分を覗いている。
「!」
驚くヒカリ。
(しまった変身が!)
思わずソラの腕を振りほどき立ち上がる。
ドナルドほどではないが今のヒカリは飛び跳ねるぐらい動揺していた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫。ありがとうグーフィ―」
驚きつつも目の前の人物の名前を言うヒカリ。
「僕の名前知ってるんだ~」
「コロシアムの試合、見てたから」
動揺を隠し切れていないヒカリに三人は知ってか知らずか優しく接する。
「なぁ、何があったんだ?」
ソラがヒカリに聞いた。
思わずソラに目を背けるヒカリ。よりにもよってこの三人に『ミッキーに襲われた』なんて、死んでも言えない。そもそも『ミッキー』というのは私のことではなく私の真似ている人物なのだ。いちいち説明してられない。
しかも、なぜ私が『あの女性ファースト』なミッキーに無防備にグーパンチされて気を失わなきゃいけなかったのかが、最大の謎だ。
あまりにも衝撃的な展開にまだ混乱しているヒカリはとっさにこう言ってしまった。
「黒い、影が……イキナリ」
「もしかして、ハートレス!」
ドナルドがズバリと言い当てる。
「たぶん、そうだと思う」
自分に言い聞かせるようにヒカリはそう言った。
よくわかんないけど、
あれはミッキーのハズない。
「大丈夫、俺達に任せろ!」
ソラがヒーローのようにキーブレードを掲げて叫んだ。
「女の子を助けるなんてなんだか俺達、本物のヒーローっぽいじゃん!」
キラキラした表情をドナルドグーフィ―に向けて言うソラは少年の心そのものだ。
「でも、この前僕たちの事攻撃してきた……」
「まぁまぁドナルド、ハートレスが出てきたら僕たちの出番でしょ?」
ヒカリにウインクしてグーフィ―がドナルドをなだめた。心配しないでと言っているようだ。
(グーフィ―……)
ヒカリは安心したようにうなずく。
「むむむ……」
今のヒカリを見てもドナルドはまだ納得していないようだ。
「そういえば君、ハートレスの事知ってるのか?」
「まぁね……」
勇者気分の少年にツンとした表情でヒカリが言った。
☆
「なんで君もハートレスを追いかけるんだ?」
「大事な物が盗られたの」
優勝トロフィーを取り返すためなんていえない。そしたらまた説明しないといけない。
「なぁ前に見た君の武器……」
「君なんて言わないで、私の名前はヒカリ!」
今にも噛み付きそうな形相にソラは何も言えなくなる。
「ねぇ、ヒカリ。何でさっきからソラに怒ったような顔しているの?」
なだめるような口ぶりで聞くグーフィ―にヒカリは少し落ち着く。
「別に……怒ってなんか」
実の弟に呼び捨てにされるなんてなんだか屈辱的だ。そりゃ、数ヶ月だけ年上だからそれだけであまり苦にはならないけど、やっぱりなんだかイヤだ。
「ヒカリ、前に見た君の魔法はすごかったよ、でも女の子なんだから……」
「危ないって言うの?」
遠慮がちに言うグーフィ―の言葉をさえぎる。
「そうだよ。仮にもさっきまで倒れていたんだし」
グーフィ―の言葉をドナルドが引き継ぐ。
「アレは油断しただけ」
(もう、どうしてこうなったんだか)
こうなってしまったのは元をたどれば結局は自分のせいだ。
目に付きやすい所で倒れてしまったし、気絶してしまったら変身が消えるのは重々承知していたし。
それにハートレスと言ってしまったからにはこの三人は意地でもついてくるだろう。
しかも今さら一人で戦えるなんて言えない。
さっきまでこの三人と戦っていたのは私じゃないから。
☆
「本当にこっちでいいのか?」
ソラがヒカリの迷いも無く進む方向に不安を感じる。
「うん、何となくだけど……」
「なんとなく、なのか」
ソラが困ったように首を傾けた。
「もしかしてデタラメなんじゃ……」
「いいやドナルド、あてが無いわけではないんだ」
ヒカリが目を閉じて集中する。
トロフィーを手にしてからわかったけど、あのトロフィーには何かの力があるんだ。
きっとハートレスがほしがるような物が。
「キミもしかして魔法使い?」
「……どちらかと言えばね」
「それじゃキミ見習いっぽいから言うけど~」
咳払いをしてドナルドが偉そうに言った。
「探し物は探している物を見つけるんじゃなくって
探す所にそのものが無いのか探ればいいんだよ」
「?」
ソラとグーフィ―が頭に大きな疑問符を掲げる。
「場所?」
偉そうなドナルドの顔にきょとんとするヒカリ。
「そうさ! まずは今の場所をくまなく探る、探している物が実は動いていたりするのならなおさらね!」
得意げにウインクするドナルドが可愛い。
「でも、普段の無くし物は見つけられないよね~」
「うるさいっグーフィ―!」
「……そっか、ありがとドナルド!」
「僕は、だてに王宮魔導師やっていないからね!」
ヒカリはひらめいた。
思わずドナルドと手を取り合う。かやの外のソラとグーフィ―は訳が分からずもこの光景を見てほっとした。
「とりあえず二人の仲が良くなったみたいだね」
能天気にグーフィ―が言った。
「後の仲直りはソラだけだね」
「……俺だけかよ」
がっくりと肩を落とすソラの横で集中していたヒカリは、はっと顔を上げて電流が走ったように駆け出した。
「みつけえた。あっち!」
ヒカリはさっきまで居たコロシアム方面を指差し駆け出した。
「グワワ……見つけるの速いよ!」
「ヒカリってなんだかすごいね~」
「どうやったら仲直り……」
引っ張られるように三人がヒカリに続く。
駆け出すヒカリはコロシアムを見ながらミッキーの事を思っていた。
ミッキーはどこに行ったのだろう?
まさか本当に、あれがもしも本物の彼だったとしたら?
(なに考えてんだか!)
勢いよく首を振るヒカリ。
三人は少しびくっとした。
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