凸凹に挟まれないように足掻く弟   作:アユムーン

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母さんの知り合いに普通の人はいない

ステルクside

 

「…ってのが、ステルクの…その本当の親らしいです」

 

静かな室内、ここは幼少の頃からお世話になっている道具屋の空きスペースで母さんが女将さんに頼んで借りてくれた、その女将さんも気を遣って少しの間店を閉めてくれて店内に僕と母さんとフェンネル兄さんの三人にしてくれた

 

そしてつい先程エルフのフェンネル兄さんの話が終わった

 

話の内容は僕の両親の話

 

拾われ子の姉さんと僕の身辺調査のために赤ちゃんのころから色々してくれていた母さん、ダメもとでフェンネル兄さんにも頼んでいたらしい…そしてそれが遂に実を結び僕の素性が分かり、教えてもらった日

 

そうして気づく、これは夢だ

僕の中でなにかが壊れた日の夢だ

 

「なに、それ…そんなの!」

 

僕の隣で珍しく母さんが声を荒げていた

 

所謂お尋ね者というやつで人を殺したこともある父親と誰彼構わず身体を売っていた母親とその間に生まれた僕…それ以上思い出したくない

 

思い出そうとすると『今の』自分の身体が酷く穢れていると実感してしまう

 

自分の両親が見つかるきっかけになった髪や瞳を今すぐに引きちぎって抉り取りたくなるくらいに…自分の血が気持ち悪く感じる

 

「俺もステルクのことはガキの頃から知ってます。だからソイツがそんなやつから生まれたなんて信じられなかったです」

 

両親のことを教えてくれたのは母さんの友人のフェンネル兄さん

 

僕も昔から世話になっていて、兄さんは母さんの薬やハーブを買い付けに来るついでに病に伏せがちだった僕に色んな地方の面白いものを持ってきてくれた人

 

もしかしたらそこには母さんへのちょっとした打算と下心はあったのかもしれないけど…それでも兄さんは僕の数少ない大好きな人

 

「だからその…変なこと考えるなよ?お前にはアリッサさんとそれから…まぁビオラがいる。ここの女将さんもそうだし、俺も…どんなお前だって受け入れてくれる人がいるからな」

 

そんな大好きな人の言葉も届かないくらいに僕は呆然としていた

 

ただ…ギュッと強く母さんが僕の手を握ってくれていたことだけはハッキリと覚えている

 

…パチ

 

「…あれ?」

 

夢から覚めたと思ったけど、まだ夢の中らしい…それがハッキリと分かるからこれは明晰夢というやつだろうか

 

ここは一年前の自室、色々と捨ててしまった今よりも物が多い

 

えーっと…そうだ、フェンネル兄さんの話を聞いて気絶したんだ、お医者さん曰くストレスに精神が耐えきれなくて気を失ったって、それから何日間か眠り続けてたらしい

 

それから目覚めてすぐに…ガチャ

 

「ステルクー、お湯持ってきたから身体拭こうね…!」

 

ガシャン!バシャッ!!

 

お湯を張った桶を持ってきてくれた母さんが部屋に来てくれて、目を覚ました僕を見てそれを投げ捨てて僕を抱き締めてくれた

 

「よかった、よかったステルク…」

 

目下に見える母さんの肩が震えている

 

長く床に伏せることはあっても目覚めないことはなかったからだろうか?とにかく心配させてしまって申し訳ない

 

謝らないと

 

「ごめんなさい、アリッサさん」

 

「…えっ?」

 

「?…あれ?」

 

なんでだろう…今ちゃんと母さんって呼んだはずなのに

 

「違う、違う…僕はちゃんと」

 

「!、ステルク!大丈夫だから落ち着いて!」

 

アリッサさんのことを母さんだと思ってる、思ってるのに

 

「?、ママどうしたの…ってステルク!!」

 

開いたままのドアから姉さんが顔を出して、母さんと同じように僕に駆け寄ってきてくれた

 

呼ばなきゃ、ちゃんと呼ばないと

 

「ビオラさん」

 

「!?、ステルク?なにそれ、冗談でしょ?」

 

「!!?」

 

違う、そうじゃない、僕はちゃんと二人のことを家族だって思ってる、もう漫画のキャラクターだから好きなんじゃない、自分がこの挟まれるのは許せないけどそれでも僕は二人のことが家族として大好きなんだ

 

今までちゃんと呼べてたし、コントロールできたんだ、だから呼べるはずなんだ

 

母さん、姉さんって

 

ほら心の中ではちゃんと呼べてるじゃないか

 

だから今度は口で

 

「~!…~!!!」

 

頑張って言おうとしても声が詰まる

 

「あっ、あっ、あぁっ…」

 

ポロポロ涙が溢れているけどそんなのどうでもいい、必死に声を上げようとするほど声が詰まる、喉が詰まる、息が詰まる

 

それでも無理してでも言わなきゃ

 

「ハァッハァッ…~!!!…な、んでぇ!?」

 

母さんと姉さんがなにか言っているけど聞こえなくて、意識が暗転してどんどん落ちていき…そして

 

…パチ

 

「!!?ゲホッゲホッゴホッ…オ゛エッ…ヒュー…ヒュー…」

 

目が覚める、さっきの夢の続きとばかりに呼吸が辛く咳が出て、咳き込みすぎてえずいて、喘息の音が胸から鳴る

 

時間はまだ早朝、二人も寝ているだろうから慌てて呼吸を整える

 

さっきの夢、あの後また気を失った

 

次に目が覚めたら母さんも姉さんもいつも通りに振る舞ってくれて、呼び方については姉さんは時々目くじら立てるけどそれを優しく母さんがなだめてくれて、なにも言わずにいてくれた

 

あの日を境に僕は二人がいない時や心の中ではいくらでも呼べる二人を母と姉と呼べなくなってしまった

 

だけど…

 

「なんで昨日は呼べたんだ?」

 

昨日、思わず居眠りしてしまった時に母さんに起こされる微睡みの中で溢れた言葉

 

あの日言えなくて今も言えない言葉が出た

 

「…」

 

自分でももう言えないと思っていた言葉が出た

 

そして母さんはそんな俺をただ受け入れてくれた…それがすごく嬉しかった

 

だけどこの喜びはどっちのものなんだろう

 

好きなキャラクターと話せたっていう前世の喜び?

 

それとも家族に受け入れてもらえた今世の喜び?

 

一体どっちなんだろう?

 

そしてどっちなら僕は本当に嬉しいんだろう 

 

まだ寝れる時間は残ってる、頭に詰まったゴチャゴチャを払い除けるように再びベットに横になり、もう一度眠りに入ろうとした時にふと頭によぎった

 

あ、今日あの二人が来る日じゃん、と

 

…翌朝

 

アリッサside

 

私には二人の子どもがいます

 

まずは長女から今外で先日道具屋さんで購入した鉱石を使って召喚魔法をしているビオラ

 

昔はとにかく元気いっぱい過ぎるお転婆娘で、今も変わらず魔法や私に関することではすぐに狂喜乱舞するのは玉に傷だけど…私を慕ってくれる優しい自慢の娘です

 

そして…

 

「どうぞ、ギリコさん、ルーナさん、アリッサさん」

 

私と親友のギリコ、ルーナに自分で淹れたお茶を振る舞っているのが長男ステルク

 

「ありがとうステルク」

「おう、ありがと」

「あら~いい香り、ハーブかしら?」

 

「はい、先日アリッサさんと取りに行ったものです」

 

「身体の調子良かった日に行ったんだよね」

 

「…ふーん」

 

あぁギリコがステルクを睨んでる…やっぱり納得してないのかな

 

「とってもおいしいわ、ありがとうね」

 

「よかったです。では」

 

ルーナの感想に答えてからステルクは玄関に向かう、その背中に声をかけた

 

「ステルク?どこいくの?」

 

「…ビオラさんに呼び出されるから行ってくる」

 

「分かった、あまり遅くならないようにね」 

 

「はい」

 

「それから体調が悪くなったらすぐに帰ってくること!」

 

「はい」

 

「変な人にはついていかない!ビオラがなにかしでかしそうならすぐに逃げる!それから野良のモンスターに遭遇したら「いや過保護か」え?普通じゃないかな?」

 

だって私やビオラはともかくステルクは普通の人間で身体だって弱いから、いつもこうしているんだけど…

 

「んー…15歳の息子に対しては過保護かしら?」

 

「そ、そうなの?」

 

た、確かに、母親の細かな指図が嫌になる反抗期、ステルクも年齢的にはもうそこにいる

 

ただでさえ最近会話が減りつつあるのにそんなことになったら…!!

 

「ス、ステルクごめ「ほらいいから行ってきな、ガキンチョ」あっ」

 

「ムッ…行ってきます」

 

私の言葉を遮ったギリコからのガキンチョ呼ばわりにステルクも目くじらを立てたけど…相手は自分を赤ん坊の頃から知っている存在、素直に引き下がって外へと向かった

 

「ビオラもだけどアイツも大きくなったな、でも相変わらずのもやしっぷりか?」

 

「もやしって…けど昔に比べたら熱出したり病気になったりすることはだいぶ減って、薬師とか畑の仕事も手伝ってくれるようになったんだ」

 

ステルクの育児はビオラとは別ベクトルで大変だった

 

赤ちゃんの頃はすぐに熱を出したり、ミルクを飲んでくれなかったりと、本当に困った

 

少し育ってもそれは変わらず、流行り病には必ずかかり、少し転んだだけで大ケガしたりと…病の方は私も薬師としてすぐに薬を調合できたけど、ケガに対してはすぐに手当てができるように病院に習いに行った

 

それでも駄目な時はここにいるギリコとルーナにビオラを見てもらう間にステルクを病院に連れていって…と色々と大変だったけど、こうして十五歳までなんとか生きてくれた

 

ビオラも最初は本に書いてあった下の子への嫉妬からの赤ちゃんがえりなど心配していたけど、自分より小さく弱い存在を守らねばならないと思ったのかお姉ちゃんを頑張ってくれた

 

そうしてステルクは私の身長を抜いて少しだけ強くなった頃に私の薬師の仕事や畑仕事の手伝いをしたいと言い出した

 

ビオラとは対照的にコツコツする作業が得意なステルクには向いていたらしく、少し教えるとすぐにドンドン上手くなっていった

 

特に畑仕事は育っていく過程を見るのが楽しいのか色々と独学で手を出している

 

「それは偉いわね~」

 

「でしょ!」

 

そう、ステルクは偉いし、とても優しい

 

ステルクが私たちを家族の名で呼べなくなった日より以前、あの子は私とビオラを一歩引いたところでよく見ていた

 

その瞳は眩いものを見ているかのような感じだったけど…とても優しいものだった

 

そしてそれに気づいたビオラがステルクの手を引いて私と手を繋がせて並んで歩くのがいつもの流れだったけど…それもあの日から無くなった

 

「線は細いけど顔もよし…後何年かしたら…フフッ」

 

思わずうつ向いてしまった私を他所に不敵に笑み舌舐めずりするルーナ…ってちょっと!!?

 

「ルーナ!?」

 

「冗談よ。それにしても相変わらずまだ踏ん切りついてない感じなのね?」

 

うっ…やっぱりルーナも気になってるよね

 

「あの件も含めても反抗期ってわけではなさそうだけどまだ膠着してる感じ?」

 

「あ、あはは…」 

 

「「はぁ…」」

 

ギリコとルーナもステルクの出生やそれに伴ってステルクの態度が変わってしまったことを知っている

 

だがあれからもう一年経つというのに解決どころかのにも進展していないことにため息もつきたくなるのだろう

 

ギリコもルーナもビオラとステルクのことを小さい頃から可愛がってくれていた

 

だからアリッサからステルクの出生を大まかに聞いたときから関係修繕のためになにかしようかと提案してくれていたけど…

 

「いい加減私らにも一枚噛ませなよ、手段は選ばないけど」ジャギッ

 

「ふふっ教育のしがいがありそう…フフッ」

 

「それだから任せられないんだよ!!」

 

なにやら道具を構えるギリコに先ほど以上に怪しく微笑むルーナ…やっぱりこの二人には頼れないと思う、それに

 

「それにこれは私たちにはどうにもできないと思うんだ」

 

「?珍しいな、過保護のおかんのくせに」

 

「それはもう見て見ぬふりってこと?」

 

「違うよ、『今は』なにもできないってこと」

 

私とビオラもステルクに他人のように呼ばれるのはすごく辛いけど…それよりも

 

自分の出生を知って、気を失うほどのショックを受けて、目覚めたら大好きな家族を家族と呼べなくなってしまっていて、泣いてまた気を失うほど傷ついた

 

優しいステルクが一番辛いに決まってる

 

今はまだまだ未熟な心にできた大きな傷を今必死に抱えている、だとしたらできることはなにもないんじゃないかな

 

私たちにはステルクが頼ってくれるのを待つしかないのだと思う

 

ステルクが全部乗り越えることができるその日か、耐えきれなくて助けてと言ってくれるその日を、待つしかない

 

だけどただ待つだけは私にはできない

 

どちらかの日が早く来るように、早くステルクのことを思い切り抱き締められるようにいつでも受け止めると昨日伝えた

 

だってなにがあっても私はステルクのお母さんだから、ステルクがそうじゃないって言ったって、拒絶したって、それだけは譲らない

 

フェンネル君から聞いただけでなにかの事情があったのかも分からないけど、少なくとも生みの親よりも愛を注いできたと自信をもって言える

 

リラさんじゃないけどもしステルクの両親がここにいたとしたら私はなにをするか分からないくらいにはステルクを愛してるから

 

「そういうもんかね?」

 

「うん、これは本で読んだからとかじゃなくて、そうしたほうがいいって思うんだ」

 

思えばあの子は昔から変なところで遠慮したり、一歩引いたり、自分の気持ちをちゃんと打ち明けなかったりする子だった

 

今は特にそれが顕著になっている

 

だから自分の気持ちを誰かに打ち明けられないんじゃないかな

 

それを昔は照れ屋だからなのかなと思っていたけど…よくよく思うと

 

「母親だけじゃ駄目なのかな」

 

「は?」

 

「やっぱり男の人じゃないと駄目なのかなぁ…」

 

ステルクの交遊関係は狭いから、頼りになる男性はいない

 

リラさん…は別枠としてルー君やフェンネル君はどちらかというとお兄ちゃんで、ポンドさんは…うん、違う

 

「確かに同性じゃないと話しにくいことってきっとあるわよね」

 

「うん…かといって作るってわけにはいかないから「いるじゃん」え?誰?」

 

ギリコがビッと私に指を指して言う

 

「アリッサの親父「この話しはやめよう」あ、はい」

 

それは論外だ

 

「とにかく!今はステルクがどうしたいかにかかってるから優しく見守ってて!」

 

「「はぁーい」」

 

そんな気の抜けた返事をする二人をあきれた目で見ていたら…バンッ!!

 

ドアが大きな音を立てて開かれた

 

「!?…びっくりした、おかえりステルク」

 

ドアに立っていたのは先ほど出ていったステルク

 

「ビオラいないみたいだけどビオラの用事は終わったの?」

 

「…」スタスタスタ

 

「ステルク?」

 

なにも言わず私の前にやってきたステルク

 

これはおかしいと昔からの母親の勘が訴える

 

「もしかしてまたビオラになにかされた?」

 

昔からステルクを強くする!と言って外へ連れ出したり、魔法や魔法薬の研究の実験台にしていたりしたビオラ

 

具体的に言えば体質故にあまり身体の大きくないステルクを文字通り山のように大きくしたり、

 

交遊関係を広めると言って様々な召喚魔法で召喚したモンスター、そのへんにいた妖精などと対話させたりなど色々と無茶はしていた

 

ビオラに悪気がないことやステルクも否定しないことからそこまで強く言わなかったけど、きっと今回もそうなんだろう

 

「お?どうした?魔力身に纏ってんじゃん」

 

「ビオラちゃん…じゃないわね?」

 

二人の言う通り気づいた理由にもう一つ、今のステルクには魔力が引っ付いている

 

「多分これはビオラが召喚したフェニックスだと思っ」

 

ギュッ!!!

 

「え?」

 

最後まで言いきる前に言葉が遮られた

 

顔に感じるのは布と細く薄い皮と肉の感触

 

「あら」

「まぁ」

 

ギリコとルーナの驚いた声が聞こえたけどまだ現実が飲み込めないままに背中にグッと力を込められた

 

「えっ?」

 

もはやなされるがままの私の耳に…昨日と同じあの言葉が響く

 

「…母さん」

 

「!!?ステルク!!?」

 

聞き間違いない我が子の声、間違いなく今そう言った

 

早く来てほしいとは言ったけどこんなに早く来るとは!?

 

「これはお邪魔しちゃ悪いわね」

「帰るか」

 

「ちょっと二人とも!!?」

 

珍しく空気を呼んだ二人が家を出ていく残されたのは私とステルク…ギュウウゥ!と更に強く抱き締めてくる、一体この細い腕にこんな力が…ってその前に!

 

「ちょっとステルク痛いっ「母さん、ごめん」!?」

 

バッと私の肩に手を添えたまま離れたステルク

 

左右違いの綺麗な瞳が真っ直ぐに私を見つめる

 

「僕、本当は…」

 

そうして言葉を続ける…一体どうしちゃったのステルク~!!?




「す、ステルクです…」「ビオラでーす!」

次回!

「ご飯が終わるまでバイブレーションでした」

「いやー今までも色々やってきたけど今回は大成功の予感!「そうか?」ん?」

「そうかな?そうかもなぁ!!!」

「は、ハイになってる!?「うりぃぃぃ!!!」わわわっ!また次回!」
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