ねこ「なーん」 作:ねこのともだち
「なーん」
そこに ねこがいた。
「なぁーん」
ねこは ないていた。
「なぁん」
ねこは たびをはじめた。
◇◆◇
やぁ、こんにちは。
突然だが、皆さんは、「あるけみすと」という世界を知っているだろうか?
それはどこか優しく、少し懐かしい匂いがする世界。ねこはそんな世界の住民である。
この世界の住民は、何処からともなく誕生し、気付いた時には我が物顔で旅をしている。
突然行方不明になる事もあれば、何事もなかったのようにひょっこりと帰ってくるものもいる。
自由きままな世界である。ねこはそんな世界の住民である。
だが、この世界にも奇妙な制限が存在していた。
住民として産まれた際に、何かを成すには、何かを制限しなければいけなかった。
メテオを放つ為に、お嬢様口調をしなければならない。
転生をする際に、姿を固定してはいけない。
賭け事をする際は、全額賭けないといけない。
強くなるには、触手でなければならない。
アクアレイドを極めるために、魚として跳ねなければならない。
軽いものから、重いものまで様々な制限が存在する。
しかし、それは制限ではない。己の個性だ。己の信念だ。と全員が納得した上でこの世界で生活している。不思議なものだ。他の世界の住民は自身の姿や、性格に思い悩むことは多い。だが、彼らはそんなことは考えていないのだ。
「なぁん」
――おっと失礼。悩み事はあったね。皆、祝福を沢山欲しがっていたし、闘技場で負けた時に宝箱でないかなと願っていたか。
「なーん」
――ふふっ、ごめんごめん。
……さて、話を戻そう。君の話だったね。
ねこも当然のように制限を受け入れて、「あるけみすと」の世界に住んでいる住民の一人だ。
ねこの制限は今見ている通り、人間の言葉を話せず、自身の行動と鳴き声でしか相手とコミュニケーションを取る事が出来ない。これはねこが猫の姿をしているのが原因ではない。あるけみすとの住民の中で、猫の姿をとり、普通に会話している住民は勿論存在するし、なんならデコポンの姿をしていても人間の言葉で会話している。いったいどういう原理なのか、それは研究者の人たちにお任せしよう。
恐らく、その気になったらねこも会話は出来るのだろう。だが、ねこは今のままを受け入れているのだ。
勿論、自分の言葉が伝わらなくて、悲しくなったことはあるだろうし、ナンと勘違いされてカレーをぶっかけられそうになり、逃げたこともある。
でも、ねこはそれで幸せそうに尻尾を揺らしているのだから、これまたなんとも不思議である。
ねこはあるけみすとの住民になって三日目だ。初めはよく分からずポチポチしており、拾った種を全て食べていた。
親切にしてくれた人に、お礼で二層で拾った祝福のキラキラしたものをあげた時には流石に受け取れないと言われてちょっと申し訳なくなったこともある。後からすごい大切なものだと知ってさらに申し訳なくなった。
三日時点で、第四層を開放し、依頼も7まで進んでいるのは運がとても良かったのだろう。転生する前に三層を突破したが、転生してから一度も勝てておらず、他の人の状況を聞いて驚いていた。今は三層に籠っており、ツートンクラッチとハンドフルフレンズと遊んでいる日々が続いている。
特にツートンクラッチに関して、ねこは“ツートンクラッチさん”と心の中で呼んでいる。さん付けした方が可愛いとのことだが、私には理解できそうにない。ナンダモンを見るとずんだ餅を思い浮かべるそうだが、これも理由はわからない。謎である。
そんなねこだが、実は魔王軍に所属している。猫もプライドはある。一番最初は辺境の地に猫の国を建国するという意思の元から旅だったが、魔王不在の魔王軍が誕生し、丁度出来たてならそこに行こうと思いいたって魔王軍に入国した。ねこは猫らしく気まぐれだった。
……実は魔王は猫になる呪いをかけられたという形で認識させて、我が物顔で城を住処にしようとして――あっ、ごめん引っ搔いちゃダメ。いたいいたい。
「なぉーん!!」
――バラしてごめんって、酷いなぁ……やっぱりねこは猫だ。
話を戻そう。魔王軍には入国した際に役職が決まることがある。副官を初めとして、門番や居候。炊事洗濯担当や、非常食なんて役割もいる。
ねこは勿論ねこの担当だ。自由気ままにシルクの毛布を咥えながら各地をお散歩しているのがねこの仕事である。よく跳ね飛ばされているが、それはまぁ国に所属しているのだ。仕方がないことである。ぬくぬくと魔王城の中で過ごしているのも好きだが、散歩するのも好きなのだ。
魔王軍に所属して、ねこは改めて自分で建国するのではなく、入国した方がよかったなと思っている。なんせ鳴き声で会話をするしかコミュニケーションの方法がないのだ。それに、責任者にはやっぱりなりたくなかった。
「なーん……なんっ、なん……」
――えっ? 魔王軍の皆に謝りたいことがある? この機会に通訳しろって? まぁいいけど……
「なん、なーん。なん! なーん……」
どうやら、魔王軍の皆が寝ていてねこしか居ないときに全チャで鳴いていたら、別の国から勧誘を受け、魔王軍を滅ぼせばこっちくるんじゃみたいな会話になり、すごい焦ったそうだ。
――いや、えっ……凄いことやってるね君……
「なーん」
――可愛いは罪ではないんだよね。こら、得意気にならない。
ねこはたった三日間ではあるが、あるけみすとの世界を満喫していた。ミミックの中に入り込んだり、優しい魔王軍の人たちや全チャの住人にちやほやされたり、ねこはあるけみすとの世界が大好きになった。
勿論、ねこはきまぐれだ。気が付いたら居なくなっているかもしれない。それでも、ねこの仮住まいにはふさわしい場所だと感じたのであったとさ。
「なーん! なんなん! なーん!」
――え? 締めるな? 宣伝しろ? ええ……チラシの裏に書いてるのに見る人いないでしょ……
「なん!」
――はいはい。
ではここで、宣伝をしましょうか。こんな「あるけみすと」の世界。実はあなたも簡単に住民になることが出来ます。ポチポチと、古く懐かしく生活を楽しむ世界。少し調べれば、直ぐに見つけることが出来るでしょう。……え? 錬金術が出てきた? ちゃんとひらがなで探してます?
ちょっぴり制限がある、でもそれを受け入れる事が出来る。どこか優しく、少し懐かしい匂いがする世界。
あなたもそんな住民になってみませんか?
今なら、鳴いているねこを見ることが出来るかも、しれません。
「なーん! な、な、なーん!」
――え? 似たような子が増えるのは困る? い、いやそれは許容してあげてよ。我がままだなぁ。やっぱりねこは猫だ。
「なーん」
ねこは ふすんと 鼻息をだした!