King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】   作:かすてらホチキス

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今回は後日談です。


Another11~Peaceful Day~

11章 アグラバー 短編

Another11~Peaceful Day~

 

 グミシップ、カレイドスター。砂漠の夜は日差しが無いだけで気温差が激しい。

 

 洞窟から帰ってから、無言でふらふらとした足取りだったマフはヒカリがベッドへ案内すると倒れるように横になり、すぐに寝息が聞こえてきた。

 マフを眺めてヒカリは小さく「ごめんね……ありがとう」と言って毛布をかけた。

 

ミッキーはヒカリの部屋をノックして入った。

 

「マフ、何も言わないですぐ寝ちゃった」

「よっぽど疲れていたんだね。お茶を入れるよ。それとも何か食べるかい?」

「おなかすいてないからいいよ、アグラバーで王宮のおもてなし料理が結構量が多かったから。一人のもてなしなのに、これでもかって出て来たのよ……ちょっとムキになって食べすぎちゃった」

「そうか、ははっ。君らしい。さらわれたのに思っていたより元気で何よりだよ。ジーニーがさっきいきなりここへ押しかけてきてジャスミンティーをくれたんだ。アラジンに勧めたら断られたらしい。夜が来るからすぐ別れたけれど、僕たちのこと心配して来たようだ」

「そっか、出発する前に挨拶しに行かなきゃね。そういうことならいただこうかな?」

「では、御相伴にあずかろう」

 

 

 ミッキーはポットとティーカップをお盆にのせてヒカリの部屋へ入る。アグラバーの世界にぴったりな豪華なティーセットだった。おそらくジーニーが茶葉ごと一式渡したのだろう。

 少し肌寒い部屋に暖かな湯気が立ち上ると華やかな香りが部屋いっぱいに広がった。

南国に咲き誇る花はヒカリにとっては少し懐かしく思う。

 香りを楽しんだ後、やけどに気をつけて口にすると爽やかな風味と甘い香りがさらに強く感じる。それでいてまったく甘くないのが不思議なくらいだ。

「ヒカリ、砂糖は大丈夫?」

「大丈夫。いつもの紅茶だったらほしいけどジャスミンの香りがして甘くなくてもおいしい……これは今のアラジンにはおすすめできないわね」

「そ、そうだね。これはおいしいのに気の毒だ」

「あはは……気遣いって難しいものね」

 ヒカリとミッキーは苦笑してしばらくお茶を楽しみ、飲み終わる頃合いでミッキーがその気遣いのタイミングを見計らって口を開けた。

「ヒカリ。僕にトラヴァースタウンからアグラバーへ来ることになったいきさつとジャファーとの間に何があったのか、話してくれるかい?」

 ミッキーはベッドの横に座るヒカリの前に椅子を置き、ヒカリと目線を合わせゆっくりと聞いた。

 心配そうな顔がまっすぐにヒカリを見つめる。

ヒカリはさっきまで泣きはらした目からは一滴も涙が出なかった。落ち着いた気分のままでいられるのは、きっとアグラバーに来たときから持っていた不安が一つ解決した事と、ミッキーとまたこうして一緒にいられる安堵感。それから、このジャスミンティーのおかげだ。

「……どこから話せばいいのか分からない」

「じゃぁ、僕の質問に答えてくればいいよ」

「分かった」

「まず、キミはどうやってアグラバーの星まで着たのかい?」

「ジャファーとトラヴァースタウンで出逢って、気がついたらここの星にいたの」

「ジャファーと出逢って何を話したのかい?」

「私が探し物をして困っていたら、いきなりそれを言い当てたの」

「キミの探していたのは?」

「バンビ、杖の中に映像が見えて、金貨や宝石の沢山ある部屋に光る召還石があったの。協力してくれたらあの場所まで案内するって」

「ジャファーはキミに何の協力を?」

「魔法対決」

「魔法対決? いったい誰と?」

「相手は教えてくれなかった。はじめはジャファー本人かと思ってたけど」

「違ったのかい?」

「洞窟に向かう途中で、マレフィセントの気配がしたの。これで見たから間違いない」

 そう言ってマフの作ってくれたバラの花が描かれたロケット『カラードローズ』を見せた。

 これは探したい人のことを強く思うとバラの色が変わる。効果はミッキーも知っている。

「でも……」

「でも?」

「マレフィセントじゃなかった。一瞬だけ真っ赤になったけれど、断定はできない。結局誰なのか分からずじまいだったの」

 不安な表情のヒカリ。目を閉じると、静まりかえった部屋に規則的なマフの寝息が聞こえるだけだ。

「ジャファーに、闇の魔法を教えてもらったそうだね?」

「……ごめん」

「あやまらなくてもいいよ、僕はキミが――」

「ちがうの! だからその……」

 ヒカリは思わず立ち上がってミッキーを見る。視線がぶつかると、意気消沈してベッドへ座り直す。

「なにが、違うのかい?」

 ミッキーが促すとヒカリは悔しい気持ちでいっぱいの顔で絞り出すように言った。

「思い……出せないの」

「その、何が?」

「ジャファーを倒したときの事、何もかも」

「何もかもってことは?」

「思い出せないというか記憶にまったくないの」

 目を開けてミッキーに真剣なまなざしを向ける。

「前にもこんな事があったね」

「うん。あの時も、闇の魔法を使った」

「その後の話になるけど、キミはリクと出逢わなかったかい?」

「リクがいたの⁉」

「その様子だと、本当に何にも覚えていないんだね」

「洞窟に居たっていう記憶が、まったくないの。気がついたらミッキーに助けられてて」

「キミは確かに魔法を放ってジャファーを倒した。ソラ達も見ていた」

「私……何にも思い出せない」

「焦らなくていいよ、でもなんでもいいから、なにか思い出せないかい?」

 

「……夢を見た、かもしれない」

 

「ゆめ?」

「私が、私を見ていた夢」

「それは、もしかして身体と意識が別々になってしまっていた?」

「言われればそうなるかも。でもそれはゆめでよくあることじゃない?」

 不安そうなヒカリの表情にミッキーは立ち上がり優しく言った。

「話してくれてありがとう。今日はもう休もう。それに夢かどうかは、夢を見てみないと分からないからね」

 

 ヒカリとミッキーの飲み終えたジャスミンティーをお盆に置くと、煙とともに消えて無くなった。

 お茶はなくなったが、部屋の中は花の香りが華やかに残り、ゆっくりと眠ることができた。

 

 

「おはよう~」

「おはよう、ヒカリ」

「おはようございますヒカリさん。昨日すぐに寝てしまってスミマセンでした」

「ううん、それだけ一生懸命だったんだよね。ありがとうマフ」

「いいえ、ヒカリさんがこうしてご無事で……何よりです!」

 真剣な表情で見上げる少女。

 本当に迷惑をかけてしまった。

 こんな少女にとても心配されていた事に、ヒカリは今になって罪悪感がつのる。

「マフごめんね、もう絶対に居なくなったりしないから」

「もう……絶対ですよ!」

「うん、絶対」

 プイとそっぽ向くマフにヒカリは思わず安堵した。

 

 

 コックピットの中で朝食を食べる三人。

「三人でご飯食べるのってはじめてだよね?」

「はい!」

「おまちどうさま」

 そう言ってミッキーは二人の目の前に今日の朝食を置いた。

 アグラバーの露天で入手したスパイスで作ったカレーにチーズの練り込んだナン。それといくつかの南国のフルーツがお盆にそれぞれのせられている。 カレーのルーは結構辛かったが、ナンに付けて食べると小麦の甘さが引き立ち、チーズでまろやかになった。

 さらに程よい酸味と甘さのフルーツが一層スパイスの効果で甘く感じた。甘みと辛み、それぞれ絶妙なバランスで口の中を中和してくれる。

 それに、寒暖差の激しい気候には辛いものは元気が出てくるし王宮のもてなしで食べ過ぎたのは絶妙なスパイスの効果かもしれない。

 

「そういえばマフは辛いの大丈夫なの?」

 ヒカリがルーをつけたナンをほおばる。

 やはり、ちょっと辛い。マフは自分以上に辛いと思わないのかちょっと心配だった。

「少し苦手ですが、食べられる物であれば大丈夫です」

「食べられるもの……って?」

「ヒカリさんは人の口に合わないものって食べた事ありますか?」

 マフは真顔でさらりと聞き返した。

 

 その表情はどこか無機的で……なんか怖い。

 

「……聞かない事にしておく」

「その方がいいです。私も、あまりお話しはしたくないので」

 たちどころにいつもの雰囲気に戻ったマフ。

 

 気になるけど――気にしちゃいけない気がする。

 

「ヒカリ、昨日は言わなかったけれど、落ち着いて聞いてくれ」

 朝食を食べながら、ミッキーがヒカリにおもむろに言った。

「そもそもバンビは、アグラバーには居なかったんだ」

「………どういうこと?」

「バンビは今ソラが持っているのは見たから分かるよね」

「うん」

「バンビはマーリン様の家にある赤い本。その中でソラが見つけたそうだ」

 

 衝撃のあまり食事の手が止まるヒカリ。

 

「私は――はじめっからジャファーに騙されていたって事⁉」

 

(あんなに頑張って……)

 

 あまりの驚きに意識が遠くへ行きそうになるのを押しとどめ、ヒカリはもう一度ミッキーに聞いた。

「バンビは、ソラの所に居たのね?」

「後で聞いたんだけど、ちょうどヒカリがジャファーと会ってる時だそうだ」

 がっくりとうなだれるヒカリ。

「今の問題はそこではないよ、どうしてバンビは僕とヒカリの事を忘れてしまったのか」

「うん」

「ヒカリ、ダンボとムーシューを出してくれないかい?」

「それが……」

「ん? どうしたんだい?」

 

「召還魔法が……使えないの」

「MP不足ですか?」

 マフが聞く。

「ううん、さっきからずっと休んでたから全快だよ」

 ヒカリが答える。

「とにかく、やってみないと分からない。駄目もとで召還魔法を使ってみてくれよ?」

「うん……」

 

 

 三人はカレイドスターから降りた。

 日差しが出ると砂漠は一気に暑い。

 見渡す限りの砂漠の中、ヒカリはロックセプターを取り出して風を切る音を出しながら振り回す。

 そして、天高くセプターを振り上げるが……。

 

 シーン。

 

「やっぱ、出来ないよ」

「もう一回やってくれよ?」

「でも……」

「やる前から決めつけてはそれは出来ないままだよ、さぁ!」

 

 二回目、三回目。

 

「腕の振りかなぁ?もう一回」

 四回目。ヒカリは振り回した勢いでセプターを取り落とした。

「あは、あはは……失礼」

 乾いた笑いでヒカリは砂に落ちたセプターを消失させてから再び取り出した。こうすれば砂を払う事も無いのです。

「もう少し優しく回してみて? もう一回」

 ミッキーは妥協を許さない。

 

 五回目は召還魔法ではなく間違ってサンダーを唱えてしまった。最後、上に突き上げるから間違ったのです。

 

 六回目。

「もしかしてこっちはムーシューかな? もう一回」

 

 七回目。

「あ、もしかしたら偽物で……」

「もーいいかげんにしなさいっ!」

 ヒカリとマフが叫んだ。

「二人ともそんな、怒らなくても……」

「こっちは、一生懸命なのに~~!」

「そうです! そう言うミッキーさんこそ使ってみてくださいよ~」

 マフの言葉にミッキーはポンと手を打つ。

「ああ~それもそうだね」

 ミッキーはキーブレードを取り出した。

 

 そして、ヒュンヒュンと音を鳴らし――。

 

「ほら! 使えないじゃない!」

「おかしいなぁ~」

 ヒカリの叫びを無視して考え込むミッキー。

 

「考えていても拉致がありません、こうなったらソラさん達の所へ行きましょう。いろいろとお世話になりましたし」

 マフが提案する。

「そうだね、召還魔法の事をもう一度聞きに行こうかな。ヒカリも、謝ったほうがいいよ?」

「そうですよ! 一度は刃を向けてしまったのですから謝るのは当然です」

「ううっ……そうね」

 渋い顔のヒカリに二人は容赦なかった。

 

 

「と、言うことでしたので……ごめんなさい」

 ソラ、ドナルド、グーフィ。そしてアラジンとジーニーにも深々と頭を下げるヒカリ。

 

 最初に答えたのはソラだった。

「いいって、いいって☆」

 

 長年の経験上、ソラはいつもこんな感じだ。

 ごめんと言えば大抵はなんでも許しちゃう。

 そんな弟に、「本気でそう思ってるのか?」なんて逆切れしそうになる事があった。

 

 でも、今はこの言葉にとても救われた。

 

「とにかくヒカリが無事だったからそれで良いよ」

 グーフィがソラに続く。

「もう……しょうがないなあ」

 思ったよりあっさりとドナルド。

「仲間と仲直りできたのなら僕たちはそれで十分だ」

 アラジンさらりと受け止める。

 

「ジャスミンのことは残念だけど、ジーニーに頼んでソラたちのところについて行って貰うことにしたんだ」

 アラジンは諦めていないようだ。

「一時の過ちは大きくなる前に、ごめんって言っちゃえば案外すんなりいくモンさ☆ ボクなんかランプの精なんかやっているからけっこう人生経験豊富よ?」

 ジーニーが、なんかまめ知識をご披露。

「バンビみたいに召喚魔法で答えてくれるみたい」

「その事なんだけど、ソラはバンビの召喚魔法はいつ使えるようになったの?」

マスターがソラに聞いた。

「トラヴァースタウンのマーリンの館で見つけたんだ。その後フェアリーゴッドマザーに頼んで呼び出せるようになったんだ。召喚魔法は……初めはシンバがいたから同じように出してるけど特に難しいことは無いよ?召喚魔法ってそんなに珍しいの?」

「使える人は珍しくはないけど、使えなくなる原因がわからないんだ」

マスターが考え込む。

「魔法が使えなくなるなんて、僕にとっては考えたくないな」

ドナルドが頭を抱える。

「この石綺麗なだけだと思ってたけど、フェアリーゴッドマザーが助けてくれたんだ。聞いてみたらいいんじゃない? そうだ、さっきジーニーの召喚石も貰ったところだった」

「僕は魔法については魔人やってたくらいだからお呼びとあらば参上出来るのさ。まぁ、ついさっきランプの魔人はお役御免したけどね。今度は召喚石で参上致しますよ〜。それとアル!しばらく留守にするけど僕は必ず戻ってくるからね~お土産いっぱい持ってきてあげるし、ジャスミン姫を……」

 ジーニーはそのままアラジンへ別れの言葉を矢継ぎ早に発している。

 

「ありがとう。この石に問題はなさそうだね」

マスターはソラの見せてくれたバンビの召喚石を眺めソラへ返した。

「いいのか? バンビ召喚して見せようか?」

 

「大丈夫だよ。召喚魔法よりもヒカリがこのとおり無事に戻ってくれたから僕達は先を急ぐよ」

 マスターがソラたちに片手を上げて言った。

「絨毯さんもお元気で」

 マフが魔法の絨毯に頭を下げると絨毯も同様に体を折り曲げた。

 

 最後にヒカリが全員を眺め頭を下げる。

 

「ほんとーに、ごめんなさい!! それから、みんな……ありがと。私はもう、絶対に黙って敵対なんてしないから!」

 頭を上げたヒカリは泣いていいのか笑っていいのか、はにかみながらどっちとも付かない表情で微笑んだ。

 そんなヒカリに、さすがにジーニーは止まらないトークショーを中断。

「……グワァ」

 ドナルドがあんぐりとヒカリを眺める。

「いや……あの、うん、ヒカリってそんな顔もするんだ~」

 ソラがそわそわしながらどことも付かず目を泳がせる。

「え? なんか変な顔してた?」

 赤くなるヒカリ。

「いいや、いつもは自信たっぷりな顔していたけれど、今の顔はすごく意外だなぁ~って」

 グーフィが丁寧に解説した。

 

「もうっ! これ以上言ったら怒るよ!」

「ついさっき敵対しないって言ったよね?」

ドナルドが聞くと、ぷい、とそっぽを向いて歩き出すヒカリ。

「それとこれとは別。言いたい事はそれだけ、じゃぁね!」

 大股で早足で街の外へと出て行くヒカリに付いて行くマスターとマフ。

「三人とも、道中気をつけてね!」

「私はトラヴァースに戻ります。合成ショップぜひ立ち寄ってくださいね~」

 

「いい仲間だね」

 三人の後ろ姿を眺めアラジンが言う。

「ああ」

 ソラが頭の後ろに腕を組んで見送る。

「あの三人とまた一緒になりたいね」

 グーフィがソラの横で言うと――。

 

「……女の子って可愛いなぁ」

 

 思わぬドナルドの言葉にみんな顔を見合わせドナルドに向き直る。

「なんだよ! 率直な意見を言ったまでだぞ!」

 

「?」

 ヒカリ達は後ろを振り返る。

 アグラバーの城門で見送っているソラ達の方から笑い声が聞こえた。

 

 

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