ねこ「なーん」 作:ねこのともだち
「なぁーん!」
意味:嬉しい時に使う。「なぁーん」とは別の意味なので注意。「なーん!」より嬉しさ度合いは高い。
「ふすん……」
猫は寝たい時に寝て、起きたい時に起きる気まぐれな生物だ。寝子という名前が由来になっているとも言われている。
ねこも変わらず、気ままに魔王城で生活をしている。
起きたらいつの間にか知らない人が沢山増えてきて、把握出来なくなっているのもこれまたねこらしい。
だが、ねこは気まぐれだ。今日もぐぐーっと大きく伸びをして、散歩を始める。
「なーん」
副官が何をしているのか気になり、彼女がいる方へと歩いていく。いきなり規模が大きくなった魔王軍だ。
魔王不在の中、一番の責任者は副官である。大変なこともあるかもしれないと、ねこは若干心配だった。
もし大変なようであれば、ねこの手を貸すくらいはできる。ねこは気まぐれではあるが、最低限の優しさは持ち合わせていた。
ポチポチは余裕をもってするものだ。焦ってはいけない。
ねこが副官の部屋を覗くと、彼女は鏡の前で身だしなみを整えているようだった。
「魔王城へようこそ、副官である私がお相手いたしましょう」
「……いや、違いますね。もっと威厳がある感じにしなくては」
「魔王軍に楯突くとは……愚かですね。うん、やっぱりこれが良さそうです。もう一度ポーズをとって――もあうぐんにたとつっ」
「うう、噛みました……」
「…………」
――ねこは見なかったことにした。誰にしもプライバシーはあるのだ。副官も頑張っているのだ。彼女の努力は大切にしたほうが良い。そう思った。
「なぁーん……」
魔王軍は威厳がありそうで、何処か頓智気なのは彼女のカリスマのおかげなんだろう。良い意味でも悪い意味でも、魔王軍は魔王軍だった。
さて、やることがなくなったがどうしようか。別の人に挨拶に行こうかなと考えて、ねこは暖かいほうへと歩き始めた。
魔王軍は日々沢山の人が役職を持って増えてくる。掃除担当や洗濯担当、音楽担当や安眠担当だって存在する。
その中の一つとして、魔王城を支える動力源担当――もとい、アンドロ担当の元に挨拶にいくことにした。
「あるけみすと」の世界で科学という要素が混入するのはかなり難しい。そもそも神秘と化学は相容れないものであり、世界によって方向性が定められている。
そんな中でも、例外というのは勿論存在する。空気中の魔素を吸引し、己の動力として魔王城に力を受け渡す。それが動力源担当の能力であった。
いつものように地下にある魔王城動力源から休憩のため出てきた青髪の少女に、ねこは挨拶する。
「なーん」
「ハロー。ねこ様。まだ放電しきれておりませんので、あまり近付かぬようお願いします」
「なぁーん」
ねこはアンドロイドから少し距離を取って丸くなり、彼女はねこをじっと見る。
「ソーリー。わたしの機能が向上すればいいのですが」
「なーん」
ねこは気にするなとばかり、尻尾を揺らした。
アンドロイドの近くは毛がぼさっとして、少しやぼったいが、ポカポカと暖かいのでダラダラするには最適だった。
問題があるとすれば、そう。
「「…………」」
会話が続かなかった。ねこは元々会話自体はするが、寡黙なほうであるし、動力担当も何方かと言えば能動的に話すことはそんなにない。
ねこはそれでもいいと思っているので、鳴くことは特にない。
なんとも言えない空間を維持しながら、彼らはポチポチしていた。
やがて半刻ほどすぎ、彼らの沈黙を破ったのは我らが魔王軍掃除担当であった。
「定期清掃にやってきましたわ! あら、ねこちゃん。ちゅーる食べます?」
「なーん」
「オーケー。最近放電を怠っているので、麻痺させてしまったらすみません」
彼女はバケツとモップ片手に二人に対して気軽に話しかける。
掃除担当はフランクである上に魔王軍の中では上位を争う実力者であり、かなり貢献をしている筆頭メンバーだ。
ねこは彼女の後ろを歩けばきままに散歩が出来るので気に入っていたし、ちゅーるをくれるのが好きだった。
「はぐはぐ」
「でしたら、ボディを磨かせていただきますわね!」
「ナイス。ありがとうございます」
バチィッ!!!!!
「しびびびびびびびっ!」
「オゥ。衛生兵、衛生兵ぃぃ!!」
「……なーん」
でも魔王軍はやっぱり魔王軍だった。
慌てて蝶の羽を付けたメイドと風呂当番が駆け寄り、掃除当番を運んでいく。
「全く、困ったものだナ。お前も稼働させっぱなしなのはよくない。休みも大事だヨ?」
「電気風呂もよさそうですよー!」
「ソーリー。気を付けます」
そういえば、この魔王軍。医療班誰も居なかったなとねこは思った。
「なぁーん」
ねこは運ばれていく掃除当番を眺めながら、この場を離れて魔法の練習をすることにした。
ねこは一撃必殺を好んでいたが、とあるお嬢様の影響からメテオの練習もするようになった。
目指すはウィザードシーフである。
リリオール方面へ散歩をしつつ、メテオの練習をしている聖ミーティア女学院の方に向かう。
『おメテオですわー!!』
『よっ、シューティングスター! ミルキーウェイ! レインボーテイル! ティンクルダスト! ビックバン! メテオォオオオオオオオオッ!!』
『聖者の杖をよこせですわー!!』
『メテオォオオオオオオオッッ!!』
「なーん……」
うるさい。
悪い人たちではないのだが、癖が強かった。声の覇気が明らかに強い。
メテオの勉強にはなるので、定期的に散歩しにいくが、落石量が多くてねこは不安に感じている。
メテオ時々晴れの天候だった。
最近はこの辺りをレストラント同盟というらしい。物語を愛する国家、リリオール聖典教国をはじめとして、彼らも活発的であった。
『メテオォオオオオオオオッッ!!』
「なんなん……」
……活発的であった。
一応、魔王軍とは他国であるため、当然のようにメテオが降ってくる。
魔王軍の立地は魔王軍らしく、過酷であった。
◇◆◇
「なーん」
当たり前のようにメテオに吹きとばされたねこは、魔王軍の属国で目を覚ます。
「おかえり」
「なーん」 てしてし
「危ないから僕であそばないでねー」
「なぁーん」
最近、魔王軍にも『幽玄ノ天蓋墓地』という属国が誕生した。水が流れ、滴り落ち、綺麗な彼岸花は咲きこぼれ、洞窟のように薄暗い空間だ。
バンシーが新たに創設し、魔王軍の非常食担当から、墓地で浮いている担当になった住民が暮らしている。
まだまだ人は少ないが、静かで心地よい場所である。
ちなみに散歩して吹き飛ばされた魔王軍は大抵ここに戻ってきている。
近くには感電して震えている掃除当番の姿もあった。
ねこは属国に移った非常食と距離が遠くなったのが少し寂しかったが、属国が静かすぎるのも寂しい。それに、魔王軍にケチャップ担当がやってきた。料理担当もいるし、そんなもんだろうと納得していた。なにより、グループチャットでの繋がりはある。
ねこは練習もかねて、空に小さなメテオを降らせつつ、魔王軍へと帰っていく。
これがねこの一日だった。
平和そうに見えるが、「あるけみすと」は戦争が出来る世界だ。今後戦乱へと、繋がっていくかもしれない……
「なーん、なん!」
――え? 戦争しやすいシステム考えろ? ……そうだなぁ、今領民から徴収システムがあるよね? その徴収金額が多いエリアを用意して奪い合い! みたいな?
魔王軍は産まれたばっかりの勢力だし、戦力には乏しすぎる。このシステムを用意しても強い人たちだけが得をする形式になりそうだから何とも言えないけど、全体的にメリットがある奴が良いのかなぁ。
「なーん」
――うん、滅ぼされたくはないけど、バハムート以外に陣取り合戦要素を強化したいってのは分かる気がするね。何やっても勝てる気がしないのが問題だけど……
「なーん」
ねこは ごろりと まるくなった!
『メテオォオオオオオオオッッ!!』
『今日も一日アクアレイド! 今日も一日アクアレイド!』
『メテオですわーっ!!』
『アクアレイドをよろしく! アクアレイドに清き一票を!!』
『でかいいぬ、でかいぬ』
『ルビーの指輪コワレチャッタ……』
あるけみすとは今日も騒がしい。
「聖ミーティア学院が消滅することを選択しました。」