King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
「ヒカリ、いったい……どうしたんだい?」
「ヒカリさんっ! 目を覚ましてください!」
二人がヒカリに呼びかけるが彼女はまったく動じずに見据え淡々と杖を振り回した。
ロックセプターから真っ赤な炎が飛び出し、ミッキーとマフを取り囲んだ。王宮前から街への道がヒカリの炎で封鎖される。これでソラ達はおろかハートレスの侵入もまったくできなくなった。
そしてヒカリは二人に向かって魔法を繰り出す!
「うわっ⁉」
ミッキーがとっさにキーブレードで受けると雪の結晶が霧散した。
「これは……?」
ヒカリには珍しい、氷の初歩魔法『ブリザド』だ。いつもの彼女の魔法はフリーズのはず――。
それ以上考える事が出来きないぐらい魔法は幾度も繰り出される。
二人は難なく回避したがあまりの隙のない、彼女の躊躇の無さに驚く二人。氷の冷気と炎の熱気に周りで蒸気が発生し、暑い寒いの板挟みでどちらにも逃れる事が出来ない。
「これでは接近戦に持ち込むのは困難。ここは魔法で……」
「いいや、魔法は出さない」
「でも、このままでは!」
「僕は……ヒカリを攻撃したくない」
「王様!」
ありったけの自制をしながらも彼に向かい叫ぶマフの声は、幸い水蒸気の音でかき消された。
「僕はヒカリを傷つけたくないんだ」
今にも叫び出したくなる衝動を必死にこらえる表情のミッキーに、マフは今の自分の本当の気持ちと
まったく同じなんだとその瞬間分かった。
「……わかりました。攻撃は、しません」
「ありがとう、マフ」
目をつむり、気を落ち着かせるように言ったミッキーは心から感謝しているのだと今のマフには痛いほど分かった。
「マスター、あの炎の壁の魔法は?」
マフが自分のことをマスターと呼んだ事に少々驚くミッキー。目の前の難関を突破し、今はソラ達と合流するつもりで挑む気でいるようだ。
「いいや、威力が弱い、ただのファイアだ」
そう答えつつヒカリの繰り出すブリザド攻撃を率先して引き付け回避するマスター。
「さっきから思っていましたが、これって手加減なのでしょうか?」
ヒカリが繰り出す魔法は始めの炎以外はブリザドのみ、他にも彼女の魔法は強力な技が沢山あるのにも関わらず今使っているのはマーリン様に唯一教えてもらった初歩の魔法。
マフの疑問にマスターは――。
「そうかもしれないし、そうでないかも。いいや、まて、これは……」
マスターはヒカリを見つめて気がついた。
(ちがう、これはヒカリじゃない、トラップだ‼)
「まってくれヒカリ!」
ミッキーがヒカリに向かって飛び込んだ!
近付くと、
(ユラリ)
ヒカリが影と同化し、消えた!
「しっ……蜃気楼⁉」
驚くマフ。
「大気を変化させて蜃気楼を作る。接近戦が不利だと見せかけて姿を消したのか――キミらしくない魔法を編み出したようだね、ヒカリ」
ミッキーはうつむき悔しそうに言葉をもらした。
「では炎の魔法は?」
「始めは本物の魔法だったみたいだけど後から油に引火させたんだ、こんな用意ができるのはヒカリ以外の人物だ」
「そんな、ヒカリさんは何でさらわれたのに、そんな方と一緒に居るのでしょう?」
マフの落胆とも悲観とも言える声を振り切るようにミッキーは真っ直ぐに前を向く。
「ソラ達と合流しよう!」
「はい?」
いま王様は、なんて言った?
「きっとソラ達がヒカリと戦って引き止めているかもしれないからね」
そう言いながら、ミッキーは背後にいまだ燃え盛る炎の壁を、今までの抑制された力を発揮するかのように――。
(ジュッ!)
一瞬にして蒸発させた!
そして挑戦的なまなざしでミッキーが言った。
「加勢しにいこう!」
☆
蜃気楼のヒカリとミッキーが攻防を繰り返している中、連結しては攻撃してくるツボハートレスにソラ達は苦戦していた。
「グワワ~~ッ」
「ドナルド!」
戦闘不能で目を回すドナルドにソラが駆けだす。しかし、ハートレスがそれを阻んだ。
「あれ? グーフィとアラジン、どこ言っちゃったんだよ~」
今この場所で行動できるのはソラだけ。
これはまさに、絶体絶命。
「このハートレス、ツボを壊してもまた増える!」
ソラがキーブレードをかざしてガードをするが。
(ボンッ!)
「くそ、また自爆⁉」
ソラが爆風とともに吹っ飛ぶ。さらに、たたみかけるようにもう一つのツボが体当たりをしに迫る。
(また自爆か!)
受け身の体制に入るソラの目の前に突如、一筋の光が迫り来るツボを通過した。
その場で自爆するツボ。爆風の中、ソラは無傷だった。
(ドサリ)
あまりの意外な展開に着地は失敗した。
「いてて……」
ソラが起き上がると意外な人物がそこにいた。
「ヒカリ⁉」
マフとマスターが引き受けてくれたはずなのに、その彼女が目の前にいる。そしてヒカリは振り返ることなくソラにつぶやいた。
「当たりの無いクジ引いたって、意味ないでしょ」
「な、何言って?」
「弾けなさい、ショット!」
ソラの疑問を無視してヒカリがそう言うと光の閃光を連射。ツボハートレスが次々と粉砕する。
「ちょっと、俺にも当た……うわっ!」
身構えるが、魔法がソラに当たっても無傷。
「そっか、この魔法。ハートレスしか効かなかったっけ!」
前にコロシアムでこれと同じ魔法を見た事があった。思い出して納得するソラ。
「でも、なんで?」
「いいから、仲間を助けたら?」
「そうだった!」
ソラがハイポーションを使って近くに倒れていたドナルドを回復させた。
ドナルドは気がつくと目の前では光の閃光の連射をしているヒカリ。
「いったい全体、これは何なんだっ⁉」
「さぁ……俺もさっぱりなんだ」
しばらくするとグーフィとアラジンがソラとドナルドのもとへ駆けつけた。
「ゴメン、出遅れた!」
「アラジンが倒れていたのを助けにいってたんだ」
「しかし、彼女は敵じゃなかったのかい?」
不思議そうにアラジンがヒカリを見る。
ヒカリの魔法が終わるとハートレスの本体と五つのツボのみ。ヒカリはハートレスに駆け出す。
ツボの中にジャスミン姫がいるはず、このままハートレスを倒すと彼女が危ない!
ソラとアラジンが駆けだした。
「駄目だ、ヒカリ。ジャスミンが居る!」
「ジャスミン!」
このままだと姫もろとも爆発する!
「やめろ、ヒカリ!」
ソラがヒカリの駆け出す進行方向。ハートレスの前に両手を広げて立ちはだかる――が、ヒカリはショットを撃った!
細長い閃光がソラを貫いて寸分も狂いも無くハートレスに命中する。
「あ……」
ソラが後ろを振り返ろうとしたとき、
(ボン、ボン……ボンッ!)
ハートレスが倒れ全てのツボもろとも爆発した。
「ジャスミーン‼」
爆風とともにアラジンが叫ぶ。
消えたハートレスの中にジャスミンの姿は無かった。しかも、どこからとも無くジャファーの笑い声が聞こえた。
「もしかして……何も入っていなかった?」
「そんなのって無いよ!」
グーフィの答えにドナルドが反則だと言いたそうに叫ぶ。
「そうだ、ヒカリは?」
我にかえったソラは彼女を探したが、ヒカリは既に消えていた。
「皆さん、さっきの笑い声は?」
「ヒカリを見なかったかい?」
ソラ達がせわしなくあたりを見渡しているとマフとマスターが駆けつけた。
「さっきまでここに居たんだ」
「ここでハートレスを倒していたんだよ~」
「でも消えちゃったんだ。ごめん引き止めておけなくて」
アラジン、グ―フィ、ドナルドがすまなそうに説明する。
「ソラは?」
ドナルドがずっと黙って困惑したままのソラに聞いた。
「ヒカリが、全部のツボを倒して、その中にはジャスミン姫が居なくって……あっ」
ソラがやっとあの時のヒカリの言葉の意味に気づいた。
『当たりの無いクジ引いたって、意味ないでしょ』
「ヒカリは、これが罠だと知っていた?」
「なんだって⁉」
ソラの言葉に一同の声がそろった。
思わずマフが振り返る。ミッキーはうなずいた。
おそらく蜃気楼で二人を引き留めたのはジャスミン姫を連れ去るためだったのだろう。
「もうっわかんない!」
ドナルドが地団駄を踏んで怒る。
「それよりもジャスミンが! それにジーニーも」
「ヒカリさんも――」
マフがしょんぼりとして言う。
今の状況に何か落胆した気配が漂う。
「ヒカリがランプを奪ったんだ!」
不満をぶつけるようにドナルド。
「でも、さっき僕たちを助けてくれたんだよ?」
グーフィがドナルドにやんわりと反論する。
「ヒカリが……そんなこと、無いだろ?」
放心したようにソラ。
「そうです。ない、です」
しょんぼりとマフ。
「きっと何か理由があるんだよ」
グーフィがいつもの調子で皆を励ます。
「ジャファーは魔法の洞窟に行ったはずだ、君たちの探している鍵穴も彼女もおそらくはね」
アラジンの推測にみなは異論が無かった。
ミッキーがこっそり出現させてみた金色のキーブレードもヒカリを砂漠の向こうだと告げている。
「本当にヒカリさん、なのでしょうか?」
マフが困惑気味でマスターことミッキーを見る。
「まだ、分からない。でも、理由はどうであれ、追いかけるしか道はないようだ」
マスターは砂漠を見つめこう続けた。
「前々から思っていたけれど……ヒカリと全然正面から向き合った事がなかった。次こそはって思っているうちに、こうなってしまったんだね」
「ヒカリってよくわかんない!」
すねたようにソラが言う。
「女の子ってホントよくわかんない」
なぜか女の子全般になげくドナルド。
「よくわからないけど理由がありそうだよ」
グーフィが分からないなりにフォローする。
「私も、今のヒカリさんが何をしたいのかがさっぱりです」
マフが首をひねって考えるが全く分からない。
「でも、コレだけは言える」
マスターはアラジン、ソラ、ドナルド、グーフィそしてマフに振り返って言った。
「ヒカリって……敵に回すとすっごく恐い」
途方に暮れたような笑顔の彼に、皆はおもわず無言で同じような表情になって頷いた。
困ったように笑うミッキーが、不安を募らせるマフには今は本当にちっぽけな存在のように見えた。
☆
「なぜ、彼らを助けたのかね?」
ジャファーが後ろに居るヒカリに訪ねる。
めずらしく魔力の消費が激しく、息切れしているようだ。おそらくミッキーとハートレスとの連戦は少しばかりダメージが大きかったようだ。
それでもヒカリは毅然とした振る舞いで言った。
「邪魔だったから」
「そうですか。ジャスミン姫がハートレスの中に居ないコトを見破りましたことは誉めて差し上げましょう。しかし、一番邪魔なのはあやつらの事ではないのですかね?」
「厄介なのは承知の事よ。でも、私にとってハートレスの方がよっぽど邪魔」
「ふむ、まあ良いとしましょう。しかし、気をつけてくだされ。マレフィセントがどこで見ているやも知れません」
「それには御心配なく」
そう言ってヒカリはあたりを見渡した。
「少なくとも、今の所の見張りは居ないようだから」
「分かるのですか?」
「確信にはいたら無いけど」
確信にはいたらないが、マレフィセントの使い魔のカラスはこの周辺には居ない。
これは、そう告げている。ヒカリは自分の手にしているモノを眺めた。
それはトラヴァースタウンに帰ってきてすぐにマフが作ってくれたロケット。
『カラー・ド・ローズ』
自分の周辺に探したい相手が近付いているとき、その距離に反応してバラの色で示してくれる。
ツボハートレスに捕まってしまったジャスミン姫もこのロケットで居ない事が分かったのだった。
ロケットを握りしめヒカリは心の奥底でマフに感謝した。
「しかし、困りました。そろそろマレフィセントが来てしまう」
ヒカリがロケットを眺めていると真っ白かったバラが真っ赤に変わっていった!
(マレフィセント⁉)
まだ真紅に染まっていないが、次第に赤さを増していくバラに思わず目が離せない。
「アナタには眠ってもらいましょう」
「え?」
分けも分からず、いきなりグラリとよろける。
そして、そのまま意識を失った。
「もうすぐ鍵穴が見つかる、アナタの出番はその後です」