King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

76 / 167
~待ち人の思い~

 

「マフ、これ。いろいろ忙しくって渡せなかったんだけど」

 期末試験を無事終え、アクセサリーショップ真上のモーグリ達の工房でヒカリがマフに差し出した。

「こ、これは……これは!」

 マフの表情がこの上ないほど驚愕した表情をそれに向ける。

「メタルチョコボー!」

 マフがいつになく大きな声で叫び出しコースターほどの金属を頭上に掲げた。銀色の輝きを持つ金属が暖炉の火に照らされてキラリと輝いた。

「どこでこれを?」

「この前優勝したトロフィーの中にあったんだ。ゴメンね、すぐ渡せなくて」

「優勝トロフィーってことは、今後も優勝者には同じようなトロフィーが?」

「それっていろいろあって僕の偽物に化けたハートレスが持ち出したんだよね?」

 マフが意気揚々に言った矢先にミッキーが口を挟んだ。

「う、うん……その後だったからどこで手に入ったのかわかんないんだ。それもあって、ごめんね」

「それでは今度コロシアムで優勝してもメタルチョコボが出現する確率は低いかもですね……」

 マフがシュンとする。幾度となく見るマフの悲しそうな表情にヒカリとミッキーは顔を見合わせる。

「ねぇ、マフも、一緒に行く?」

「え?」

 ヒカリの口が勝手に動いていた。

「なんかいつも私たちの話聞いてて楽しそうにしていたし。それにシドが本業に入っちゃったから、なんか店番ヒマそうなんだもん」

 マフはぽかんとした顔でヒカリを見上げている。

「つい最近まで何も知らなかった私が言うのもなんだけど、広い世界を旅することって、ほんと~に、驚くことばかりだよ!」

 ヒカリがマフに満面の笑顔で言い放つ。

 これは、初めてミッキーと出逢った時にミッキーに言われたこととほぼ同じだ。

 

 これで私は決心したんだ。旅に出るって――。

 

「残念ですが……私は残ります」

「ど、どうして?」

 思わぬ言葉に驚き、聞き返すヒカリ。

 マフは思いつめたようにためらいがちに言った。

「私はヒカリさんほど強くはありません、それに私は旅に求める物が無いからです」

「で、でも……旅を始めた時の私よりもマフのほうが強かったよ? ミッキーもいるから大丈夫だよ」

「ブライア・フォレストでヒカリさんに内緒でついて行ってわかりました。私、待ってる方が性に合うようです」

 ヒカリを見上げて笑顔を取り作るマフ。

「それって、私がいつも先走りしてみんなのこと置いてくからかな?」

「いいえ、そうではありません、私には私の役目があります」

「役割って?」

「ヒカリさんに最高の武器をお届けすることです。だから、ここであなたを待っています!」

 いつもの笑顔だが、どこかぎこちない表情のマフにヒカリはどこか納得がいかない。

(一緒に居ればきっと楽しそうなのに)

 そこまで考えてヒカリは、いきなりはっとする。

「どうしました?」

「いや、なんかね前まで私もそんな立場だったなぁってね」

「ヒカリさんと?」

「なんか、島に居たときの私を見ているみたい」

 思えば、懐かしい記憶になっちゃったな。

 そっか、あの時ソラ、リク、カイリに私、こんなふうに見えたのか。

 それは夕暮れ時。友達と別れた帰り道のように、なんだか寂しい気分。それでも、待っていてくれる安心感がどこかにあった。

「わうっ!」

「プルート!」

 マフの後ろから突如飛び出してきた黄色い犬。

 ご存じ命の恩人プルートにビックリする。

「プルートもマフの所にいるってさ」

「一緒にお留守番ですね!」

 ミッキーの通訳に楽しそうにマフがプルートに抱き着いた。

「プルートがいるんなら、ここは大丈夫ね!」

「はいっ!」

 ヒカリとマフはプルートを挟んでにっこりと笑った。プルートは頼もしい表情をミッキーに見せる。

「前みたいに逃げちゃだめだよ? プルート」

 口笛を吹く仕草をして誤魔化すプルートを見てミッキーは微笑んだ。

 

「あ、次は私の版です! ヒカリさんの新しいロケットを作ったんです!」

「わぁ~やったぁ! あったらしい武器ぃ♪」

 舞い上がるヒカリ。

「今回はこの前見せてくださったバンビさんの星のロケットです」

 この上なく楽しそうにマフはヒカリにロケットを披露する。

「フォレスト・ブランチです」

 なんだか二十一世紀の猫型ロボットが秘密道具を取り出すような音楽が聞こえてきそうだ。

「このロケットはですね~この前見せていただいた召還魔法のバンビさんの――」

「それじゃ私ちょっと試しに行ってくるよ~!」

「あ、ちょっと待ってくださいってヒカリさんってば、まだ説明が~」

 マフの解説を無視してヒカリは即座に消えていってしまった。

 

「クポさんたち、これを、一階に運んで飾ってくださいませんか? 意外と、けっこう重いですよ」

 マフが部屋にいるモーグリ達にシルバーメダルを託した。

 残ったのはマフとミッキー。

 ちょうど良く二人は目があった。

「さっきの話を、ちゃんとヒカリさんにも話そうかと思っていましたが……」

「僕から話しておくよ。それにしても正直、君には驚いたよ、マフ」

 ミッキーが微笑してマフに言った。

「驚き、ましたか?」

「うん、こんなに身近な所に僕の探していたブラックスミスがいたなんて」

「いいえ実際にここにはいません。私は製法をキオクしているだけですから。それに。私がトラヴァースタウンに流れ着いたのは偶然ではありません。なにせここは――」

「故郷を無くした者が集う街、だからか」

「はい」

 あまりに落ち着きすぎてマフの表情は無表情に近い。ミッキーは職人の顔をこの幼い少女に見た。

「武器職人いいや、彫金術師の君に、言っておかなければならないことがあるんだ」

 そういってミッキーはキーブレードを取り出す。

 銀色の柄に金色の刀身。その先端の刃は、持ち主を映し出し一点の曇りも無く輝いている。

「マフとモーグリには悪いとおもっているけど」

 ミッキーは目を閉じて決心したように見開いて、こう言った。

「僕のキーブレードは本物ではないんだよ」

 

(クポ……)

 この真剣なまなざしの二人に、モーグリ達は二階へのハシゴを上がるに上がれなくなっていた。

 

「正直に言えば、まだこの武器はキーブレードとは言えない。不完全な物なんだ」

「はい、そのことはわかっています。ですから、キーブレードはモーグリに、そしてロックセプターは私が強化いたします。実は、まだどちらも完成されていない武器のようなのです。我々の扱ういわゆる完全な武器は、他人が持つことは出来ないのです」

 我々と言う時、マフはモーグリたちを手招きした。どこまで聞いていたのかモーグリはミッキーに向かってふんぞり返る。

「たとえ生み出した本人でさえも……このキーブレードはある物が欠けているのですよね?」

 マフがキーブレードをつかむと――。

(つかめた⁉)

「やはりまだ完全ではないですね」

「なぜ君が?」

 キーブレードを振りかざすマフに驚いた表情で問う。マフは得意げな表情でミッキーには到底知ることがない知識を披露した。

「武器にはある条件が必要です」

 そう言いマフはキーブレードを振り下ろした。

「ひとつ、資格を持つこと」

 キーブレードを横になぐと物に当たっていないのにキラリと輝いた。

「ひとつ、意志を持つこと」

 続いて上に振り上げると金色に輝いた。

「そして……ひとつ、信念を持つことです!」

 最後のフィニッシュにミッキーの目の前にキーブレードを突き付ける!

 寸止めではあるがミッキーの驚いた表情と前髪が微動した。

「そこまで、わかっていたのか。君たち武器職人(ブラックスミス)は……」

「はい! だてに武器職人もかねてませんから!」

 ほっとするミッキーに答えるように、にっこりと笑うマフ。

「君はキーブレード使いになろうとは思わなかったのかな?」

「それは今の私は知るすべはありませんね。そもそも善人すべてがキーブレードを使えるのならこのような世界の在り方にはなっていませんでしたし」

「世界の秩序か……本当に君は年甲斐になく博識なんだね」

「記憶がなくてもここまでやってこれたんですからね。それに関しては師匠には感謝しているんですよ……嫌いですけど」

 そう言って一瞬不満の表情をミッキーへと向ける。ミッキーは苦笑した。

 マフはまた淡々とした口調で話を続ける。

「おそらく私の記憶はすべて金のメタルチョコボにあります。断定は出来ませんが、伝説の素材、金のメタルチョコボには私の記憶を思い出させることが出来るキーワードが刻まれているはずです」

「そうか、ありがとう! これで道が開けたもどう、ぜん……?」

 

「金の、メダル。それさえあれば、私の全てをお教え、できると……思います!」

 

 さっきまでの表情から今度はくしゃくしゃの顔に豹変したマフ。

「ごっ、ごめんなさい……ダメですね、わたしっ……ううっ」

 ついに顔を覆ってへたりこむマフ。どうやら今まで悩んでいた重みが跡形も無く取り去られたのだろう。

「今になってだけど、本当に、ほんとうに……君に任せておいて良かったよ、マフ!」

 

「あり、がとう……ございます、王様」

 

 ごしごしと涙をぬぐいはっきりとした声で言ったマフ。涙があふれていたが満面の笑みで、ミッキーを見上げていた。

 気遣わしげにミッキーがマフに話を続ける。

 モーグリがさりげなくマフにハンカチをわたしてくれていたのでもう大丈夫のようだ。

 

「それでだけどさ。一つ質問」

「はい、なんでしょう?」

「初めて僕たちがマフに出逢ったとき……その、僕だけ避けていたのは、なぜ?」

「ああ、あれは、ですね……」

 口ごもりながらマフが答える。

「え、なんだい? きこえな……」

 

「ロックセプター! 王様が持っていたじゃないですか!」

 

「う、うん」

「だからその、ま、間違っちゃったんですぅ」

「ええと、だれと?」

「だ、だから、ヒカリさんが……王様だって思ったんです!」

「えっ……⁉」

(ヒカリの、方が?)

「だって、いくら条件が合致していたとしても。ロックセプターを持つことの出来る人間なんて、王様以外考えられないって思って……」

 マフの暴露にちょっと、傷ついたミッキー。それはもうスポットライトに寒風が吹きすさぶぐらい。もしかしたら、この表現は古いかもしれないなどと思ってしまうのもあって、自分でさらに落ち込む。

 

「そりゃあ、ヒカリはさ。男装した時は見た感じなんかアニメの主人公っぽいけどさ……」

「はじめ、ミッキーさんのことは、本当に疑っていました……見るからに師匠みたいだったし」

「その、聞いていいかは、わからないけどマフの師匠はどんな人だったんだい?」

 そこまで嫌われていた師匠ってどんな人なんだろう? これは素朴な疑問だった。

「あっ……いいよ、言いたくないのなら……」

 さっきの無し! と両手を左右にぶんぶん振る。

 モーグリ達は、さっきから彼はなんだか表情が面白いな…… とじっと見つめている。

 そんな彼らにまったく眼中に無い二人である。

「あえて言いますと、表情が見えない人です」

「表情?」

「ええ。名前もわからなかったので、私がきっと外見も忘れてしまっているだけかもしれませんが」

「それでも、マフはお師匠様の言いつけはちゃんと守っているんだね」

「えっ⁉」

「一人でこんな場所まで来たんだろ? ちゃんと目的地まで」

「え……あ、はい」

 うつむいているマフの表情はきっと驚きながらも照れている。

「ああそうか。だから、ヒカリの誘いを断ったのだろう?」

「……え?」

 マフが顔を上げると、やはり照れている。

 微笑むミッキー。

「だって、そうだろ? 師匠がもしかしたらここに立ち寄ってくれるって。心のどこかで思っているのだろう?」

 

「………」

 

 何も言わない……いいや、何も言えないマフにミッキーはマフの頭に手を置いた。

 

「偉いよマフは」

 

 そう言ってミッキーはマフの頭を撫でた。

 うつむいたままフルフルと震えるマフ。

そして――。

 

(バシッ!)

 

 ミッキーの手をはたきおとす。

 

「……ま~た、子供扱いする!」

「ええっ、また……って⁉」

 

「やっぱりミッキーさんは、嫌いですっ! 王様ですけど……嫌いですっ!」

 顔を赤くして頬を膨らませるマフ。もう顔を見たくないとばかりに自分の作業に入ってしまった。

 モーグリ達も見物をやめて何事もなかったように仕事に入る、一人取り残されたミッキー。

 

 またとは、お師匠様の事だろうか――この状況だともう答えてくれないか。これは、きっと始めの態度に逆戻りかなぁ。

 ミッキーは色々まいったとばかりにカリカリと頬をかいた。

 

 

 アクセサリーショップの二階のドアから、ヒカリは一番街まで全速力で走る。そして、さっきマフから渡されたばかりのロケットには替えず、広間のハートレスを一掃し始めた。

 間もなくして影がまったくいなくなった広間は穏やかな静寂を取り戻す。しかし、ヒカリの心は穏やかではなかった!

 

「ないない……ないいぃ~っ!」

 ヒカリはついさっきまでのことを迅速かつ速やかに思い起こしてみる。

 マーリン様から試験の合格もらって、上機嫌で地下水道からざぶざぶ戻ってきて、いつもハートレスが出現している2番街の広間で戦って。

 いいや、もしかしたらマーリン様の試験の前におっことしてきたのかな?

 そりゃぁ、うっかり無くすことって人なんだからあることだよ。

 

でも、これは、これだけは――。

ぜぇ~~~ったいに探さなくっちゃ‼

 

「……っどこに行っちゃったの、バンビ!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。