King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「はぁ~」
路地裏の星空の下で思わずため息が聞こえた。
「なんか、疲れが押し寄せてきた気がするなぁ」
ヒカリは二番街のレンガ造りの壁にもたれつぶやいた。思わず空を仰ぐ。満天の夜空には星達がとめどなく瞬いている。
今のヒカリにはそのどれもが自分へのSOSの救難信号のように見えてなんだかどこへ行っても休まる所が無いように思えた。
☆
「ヒカリさんの帰りが遅いです」
マフがカウンターにちょこんと座りいつも通りの日記を書いている。
「旅の準備は万全なのに、ヒカリが来ないとどうにもならないなぁ」
ミッキーはアクセサリーショップの暖炉の近くでパチパチと音を立てる暖炉を眺めていた。
「あの……」
消え入りそうなマフの声にしばらくたってからミッキーがそれをうながした。
「なんだい、気になるじゃないか?」
マフの方へ顔を上げるミッキーにマフは思わず顔をそらす。そして遠慮がちに彼女は話し始めた。
「私がここへ助けてもらったとき、ヒカリさんに、ミッキーさんはヒカリさんの何なのか、と聞いた事があります」
「それで?」
「ヒカリさんは、はっきりと相棒と言いました」
「うん」
ミッキーは憂いの満ちた表情で暖炉を眺めた。
「私と初対面なのに教えてくださいました」
「ヒカリは真っ直ぐな答えをくれるからね」
ミッキーはどこか嬉しそうだ。
「私はそのときアナタを苦手な理由を教えました」
「初対面なのに、かい?」
「はい、ヒカリさんになら私のすべてを話してもいいと思ったのです――あなたよりも」
「それは、ちょっと傷つくなぁ~」
ミッキーの表情を無視して話を続けるマフ。
「私がここへ来れた経緯と、理由をヒカリさんにこう言いました」
マフがおもむろに首のマフラーをほどいた。室内なのにいつも肌をさらさないマフがミッキーに首元をさらすのは初めてだ。
そこには、細い首に鈍く輝く銀色のネックレスが輝いている。
「マフ、それは!」
大きな正円に楕円が二つ。
それはネズミの丸い耳を思わせる。
これこそディズニーキャッスルの紋章。
キングダムチェーン。
「私は王妃様にお会いし、そして王様をサポートするためにこのトラヴァースタウンへ参りました」
☆
まずはバンビを探してミッキーの手伝いをして。それと、今しがた入ってきたユフィとのややこしい約束も果たさなければならない。
なんだか考える事が多すぎて、正直身が重い。
「オイオイ! 大丈夫かヒカリ?」
主人の魔力の減少にムーシューとダンボが思わずヒカリの元へ戻ってきた。
「うん、大丈夫。ゴメン私だけ休憩しちゃって」
「何いってんだよ。ずっと召還しっぱなしなんだ、疲れて当然だ」
ムーシューの言葉にダンボも首をぶんぶん振る。
「それとも、ヤバいんなら俺たち帰るぜ?」
「だめダメ駄目!」
首を振り乱すヒカリに二匹は顔を見合わせた。
「なら……ちょっとは休んでな!」
「う、うん」
「いい子だ、そこからチョーイとばかリでも動いてみろ、俺様が許さない!」
ムーシュー&ダンボが怖い顔をしてヒカリをしばらく制すると、二匹はうなずき再びバンビの捜索を開始した。
「頼りになるんだか、子うるさいんだか」
ヒカリは微笑み二番街のベンチに腰掛けた。
☆
「私は王妃様にお会いし、そして王様をサポートするためにこのトラヴァースタウンへ参りました」
(バタン☆)
ミッキーが思わずソファからずり落ちる。
「お、お……王妃と会ったのかい⁉」
「ええ、実はメタルチョコボの収集と武器製造は師匠の役割で、本来の私はこの事でこの星へ来る予定だったのです」
「僕の行動はお見通しか……」
うなだれるミッキー。一大決心をしていたはずなのに結局は愛しいあの人はお見通しで、しかも知らないところで世話を焼いてしまっていたようだ。
「ですから私、王様のご同行を常に把握する権利があるのです……まったく不本意ですけど」
うれしい半分、情けない半分の気分にマフが追い打ちをかけるように言った。
イヤな沈黙が広がりつつある空気に暖炉の薪の音だけが響く。
「マフ……何かと最後に一言多いね」
「ご無礼承知で言ってるので聞き流してください」
「いや……それ、確信犯だから」
「だから聞き流してください、この星ではあなたは王様ではないのですから」
「……」
なんだか姑の小言みたいになりつつあるマフにミッキーは早くヒカリが現れてほしいと心底思った。
☆
「どうしよう~~ぜんっぜん思い出せないぃ……」
ベンチに座って記憶をたどるヒカリ。
いくら頑張ってもさっぱりバンビへの記憶が無いあまりついにうなだれる。しかも極度の疲労感が相成ってヒカリは絶望にさいなまれている。
「ゴメンね……バンビ。大事なものだって分かっているのに。なんで、無くしてしまったのかなぁ」
今度は、行きどころの無い激しい憤りを感じる。
「こんのぉ……いや、ダメダメ。集中しないと魔法が消えちゃう~~」
召還の魔法は信じる心。
力を貸してほしいと願うと実体化する。
召還は信頼の上で成立っている。今回は同じ目的で召還しているので同時に二体召還する事が出来たのだ。
だから少しでも気をそらしてはいけない。
そうだ、信じていれば、きっと見つかる。
「お嬢さん、何かお困りのようですな」
「へ?」
ヒカリの真上から声がかけられた。
顔を上げると、真っ白いターバンに身を包んだ見るからにアヤシイオジさんだった。
「あんたダレ?」
いぶかしげにヒカリ。
トラヴァースの住人なんて知ったことか。
ヒカリの表情はまさにそんなカンジだ。
無理もない、疲労困憊+愛想が無い分=不機嫌に見えるのだから。
「私はさすらいの魔術……いや、占い師でして」
「結構です」
即答で断るヒカリ。
しかし、占い師は勝手に話を始める。
「お嬢さんは、悩んでおられますな?」
「悩みの無い人って居ないと思いますけど?」
不機嫌にヒカリ。
「では単刀直入に。あなたは探し物がおありで?」
「あってもおしえない」
最後には半眼で睨みつけるヒカリ。
占い師が口を開く前にヒカリは間発開けずにこう言い捨てた。
「人を(正確には獣)待っているので、さっさと私の前から消えてください!」
決め手とばかりにキラリと鋭く双眸が光る。
「おお怖い最近の子供ときたら愛想がまるで無い」
「知らない人には当然です」
気だるく言い放つヒカリ。
気が散って召還魔法に集中できなくなってきた。
それでもまだ睨みつけるヒカリに占い師はまったく引けを取らない。
「ではコレを見れば分かってくれますかな?」
占い師は水晶玉を取り出した。しぶしぶ水晶玉を覗き込むと、ヒカリはそこに映し出されている映像に目を奪われる。
薄暗い部屋の中にもかかわらず、明るく輝く金銀財宝。その中に見覚えのある石を見つけた。
新緑を思わせる緑色の輝き。
「……バンビ」
思わず水晶玉を乗り出して凝視するヒカリ。
「間違いない! でもなんであんな所に?」
「これはこの世界にはありません」
占い師の声はヒカリには届いていない。
「外の世界です」
最後の言葉でヒカリが顔を上げた。