アウルム、エンデヴァー、爆豪勝己、緑谷出久、轟焦凍は生死を彷徨う程の外傷を負った為に最先端医療を受けられる『セントラル病院』に搬送されて……4日後。
早朝に……アウルムはゆっくりと目を覚まして病衣をめくり自身の胸を見る。
そこには……痛々しい傷痕が残っていた。
その傷痕を見ながらアウルムはおよそ自分の事ではない様な声音で呟く。
「……この程度の傷痕で済んで良かったと笑うべきか……この程度の傷だったのに死柄木弔を仕留められなかった自身の弱さを叫ぶべきか……どちらなのかなぁ」
傷痕に関しては黄金化する事で完全に消す事が可能故に大した問題ではない……それよりも問題なのは死柄木弔の崩壊と自分の黄金が拮抗したという事実。
恐らくは……オール・フォー・ワンも死柄木弔も知り得なかった……崩壊を止める事が出来る唯一の方法であり唯一の個性。
スマホに着信が入り……外国に住む友人からアウルムの現在の状況を簡潔に告げられる。
それを聞いたアウルムは通話を終了させた後で、友人が掴んだ事実を反芻してため息を吐く様子も無く衝動のままに、苛立ちのままにスマホを床に投げつける。
そして……涙を流しながら呟く。
「……最悪ですね」
もはやオール・フォー・ワンにこの黄金の個性を奪われる訳にはいかなくなった……もし奪われれば『伝播する崩壊』に乗せて『黄金』を行う事でこちら側には勝ちの目が完全に潰える。
故に、この後の『駒の取り方』を間違える訳にはいかない……一手でもしくじればそれは取り返しの付かない一手となり今度こそ負ける。
そして友人が告げてきた自分の現状……。
それを呟く。
「私を生きたまま捕縛してオール・フォー・ワンの下へ連れて来たら何でもくれてやる……か」
日本中に居るであろうオール・フォー・ワンの信奉者は元より……世界各国の裏社会の者達から狙われるのが想像に難くない、その方法に至っても肉親が居ないならば恋人を狙うだろう事は想像に難くない。
しかもオール・フォー・ワンの信奉者経由で情報が流れているのかネットでもまことしやかに囁かれており……動画サイトではワン・フォー・オールとオール・フォー・ワンの事とアウルム・ミダスティアとオール・フォー・ワンの事が急上昇のワードとなっていた。
アウルムは頭を抱えて考える、もはやこの病院すらも安全圏とは呼べない。
病院スタッフの中にもオール・フォー・ワンの信奉者は居るかも知れないのだ。
必死に頭を抱えて何か他に取れる選択肢が無いかをただひたすらに考えて考えて考えて考えて……ひたすらに考え込んで凡ゆる想定をしても、どう思案しても……焦凍との別れを選択する以外に道がない……それに気づいて、死んでも別れたくない、この世で1番大好きな、この世の誰よりも愛している焦凍と別れるなんて選択肢なんて絶対に取りたくないと……心が叫ぶ。
30分間経ったろうか1時間経ったろうか……必死に考え込んで取れる選択肢が別れる以外に無い事を理解したアウルムは止まらない涙を流しながらずっと泣いていた。
そして、傍目でいいので彼氏の顔を見る為に……まだ薄暗い病室を抜け出す為に……ゆっくりとベッドから降りてイルリガードル台を杖代わりにしてゆっくりゆっくりと歩行すると……いまだ目覚めない彼氏の病室へと足を運ぶ。
そして……いまだ昏睡状態の彼氏の部屋へと入り込んで……その頬にキスをするとゆっくりと元いた病室へと戻っていった。
覚悟を決めた様な表情を浮かべて……。
そして朝になり……再度焦凍の部屋へと向かいドアをノックをすると入室の許可が中から告げられる。
ゆっくりとドアを開けて入室するとそこには夏雄さんに冬美さん……そして……母親である轟冷がいた。
アウルムは……ゆっくりと会釈をするといまだに昏睡状態から目覚めない彼氏の手を握って神に祈る……。
その眼に大粒の涙を流しながら。
3時間程して……ようやく昏睡状態から目覚めた焦凍。
椅子に座りながらずっと見守っていた彼女が泣き笑いの表情を浮かべて抱きしめてきた。
「焦凍……良かった、良かったよぉ……」
熱傷により喉が焼けており満足に声が出せずにいた焦凍だが大粒の涙を流しながら抱きついてきた彼女……。
少しして泣き止んだ彼女から事のあらましを聞いたと告げられる。
「荼毘の事はエンデヴァーの記者会見で大体聞き及んでいます……ですが焦凍……その思い詰めた表情……あの時の貴方の言葉を返します、潰れる前に頼って下さい……辛い時は頼って下さい、私は貴方の彼女……だったのですから」
そう告げると焦凍は喉が焼けている為に上手く声が出せないが……アウルムの胸に顔を埋めて大粒の涙を流しながら泣いていた。
焦凍の頭を優しく撫でながらアウルムは『この後』の事を思案する。
プロヒーローや塚内さんから聞いた話しではあるが死柄木弔の逃亡直後にタルタロスが陥落し他にも7つの刑務所が陥落、そして友人からの言葉、ここまで展開してしまうともう……そして恐らく自分はもう……雄英には……大好きな彼氏の隣にいる事は決して許されないだろう。
刑務所やタルタロスに収監されていた凶悪犯罪を行っていた
そんなのは序の口に過ぎないのが簡単に予測できる。
今回の被害を受けた民間人はヒーローに対して猜疑心やコップの中に溜め込んでいた水が、溜まり続けていたフラストレーションが決壊した……。
プロヒーロー達は時風の悪さを察知し続々と引退表明をしていた。
ヨロイムシャに端を発し……急激に。
そして……エンデヴァーの病室に焦凍、夏雄、冬美が……冷が現れて……家族について再度向き合うと、エンデヴァーにはその責務があると、轟家全員の責だと告げる。
……冷が告げる、焦凍が轟家のヒーローになったのだと、焦凍が手を差し伸べる、皆で燈矢兄を止めに行こうと、それを聞いてエンデヴァーは号泣して嗚咽混じりの叫びをあげていた。
そんな中……ドアがノックされる。
轟家皆が揃う中……アウルムがひょっこりとドアを開けて入ってきた。
「おっと……バッドタイミングでしたか……出直します」
そう告げるとアウルムは退室しようとしたがエンデヴァーより呼び止められる。
「どうした? アウルム……別に気にしなくていい……焦凍に用でもあるのだろう?」
そう告げたエンデヴァーに対し……アウルムは焦凍に告げる。
「お気遣いありがとうございます……では……焦凍、ちょっとこちらに……話しがあります……」
廊下にくる様に手招きして告げる。
覚悟を決めなければならない……アウルムは鈍る決意を黙らせて……焦凍へと手紙を渡す。
数分後……焦凍が戻って来た……が様子がおかしい。
「焦凍? どうしたの?」
そう冬美が問いかける……しかし焦凍自身もよく分からないのかその手に持った手紙を見ながら告げる。
「いや……手紙を渡されたんだ……アウルムに……同じ病院に、同じ階で隣の病室に居るのに……しかもスマホだってある筈なのに……手紙を……しかも何でかあいつ……この手紙を渡す時にすごい悲しそうな表情を……」
そう告げて焦凍は手に持った封筒を見せる……そこにはとても美しい文字で『轟焦凍様へ』と書かれ封蝋が為された手紙があった。
焦凍は封蝋を剥がして中に入っている手紙を読む。
そして……終わりまで読んだ焦凍は唐突にエンデヴァーの病室を駆け出して……アウルムを追いかけたが……もうアウルムは病院の何処にも居なかった。
冬美は床に落ちた手紙を拾い上げて内容を読む。
そこには所々の文字が涙で滲んでいたが……焦凍との別れを一方的に告げる内容であった。
『轟焦凍様、結論から先に書く事をお許しください、私と別れて下さい……決して貴方の事が嫌いになったとか……貴方との恋愛感情の熱が冷めたなどでは無いのです……しかし……理由は言えませんが別れて下さい、たった半年間といえど私が貴方の彼女で居た事はとても良い思い出で、貴方と積み重ねていた半年間はとても言葉では言い表す事が出来ない程に楽しい毎日でした、私の人生の中で……何よりも幸せな時間で、掛け替えのない宝物です……私の人生は……止まった時間の中で罪で穢れて空虚で灰色の世界を無為に生きるだけの人生でしたが……雄英高校で皆と、貴方と出会って……貴方と付き合っていた時間は……あの時間はこの世の何よりも美しく、この世の何よりも綺麗な黄金に輝いています、これからも一生私の心に残る最高の思い出です……とても楽しいひとときでした……デートの時の約束……果たせなくなってしまいました……ごめんなさい……でも……いつか必ず、私よりも良い女性と巡り会う事が出来ます……どうか……どうかその人を幸せにしてあげて下さい……そして、どうかお願いです、私の事は忘れて下さい……私は貴方の幸せを切に願っています……追伸……私は貴方のその綺麗な笑顔が何よりも好きでしたよ、そして……優しい所、可愛い所、私が困っている時にはいつだって助けに駆け付けてくれる王子様みたいな所も……とても大好きでしたよ……アウルム・ミダスティアより』