元・管理局員の転生記 作:落日
エイヴァ・F・アーレス。
両親は高魔力の持ち主であり、同時にその扱いも高度で、管理局内でも高い地位にいた。
それゆえ、周囲がエイヴァに期待するのも自然な事であった。
しかし、彼女は受け継ぐことが出来なかった。
受け継いだはずのソレは、あまりにも弱かった。
周囲の期待感は、振り子のように失望へと変わり、
少女の憧れは苦痛へと変わる。
周囲の羨望は、そのまま悪意へと変わり、
少女の心は鋭く尖っていった。
――エイヴァは良いよね――
――親が偉い人だから、出世コースまっしぐらじゃん――
何気ない言葉だった。
気心の知れている相手という事もあり、普通なら聞き流せる戯言。
だが。
散々、親と比較され続けてきた少女には……
――……貴女が望む道なら、私達に止める権利は無いわ。でも……――
――エイヴァ。それは本当に自分で決めた道なのか?――
少女は憧れを捨てた。
少女は自分を捨てた。
彼女は……
――私の命ぐらい……喜んで渡すよ……――
未来を譲った……
「……はぁ」
……はずだったのに。
これは一体どうした事なのだろうか、という疑問が脳を駆け巡る。
溜息をついた少女は……エイヴァ・F・アーレスは、雛鶴 二葉として第二の生を送っていた。
それは、いい。
「なぜまた生を受けたのか」や「なぜ前世の記憶を持っているのか」などの疑問は当然あったが、いま直面している問題はそういうモノでは無い。
「? お姉ちゃん、どうしたの?」
隣にいた双子の姉妹、一葉がため息に反応して振り向く。
その身体の動きに合わせ、ゆらりと揺れる白い布。
件の溜息の原因であり、それは視界の中心でも存在を主張していた。
「うーん……ちょっと、この制服は……」
「えー!? 可愛いのにー!?」
だからだよ、と心の中で溜息をつく二葉。
目の前に掛けられている、一葉が身に着けているものと同じ制服。
それは、いかにも「女の子」という代物。
前世では、可愛い系の服など自ら敬遠していたため、いざ着るとなると激しい抵抗がある。
着ない、という選択が出来れば二葉にとって大変良かったのだが、それは絶対に許されない。
なぜならコレは、最近入学した「私立聖祥大学付属小学校」の制服だからだ。
溜息をもう一度つくと、渋々といった様子で着替える。
「すごく似合ってるよ、お姉ちゃん!!」
一葉の表情はとてもキラキラしていて、放たれた感想は嘘偽りのないモノだと、彼女を知らない人間でも理解するだろう。
だからこそ憎めないし、返答にも困るのだが。
「ハ、ハハ……そう、かな……?」
一葉が見せてくる手鏡に映る、自身のシルエットに二葉の顔が引きつる。
(絶望的に似合わね~……)
鏡を置き、その空いた手で二葉の手を握りながら、急かすように軽く引っ張る一葉。
「早く行こ、お姉ちゃん!! 遅刻しちゃうよ!!」
「いや、むしろ早すぎるくらいだよ……」
軽く文句を言いつつも素直に引っ張られる。
前世では居なかった兄弟姉妹という存在に、つい甘くなっているのだろうか。
それとも一葉自身の魅力のためか。
どちらにせよ、二葉は「これでいいか」と、ほのかな幸せを噛みしめていた。
魔法のない今世では、幸せに生きるのだと決めたのだから。