King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
9章 OtherWorld2 眠れる森の美女 短編
Another09~Spy Garl~
私は今。
ヒカリさんの船「カレイド・スター」に潜入しています!
「が…がんばる」
ヒカリさんは操縦桿を握り締めて震える声で言いました。
ヒカリさんの前方に広がる宇宙空間の星々が広がるモニターの隅にシドさんの映像が小さく映りそこから声が聞こえます。
『落ち着きなヒカリ。お前さんのためにオレがわざわざカスタマイズしてやったんだ。なぁに心配する事はねぇ!』
「う、うん」
『この船の醍醐味はテレポグミっって言う特殊なグミを取り付けたことによる空間転移の能力だ。
しかし、一度訪ねなければこのグミの能力は発動しない、行きは大変だが帰りは無傷でトラヴァースタウンに帰ってこられる』
「わかった、ありがとうシド」
『何言ってやがる、礼は帰ってきてからだ!』
「ふふっ…そうだね」
ヒカリさんの声が明るくなりました。
ちょうどここでモニターに映るシドさんの姿が消えてしまいました。どうやらトラヴァースタウンが見えなくなったのでしょう。
「ようし……行くよっ!」
ヒカリさんが総意気込み操縦桿に手をかけました。
私はグミのことに関してはよくわかりません。金属でもないモノの構造なんて彫金術にはまったく次元の違った物ですし、ましてやどうやって機械が動く事が出来るのかなんて彫金する事とはまったく関係のない物です。
(でも、お師匠は自分の知識が無いものには何でもかんでも手をつけていましたね)
いろいろと苦戦しながらも、新たな知識を得るために。
そう、今のヒカリさんの表情みたいに――。
「う、わわぁっ⁉」
ヒカリさんは船が揺れるたび絶えず言葉をもらしています。
そして、肩に力が入っています!
本当にたどり着けるのでしょうか……。
☆
「つ…ついたぁ‼」
目的の星までギリギリのHPでたどり着いたヒカリさんは万歳をしていました。
無理もありません、私が思わずヒカリさんに抱きつきたくなるぐらいの神業の連続はもはや言葉にできません。
敵船の撃破。
障害物の大破。
切り抜けた攻撃の数は数える事が出来ないぐらいです。
おまけにこちらのダメージも大きく、体当たりを繰り返してはアイテムの獲得を交互に繰り返し。
まさに絶体絶命の言葉がジャストミートなシュチエーションでした。
こんなにもスリリングな気持ちになったのはいつぶりでしょうか。いつぶりと考えてみてはいましたが、そもそも私には考えても思い当たる記憶はそんなに無いんですよね。
「――って、考えてたらもうヒカリさんがいない~~! 完全に見失いました!」
マフはヒカリの船カレイドスターの出入り口からぴょんと飛び降りてかけだした。
☆
「どうしましょう。見つかりません……」
始めはヒカリさんを探していましたが、探しているうちにヒカリさん達の船であるカレイドスターの場所もわからなくなってしまいました。
「もう、私ったらだめだめですぅ~~」
泣き顔で首を横にふるふると揺するマフ。
長耳帽子が彼女の動きとともにフワフワと揺れ動いた。帽子に結いつけられているつぶらな瞳のウサギの顔が悲しそうな顔に見える。
実のところなんと実際、この長耳帽子は悲しそうな表情をしているのだ!
マフのこの帽子はずーっと前から身につけているものなのであまり気にしていないのだが、被っている人の感情に合わせて表情が変わる。
理屈は彫金術士である彼女にとってはわからなくもないが、原理は割愛する。
森の中をとぼとぼと歩くマフ。
さわさわと鳴り止まない木々の音。
木漏れ日から差し込む柔らかな帯。
可愛らしい小鳥達のさえずりがそこかしろから聞こえる。
とてもすてきな星です。
しかし、ここでヒカリさんに置いていかれてしまうのは避けたいものです。
「せめてトラヴァースタウンでヒカリさんの行き先ぐらいは聞きたかったです」
陰ながらのお手伝いと考えていましたが、この際そんな理想は捨てて一刻も早くヒカリさんと合流したいです。
ふと、マフが止まった。
「何か、聞こえる……」
それは、少し遠くでしたが馬のヒズメの音でした。ヒカリさんが居ない今どこに進むかもわからない状態でしたのでその音を頼りに進んでみました。
「結局見つかりませんでした」
ヒズメの音が次第に遠ざかってしまいましたが、すぐそこには道が現れました。
「進んでみるしかありませんね。この道の向こうにはヒカリさんは居るのでしょうか?」
☆
森を抜けるとお城の見える大きな街がありました。
お城へと向かう異国の人の行進。
街の広場での大道芸人達への歓声。
街はお祭り騒ぎでにぎわっています。
この中からヒカリさんを探し出すのは至難の業です。
「そう言えば、ハートレスの姿が見えませんね」
トラヴァースタウンにはあんなに居たのに、ここの星はまったくといいほど見かけません。
人の行き交う賑やかな街道の奥へ進むと、さらに人がたくさん集まっている場所に行き着きました。
ここはこの町の中心。お城でした。
「なんてこった~! 城の城門が閉ざされたぞ‼」
門番が頭を抱えて叫んでいる。
マフはお城の正面にある城門を見上げた。
城門を閉じたのは突如として城門から顔を出した漆黒の茨だった!
「まさか、ハートレス⁉」
マフはあたりを見渡し走り出した。
☆
突然の城門の通行止めにより混乱する人々。
「式典の時刻はもうすぐなのに、早く扉を開けてちょうだい!」
「いやまて、もしや……あの黒い茨は魔女マレフィセントの仕業だな!」
「大変! わたくし、向こうに赤いリボンの女の子が茨で囲まれているのを見ましたわ!」
人々の声に耳を傾けるマフ。
「赤いリボン……もしかしてヒカリさん!」
マフは真っ暗闇から光が輝きだしたように
表情が明るくなり、同時に城門からはみ出している茨を見てふと、何かを思いついた。
☆
「すいません! ご無礼を承知してお願いしますが……」
マフが近くにいた門番の一人にお願いする。
しかし、門番は多くの人の声にかき消され少女の声が聞き取れ無かった。
門番は必死に懇願する少女に、
「お嬢さんがそんなに必死なら……」
と言うしか無かった。
「ありがとうございます!」
ご丁寧に頭を下げる幼い少女に思わずにっこりと笑いかける門番。そしてこれから何かを始めるであろう少女を分けもわからず見守る。
しばらくして城門の目の前にそびえる高見台に長耳少女が現れた。
(いったい彼女は……?)
一部の人々と門番がマフを不思議そうに眺める中
少女は両手で頭上高く何かを持っている。
しかもそれが次第に先端部分が膨らむように大きく変化し、今門番の手にしている槍よりも遙かに重そうな『金属のハンマー』へと変わった!
それを少女は勢いをつけて振り上げ――。
体を傾け、そのまま空へダイブ!
「お、落ちたぁーーーー!」
門番しかり、不思議そうに見上げていた人々が今、飛び降りた少女を目撃し、ほぼ同時に叫んだ!
少女の落下地点は人がまったく居ない場所。
驚愕の声から周囲は次第に悲鳴へと変わる。
このままでは少女が助からない!
大半が少女の姿に目を覆うその瞬間。少女のハンマーが幾万の細い糸に変わり金属の丈夫なバネに変化した!
(ビヨヨーーン!)
バネが伸び上がるコミカルな音が響き渡り――。
少女が、天空へと飛び上がった!
「と……飛んだ!」
城門で立ち往生している人々が天へと飛び上がった少女に驚く。
その延長線上には――。
「おいおい……マレフィセントの茨に何かが捕まっているぞ!」
城門からはみ出している黒い茨の先端に人が見えた。しかも逆さまにつり下げられている。
「頭に赤いリボン! 私が見たのはあの子だわ!」
上下左右にうねる茨にリボンの少女はなす術も無い!
「さっきの子、もしかして⁉」
上空に舞い上がった長耳少女からキラリと光が発せられ、リボンの少女をとらえている黒い茨が消えてなくなった。そして、舞い上がった長耳少女は城門の向こう側へと見えなくなった。
「もしかして、あの長耳の少女が助けたのか?」
だれかのぽつりともらした言葉に城門前のギャラリー全ての人が歓声を上げた。
そんな中、城門の向こう側に消えた少女についさっき声をかけられた門番がはっとした。
そして、思わず脱帽する。
「こりゃ参った……とんだ密入者(スパイ)だな」
さっき少女は「城門を飛び越える事を許してもらえませんか?」と言いに来たのだ。
「まぁ~今は一大事だし、あの子の言葉は聞こえなかった事にしよう」
それに、正規のルートが閉ざされたのならば、いっそのこと自分で作り出すしか無かろうか。
時に緊急の時なんかはなおさら。
敬意を払って見送ろうではないか。
どこまでも律儀な幼い少女に。