King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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 10章突入。
 ちょうど中間地点です。


10章 トラヴァースタウン4
~丸い耳の彼~


 逆光の中に誰かのシルエットが見える。

 小柄な背丈、大きな丸い耳。

 声が聞こえた。

「――ヒカリ」

 

 ヒカリはハッと目を開ける。その勢いで体が起き上がるが――。

「痛っ……!」

頭が鈍く痛み出し、体が起き上がれなかった。

「ううっ……」

 あまりの痛さにうめくヒカリ。

 いったいなぜこうなってしまったのか倒れる前の事を可能な限り思い出してみる。

 たしかミッキーの呪いを解くために私があたふたしていた時。いきなり横から現れたプルートがいとも簡単に呪いを解いてくれて、ほっとしていたのもつかの間。ミッキーが突然勢いよく起き上がったせいで――。

(ゴンッ)

 頭打って、そのまま後ろへ倒れ気を失っていた。

 今思えばあと少し場所が悪かったなら本当にミッキーと口づけの危機だったのだ。

 

『キスは悪に打ち勝つ魔法になる』

 ブライア・フォレストの三人の妖精達はそう言っていた。

 

「魔法ねぇ……」

 つぶやくヒカリ。自分は呪いの解除方法や今ならすぐにでも唱えられるほど使い慣れて来た魔法でさえ根本的な所はまだわからないことだらけだ。

「なんか、せっかくミッキーが助かったのに、素直に喜べないや」

 ぼんやりと天井を眺めていると、やっと意識がはっきりしてきた。ここはトラヴァースタウンの三番街、マーリンの魔法の館だ。

 

「目覚めたようじゃなヒカリ。気分はどうだ?」

 マーリンがベッドから起きたヒカリに気づきイスから立ち上がった。

「頭がどっちも痛い」

 けだるい声で額と後頭部を同時に押さえてヒカリが言った。

「そうか、どっちもか」

 何気なくマーリンが手を振ると。今までズキズキとしていた頭痛がスッキリとした。

 どうやら、たんこぶなどの物理攻撃の傷であればこの魔法使いの師匠に直せないものは無いようだ。師匠の実力に感動すると共に、ミッキーの容態は本当に専門外だったのだと実感しすこしばかりの疑いが晴れた。

「マーリン様……いつもどうもありがとうございます。ところで、ミッキーはどこに?」

 あたりを見ても彼はいなかった。

「今まで寝たきりだったからと言って外へ出て行ったよ」

「外っ⁉」

「おおっと、船はまだここにあるぞ」

「よ、よかった……」

 ベッドから身を乗り出したヒカリは脱力し今までの緊張を解くように安堵した――と、するも。すぐに目つきが変わりマーリンへ言葉の雨を降らせる。

「いや、ぜんっぜんよくない! それにしてもプルートが呪いを解いてくれるなんて、私ブライア・フォレストに行き損じゃないですか! わざわざ一体何しに私は一人で船まで動かしてワールドの外まで行ったんですか⁉」

「何を言うておる、勉強になったではないか!」

 ズバリ言う師匠に言葉の雨は綺麗に弾かれた。

「まぁ、そうですけど……」

 物理外傷と呪いの類の痛みは先ほどのたんこぶとミッキーと出会った時のあの謎の苦しみで身をもって思い知らされた。

 ようは痛みの種類というか違いがなんとなくだが身をもってわかった。しかし、こんな回りくどいイベント、これはこれで喜ぶべきことなのだろうか?

 

 何を隠そう時間旅行するスゴイ魔法使いマーリン。結果オーライとはいえ、なんだかこんな師匠についていて本当に大丈夫だろうか心配だ。

 

「どんな知識も荷物にはならないじゃろ? 旅をしているのならなおさらな」

「そう、ですね……」

 ヒカリが疑いのまなざしを向ける先の師匠はこの未来を見透かしてここまで進めていたのだろうか。それを聞いたとしても過去となってしまった出来事にヒカリはいまさら未練はない。

 とにかくミッキーが助かったのだ。これ以上、今は何も望まない。

 

「ところでヒカリや、今までずっとおざなりにしておったが――」

 マーリンがにっこりとヒカリに笑いかける。師匠の含みのある顔にヒカリはいきなり背中がぞわぞわしてきた。

「期末テストをやろうじゃないか」

 マーリンの言葉でヒカリの真下の床板がガコンと浮上し始めた。

 

 

 ミッキーは二番街のハートレスと戦っていた。

黄金に輝くキーブレードが真っ黒い影を凪ぎ払っていく。

 そんな中。丸い巨体、ラージボディ四体に囲まれあたりを見回す。

 この巨体は体当たりをかわすと弱点の後ろが丸見えになる。一人で戦う場合は後ろを見せる隙があまりにも少ない。ミッキーはあえてそれを病後のリハビリの課題に選んだのだった。

 一斉にミッキーめがけ体当たりを仕掛けてくるが流れるようにかわし、最後の一体に狙いを定め攻撃する。連続攻撃の続く限りキーブレードをたたきつける。

「これで――終わりだよっ!」

 素早く二回スピンをきかせた回転切りをお見舞いすると巨体が吹っ飛び、その先にうごめいていた別のラージボディに見事当たる。そのうち吹っ飛ばしたほうが消滅した。

 倒れ込む一体に狙いを定め同じようにキーブレードで攻撃。同じようにもう一方に向かって吹っ飛ばす。しかし――。

(ズンッ)

 残りの二体のラージボディがジャンプして地鳴りを起こした。

「くっ……」

 注意を怠っていたため、これには回避する間がまったくなくダイレクトに攻撃をくらってしまった!

 少しよろけるミッキー。

ラージボディは休む暇を与えずミッキーに向かって体当たりを繰り出す。迫り来る体当たりに気づかずにミッキーは頭を数回横に振り――。

「よっ!」

 素早く前転。ドッヂロールで攻撃をかわした!

これは、体制を立てなおす時、戦闘中に場所を移動するときによく使う動きだ。始めたのはよく覚えていないが、人の姿になる前から使っている。体制が低くなるから回避と移動に適しているし、なにより、ほぼカンで回避のタイミングをつかみ動いていたのだ。

 ヒカリの場合はダンスをするようにバックステップとターンを不規則に使い分けて回避している。ついでに杖をぐるぐる回転させていたのでチアダンスのようで見ていると応援されているようだった。

 思い出してふふっと笑っているところで残りのラージボディ二体がミッキーに向かって迫り来る!

 ミッキーは無防備にただ動かず――。

(キンッ!)

 タイミングよくガードアクション。

通常、体当たりは真正面では弾き飛ばされるのだが、今は場所が違う。真正面ではなく脇の甘い所に当てる。その効果により対象が大きく体勢を崩した。そのまま後ろを捕らえてすかさず攻撃。

 優勢と思いきや残るもう一体が後ろから迫る。攻撃を中断しもう一方に再びガードアクション!

 

(キンッ!)

「うん、タイミングがわかってきた」

 大きくうなずき起き上がる二体のラージボディから大きく間合いを取る。起き上がった二体はさっきの攻撃に怒っているようだ。

 はからずも二体同時に迫り来るラージボディは狙いを定めミッキーへと真っ直ぐやってくる!

「さぁ、どうする?」

 自分自身に問うミッキー。その表情は余裕がうかがえるが、ノープランだ。

 ファイアやブリザド、サンダーでは数発当てないと。技を使うことにもすこしの無駄が生じる。

「ならば――」

 ミッキーはそう言ってそろった二体のラージボディに向かって走り出した。

そして――。

 

(タタタッ……タンッ‼)

 

 ミッキーがラージボディのおなかの装甲を蹴って飛び越えた!

(ズンッ…)

(ズンッ…)

 二体同時に前のめりに倒れる!

「これでおわりだよっ!」

 ミッキーがキーブレードを振り下ろした。

 

 

「よし、動きはまあまあかな」

 やっと静まり返った二番街でキーブレードをかざすとシャリンとキーホルダーの音がした。チェーンの先端には丸い耳のようなマークをかたどったキーホルダーが揺れている。夜空に映える金色の武器には今の自分の姿が映し出された。

 

 丸い耳が無い自分。

 本当の自分でない今の姿――もう、馴れている。

 背丈が高いのには抵抗も無いし、特にも気にしていた声のトーンも今では新鮮味が無くなってきた。

 

「?」

 空を見ると。広間の明かりでもわかるぐらい夜空の星がひときわ明るく輝き――消えた。

 ミッキーは険しい顔でその星の残骸を見つめ無言でキーブレードを消失させ、言った。

「そこに誰かさんが居るのはわかっているよ」

 彼のうしろから物音が聞こえた。ミッキーは振り返りその人物に驚く。

 

「気配がしたのはわかったけど、マフだったのか」

 現在ミッキーの居る広間を一望できるカラクリ屋敷の真上。鐘撞き堂がある高い場所。そこから踏み台を降りるように躊躇なく少女は飛び降り、真横へ舞い降りた。初めて出会ってから気になっていたがこの少女は年齢とはまるで似つかわしくない動きをしている。

 

「戦闘のときから僕を見ていたようだったからてっきりヒカリかと思っちゃったよ」

「……」

「何も、しゃべってくれないんだね」

 マフに見つめられ苦笑するミッキー。

 さすがに気まずくて辺りを見回す。この二番街にはミッキーとマフの他には誰もいないようだ。ミッキーはベンチに何気なく腰掛けてマフではない誰かに話しはじめた。

「僕は、キミが考えている以上に落ち着いていないし余裕があるわけじゃない、でもこれだけははっきりと言えるよ」

 そして、ミッキーはマフに視線を合わせた。

「マフ、これからは君の好きなように振る舞ってほしい。何も言わずに見つめられるのは正直恥ずかしいし、なにより、いざと言う時とっさに言い出せないからね」

 マフは真っ直ぐに見るミッキーの目を数秒だけ見つめ、そこから目を離して言った。

 

「わかりました、努力はします……」

 目をそらしたままではあったがはっきりとマフは言った。その言葉にミッキーは安心したように微笑む。年端も行かない少女の人見知りに見えなくもないが、今までの彼女の振る舞いではそれではないことだけはわかる。

「よかった、答えてくれたねマフ、キミは今苦手なことに立ち向かうことが出来たんだよ。それって、始めはすごく怖いことだけど、しだいに恐れは無くなってくる。第一歩は踏み出せたってことなんだ」

「ミッキーさん」

「なんだいマフ?」

 声を掛けられ嬉しそうにミッキーが笑う。マフは戸惑うように笑う彼を見つめ――。

 

「ミッキーさんは私の大っ嫌いな人に似ているだけなんです!」

 

思い切ったように叫んだ。

 

 

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