相澤先生に呼ばれたアウルム・ミダスティアは何となくだがその理由を察していた。
あの『魔獣の森』での土魔獣達を撃破しつつ移動する事で合理的な訓練を行っていく筈であったのだと。
確かにクラスメイト達はその通りになっていた、個性を酷使して疲労困憊でこの施設に辿り着いた。
……だが私は違う……単に手で触れて黄金化していただけだ……。
恐らくは一切訓練になっていない。
ただモノに触れるだけで訓練というなら話しは別だがそんな訳がない。
相澤先生に呼ばれたのも恐らくはそんな理由だろう。
と……そう言えば。
「マンダレイさん、そう言えばあの男の子はどちらのお子さんで?」
ずっとこちらを敵意丸出しでジッと見てくる男の子を不思議に思いマンダレイに確認するアウルム・ミダスティア。
それを聞いたマンダレイは挨拶をさせる為に呼びかける。
「あぁ違う、この子は私の従甥だよ、出水洸太っていうの、洸太、ほら挨拶しな……1週間一緒に過ごすんだから」
無言で無愛想にペコリと会釈だけする洸太君と呼ばれた男の子にアウルムが近づいてしゃがんで同じ目線になって柔和な笑みを浮かべながら挨拶をする。
「私はアウルム・ミダスティア、よろしくね洸太くん」
アウルムはグローブを嵌めたその手を差し出して握手をしようとしたが洸太君は差し出されたその手を思い切り殴って弾く。
そのまま無言で何処かに歩いて行く洸太君を横目で見ながらアウルムは頬を掻いて残念そうな声音と表情で呟く。
「あら……嫌われたかな」
弾かれた手を見ながら部屋に荷物を置くと相澤先生の下へと移動する。
「……すいません、遅くなりました……やる事は分かっています……『魔獣の森』を個性を使って抜けるのに訓練になってないから私だけ別途訓練ですよね、察しています」
相澤先生はそこまで分かってるなら話しは早い、そう前置きしてプッシーキャッツの4人と合流する。
アウルム・ミダスティアは頬を掻きながら呟く。
「想像を超えていました……まさか5人との組み手とは……」
そう呟くと森の奥地へと移動しプッシーキャッツの4人と相澤先生が襲いかかってきた。
アウルム・ミダスティアはプッシーキャッツの中で1番近接戦闘に秀でている虎の殴打をスレスレで回避すると殴打を繰り出してきた虎のその手を己の個性を以て黄金へと変換しようとしたが何故か変わらない……そのまま背後へと回り込まれ虎の個性である『軟体』を駆使した近接格闘戦で遅れを取り、その遅れが致命の隙になり思い切り蹴り飛ばされて樹木に叩きつけられる。
身体を突き抜けた衝撃を何とか黙らせて立ち上がるが一瞬無防備を晒したと察したアウルム・ミダスティアは眼前に接近してきた虎の蹴りを跳躍して回避し着地すると足元の地面がぐらついて体勢が不安定になり土魔獣の一体に殴り飛ばされそのまま殴られた勢いのままに大樹に身体を叩きつけられて地面にうつ伏せになる。
倒れ伏した直後、容赦なく頭を踏みつけようとした虎の脚を回避し揺れる視界でふらふらと立ち上がったアウルム・ミダスティアの顎に虎のアッパーが放たれるが虎のその手を掴んでカウンター気味に背負い投げて一旦距離を空けるとアウルム・ミダスティアは考える、今の状況を再確認する。
少し離れた木の上、常にこちらを上から視認できる場所に居る相澤先生は自身の『抹消』で私の個性である『黄金』を常に抹消し、マンダレイは『テレパス』で私の思考を先手先手で読み取り、ピクシーボブが『土流』で私の回避直後を狩りとったり、生み出した等身大の土魔獣達で戦闘補助、そして虎は『軟体』と鍛え込まれた肉体、そして我流格闘術であるキャットコンバットと、極限まで鍛え込まれた事による身体能力を駆使してどれだけ距離を取ろうとも即座に接近して否応無しの近接格闘に持ち込んでくる、一旦引いて樹木を盾に姿を隠そうにもラグドールの『サーチ』で相手は全員常に私の位置を把握……キャットコンバットに関してはワイプシが全員収めている。
中々に激烈な訓練……それを再確認したアウルム・ミダスティアは自然と口角が吊り上がり笑みが溢れ呟く。
「あぁ……良いな……良いよ、これだよ……」
ラビットヒーローミルコの下で学んだ事を活かせる。
すなわち……1人VS統率の取れた多人数。
アウルムの脳裏にミルコから教えられた事が思い起こされる。
職場体験の折に言われた言葉。
『そういやぁ……黄金郷のアウルム……君にクイズだ、逃げる事が絶対に出来ない状態でアウルムVS統率の取れた多人数、最低でも相手の内1人はサポート、1人はフォローができるという事だけがこちらが得ている情報の全てだ、さて……この場合の局面で、地の利も多人数有利の戦闘に持ち込まれた際の行動について……どうやって勝ち筋を伸ばして負け筋を無くす?』
そう問われた事が思い起こされる。
アウルムは顎に手を当ててしばし考え込んで……自身の思う答えをミルコへと紡ぐ。
『1番強い相手を最速で戦闘不能に追い込んで残った相手を順に相手取って戦闘不能にします』
そう告げるとミルコはうんうんと頷いてアウルムの頭を優しく撫でながら告げる。
『悪くない答えだが……55点、この場合で1番強い奴から仕留めるって事は相手からすれば安心して万全の態勢でフォローやサポートに徹する事が出来る……自分の方には相手が近づいて来ようとしても1番強い奴が足止めしてくれるから攻撃される可能性が低いし仮に1番強い相手を倒した所でそれまでに攻撃を喰らったりした消耗や疲労は蓄積する、そうなれば圧倒的不利なのは変わらずだ、そのまま死ぬ事すら免れ得ない、相手から見れば1番強い奴が倒されたとしても残った仲間達で一緒にタコ殴りしちまえば良い……だから……この前提条件の場合は可能な限りサポートやフォローをしてこちらの足を止めてくる奴から仕留めるのが1番楽なのさ』
ミルコと交わした会話を思い返しながらアウルムは相澤先生の下へと走り接近する。
背後より追いかけて接近し蹴りを繰り出してきた虎の攻撃を前転して回避すると足元に落ちている小石を幾つか拾い投げナイフの要領で虎の顔面へと投擲してほんの数秒という僅かの間ではあるが視界を塞ぐ。
ピクシーボブの土流で造られた土魔獣達が襲いかかってきたが所詮は土の塊、アウルムは土魔獣達を無視して足場にして相澤先生の所へと跳躍する。
意図を察した相澤先生は操縛布を操りアウルムを捕縛しようとするが操縛布を樹木や土魔獣達を盾にしながら回避して相澤先生の背後に近づいたアウルムは膝裏まで伸ばしている自身の髪で相澤先生の首を絞めて意識を奪う。
ようやく個性が発動できる様になった。
次の一手は『サーチ』で常に位置を把握してくるラグドールを排除する為自身の個性である『黄金』を用いて黄金の盾を作りだして相手の土魔獣達のコントロールを奪いラグドールの位置を確認するとラグドールの位置まで木々を足場に跳躍して近づきラグドールの顎をアッパーで殴り気絶させる。
ようやく虎が再接近して1番最初に行った時の様に先手を取ってこちらの顎を殴り気絶させようとするが虎は忘れている。
最初にアウルム・ミダスティアに触れられて何も起きなかったのは相澤先生が個性で抹消してた為であったという事を。
アッパーを避けつつツゥッと撫でる様に虎の両腕へと触れたアウルム……刹那、虎の両腕は黄金へと変換される。
一瞬だけ動揺した虎の隙を見逃す事なく虎の両足首をも黄金に変換し実質的に虎を戦闘不能に追い込むと隠れ潜んでいたラグドールの背後へと接近して躊躇いなく肉体全てを黄金化して『サーチ』を潰す。
サーチを潰されてアウルムの位置を掴めなくなった一瞬の隙を見逃す事なくマンダレイとピクシーボブの2人に近づいて首筋に触れると気絶から覚醒した相澤先生よりストップと通達され1日目のアウルムの訓練はひとまずこの時点で終了となった。