ねこ「なーん」 作:ねこのともだち
「なーぁん」
意味:感情があらぶった際に多岐に使われる。自分の意思を主張する際や、気まずい事があった際に誤魔化すように使われている。
例①:「なーん! なーぁん!」
話を聞いてほしい時に使う。何処に行ってたの! という時に使われる場合も。
例②:「な、なーぁん……」
ちょっと気まずい時に使われる。え、えーっと……といった意味合い。
魔王城下街にある公園にて、普通であれば邂逅することがない二匹の生物が向かい合っていた。
「なーん」
「ギーチ」
「なぁーん」
「ギチギチ」
ねこと虹色に輝くクワガタである。一体彼らが何を話しているのかは誰にも分からない上に、恐らく彼らも理解できてないだろう。そんな彼らを遠巻きにして、二人のあるけみすとの住人が話していた。
「相変わらず、魔王軍ってよく分からない所だよな。魔王城自体はホテルみたいに綺麗だし、ベッドもふかふか。人工温泉だってある」
「その点、国民は特徴が濃い奴が多いんだよな。俺、猫とニジイロクワガタが会話してる光景なんて初めて見たよ」
彼らは魔王軍印の魔んじゅうを食べながら、ねこ達の様子を見守っていた。
「近くには触手ランドもあるだろ? ランドで遊んだ帰りに魔王城の温泉に浸かる。ほんと良い立地だよなこの辺り」
「キャストさんも優しい人多いよなぁ。こないだ大きなくまさんに風船貰ったわ。迫力凄すぎて戦う気にもなれなかったけど」
「ああ、わかる。凄みを感じるよな、なんかこう楽しそうなんだけど、恐れ多いというか」
「そうそう」
触手ランドとは、魔王軍の北東に位置するテーマパークである。付近には触手の森・触手の川と呼ばれる自然公園が存在している。
北に位置しているが、触手は乾燥した空気が苦手なため、湿度がある程度あり暖かいのが特徴だ。
「なぁーん」
「ギチ……?」
「……それにしても、何話してるんだかわかんないなあいつら」
「そもそも猫と虫が会話できてるのか?」
「わからん。人間の言葉が理解できるかどうかも分からんし……」
「よし、じゃあ試してみようぜ」
「あ、おい!」
一人の住民が、魔んじゅうを食べ終えた後に立ち上がり、ねことニジイロクワガタに話しかけた。
「おーい! お前ら! ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「なーん?」
「ギチギチ」
「好きな鶏料理は?」
『油淋鶏』
「なーん」
「「…………」」
『……ギッ! ブーン!!』
──ニジイロクワガタは飛び立って行った。
「なんなーん」
「……おい。あのクワガタ喋ったよな?」
「油淋鶏食べるの? クワガタが? 昆虫ゼリーじゃないの?」
ねこはクワガタが飛び立って行った方角を見つめ、ふすんと鼻息を出す。
それに気づいた二人は、慌ててフォローに入った。
「あ、ねこちゃんごめんな? 折角クワガタと話してた時に」
「だな、変にちょっかいかけて申し訳ない」
ねこは二人に向かって顔を向け、一言鳴いた。
「なんなん?」
「「…………」」
そのままゆっくりと去っていったねこを眺めながら、彼らはゆっくりと口を開いた。
「俺、やっぱ魔王軍のことよくわかんねぇや」
「俺も……」
今日も魔王軍は平和である。
◇◆◇
『おっ、ぬこだぁ。チュール食べる?』
『ねこちゃんだ! エステレラ産のマグロとか食べるのかな?』
『ほら。今日のカレーだぞ』
「なーん! はぐはぐ……」
あるけみすとの住民であるねこは、皆から挨拶と一緒によく食べ物を貰っていた。
大半がチュールであったが、中にはハンバーグやお刺身といった豪華なものも貰っている贅沢なねこだった。
だからこそ、この問題が常に浮上するのであった。
「ネコチャン。太ってないデス?」
「なーん!?」
「やっぱりそうですかねー? でも、私的にはぷにぷにのねこちゃんもプリチー♪ だと思いますよ!」
「なーん! なーぁん!」
そう、明らかにねこは太っていたのだ。割と深刻なレベルで太っていた。
六層のボス、通称シル吸いよりも早く行動をするという目標を立てて活動しているときまでは良かった。
しかし、六層を突破して落ち着き、だらだらすることが増え、体重がどんどんと増えるようになったのだ。
「まずは食生活の改善ですわね! ここはチュールではなく、私が掃除のついでに狩猟したジビエを提供するときですわね!」
「運動も大事ですよー! 私と一緒にマラソンデス!」ゴロゴロ
「なーん!!」
「風呂当番さんのはお風呂に付いた車輪が動いてるだけで、走ってるようにはあまり見えないですねー♪」
ねことしても、大好きな奇襲攻撃の練度が下がっても困るし、太るのは嫌だ。
しゅっとした速度で動きまわるのがねこの理想であったため、ダイエットに専念することにした。
しかし、食いしん坊である自分の性を変えることは出来なかった。貰うものは全部食べていたし、別の所でも魔の手が襲いかかることもある。
『錬金術の研究によって身につけた! 硬くて強いチュールの攻撃! ブレードジャグリング! ……あっ、そこ食べない!!』
『はむはむ』
『食べちゃだめだって!』
そう、闘技場でたまに当たる、チュールを創造することが出来る術師との出会いだ。
勝てばチュールが貰えるし、負けてもチュールが手に入る。ねこにとってはまさに宝のような出会いであった。
色々な意味で美味しかった。周りからしたら、闘技場で運動していると思われるし、ねこにとっては美味しいものが食べられる。減量が進まないことを除けば、ねこが完全に得をする関係だったのだ。
「なぁーん!」
そんな中でも、減量を目的とした物々交換のイベントも始め、徐々に体重自体は減っているようだった。
ねこはサボりながらも自分のペースで頑張って減量を続けていたのだ。
「……おや、なーん様。大分痩せてきたのではないですか? ナンダモンのジャーキーなどいかがでしょう」
「なーん!?」
「昨日のシチューの余りで作ったものですが、臭み取りも念入りに行いましたし、味付けも薄めで美味しく仕上がったと思いますよ?」
勿論、ねこのダイエットを気遣い、食材の提供をしてくれる魔王軍の住人も居た。
今ねこに話しかけている美食家は新しく魔王軍に加入した人物であり、生食を好み、夜になれば身寄りのない浮浪者や女子供などを瀕死にして生きたまま食べ、ダンジョンに入っている時はモンスターも生きたまま食べる。そんな人物であったため、彼が提供する食べても大丈夫か不安に感じてしまうことはあった。
警戒していたねこに対して、近くにいた掃除当番がフォローを入れる。
「私も昨日いただきましたけれど……少なくとも食べられないお肉では無いですわよ。ナンダモン肉」
「ええ、少なくとも塩分の取りすぎでどうこうなることはないかと」
「はぐ……はぐ? はぐはぐ」
本当に大丈夫か不安だったが、とりあえずねこは食べることにした。食い意地だけはねこ一倍だった。
このように、ねこが減量をしている最中でも、魔王軍に来訪する人達はどんどんと増えていった。勿論別れもある。あるけみすとの住人は唐突に姿を消したり、新たな目的のために出立することもあるのだから。元々旅人として有名だった人物が魔王軍入りするなんて一大イベントもあったが、今では当たり前のように魔王軍の一員として生活している。
これがあるけみすとの日常であった。
「あ、ネコチャン体重を調べるデスよ~! 別のところで食べてないかチェックデス!」
「な、なーぁん……!」
「なんちゃんーーー!! ファイト!!!!!!」
ねこは、あるけみすとの世界に適応していったのである。
◇◆◇
──よし、こんなもので大丈夫? ねこ
「なぁーん」
了解、いきなり作曲の手伝いしろなんて言われた時は焦ったけど……なんとかなってよかったなぁほんと。
「なーん? なぁーん」
ああ、そういえば次はどうするかもう決まってるんだっけ。延期にはなっちゃったけど、うまく行くといいね。
「なーん!」
ねこは、気ままな生物だ。だからこそ、魔王軍と戦う選択肢を選ぶこともある。
──ねこはとある大きなイベントにて、仲間である魔王軍と戦う覚悟を決めていたのであった。