King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
ヒカリの目の前に現れた漆黒のドレスに長い髪。
(まさかポスターから実体化した、魔女⁉)
思わずゾッとするヒカリ。
いきなりの恐怖の魔女登場にヒカリは恐怖しか感じられなかった。
しかし、しばらくしてハッと気がついた。
(そうだ前にシドが言ってた『恐怖に打ち勝つ方法』だ!)
『怖い対称=強い敵と考えて分析する』
(今こそコレよ!)
ヒカリはあらゆる思考を巡らす。そしてこの答えに行き着いた。
「もしかしてハートレスね!」
いや、まて。もし目の前の魔女が『魔女の人形』ではなく『ハートレス』だったとしたら――。
『人形=魔法使えない』
『ハートレス=魔法使うかも』
ちょっと待て、そっちのほうが当然不利!
「は、ハートレスじゃないわね? 魔女よね、きっと、お人形の!」
かなり身勝手な決めつけ方をするヒカリであった。ハートレスなら今頃イヤでも戦闘してるんだし。魔女であれ、おもちゃの世界なんだからヒカリ同様それなりの力しか無いだろう。
どちらにせよ戦闘モードでないことからこれで怖がる必要は無くなったわけだ。
と、まぁいろいろ考えているうちに魔女(仮)がこちらにやって来た。
魔女は魔女ではなかった。黒いドレスと思ったのは外のひらひらしたカーテンの影でそう見えただけだったようだ。
よく見ると可愛らしいもこもこの身体。
「なーんだ、おにんぎょう…さん?」
手を握ったまでは良かった。顔を見るまでは。
そこには、可愛いお人形の顔が――恐竜⁉
「きっ、きゃぁああーーー‼」
魔女⁉ハートレス⁉この恐怖に比べたらこの際どちらでも出てきてかまわない!
(とにかく怖いぃ~~!)
思わずヒカリはもふもふの腕を背負い投げ!
そのまま恐怖対象はおっこちたが――。
「いやぁーーきゃぁあーーうわぁあーー‼」
それでも興奮が冷め止まないヒカリはあちこち逃げようとする。
しかしココは高い棚の上。悲しくも、叫んで走り回るしか今のヒカリには出来なかった。
「ヒカリ、いったい何が起きたんだい?」
「おーいなにがあったんだ~」
ミッキーとウッディの声でやっと騒ぐのをやめたヒカリ。
棚の上からおそるおそる真下あたりにいる二人を見下ろした。
「あ、あの、おにんぎょう、がぁ……」
電池の切れかかった人形のようにカタカタと小刻みに震えるヒカリを見て不思議そうに二人はさっきヒカリの居る棚から放り投げられた人形へ視線を映す。
ふかふかの身体のおかげでどこも壊れていない人形の身体。
その顔を見た瞬間。
ミッキー、ウッディ、一応バズは数秒固まった。
「み、みんなぁ~がんばって」
一応声援を送るヒカリ。恐怖の対称が遠くに行ったことでヒカリは少し落ち着いてきていた。
「が、がんばれって……こ、ここ、この状況は……『俺』しか戦えないんだぞ⁉」
ロケット花火にぐるぐる巻きにされたバズとミッキーを指差し、ウッディがさっきのヒカリ同様のカタカタ電池切れアクションを始めた。
「ふわふわしてるから大丈夫だよ。ケガなんか全然しないって!」
無意味な助言だった。
「えぇい~~こうなったら~ん?」
戦闘モードのウッディの横から新たなおもちゃがやって来た。
(リンゴロ、リンゴロ~♪)
「なんだよ、おちびちゃん? 今この場所はちと危ない、ぜ?」
暗がりからやって来た音の主は赤ちゃんの首!
(キュッキュ♪)
(ギーコギーコ♪)
続いて、一本足だけのおもちゃと足のついた釣り竿。鉄色の六本足、男の首、などなど。
どれもコレもが有ったり無かったりの改造おもちゃ達が今、横を通り過ぎウッディは恐怖のあまり声も出せない状況。
その恐怖のおもちゃ達が先ほどの人形の方へ集まって行く。
「い、いったいなんなんだ⁉」
恐怖の光景を見つめる三人と上にいるヒカリ。
そしてぽつりとバズが言った。
「共食いだ」
『!!!』
あまりの恐怖に戦慄する三人!
(ドタドタドタ!)
階段を駆け上がる音におもちゃ達は一斉に元に一に戻った。
もちろんヒカリも条件反射のごとく人形になる。
「よし、ロケットの打ち上げは明日に決行だ!」
禍々しい少年の表情に答えるように外では雷が鳴り響いていた。
☆
窓の外はいまだ雷鳴が鳴り響いているが雷の地響きのような音がおさまると少年のいびきが聞こえる。
付けっぱなしのデスクのライトが部屋全体をオレンジ色に照らしている中。ヒカリは明日の天気予報が外れないかと心底願っていた。
「思えば、天気予報外れたってこの状況が良くなるわけじゃないわ!」
たとえ明日が大雨になったとしてもヒカリの身にも何か危険が迫っているのだ。
なにか、みんなが助かる方法を考えなくちゃ。
「そう言えば、魔女様の復活祭って何かしら?」
ヒカリがこの棚に連れてかれた時に少年が言っていた言葉に腕を組んで首を傾けるヒカリ。
その視界に入るのはヒカリに向かって不気味に笑いかけている魔女のポスター。それを眺めると不吉な予感がして思わず身震いした。
だめもとで棚の下を眺める。ミッキーとバズはおもちゃのまま。恐怖の人形達はあの共食いから姿が見えなくなっているのだが……。
「こんな高い所降りられないしなぁ」
ふかふかの身体なら壊れる程度なのだが、ヒカリの身体では良くても少々傷がつくだろう。
もしも傷がついている状態で元の身体に戻ってその後どうなっているのか分からない以上、危険な真似はすることが出来ない。
「やっぱ、ダメ! 別のこと考えないと」
ヒカリがあらためて周りを見ると魔女の復活祭とやらに使うであろう魔法アイテムの数々があった。
赤いろうそく、くすんだ銅色の大釜、真っ黒に焦げた生き物のおもちゃ。
ヒカリならこの魔術具を使って何か大きな魔法を成し遂げようとは絶対に思わない。むしろこれで魔法が使えるようになったとしても一度きりしか使うことはないだろう。
ちょっとまって。ヒカリは真っ暗な大鍋の横に立ててある黒い(ヒカリには)大きな本をなんとか倒して本のページを開いた。
「この魔術書もどき、魔法の根拠はめちゃくちゃだけど、説得力はあるわね」
『根拠の無い説得力』
つまりはヒカリの得意分野だ。
禍々しい図鑑の絵を眺めるヒカリ。そしてとある図柄を見つけてひらめいた。
「この本。使えるかも!」
☆
ウッディは単身、自由である今のうちにこの恐怖の部屋を出ようか迷っていた。
その時。
「ねぇ、ウッディ!」
真上から声が聞こえた。
「なんだよヒカリ。悪いがそこにいたんじゃお前さんを助けらんないぜ」
「私なら大丈夫。だけどお願い、ロケットの打ち上げ直前までにカレイドスターの部品を外に運んでほしいの」
「ヒカリ、何か良い策があるのかい?」
ミッキーがヒカリに聞いた。
「まだ考え中。でも、やられる前にやんなくちゃ」
意味深なことを言い残して彼女の姿は見えなくなった。
「ウッディ、キミだけでも脱出するんだ」
いままで黙っていたバズがやっと正気に戻ったらしくウッディにこう言った。
「キミの言う通りだった、私はただのおもちゃだ、空も飛べない」
バズの言葉にウッディは今まで伏せていた顔を上げた。
「何言ってるんだよ。お前はカッコいいんだ。イカしたおもちゃだ。顔だって最っ高にクールだし、後ろの翼だってシャキーンって伸びる。腕だって……ってあれ?」
さっきまでウッディが持っていたバズの腕がない。続いてウッディがバズを見ると――。
バズが『共食い』されていた!
わらわらと群がる改造おもちゃ達にウッディは身じろぎしたが、意を決し叫んだ。
「や、やめろ~食われるなら俺にしろ! かかってこい!」
ファティングポーズでリズムよく右ストレートを繰り出すさまをしていると―。
「ウッディ、バズは大丈夫だよ」
ミッキーの声にバズを見る。
「ん?」
ウッディが勇猛果敢に叫んでいるうちに恐怖のおもちゃ達はバズから離れていた。
バズの身体はそこにあった。
そして、腕が直っていた。
「後ろをみて」
ウッディが後ろを振り返ると。
ヒカリが落としたお人形と恐竜が元の身体で直されていた。
「もしかして、お前らが直してくれたのか?」
「思っていた姿とは違って、みんなとても良いおもちゃ達だよ」
ミッキーはさっきまで恐怖のあまり驚愕していた自分を悔い改める。
「あ、ああ……みんな、ありがとう。ごめんよ始めは驚いて、気が動転していたんだよ」
ウッディが沢山の仲間にお礼といっしょに謝る。
(これなら、もしかしたら)
この状況でウッディが希望を見出す。
「お願いだ。バズとミッキー、俺たちを助けてほしい!」
「うん、僕たちはまだ諦めていない。少ない可能性でも、ヒカリのように最後まで希望を捨ててはいけないんだ」
さらにミッキーがバズ、ウッディ、そして周りのおもちゃ達に励ました。
「みんなの力で……あっ待ってくれ! なんでいなくなったんだ?」
「ウッディ、おそらく……上だ!」
バズが天上の影を眺める。そこには部屋のライト越しに大きな影が現れていた。
「あそこは、ヒカリのいる棚からか!」
棚にはヒカリしかいない。もしかしたらアレが彼女の言っていた『良い案』なのだろうか?
「ヒカリ、無事でいてくれ」
天上を見上げるミッキー。ただ祈るだけしか出来ない自分。それでも、ミッキーは信じていた。
☆
ヒカリは魔法書のページをめくる。
下でウッディの「かかってこい!」とか言う声も気になるが、今はそれどころではない。
今はこうして……アレが来るのを待つのみ。
すると、ヒカリの頭上の魔女のポスターが、ゆっくりと実体化した!
音も無くゆっくりとヒカリの背後に迫る黒い影。
襲いかかろうとした瞬間。ヒカリは本から飛び退き、その影と対峙する!
それは、魔女のポスターから出てきた影。
「やっぱり来た」
漆黒のドレスの長い髪の魔女。あの時の恐竜の首のお人形とは似ても似つかない。
でも、ヒカリはあのときは確かに黒いドレスと長い髪の影を見ていた。それにさっきの攻撃はまぎれも無く魔法。魔法が使えるとするならばこの世界のおもちゃではない。
これは、まぎれもないハートレスだ。
もしかしたらあのお人形は見た目こそはあの時は怖かったがこのハートレスに操られていたのかもしれない。
「二度も登場したら恐怖も何も無いわ!」
しかし、これはハートレス。魔法が使えないヒカリには不利。
いつの間にか雷鳴は聞こえなくなり雨もやんでいた。そのかわり厚い雲が止んですぐに日の光が窓に差し込み朝を迎える。
もう、時間はない。それでもヒカリは恐れない。なぜならあることに核心があったからだ。
「私の『魔法』でミッキー達を救ってみせる」