再び時は現在に戻りアウルムは
「……碌な睡眠や休息を取れていないが故に身体の不調……碌な休息や睡眠を取れていない事による精神の摩耗、思考の鈍り……しかしそんなのを無視して行かねばならんて……オール・フォー・ワンがアメリカNo. 1の個性を奪ったら此方の勝ち目がほぼ消える」
歪む視界を無理やり黙らせて……痛む頭を無視して……度重なる襲撃で負った大小様々な傷が荒れ狂う痛みを以って意識を飛ばす程の警鐘を鳴らし続けるがその全てを黙らせて、その全てを瑣末な事と無視して目的地へと急ぐアウルム。
その視線の先にはF-22ラプターの最新機が編隊を組んで戦闘をしており戦闘機の上で熾烈なバトルが行われていた。
戦闘機の上に居た女性が崩壊がスタートする直前に……間一髪でアウルムの操作する黄金の糸が死柄木弔の腕を束縛する、個性は奪われたがその身体は黄金に阻まれて崩壊する事なく無事であった。
そして、その刹那……死柄木弔の身体が内から破裂していく。
まるで個性同士が反発しあっているかの如く……。
それを好機と捉えたアウルムは四方八方から戦闘機からのレーザー砲を喰らっている死柄木弔が包囲網から脱出する瞬間に合わせて
そしてアウルムは死柄木弔へと嫌味がまざった言葉を交わす。
「良い目覚めだったかい? おはよう、そんな君にプレゼントを渡しに来たよ……九州から遠路遥々ね、遠慮せずに受け取ってくれ……元々は君、いや……オール・フォー・ワンの持っていた個性なんだから」
アウルムはそう告げると破裂を続けている死柄木弔の肉体に躊躇いなくその手を差し込んでナガンから抜き取った個性をプレゼントする。
そして……死柄木弔は内から爆発して弾け飛んだ。
密着した状態という超至近距離で爆発した為に爆発に巻き込まれたアウルムであったが黄金を皮膜としていた為にほんの僅かではあるが爆発の衝撃を逸らす事に成功した……。
しかし爆破の衝撃で猛烈な勢いがついたまま海面に叩きつけられ意識が飛び掛けるが死柄木弔を逃す訳には行かない。
黄金操作で体勢を立て直そうとするがあまりの激痛に直ぐには動かせずにいた。
ただ、先程の個性の反発で『反射』や『超再生』といった強個性が破損か何かしたのか無限とも思える死柄木弔の再生力にブレーキが掛かっていた。
それを見たアウルムは一先ずは時間を稼いだ事を確認し、見回すと目視でエンデヴァー達を捕捉しこちらに来られる前に即離脱する。
とは言うものの……500m上空から海面に叩きつけられた為、衝撃はコンクリートにぶつかるのと大差なかった……海面に揺られながら水面を一部分だけ黄金に変えて簡易的なイカダとしてそれに仰向けになりながら乗って大都市ではない何処かに流れ着く様に向きを調節しながらゆらりゆらりと波に攫われていった。
そうして2日後……どこか見知らぬ砂浜へと打ち上げられる、押し寄せる波がピクリとも動けないアウルムの体温を徐々に徐々に奪い去っていく。
4月とはいえずぶ濡れのままずっとその状態で居たら当然風邪を引いてしまう。
押し寄せる波に何度か飲まれながらうつ伏せのまま……砂浜をゆっくりゆっくりと這いずって30分掛けてようやく波が押し寄せない位置にまで移動するアウルム。
人影が見えた為に動かすのすら辛い身体を無理やり動かしてどうにか上を向くとそこにはオール・フォー・ワンの言葉を受けて密入国をして来た外国人と思われる殺し屋2人組がそこには居た。
四肢に力を入れて立ちあがり応戦しようとするも立ち上がるのに時間がかかりすぎる。
余裕綽々の相手に顔面を思い切り蹴られて2m程吹き飛ぶアウルム。
薄れゆく意識の中……自分が捕まった後の『最悪』を思い浮かべて動かない身体を何とか動かして這いずって逃げようとするも当然普通に歩行できる相手の方が移動スピードに勝り追いつかれる。
髪を鷲掴みにされコンクリートの地面に顔面を何度も何度も何度も何度も強打され口から血を大量に溢して意識を失いかけるアウルム。
纏っていた衣服をビリビリに破かれて生まれたままの状態になり……下卑た笑みを浮かべ見られるが……2人組は終ぞ気づかなかった。
アウルムの口腔内に輝く1本の黄金の歯に。
アウルムの黄金は、黄金になったモノに触れたモノも黄金となる。
口腔内に輝く1本の黄金の歯に触れた、アウルムの口から流れ出る大量の血もそれは例外ではなかった。
血を大量に吐き捨てながらアウルムは絶え絶えになりながら言の葉を紡ぐ。
「悪いですね……あなた方が下卑た笑みを浮かべて見れる程安くないんですよ……私の裸体は……私の裸体を見ていい異性はこの世でたった1人だけです」
黄金と化した大量の血で眼前の2人を黄金の彫刻へと変換すると歯に噛ませていた黄金を操作してバックパックに形状を戻す。
そして……痛む肉体を無視してバックパックから着替えを取り出して痛む身体を黙らせつつ1時間掛けて服を着る。
そして木々を黄金にしてそれを杖代わりにしてたった50mの道のりを2時間掛けて歩き現在地を確認する。
「まぁた……きゅうしゅう……」
先程の殺し屋2人組に襲われた怪我が今になって響いて来たのかもう歩く事すらもままならなくなり仰向けに倒れ込む。
そして……脱獄囚達やこれ幸いとばかり暴れ回っている
立ちあがろうとするも、もはや怪我による痛みの蓄積が最高潮に達しており指一本すら動かす事が出来ない。
黄金操作を行おうにも度重なる襲撃で1ヶ月半常に襲われ続けた為にまともな休息が取れておらず思考が纏まらない。
暴徒の全員がアウルムを襲おうとして近寄ってくる。
アウルムはもはや諦めの境地にあり……数十秒後に行われる自身への出来事を想像して辛そうな表情を浮かべ言の葉を紡ぐ。
「なんだか……イヤな感じ……私、自分で思っていたよりずっと欲張りね……あれだけ酷い別れ方をしたって言うのに……そんな資格私にはある訳ないのに……最後には……どうせなら、うん─―最後は焦凍の腕に包まれて、とびきりの焦凍の笑顔を見たかったなぁ──―」
霞む視界で、薄れゆく意識で、微睡む様に飛び掛ける意識の中……アウルムが最後に観て、最後に聴いたのは……そこに居ない筈の最愛の彼氏の姿であり……声であった。
「穿天氷壁‼︎」
アウルムを襲おうとした
「攫われたあの時にはこの手が届かなかった‼︎ ミッドナイト先生の時は間に合わなかった‼︎
それを聴いて……アウルムは今にも消え入りそうな声音で……とてもとても小さな、か細い声音で、涙を一筋零しながら呟いた。
「は……は、神様……が願いを叶えてくれた……わたしの……最後の願いを……しょ……う……と……」
アウルムは最後の気力を振り絞ってそう呟いた。
そして……力無く笑みを浮かべ……意識を失った。