King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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~一人旅~

 

 カレイドスターコックピット。

 この席に着くのは、かなり違和感を感じる。

「ミッキーのため……が、がんばる!」

 操縦桿を握り震える声で自分に何度も言い聞かせるヒカリ。

『落ち着きな、ヒカリ。お前さんのためにオレがわざわざカスタマイズしてやったんだ。なぁに心配する事はねぇ!』

「う、うん」

『この船はな、テレポグミって言う特殊なグミを取り付けたことによる空間転移の能力がそなわっている。一言で言うとワープが出来る!』

「す、すごいシド! これならワープでどこでもひとっ飛びじゃん」

 思わずモニターに映るシドにむかって身を乗り上げるヒカリ。

『しかしな、一度訪ねなければこのグミの能力は発動しない、行きは大変だが帰りは無傷でトラヴァースタウンに帰ってこられる』

「新境地へ行きたければ自力で頑張れってことね、わかったわ」

「心配するなヒカリ、こいつは俺が面倒見る。まぁ無駄な心配はしなさんな」

 シドの後ろにはミッキーがソファーで眠っていた。マーリンさまが彼をカレイドスターから運び出してくれたのだ。

 今、船にいるのは自分一人。

「何から何までありがとうシド」

『何言ってやがる、礼は帰ってきてからだ!』

「……そうだね」

 ヒカリはモニターから目を落としたが、すぐにいつもの不敵な笑みをシドに見せた。

「じゃ、行ってきます♪」

『頑張れよ、ヒカリ』

 そう言った瞬間シドとの通信が途絶えた。電波の届かない所まできたのだろう。

 ヒカリは口元を引き締め操縦桿を握りなおした。

 そして一呼吸してから顔を上げる。

「さぁ、行くよっ!」

 ヒカリの掛け声と共にカレイドスターが前進した!

 

 

「つ、着いた」

 ヒカリが見ているのはお城と茨の森の見える星。

 茨の森が星全体を覆われていて何か陰鬱な気さえしてしまう。

 お城の立派な風貌に星全体が立派に彫刻された装飾品のようだった。

「きれいな星」

 ヒカリがカレイドスターから降り立つとおもわず感嘆の声が口をついた。

 そこは茨の全く無い、一面明るい緑の森の中だった。

「なんかハートレスも見当たらないし、ものすっごく平和!」

シューティングの疲れのせいか思わず腰を下ろしあたりを見渡す。木漏れ日が差し込み青々とした地面の草花が光を受けて輝く。あたりには素晴しく響く小鳥達の歌声が聞こえる。

「ん?」

 耳を澄ますヒカリ。

 小鳥とは違う、それ以上の美しい女性の歌声が聞こえてきた。

「人の歌声、だよね?」

 ヒカリは美しい歌声の聞こえる方へ、そして、あまりの美しさに思わず見とれてしまう。

 金の巻き毛のスラリとした女性が楽しそうに動物達と踊っていた。

「まぁ! 王子様がいらっしゃったわ」

「⁉」

 あまりのタイミングの良さに自分が呼ばれたかと思った。

 女性の口から『王子様』の言葉で思わずビックリするヒカリ。

(そりゃあコロシアムで男装した時は私のこと王子様って呼んだ女の子いたけど)

 よく見ると、どこで入手して来たのか森の動物達がマントと帽子を使ってうまく人間の形を真似て美女と踊りを始めた。

 思わずヒカリは変身して出て行こうとも思ったが、自分と彼女では年齢と身長が不釣り合いだ。

(いくらこの前王子様とか言われてもさすがにね)

「あ、こんなことしてる場合じゃない。魔女の妖精を、じゃなくて妖精の魔女を探さなくては」

 ヒカリは今まで見とれていた自分に少し赤くなり美女からくるりと背を向け歩き出した。

 

 

 しばらく歩いていると森の奥深くにログハウスが見つかった。大きな木がログハウスとくっついていて側では小川が流れ水車が回っている。

 ここまで見ると一見普通の家だが、煙突からは黒い煙のかわりに変な光の閃光が飛び出している。

「あれって、もしかして魔法?」

 ヒカリは家の前まで駆け出した。

(コンコン)

 ヒカリはノックをしたが何やら家の中が騒がしくて気づいてくれない。

 上を見上げると絶え間なく煙突から噴出するピンクとブルーの閃光に、一羽の陰気なカラスが煙突をのぞこうとしているが二つの光に当てられすぐさま逃げていった。

 なんだか悪い予感がしてヒカリは思い切ってドアを開ける。

 すると、

(シャラン☆)

「ピンクがいいわ!」

「うわっ⁉」

 ヒカリの服の色がピンクに変わった。

「やっぱりブルーよ!」

 今度は青に変わった。

 しかし、ヒカリの服はすぐにピンクへと塗り替えられる。

「絶対にドレスの色はピンクよ、女の子らしくて可愛いわ」

「ブルーの方がすっきり見えてあの子の美貌が引き立つわ」

「それより二人とも。ケーキってどれぐらいの温度で焼けばよかったのかしら?」

「あのっ~~!」

 誰かの声に気が付き一斉に入り口を見る三人の婦人たち。

「ごめんなさいブライア・ローズ! 私たち本当は妖精で――」

「いままで十六年間魔法も使わずにあなたをそだてて――」

「あなたは王女様なのよ、本当の名前はオーロラ」

 

「あの~私はブライア・ローズでもオーロラでもありません!」

 ヒカリの声で三人の妖精はやっと静かになった。

「それと出来れば私の服を元に戻してください!」

 

 

「ごめんなさいね、私たち今日は忙しくって」

 赤い服を着たフローラが魔法でヒカリにお茶を注いだ。

「今日は記念日。ブライア・ローズの十六歳の誕生日なの」

 青い服を着たメリーウェザーがモップとダンスをするように掃除をしいている。

「だから私たち、魔法を使わずにあの子にプレゼントしたかったのよ」

 緑の服を着たフォーナがケーキを満足そうに眺めて言う。

「その結果がこれね……」

 ヒカリはすみに置いてある布とリボンの悲劇を眺め次にテーブルのドロドロした何かを見る。

 三人の妖精は申し訳なさそうに苦笑いをした。

 その側では魔法で作り直した立派なケーキときれいなドレスが、まるで素人と名人の差の開きをかいま見たようなごとく輝いている。

「でも、これでも十六年間魔法には頼らないで生活して来たのよ!」

 フローラがヒカリに弁解する。

「いざ慣れない事すると、ねぇ~」

 フォーナが困ったように頬に手を当て苦笑する。

「魔法でなんでもちょちょいって出来てしまうからねぇ」

 メリーウェザーは掃除をしながら同意する(掃除と言ってもモップと踊っているだけだが)

「便利って言うけどさ……」

 ヒカリはさっきからジャケットに違和感を覚える。服の色は元に戻ったのだが、なんというか、新しく着た服のようになんだか馴染まない。

 

 自分はこれからどんなに魔法が上達して、もしかしたら家事や好きな事も魔法で澄ませる事が出来たとしても魔法にはいっさい頼らず普段とまったく変わらない生活をしていこうと心に誓った。

「ところでブライア・ローズってだれ?」

「私たちがここで育ててきたこの国のお姫様よ」

「あの子の親は王様とお妃様。訳あって親元から離れていなければならなかったの」

「でもやっと今日実の親に会えるわ、私たちが育てて来たあの子は今日でお城に行くの」

「ブライア・ローズ……森で会った女の人か。きれいな声で歌っていたから思わず見とれちゃった」

「私たち妖精達はお姫様が生まれたときに贈り物をあげたの」

「あの子の声は小鳥のさえずりよりもきれいなの」

「ダンスも得意なの!」

「でも、マレフィセントが……」

 

「ま、マレフィセント⁉」

 

 知っている人物が出てきて思わず叫ぶヒカリ。

「あら、ヒカリはマレフィセントの事を知っているの?」

「うん、まぁ……そうだ思い出した! ついさっき煙突の上から魔法が飛び出していて、そこにマレフィセントのカラスがいたの!」

「それは本当なのヒカリ⁉」

「あの妙に大きくて厳つい目は、遠くにいてもすぐに分かるわ!」

 実は前にトラヴァースタウンで対峙する時、マーリンにマレフィセントの使い魔というカラスの特徴を教えてもらっていた。どこかで見たことあると思っていたのはそのことだった。

「大変だわ……お願いヒカリ。オーロラ姫を、私たちのブライア・ローズをマレフィセントから守ってちょうだい」

 

 

 茨の森の奥深くには奈落の谷があった。

 そこにそびえる岩山の城には雷が鳴り止まない。さっきまで森にいたカラスがその城へ帰還した。

 

「小娘め……またしても私の計画に邪魔をするのか!」

 

 雷がひときわ大きく轟いた。

「まぁいい、オーロラ姫がやっと見つかったのだ」

「灯台もと暗しって奴だな、マレフィセント」

「おまえは私の知る誰よりも口が悪いね。そこがおまえのいい所だよ」

 リクは何も言わず、ただ水晶玉にぼんやりと映るヒカリを見ていた。

「行かないのかい? あの子がお前のきれいな顔に傷を付けたのだろう?」

「今は……様子を見るだけだ」

「慎重なのはいい心がけだよ。他の奴らとは大違いだね」

 マレフィセントがリクに妖艶に微笑んだ。

「お行きハートレス共よ! あの小娘を一網打尽にしておやり!」

大きく両腕を広げるマレフィセントの横でリクが無表情でヒカリを見ていた。

[newpage]

[chapter:~戦うメイド~]

 ミッキーの呪いを解く方法を聞き出すために、眠れる森の美女の世界『ブライア・フォレスト』に一人降り立ったヒカリ。

 三人の妖精にマレフィセントからプリンセスを助けてくれと言われヒカリは今、単独でお城へ向かっていた。

『マレフィセントからオーロラ姫を守る』

 この大きな使命にあらためてヒカリは気を引き締めた。

 正直、自分一人だけでどこまで出来るのかとても不安だ。それに、マレフィセントが現れるのならきっと、リクも――。

 

「うっわ~賑やか!」

 

 城下町では人々がにぎわい各国から訪れたのであろう人々が行列を作る。馬車と着飾った貴婦人、それに続き旗を持った兵士達が城下町であふれていた。

ヒカリはその行列に埋もれるように城を目指していた。街角にはどこかの大道芸人が集まっているのか王女様帰還の喜びの歌がいたる所で聞こえる。そこへ子供たちが楽しそうに飛び跳ねるように駆けていった。

 

 この世界は、なんだか平和だ。

 私のいた島のように、

 どうか、消えないでほしい。

 

 城へ続く道をひたすら歩いていたヒカリ。

 正面はかなり込み合っていて、城へと文字通り正面突破で入れた物ではなかったので、裏から入る事にする。

 そして、そこにいたのは――。

「あれは王様?」

 赤と金色の王冠が輝くふくよかな王様が、なぜか城へ続く階段に座り込んで独り言をもらしている。

 何も言わずに素通りするのは失礼だと思って様子を見る事にした。

「なんて事だ、息子が……フィリップが」

(息子って王子様だね?)

「他の娘に恋するなんて……なんてことだ」

「なんだか良く分からないけど、王様。今日はきっといい日よ!」

 頭を抱える王様にヒカリは励ましの言葉をそえて気の毒そうに城の中へ入った。

 

 

 お城のとある部屋の一角。城から外の景色を眺めると城下町からお城へ続く広い街道に人の道が出来ていた。

「うわぁ~人が一杯いる!」

 人の波に圧倒されながらもため息をつく。

「みんな、プリンセスの帰りを待っていたんだ」

 

 歓迎されるお姫様。

 みんなが彼女の帰りを待ち望んでいる。

 待って、いる――?

 

「あ、れ……?」

 

 なんだろう、なんだか物悲しい。

 

「たっ大変だぁ~黒い変な生き物が城の中に!」

「い、いけない!」

 はっと我にかえり勢いで顔をパンと叩く。そして扉の向こうから聞こえてくる声に答えるようにヒカリは勢いよくドアを開け放った。

 

 

「うわっ!」

(バンッ!)

 蹴破るようにドアを開け放ち、ヒカリは一人の衛兵に襲いかかるハートレスを一瞬で凪ぎ払う!

 

「お城にはびこる黒ネズミ、私が相手よ!」

 

 そう言ってヒカリは黒い生き物に立ち向かう。

 それを見ている人々は彼女を唖然と見つめこういった。

「メイドが……」

「黒い生き物と戦っている!」

 そう、今のヒカリはメイド服を着用しているのだった。小柄なメイドが突然飛び出して来て黒い生き物と対峙する。

「ありがとうございますっ!」

 しりもちをついた衛兵は慌てて立ち上がり長い槍を持ち直す。その顔と言ったらおっかなびっくり、なにか拍子の抜けた顔だ。魔法を使うメイドは珍しいのだろうか。

(バシュ!)

「……ふぅ」

ずり落ちたフリルの着いたメイド帽子を直すヒカリ。城の中で絶えず働く衛兵やヒカリと同じメイド服の人々に向かって、ヒカリは固い表情で愛想笑いをするのが精一杯だった。

 

「ど、どうも……」

 

 ハートレスの脅威が去ると、ひと騒動が過ぎたとばかりに人がよって来た。

 あっという間にヒカリのまわりには人の輪がヒカリを中心に出来上がった。

 なんだか居心地が悪いヒカリ。

(できれば男装したかったんだけどなぁ……)

 前まで観客のあふれていたところで男装していたから、あの姿なら人から見られるのには抵抗は無かったかもしれない。

 しかしまぁ……この状況はどうしても変える事は出来ない。

「こ、この姿は……ですね」

 簡単に事情を説明しようと口を開いたとき、

 

「強いなぁ~メイド!」

「すごいわ~あなた! 小さいのに!」

「メイドさんかっこいい!」

 

 甲冑を着た衛兵も、貴族のご夫人も、一般市民も、ヒカリに歓声の声を投げかけた。

思わずにっこりして宮廷風のお辞儀をするヒカリ。ついさっきまで部屋にいた三人の妖精に教わったのだった。

(なるほど、こういうことか)

 ヒカリがナゼこのような格好をする事になったのかと言うと――ヒカリは城に入ったとたんフローラたち三人に部屋につれてこられてメイド服に着替えさせられたのだ。

 女の子なんだから可愛い制服がいいなんて三人の妖精に言われ、そしてなぜかお辞儀まで教わることに。

 魔法使いというはだれもがタイミングのいい何かを都合よく予知しているのだろうか。あまり役に立たない予知能力にあきれながらも頭の片隅で少し感心するヒカリだった。

 

「衛兵さんは大丈夫?」

「ちょっとビックリしただけです。私は大丈夫!」

「そう、ならよかった」

 ずれている甲冑を慌てて元に戻す衛兵にヒカリは笑顔。

「ご安心を、これぐらいで音を上げたら衛兵の名が恥じます!」

 衛兵も甲冑の中からにっこりと誇らしげに笑う。

「ゴメンなさいね本来の仕事とっちゃって」

「いいえ、むしろ助かりました! ここは私にまかせてください!」

「じゃ、もうここは安心ね! それでは、急ぎますので失礼します」

 

 ヒカリが通ると皆様は口々にヒカリをねぎらい、道をあけた。

 

(メイド姿もなかなか目立っていいものね♪)

 

 さきほどのぎこちなさとは裏腹に今はとにかく上機嫌だった。

 ひらひらと白いレースをはためかせメイドはお姫様の部屋へ向かった。

 

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