身体中の感覚という感覚が無くなりかけて、意識という意識が遠のいて……身体の体温が急激に低下して冷たくなっていく感覚を味わいつつアウルムは生と死の狭間でいつもの夢を見ていた。
いつも見ている地獄の2年間の夢、いつも眠りに入ってから1度は見る夢、その度に呻き、魘されて、決まって泥の様な汗を纏わり付かせて飛び起きる。
しかし、今回はいつもと決定的に違う所がある、アウルムの肉体は死にかけている為に飛び起きない、眠りから醒めずに目覚めず起きない、故に夢は終わらない、故にその夢の全てを見る、故にその夢の顛末を見る。
第三者視点から見る夢。
幼い自分を見下ろすように立っている自分……。
夢の始まりはいつもそうだ。
監禁されている自身へと食糧が無造作に投げられそれを食べる毎日。
だが……監禁されていたあの時はわからなかったが、分からなくて当然だが……そして、いつも決まってこの段階で目覚める為に思い出さなかったし思い出したくもなかったが、……あの
性的な事は勿論の事、一切の暴力すらも……。
そして……場面は進み、あの日、運命の日、初めて襲われかけたあの日、余りにも運命的なほどに、警察やヒーローが都合よく、都合が良すぎる程に速く現れた。
まるで場所から何から、何から何まで全てを知っていたかの様に。
アウルムは夢を俯瞰しながら思案する、あぁそんな事はオール・フォー・ワンの語った戯言に過ぎないと、真実だとする証明も、確証も、何一つとしてないのだから。
今見ている夢だってトラウマの一つだ、幼い頃の朧げな、忘れ去ってしまいたい醒めない悪夢の、消えない傷の、地獄にいた時の記憶の集合体だ。
そして、消えない傷を、醒めない悪夢を、未だに苛まれている地獄を植え付けられた事に変わりはない。
オール・フォー・ワンの言う事にはなんの証拠もない、ましてや決して『良い事』にはなりはしない。
しかし、この戦いが終わったらもう一度、あの時には知らなかった……過去を振り返ってみよう、過去を見てみよう、過去と向き合おう、過去を知ろう。
もつれたこの糸を断ち切って……私は前に前に進むんだ。
だから……もう目覚めないと。
目覚めないといけない、今見るべきは、見定めるべきは過去じゃないのだから。
今見定めるべきは……。
「う……」
薄く目を開けて自身の状況を確認する。
ベストジーニストが私の腹に空いた大穴の縫合を試みているが流れ出た大量の血が物語っていた。
このままでは助からないと。
アウルムは両腕の砕けた骨を感じ、口腔内に溜まった血に溺れかけながら、弱々しい声で、消え入りそうな声で、肺の方に血が入ったのか雑音が混じる呼吸音で……ヒューヒューと雑音の混ざった声音でベストジーニストに告げる。
「わ……わた……わたし……わたし……のて……てに、い……いとを……」
か細い声音で、掠れた声でそう告げるアウルム。
ジーニストから糸を譲り受けてそれを黄金化、体内組織の一部に触れさせて黄金化して補修し千切れた血管を
残す所は腹に空いた大穴であり……空いた大穴を塞ぐ様に、パテでも塗布するかの様に黄金を詰めていく。
少なくともこれ以上血液を失う事は回避できた。
一先ずの応急処置は終了した、ぐちゃぐちゃに折れている両腕の骨を黄金化し無理矢理に正常な形に直す。
しかし、しかし……それは瀕死の状態を何とか繋ぎ止めてギリギリの所で生存しているというだけであり依然として変わらず瀕死である。
肺へと入り込んだ血を吐き出す余力もなくアウルムの呼吸音はどんどん雑音が強くなり正常な呼吸ができなくなっていく。
そうしている間にもオール・フォー・ワンは周囲のヒーロー達を根こそぎ戦闘不能にしていく。
爆豪勝己がベストジーニストのすぐ近くまで吹き飛ばされその脇腹からは大量の血が流れていた。
爆豪と上鳴を見た刹那、アウルムの脳裏にある事が閃く。
しかし、しかし、しかし……それをすれば瀕死の自分のその後はどうなるかが分からない。
だが、しかし、戦線が崩壊したのは自身の精神的弱さが故……自身の動揺から端を発している、ならば責任を取ろう。
掠れた声音で、消え入りそうな声音で呼びかける。
「ばく……ご、か……みなり」
消え入りそうなその声音でも聞こえたのか爆豪勝己が私を睨みながらゆっくりと近づいて喋るのも苦しいのか小声で語りかけてくる。
「なんか言ったか……黄金女……テメェ、その怪我でまだなんかあるってのか……寝てろ、役立たず」
爆豪勝己へ向けて自身の策を伝える。
しかし、時間が足りない、圧倒的に。
そんな中、爆豪勝己が空中でオール・フォー・ワンと交戦中の緑谷出久へ向けて叫ぶ。
「デク‼︎ 時間稼げ‼︎」
その言葉を聞いて緑谷はワン・フォー・オール2代目の個性『変速』を使用して時間稼ぎどころか確実に決着を着ける気でいた。
しかし、この総決算にオール・フォー・ワンが空手で現れる訳がなかった。
オール・フォー・ワンは語る。
もうこの身体は用済みで、棄てるだけの廃棄するだけの物だと。
故に試せるモノがあると。
治崎廻が作成した個性消失弾、そのオリジナルの効果、壊理ちゃんの個性である『巻き戻し』を利用し肉体を巻き戻して若返らせた。
つまり、オール・フォー・ワンの肉体は全盛期に戻りつつある。
それを踏まえてアウルムの隣にいる爆豪勝己が叫ぶ。
「黄金女ァ‼︎ あとどのくらい溜めれば良い‼︎ あとどのくらい足止めしてりゃあ良い‼︎」
アウルムはガンケースから取り出した手元のマクミランTAC-50を見ながら告げる。
「あと……45秒」
45秒、肉体の全盛期に戻りつつあるオール・フォー・ワン相手に45秒は長すぎるが此処で仕留められなければもうチャンスがない。
それを理解しているのか緑谷出久も、マウントレディもホークスも、エンデヴァーも、この場に居る全員がオール・フォー・ワンを討つ為に死力を尽くして戦っていた。
そして永劫にも思えた45秒が経過する。
アウルムが構えるのは黄金化したマクミランTAC-50を素体とした
爆豪勝己の『爆破』でアウルムの『黄金』に磁力の性質を持たせて上鳴電気の『帯電』で
弾丸はそのままマクミランTAC-50の弾丸である12.7x99mm弾を使用している。
普通ならば弾丸としての役割を果たせないがアウルムの個性により黄金化したモノは決して壊れず、どんなに力を加えても、どんなに熱を加えても変形しない。
それの引き金を引いて……撃発した。
そして、
流石に肉体の全盛期に戻りつつあったオール・フォー・ワンと言えども
そして、アウルム・ミダスティアの個性。
黄金化したモノに触れたモノも黄金化が侵蝕していく。
それに例外はない。
アウルムは最後の気力を振り絞ってオール・フォー・ワンを黄金化させて彫像と化した。
そして、それを見届けたアウルムは……今にも薄れゆく意識を止める事が出来ずに……そのまま意識を失って倒れ込んで……ピクリとも動く事は無かった。