King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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11章 アグラバー
~待つ者の意志~


 

 

 真っ暗な空にはあいも変わらずの夜空があって。ですが、王様はある一点を見て振り絞るようにこう言ったのです。

「ヒカリがさらわれた」

「ええっ⁉ どうしてそんな事が……」

 思わず私は王様の顔を見上げ驚きました。

 歯を食いしばり拳を作る王様は今までの面影とは想像がつかない――そう、いつも何かを憂いているようなニコニコとしている穏やかな表情が微塵も無いものでした。

「ついにヒカリに手を伸ばしてきたか!」

 ありったけの自制心で押し殺した声に反し、眉を吊り上げて目を細める双眸は鈍く輝いています。

 それはまさに自分の感情を大きくあらわにした、

『怒り』

 そう呼ぶに間違いありません。

 あまりにも迫力が有り余るほどで私は思わず声をかけることさえ躊躇してしまいました。

「マフはお師匠がここへ来るのを待っていてくれ」

「……え?」

「僕は行ってくる」

 ミッキーはまとめた荷物を無造作に引っ掴んで出て行った。

 あまりの出来事にマフは、はっとして我に返り店番を忘れてアクセサリーショップを飛び出しミッキーの元へ駆け寄り早足で追いつく。

「ち、ちょっと待ってください! どこにヒカリさんが居るのか分かるのですか?」

「今、この星を出て行く光が見えた、今すぐに行けばきっと間に合う」

「そんな……。まだヒカリさんがさらわれたなんて決まったわけではないのですよ⁉」

「同時召還が突然一緒に消えたなんて魔力が途切れたに違いない、いいや、絶対にそうだ!」

「もし人違いだったのなら、またヒカリさんを置いていくつもりですか⁉」

「確信はある」

 マフの足が止まった。ミッキーはそれでも歩みを止めない。

「あなたは……王様失格です!」

 ミッキーの動きが止り振り向いた。

 二つの双眸が鈍くマフをとらえる。思わず顔をそらしてしまったマフ。それでも、マフは振り絞るように言った。

「なぜ、いつもヒカリさんを一人で行動させるのです?」

 ミッキーは無言でマフを見ている。

「私にはわかります。あなたはヒカリさんを同行させているだけで、それ以上は距離を置いている。なぜ、ヒカリさんから避けているのです?」

 マフのか細い声は次第に力強い物となっていく。

「あなたは一緒に居るのに孤独だったことがわかっていない! なんで――仲間なのでしょう? 相棒なんでしょう⁉」

マフの声が一番街に響いた。

 

「それでも、僕は行く」

 そう告げ一番街の大きな扉がバタンと閉まった。

 うつむいたままのマフは最後までミッキーの顔を見る事が出来なかった。

「王様に……せっかく顔を上げる勇気をくださったのに、また顔を反らしてしまいました」

 マフだけがポツンと残った。

 

「また、ひとりぼっちなんですね……」

 

 この言葉に思わずハッとする。

 

 小さな幼子が誰かを追いかけている。

『待ってください!』

 長い裾をつかんだつもりが、自分の手からヒラリとすり抜けていった。

(バタン)

 重い音がして扉が閉まった。

『また、ひとりぼっちなんですね……』

 

「これは、デジャビュ?」

 思わず泣きそうな表情のマフ。今にも叫び出しそうに開いた口から、嗚咽をぐっとこらえ、アクセサリーショップの方へ猛ダッシュした。

 

 

「マフにヒドい事をしてしまったな……」

 一人になってやっと怒りが収まり、やや冷静になったミッキーが先ほどバタンと勢いよく締めた扉を半分開けてのぞいてみる。するとマフが猛ダッシュで店の方へ駆けていく所だった。

「でも、コレで良かったのかもしれない」

 怒らせるつもりは無かった。ただ、マフの仕事に僕自身の自分勝手な行動に付き合わせたくなかっただけだ。

 そう、確かにマフの言うとおり。僕はヒカリを避けていたのかもしれない。今までの事を振り返ってみると。僕と同行することでいろんなことを背負わせてしまったんだ。

 

 彼女に沢山つらい思いをさせてしまった。

 彼女に多くの悲しみを背負わせてしまった。

 彼女に自分の秘密を話す事が出来なかった。

 

 僕の気の届かないところでヒカリはいろんなことを考えてしまっていたのかもしれない。そしてついさっき。気持ちを抑えきれない今の自分に、自分自身が憤っていた。

「自分の気持ちに素直になれないなんて……僕は王様失格だ。こんなんじゃ判断を見誤ってしまうよ」

 グミシップ、カレイドスターに乗り込む。ドアを閉めるとヒカリの部屋が見えた。

「僕は、ヒカリを避けていたのかな?」

 相棒だって言われていたから、このままでいいと思っていた。でも何でも打ち解けているとは思えなかった。

 いいや、もしかしたら僕自身がヒカリに本心を打ち明けるのを避けていたから?

 もし、そうだとしても。行かなくてはいけない。ヒカリの元へ。

 

 コックピットのシートに座りミッキーはグミシップを起動させた。

 

「待ってくださいっ!」

 

「!」

 いまだかつて無いほどの怒声がグミシップの起動音をかき消した。

 彼女の身体からどこからそんな声が?

「……マフ」

 カレイドスターの真正面から駆け出してきて仏頂面で軽々と乗り込むマフにミッキーはただ唖然としていた。

「マフ、君はいったいどうして?」

「私、まだ王様の事はなんにも分かっていないのです! だから……」

「だ、だから……?」

「ヒカリさんが一大事なんですよ⁉ 心配通り越していてもたってもいられません、私も行きます!」

「でも、お師匠様を待つのが君の使命で――」

 

「待つ人が来ないのならば自分で探すまでです!」

 

 その言葉に思わずミッキーは目を見開く。

(この言葉は、ヒカリの……?)

「マフ、それはいったいだれの言葉?」

 思わず聞いたミッキー。

 マフは不思議そうにミッキーを見る。

「ナニ変な事聞くんです?」

 そしてマフはミッキーを真っ直ぐにキッと睨みつける。曇りのない瞳が見透かすように輝く。

「自分の言葉に決まっているじゃありませんか!」

 

 ああ、なるほど。

 そうだったのか。

 言われて気づいたよ。

 あの時のヒカリも――。

 

「ありがとう……」

「?」

 訳が分からない表情になるマフ。怒りがどこかに飛んで行った。

 後でマフが思うに。この時の王様は、表情がほんの一瞬だけ、凛々しく見えた気がした。

 

 

 ヒカリが目覚めるとそこは砂漠の都だった。

「お目覚めですか、気分はどうです? ヒカリ」

「少し、暑いわね」

「では、着替えを持ってこさせましょう」

「え?」

 ちょっとした文句のために言ってみた言葉だったのにかなりの待遇だった。

「言ったでしょう? 丁重におもてなしをすると」

「なるほど、私の杖に興味があるって訳ね、あなた達は?」

 ロックセプターって言うくらいだからきっとすごい物だとは思ってた。始めはこんなすごいもの私が使ってていいのかってちょっとは思ったもの。

前にリクがロックセプターを見たから、きっと報告でもしたのだろうな。

 この杖はキーブレードに似た武器だから――。

「興味? それはまたずいぶんと間違った事をいいますな」

「え、違うの?」

「私の興味があるのはアナタです。ヒカリ」

 

 

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