比企谷君と朝吹さんの高校生活   作:クヨーマン

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第1話 彼は噂の東京校へ

 小中とイジメられた。小学校は幼いながらにバレてはいけない理解していたのか目立たず陰湿なものが多かった。

 体に傷がつくようなものが少なく精神に攻めるものが多かったように思う。

 中学、体に傷がつくようなことが増えた。服で隠れる場所、おかげで真夏に長袖を着ることになったし髪を伸ばすなんて自殺にも等しい行為を継続しなきゃいけなかった。

 

 別に救いが欲しかったわけじゃない。鉄槌を下して欲しいわけじゃない。ただ放っておいて欲しかった。

 正義感の強い教師がいた。言ってもないのに俺を助けようと、イジメがあるからと皆の前で晒し者にされた。表立ったものが減ったが、しかしそれは陰湿さが増しただけのことだった。

 根本的なものが解決されていないのに正義に酔い現実を直視できていない教師は上辺を見て満足そうにしていた。全ての教師が嫌いだとは言わない。ただやはり苦手意識ができてしまった。

 それから、中学の時優しくしてくれた女子に告白した。手紙を晒され気持ち悪がられた。あの時は自分に酔っていたような気があるので100パーセント相手が悪いとも言えないと感じてしまう。事実晒された告白の手紙はキモかった。

 惚れた弱みとも言うべきかあまり相手を悪くいうつもりは無い、さりとて心に植えられた傷はとんでもなく深く軽減されることは無かった。

 何とか中学を卒業し少し遠い高校へ進学しようとしたとき教師の一人から東京の高校をおすすめされた。物は試しと頷いて、色々調べていくうちに3年間外との接触をほぼ完全に断ち切るらしいことがわかった。

 つまり、俺のようなやつは3年間出てくんなとそういうことだろうか、などと被害妄想を爆発させたがそれはそれとして、しかし受けると言った手前何となく取り下げるのも違う気がした。

 ならばと実行した作戦もまさかの失敗、結果は合格、試合に勝って勝負に負けたとはこのことをいうのだろう。

 そうしていつもよりも数時間早い朝を迎え現在車に揺られながら外を眺めている。もう後戻りはできなかった。

 

 小中とダメだった。高校にも期待はしていない。どうせ延長線上にあるものなのだから期待すればするだけ落差に絶望する。山は低いところから登った方が挫折した時の折り返しは少なくて済む。

 高校生活は山なし谷なしの平坦な野原がいいのだ。勉強を程々に心地よい風と昼寝と共にあるようなそんな生温い程の生活が良い。そしてそこには俺だけでいいのだ。

 

 そんな学生にあるまじき絶望にも似た情景を頭にうかべる。誰もいない野原にただ一人、それはまさにおれの心を表していると言っても過言じゃない。……。

 

 

 

 ─────────

 

 

 朝方、まだ日が登り始めて間もない頃、ラフな格好で車を走らせる男は隣にいる息子を見た。不満があるのかムスッとしていてとても機嫌がいいとは言えない様子だと分かる。男はあまりに露骨な息子の様子に思わず苦笑いを浮かべる。

 

「そんな拗ねてももう東京に入ってる、後戻りはできないぞ」

「わーってるよ」

 

 息子の雑な対応に少しの寂しさと苛立ちを覚えた男は歳に似合わずムッとして今度は表情を改めていやらしく口端をつり上げた。

 

「まあ3年間も出れないもんな? 小町ちゃんには当然会えない。ゲーム漫画ライトノベル諸々のお前の私物は持ち込めない。諦めろ八幡」

「ちっ……はぁ、変な学校に入ることになっちまった」

 

 男は息子が入試で得意の国語すら手を抜いたことを知っていた。入試テストの答案の平均点は50にも届いていないだろう。以外に大胆な行動を起こしたものの合否はまさかの合格。これには息子も普段はすました表情をひくつかせて「どういうこと」などとこぼしていた。男はそれを大笑いして睨まれたが男にとって息子の睨みなど痛くも痒くもなかった。

 そんなこんなで選ばれてしまった息子、改め、比企谷八幡は渋々入学の準備を進めた。3年間閉じ込められるとは言えその学校の実績などの情報だけを見れば悪くは無い。しかし、胡散臭いというのが八幡の感想だった。さっさと退学にでもなって他の学校へ転入というのが彼の思い描くシナリオだ。

 

「ああそうだ、退学なんかしたら小町ちゃん口聞いてくれなくなるぞ」

「……さすがにしねえよ」

 

 八幡は自分の上擦った声に気づいていたし父も気づいていることを自分で気づいているのだろう。彼は気まずい空気を感じて視線を外へと逸らすが対照的に彼の父は楽しそうに笑っていた。

 しかし、次の瞬間には楽しそうな笑みはなりを潜めて少し寂しそうな顔となっていた。八幡はそれを一瞥するだけに留めてまた外を眺める。

 

「さあ、ここからは歩きでいけ」

「ん、ありがとな親父」

「なんだ珍しい」

「向こう3年間の別れなんだよいいだろ」

「ま、そうだな。楽しんできなさい」

「……」

「……無理はしないようにな」

 

 彼は答えない。後部座席に置いてあった少しの荷物を肩に下げて心地よい春風とはうらはらに陰鬱とした気持ちを抱えて「じゃあな」と一言だけ残してさっさと歩き出した。

 そして彼がたどり着いたのはまだ人も少なく閑散とした学び舎、そこに彼は嵐の前の静けさと同じものを感じているようだ。少なくとも、今から足を踏み入れるそこが他と同じような平均的な学校では無いことくらい彼でもわかっていた。ここで3年間を過ごすことになる。父親の脅しがよほど効いたのか彼の頭に「退学による転校」という考えは無いらしい。その事に彼は気づいた様子もなく止めてしまっていた足を踏み出した。

 そしてクラス表を確認し彼は静かに校舎の中へと歩みを進めた。

 

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