King And Hearts~鍵を待つもの~【完結】 作:かすてらホチキス
それと朝の日課とご飯の話もしています。
最後のヒーローネタが個人的に好き。
Another12~You've Got a Friend In Me~
ヒカリはいつものように目が覚める。目を開けて数回横に体を傾け、やっと起き上がった。
グミシップのヒカリの部屋はコックピットの次に窓が大きい。気だるい体をそこまで移動させて朝の光を浴び大きくのびをした。部屋の反対側にはシャワー付きの洗面ルームがあって間取りは前の船と一緒なので寝ぼけて部屋を間違えることは無い。それから朝のルーティン、顔を洗って歯を磨いて自分の部屋に戻り服を着替える。その後朝ご飯を食べに外に出るのだった。
「おはよ~」
ヒカリは外で朝食を作るミッキーに挨拶すると彼は笑顔で振り返った。
いつも思うが、ミッキーはヒカリよりも早く目が覚める。そして決まってヒカリとの起床時刻の差が長ければ長いほど笑顔のランクが上がるような気さえする。この前なんか、ヒカリが起きて彼を見ると朝食を済ませて新聞を読んでいた。その姿がかなり満面の笑顔だったことがあった。競争しているわけでは無いがこの時ばかりはなんだか悔しかったのを覚えている。
今日は朝食の準備中なのでいつもよりは目覚めが早いほう。ヒカリはガスコンロで調理しているミッキーの隣にあるアウトドア用のテーブルと椅子に座った。
食事をするときは、いつもこうやって天気がいいときはグミシップの外で野営をしている、たまに町の飲食店の時もあるが、天候が悪いときは備蓄の食料。例えば固形の宇宙食のようなものやカップスープで済ませることも数えるほど。
確かあのときは白雪姫と小人達の居た世界で、お互い朝まで離ればなれになった時の一度きりだけ。その後はなんだかんだキャンプ飯が多くなった気がする。たまに食べる異国の料理もいいが自分の味覚にあった食べ物が一番だと二人はその答えに落ち着いたのもあった。
話を戻すと、決まって朝はいつもヒカリが目覚めるとミッキーが朝食を出してくれるのだった。
「おはようヒカリ。昨日はよく眠れたかい?」
「うん。そういえばおもちゃの姿だったとき、夜は全然眠くならなかったわね」
いろいろな世界を旅しているが不思議なことに朝と夜は時差ぼけも無くちゃんと目覚めることが出来た。思い返せば、故郷の島から飛ばされてから寝坊をしたことが無い。もかしたらミッキーの朝ご飯のおかげかも。朝から驚きの発見だった。
「あの世界ではおもちゃだったからね。それにいくら走っても疲れないのはとてもよかったな」
「そうだったんだ……戦っていたとき普通にダメージはあったから気がつかなかったわ」
「おもちゃが動いている世界。今思い返せば本当に不思議な世界だったね」
そう言っている間にテーブルに朝食が置かれた。
トーストの上にベーコンと目玉焼き。そして決まって間にスライスチーズが入る。それから野菜ジュース。これが定番メニューだ。
「いただきます」
ヒカリは初めて朝食を作ってもらったときはミッキーが席をつくまで待っていたのだが、暖かいうちに先に食べてくれと言われたので遠慮がちに食べ始めていた。今はもうそんな気遣いは無用で出されたときに食べることがいつもの日常となった。
それから何日かたってヒカリは「朝ご飯、私も作ろうか?」と聞いてみたことがある。
すると「気持ちはありがたいけど勝手がわかる僕の方が作る。それに朝誰かとご飯を食べられるのはとても気分がいいからね。僕の好きにやらせてくれよ」と最後はかなりのイケメン発言だった。
結局は趣旨としてヒカリの提案は断固として聞かなかったのだった。
(一見いい人なんだけど、やっぱちょっと頑固なんだよね~)
彼の行動は所見だと完璧なのだが、毎日付き合うとなると少しばかり罪悪感という不満がつのる。完璧にこなそうとするが故、隣の自分が身動き出来なくなるのだ。余計なことをしなくていいのは初めなら良さげなのだが、次第に自分の役割分担が無いことに不満を持つ感じだ。
それもこれもどちらかが「まぁ、いいか」と思わないと不満が募るばかりなのでヒカリはおとなしく『ご飯はミッキーが作ってくれたものを食べる』事になったのだ。
幸いヒカリは好き嫌いが特にないので作ってくれたご飯を残したことは無い。そのおかげかヒカリが食べている時、彼の顔はいつも満面の笑みでこちらを見ている。
(この笑顔、守りたい――)
そんな心の声を発しながら利害の一致で思い、ヒカリは彼が手伝ってと呼ぶ時だけ手を貸すことに決めたのだ。それ以外は極力彼のやりたいようにただ見守る。そうしていつも決まってヒカリが手伝うのは夜ご飯のお皿を運ぶだけだった。
(これって絶対過保護よね)
自分も一応出来るのでやらせてくれと思ってはいるが、いかんせん彼の好意に甘えている。
そのうちきっかけがあればいいのだが……。
朝はご飯と紅鮭に限る――と、ヒカリの世界では定評だが、自分が朝作るには少し自信が無かった。前に朝は白米を食べる人が多いと話した時、電気調理器もいいものがあったらほしいよねと二人で盛り上がった。毎日おいしいふっくらご飯……改めて炊飯器って偉大だなぁ。
そんないつもの何気ない朝食時。ミッキーがいつもどおりニコニコしながらヒカリに聞いた。
「そういえばおもちゃの世界で君はウッディのことを知っていたよね?」
「うん、ウッディはテレビで見たことあるの。それもすごく昔の白黒映像のね」
「白黒テレビ? そんなに昔かなぁ」
「私にとっては生まれたときからカラーのテレビがあったから昔のものなのです!」
なぜか説明口調になるヒカリにミッキーはそうなのかなぁと首を傾ける。
「時間の流れって人それぞれだからねぇ。それで、どんな感じだった?」
「覚えてるのはそんなに沢山じゃないよ。ええと、その白黒の映像がね――」
そう前置きしてヒカリが語り出した。
『チョコとシュガーのたっぷり入ったおいしいシリアル。カウボーイクランチーのお送りするウッディのラウンドアップ!』
軽快なコーラス付きで始まった音楽は白黒テレビの人形劇。たしか再放送だったかな。
糸で操られた人形劇でさ、馬にまたがってぴょんぴょん飛び跳ねてたのは覚えているよ。
『おれーがついてるぜー、おれがついてるぜー』
「ギター持って歌っているウッディが子供ながらに頼もしくって、カッコよくて、なんていうか抱きしめたくなるの!」
「カッコよくて抱きしめるって……あまり聞いたことないけど?」
「たしか、ウッディの隣にいた人形じゃ無くて本物の小さい男の子が現れて、歌っているウッディを抱きしめる所を見たからかな。私もあの子になりたかったんだ。それに、男の子が出てきたから余計にウッディ人形がかわいく見えてさ。もぅ~あの子、うらやましい~」
思い出したのか、ヒカリは両手を握り上下に揺らしている。
「……僕も元に戻ったらかわいいと思うけど」
「ん? 何って言った?」
「いいや、たしかおもちゃのウッディは紐を引っ張ると言ってたよね『この街は俺たち2人には狭すぎるぜ』『俺のブーツにゃガラガラヘビ!』って。あの意味は?」
ミッキーは、別の質問ではぐらかした。ヒカリは聞き取れなかった言葉がちょっと気になったが、促すような彼の視線に負けて質問に答えた。
「あの言葉の意味は良くんわかんないや」
「えっ?」
さらっと答えるとミッキーが拍子抜けする。
「私が覚えてるのは人形劇でやってたのと歌だけ。歌は最初のフレーズだけ覚えているんだけど、後の内容はわかんない」
「でも、ヒカリはすごく憧れていたんだよね?」
なぜか深読みしようとするミッキーだがヒカリは始終さらりと答えた。
「小さい頃はねぇ~。それにすごい昔の再放送でさ~結局は最初も最後もどうなったのかわからないのよ。だから白黒じゃないので動いて喋っているのを見た時は本当に嬉しかったのよ。おもちゃのウッディは自分のテレビでのお話は覚えていなかったみたいだしね。バズみたいに新しいおもちゃだったらきっと教えてくれたんだろうけど……そうしたら是非とも聞いてみたかった!」
少し悔しいと言いながらヒカリは残りのトーストを全て平らげた。
「そうだったのか、それはヒカリにとって本当に素敵な出会いだったんだね。ヒカリがあんなにうれしそうにしていたのなら、きっと弟のソラも見たかったんじゃないのかな?」
ミッキーがソラについて尋ねてみるとヒカリは少し驚いた。
「そういえばミッキーの口からソラについてあまり訪ねられたことが無かったわね」
「ヒカリを見ていれば大体わかるよ」
この言葉に今度は顔をしかめる。
「それ、私の男バージョンだとしか思っていないんでしょ?」
「うっ……ヒカリが男勝りなんだから全く同じだと思っていた……かも」
「私、これでも運動とか持久力がないんだけど?」
「運動が出来て持久力があるヒカリだという認識を持っていた……かも」
決めつけと先入観が先行していた事に今更気がついて言葉に詰まるミッキー。ヒカリの表情を伺うと、思っていたとおりの不服そうな表情をしていた。
「ごめん、ソラとヒカリは姉弟だからって見かけで判断していたかも」
「ま、実際小さい頃一緒にいたらたまに……いや、結構な頻度で間違われることあったし……我ながらちょっとすねてるだけ、いいよ百歩譲って許す」
意を決したようなミッキーの謝罪にヒカリはいつものことだと前置きし渋々許した。
「姉弟って実際いると当人達は苦労するんだね」
「ま、違うと言いつつも最後の答えは結局同じになるんだ。もちろん好き嫌いは違う事あるけど」
「それで、話をウッディに戻すけど、ソラは大好きなテレビヒーローじゃ無いのかい?」
ミッキーが今一番聞きたかった話題に切り替えるとヒカリは意外な答えをくれた。
「それがね、ソラは海賊船とスペースヒーローに夢中になってさ、『宇宙海賊』と『何とか戦艦』と『機動戦士ナントカ』ってのがあって、その頃から宇宙物が沢山出てきたんだ、あいつはウッディのお話は多分覚えていないよ。家にはカウボーイのおもちゃもなかったし」
「ヒカリはよく覚えていたね」
「実を言うと……小さい頃シリアル好きだったのよ。それで覚えていただけ。ウッディはパッケージにもう居ないけど甘い味のシリアルがたまに食べたくなるんだ」
「なるほど。今度朝食のシリアルを探してみよう」
「わぁーい」
なんだか最後の言葉はご機嫌取りのような発言だったが、何にせよ好きな食べ物を用意してくれるのは気分がいい。
(良かった今朝のヒカリは気分が良いみたいだ)
朝が弱くていつも不機嫌そうに見える彼女が笑顔でテンション爆上がりに変わった事に、ミッキーは胸をなで下ろした。
実のところ「朝ご飯は僕が作る」と言ったのは、このヒカリの不機嫌そうなオーラを感知してのことだったと彼女は未だに知らない。
朝食を済ませたヒカリは後片付けに入る。食器は除菌スプレーをして布巾で拭う。水洗いは水辺のあるときだけお湯を張った鍋につけ置き。
それ以前にお皿に残ったソースなどはパンですくって残らず食べる。そういえば島でキャンプをした時、ソラは最後にお皿をなめていたっけ。きれいに食べてくれるのはうれしいが、さすがにお行儀が悪いからカイリがデザートとはいかないが最後にパンを常備してくれていたのを思い出した。
こうやって毎日しているとアウトドアのスキルは結構上がったと思う。
「ヒカリは小さい頃ウッディのおもちゃは欲しかった?」
食器を洗った後、テーブルと椅子をたたむミッキーがヒカリに訪ねる。
「うーむ、テレビ見たときはすごく欲しかったかも。どこかで聞いたけど、抽選で当たった人しか持っていない非売品のすごくレアな人形なんだよ」
「じゃあ今は? 昔欲しかったおもちゃはどう思う?」
「今は、それよりもっと別の欲しいものがあるから。子供時代よりもっと好きなものができたからいいかな」
「子供時代って……ヒカリはもう大人になる途中なんだね」
「なっ、なによ! 今はね別のことに専念してるわけだし、ミッキーと色んな世界を見ることが1番楽しいんだよ!今の私の相棒はミッキーなんだから!」
「そう言われたら……ウッディには悪いけどとても嬉しい、かな。ははっ」
「夢のあるおもちゃは子供達に託して、私はもっと自分にしかできない事をしたい。夢を見るのが子供なら、これからの子供たちの夢を作る方に行きたいな」
「では、相棒の僕は最新式のスペースヒーローって所かな? ようし、無限の彼方へさぁ行こう!」
そう言ってグミシップの扉を開けるミッキーがなんだかいつにも無く幼く見える。それが面白くてヒカリは苦笑しながらグミシップへ。
「よく考えたら無限で彼方ってそれも意味よくわからないわよね……それと、ミッキーはSFではなくてどちらかと言えば耳が触り心地いいぬいぐるみかな、この前の硬いフィギュア姿ではなくて」
「そうか、かわいい方が人気出そうだね」
「そこ、納得していいの? カッコイイ方がいいんじゃない?」
入り口横の収納に椅子とテーブルをしまいながら二人はコックピットへ向かう。
「可愛い人気者の方が僕はなりたいかも、大人も子供もみんな好きそうだし」
「ミッキーってさ、意外と欲張りだよね」
「そうかい? 好きな人が沢山いてくれた方が嬉しいからなんだけど」
「それを欲張りさんと言うのですよ。王妃様が聞いたらなんて言うのかしら?」
「うーん、特に何も言わないけど、必ず隣には居てくれるだろうね。それこそ僕にとっての永遠の相棒は王妃だよ」
「永遠って……隣に立てる王妃様もすごい人ねぇ。私、今そんなところにいて大丈夫なのかしら?」
「憧れてくれてもいいよ?」
そう言ってコックピットの操縦席へ座るミッキーは彼女をドライブに誘うようないつも以上にいい顔をしてヒカリに笑いかけた。ヒカリは逆にいい顔過ぎて疑いのため息をつく。
「いや、それは遠慮します。もうミッキーはミッキーで、普通に私の相棒」
「僕は王様って言われてるから結構人気者のはずなんだけど……初めてヒカリに会った時はウッディみたいに見てくれたら嬉しかったのに」
「今さらそう思うのは無理よね」
「そっか、ザンネン」
ミッキーはそれだけ言って別段気にした様子もなくほほ笑んだ。今度はちゃんと無駄に作っていない笑顔だった。いつもの横顔を見たヒカリは、よくよく思うと相棒の凄さとその隣に立っている自分への重圧をひしひしと感じ時間差で驚異に思った
(なんか、ウッディよりもすごいヒーローに見えてきた)
それを目の前で言うのもなんだか恥ずかしいのでヒカリはあえて何も言わず同じように微笑む。
(なんか、ヒカリにヒーローって言った自分が少し恥ずかしいな)
ミッキーが心の中で少し反省していることに気づかず二人はお互いを見ることなく微笑んでグミシップを発信させた。
☆
その後トラヴァースタウンの工房でマフに王様の知名度について聞いてみると、マフいわく。
「王様を知る世界では相当な人気者でおもちゃや人形は結構出回っているからレアというかもはや日常使い。尊敬ではなくみんなの友達扱いで問題なし」
――という、なんともウッディともバズとも言える中間なヒーローぶりを聞かされることになるのであった。
「そのマフは、もしもはじめましての時に人気者のミッキーを見たら尊敬する? それとも友達になりたい? どっち?」
ズバリ聞いたヒカリの質問にマフは即答だった。
「沢山見てるから空気も同然。でも、一見して王様と同じお姿に見えてしまう王妃様は全くもって尊敬のかぎりですね」
「僕だけかなり辛辣だなぁ」
「初め王妃様から聞いた時はまだ尊敬でしたが、この『今の人の姿』だったのが関の山ですね」
「この姿のせいで、尊敬が下がりっぱなしか……今の姿、かっこよく見えたりしたの、僕だけ?」
ミッキーはさっきまで始終かっこいい(と自分では思っている)顔をしてマフにアピールしていたのだが今は疲れて脱力しきっていた。
「初めての印象って結構大事よね」
その横でヒカリは苦笑しながら彼を眺めて面白がっている。
「むぅ~~この際聞くけども……二人とも僕は一体どんな風に見えるんだよ!」
少し顔を赤くして叫ぶミッキーについに最後はマフと一緒に声に出して笑い出した。
「さっきの顔から今の顔になると……ははっ」
「あはは~~笑わせないでくださいよもう~」
「何でそこで笑うんだよ~」
「ぼくはただのお得意様クポ」
合成が終了したモーグリのクポがいつもの仏頂面でミッキーにサンダガベルトを渡した。
「このベルトを着けて『変身!』って叫ぶと元の姿に戻らないかなぁ~3分くらい」
「王様、それはどの特撮の話ですか? しかも元の姿なのに変身でいいのですね」
「なにそれ~よくわっかんないんだけど~あはは、おっかしい~おなか痛い……」
マフの突っ込みにミッキーは気まずそうな顔をしていた。
その顔もあって元ネタがわからないヒカリはさらに笑い転げた。