King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
~不時着~
なぜかソラのもとにいたバンビ。突然いなくなったと勘違いしたヒカリはジャファーに騙されたのだとショックを受けるもアグラバーでの出来事は一件落着――とは言えず。
「結局、理由は分からずじまいで召還魔法は使えなくなっちゃったね」
ヒカリがグミシップ操縦席のミッキーに言った。
「マーリン様に聞こうにもソラ達が居たから……」
「ジーニーの召還の練習してたんだもん、アレははかどらないって」
一度トラヴァースタウンに戻りマーリンの館にやってくると二階のレッスンルームに先客がいた。
こっそりのぞいてみるとソラのキーブレードの先から勢いよく飛び出して来る色とりどりの魔法の数々。うっかり手を抜いていたらキーブレードがどこかへ飛んで行きそうだった。さすがはどんな願いも叶えてきた元ランプの魔人だ。
「マフも一緒に居たら頼もしかったのになぁ…」
「しょうがないよ、モーグリ達の工場とはいえアクセサリーの半分はマフが作っている物なのだから」
マフはトラヴァースタウンに降り立つとすぐに自分の仕事があるからと言って合成ショップへ駆け出して行ったのだった。
後から聞いた話だとジーニーがマフのずっと探し求めている『シルバーチョコボ』を見つけ出してくれたらしい。そんなわけでマフは意気揚々と工房に戻って行ってしまったのだ。
少女の満面の笑顔を見たら一緒に冒険の旅に行こうなんてヒカリは言えなかった。
障害物の少ないフライトコースは、操縦していないヒカリにとってはとても退屈。でも、おっきな岩とかが無い場所って近くに新たな星が近い場所であったりもする。
これから到着するであろう星の事をあれこれ考えていると星の大海原を、宝島を探すようにじっくりと目をこらして見渡してしまう。
そして見つけた小さな点。
それは星にしては小さくてエンジン推進機、ブースターが付いているので別の船である事が分かった。しかも見覚えがある。
「あっ、あれってソラ達の船だよね。名前はええと、ハイウインドー!」
「そんな名前があったんだ?」
「実はあの名前、命名がリクなんだよ! 島を出て冒険するために作ったイカダの名前なの。ソラはエクスカリバーって名前にしたかったらしいんだけど、ビーチレースで一番になった人が、自分が考えた方にしようってリクが言い出して……」
「ヒカリも参加したんだね?」
「モッチロン! カレイドスターって名前をかけてね☆」
「なるほど……そんな経緯がこの船の名前にはあったのか」
「あとね、もう一つ。リクがソラにカイリと――」
(ビービー!)
船内に警戒音が鳴り響く。
「何?」
「こっちに何か大きなモノが近付いて来る!」
「おおきなモノって何⁉」
「分からない、けどコレは……!」
モニターのスミに見えたのは――ヒカリは見覚えがあった。
それは海で何年か前に見た事があった気がする。
「あれって……」
でも、ここは星の海!
ありえないとばかりに口を開いたその時。
いいや、あれは絶対そうだ見た事がある!
海の中で最大とうたわれる生物。
「く、クジラーーー⁉」
ヒカリの叫びと共にその主は大きな咆哮と共にヒカリ達の船、カレイドスターの頭上スレスレをかすめて行った!
真っ暗な影が落ちびりびりと反響する船内。
そして――。
「通り、過ぎたの?」
「いいや、まだクジラは頭上に……」
時が止まったような顔のミッキーがある場所の一点でとどまる。
ヒカリがミッキーの視線の後を追うと――。
目の前に黒い尾ひれが!
カレイドスターはいきなりの急降下!
「うぉわあっ⁉」
変な形に傾く船内に変な叫び声になるヒカリ。
「だめだ避けられない! 衝撃に備えて!」
「え? ちょ……きいてな」
(ドオォン!)
破壊音と共にカレイドスターが操作不能!
「きゃぁぁあ~」
「うわぁああ~」
いきなりの衝撃と重力の渦。
嵐の大渦に合ったイカダのようにぐるぐるとめまぐるしく回る感覚と高い所から落ちて行くようなこらえようの無い重さ。それは恐怖を感じる隙間も無いぐらい目まぐるしくて。なにより気分が悪い!
ある時プツリと途切れた意識の中。
警戒音だけが自分の周りで鳴り響いていた。
☆
真っ暗なコックピット内。フワフワとした浮遊感が無いのでどうやらどこかに不時着したようだ。
やっと目を開けるヒカリ。
「う~ん」
まだ頭がぐらぐらする。
「ヒカリ、大丈夫? どこも痛くない?」
「大丈夫、なんとか動ける」
ふらりと立ち上がるヒカリ。
「ちょっとだけ耳鳴りがするけどね」
「はは、それはボクもだ」
「私たちどこかの星に落ちたの?」
「正確には、飛んで行った場所がちょうどどこかの星でした……って所だね」
「船はどこか壊れちゃった?」
「幸い何かがクッションになって奇跡的にどこも外傷が無いよ。今、この場所がどの地点なのか探している」
うわぁ~もう駄目かと思ったのに……。
ミッキー。アナタと居て本当に助けられます。
そんな悪運の強さを心の中で賛美しても今の状況は変わらない。
「どんな星なのか分からないからまだ外に出ない方がいいよ」
「うん、ところでさっきのはクジラ、だよね?」
「そう、みたいだね……」
「なんでクジラが星の海を泳いでいるの?」
「どこかの書物で見た事がある、世界最大のクジラは船を丸ごと呑み込む……って、まさか!」
ミッキーはあわててボタンを連打してレーダーを動かし始めた。モニターに映るのはさっきクジラが出現した所だった。
「どうしたの? 故障した?」
あまりのミッキーの必死さに遠慮しがちにヒカリが聞いた。
「コレはさっきの映像のリプレイを調べたんだけどソラ達の船ハイウインドーの位置がちょうど……」
大きな画面にはハイウインドーの姿が小さいながらもはっきり見えた。
その後、大きな影が通り過ぎて――。
「まさか、クジラの大きな口の……?」
「咆哮と共に頭上があの位置なら、その可能性が高い」
ヒカリは身を乗り出して目を凝らしてモニターの上ギリギリを見つめる。
モニターはクジラの影が見えただけでソラ達の乗っているハイウインドーは見えなかった。
「そんな……」
「船を丸ごと呑み込むクジラ。今はその丸ごと呑み込まれたを信じて祈るしかないよ」
操縦桿を見つめて言うミッキー。それを握る手が行き場を失ったようにわずかに震えている。
それを見たヒカリは、ハッと我にかえったように言い出した。
「ソラ達はきっと大丈夫! 私はそう思ってる」
「ヒカリ?」
カラ元気ではないのか?
ミッキーがそう思ってヒカリを見る。
彼女はいつもの笑顔だった。
「信じて祈る? 祈るだけじゃ叶わない事が沢山あるのよ?」
お説教するように腰に手を当てて言うヒカリはいつもの調子だ。
「それに、選択肢は沢山あったほうがいいもの」
「キミは何を……根拠に?」
「何かの希望になればいいと思って頼もしい仲間を置いてきたの」
「仲間?」
「ダンボ。ジーニーに頼んでこっそりソラ達の船に一緒に乗せてもらっちゃった。もちろんソラ達には秘密だけどバンビが使えたもの、ソラならきっと使えるはずよ!」
「キミはどこまでボクを驚かせてくれるんだい?」
うつむいたままのミッキーは表情が見えない。
こんな感じ前にもあった。ミッキーはきっと怒ってる。
「信じるアイテムしか持てないけど、祈るだけのエールは物足りなくてさ」
シュンとしてヒカリ。
『待ってる』それだけしか言えなかった私は何か物足りなかった。でも今は少しでも役に立ちたい
「ごめんね、黙って決めちゃって……怒った?」
「ちょっと理不尽だな。でも、不思議と悪い気はしない」
「ウソだよ。ミッキー怒ってるよ」
シュンとするヒカリ。
今まで迷惑かけてる分、精一杯反省しているつもりだけど、やっぱり困らせているって、どうしても分かってしまう。
「キミはいつそんなに弱気になったんだい? 理不尽なのははじめからだろ?」
「なっ⁉」
ミッキーの言葉にカチンと来るヒカリ。しかもいつもの爽やかな微笑をたたえて言われたからには、あまりの完璧な悪態ぶりに反撃の余地すらない。
何もしゃべれないヒカリに対しミッキーは操縦席から立ち上がり歩き出した。
「これがキミの『希望』ならボクもそれを信じる『祈る』のではなくて」
笑いをこらえるような表情とは裏腹に最後の所は力強く、はっきりと聞こえた。
「それじゃあ、僕たちも進もう。今は自分たちが出来る精一杯の事をするんだ」
そう言ってミッキーはカレイドスターのドアを開け放った。